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第四章 魔物暴走(スタンピード)顛末記

第80話 女子だって刮目して見ないと…

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 王様が完全降伏して、アルトが満足気な笑いを浮かべていると。

「そろそろ、そちらのお話はお済みでしょうか。
 お父様、勝手をしてしまい申し訳ございませんでした。
 ただいま、戻りました。」

 アルトの話が一段落したのを見計らい、クッころさんがモカさんに声をかけたんだ。

「うん? エクレア、おまえ、何でこんな所にいる。
 勝手に家を抜け出して、三ヶ月も何処をほっつき歩いとったんだ。」

 今更ながら、クッころさんの存在に気付いたモカさんが尋ねると、クッころさんが返事をするより早く。

「そうそう、あんた、さっき毒をあおるような事を言ってたけど、それは無しよ。
 この娘、スタンピードを収めるのに協力してくれたの。
 この娘の功績で、長男の失態に対する親としての責任はチャラね。
 第一、あんたがいなくなると、このポンコツ王が何をしでかすか分からないわ。
 今回の事に責任を感じているなら、今後このポンコツが失態を犯さないようにしっかり見張りなさい。
 責任の取り方を間違えるんじゃないわよ。」

 アルトがモカさんに釘を刺してた。
 確かに見た感じ、王の失態をモカさんがフォローしているようだし、いなくなったら国が亡びるね。
 主に、アルトあたりの勘気に触れて…。

「うちのエクレアがスタンピードを収めるのに貢献?
 言っては何ですが、うちの娘は剣も持ち上げられないようなポンコツですぞ。
 私の命を救ってくださるというお気持ちは身に余る光栄ですし。
 王を監督せよとの命であれば従いますが…。
 娘の功績でというのは、口実にしても無理があるでしょう。」

 あっ、やっぱり、家でもポンコツだと思われてるんだ、クッころさん。
 そうだよね、幾らなんでもイメージトレーニングしかしないなんて有り得ないもんね。

「そんなことないわよ。
 この娘は、『ハエ』、『蚊』、『ゴキブリ』の魔物を相手に一歩も引かずに立派に戦ってたわよ。
 『蚊』の魔物と対峙した時なんて、複数の『蚊』を相手に良く戦ったわ。
 まっ、多少、ポンコツなところがあるのは否めないけどね。
 あんた、ちょっとここで剣をふってみなさい。」

 アルトの言葉を全く信じてないモカさんに、スタンピードの間終始クッころさんに付いていたノイエが言ったんだ。
 そして、クッころさんに剣を振ってみろと。

「えっ!、わたくしですか?」

「そうよ、剣を振って父親に見せてあげなさい、信じてないみたいだから。」

 ノイエに促されたクッころさん、シュッと剣を一振りしたんだ。

「何と、美しい剣筋、まるで熟練の剣士のようではないか…。
 いったい何処でそんな剣の手解きを受けたというのだ。」

 なにその過大評価…、なんも手解きなんて受けていないから…。
 とは言え、実際に目の当たりにしたら、クッころさんの剣技が想像の産物だとは誰も思わないよね。
 単にレベルが爆上がりして、イメージした通りに体を動かせる身体能力になっただけとはね…。

「どう、少しは自分の娘を見直したかしら。
 『男子、三日会わざれば刮目して見よ』という言葉があるでしょう。
 娘だって、三ヶ月もあれば変わるのよ。
 と言うことで、娘の活躍で、あんたの失態は帳消し。
 長男にだけキッチリ責任を取らせれば良いわ。
 娘に感謝しなさいよ。」

 クッころさんに剣技に見惚れているモカさんに誤解させたままで、アルトはシレッと言ったんだ。
 『生命の欠片』を与えただけなのに、酷いハッタリだよ。

「分かりました、アルトローゼン様。
 娘に救ってもらったこの命、お国のために役立てて見せましょう。
 陛下の事は、きっちりと一から進講し直しますのでお任せください。」

 モカさん、すっかりアルトに丸め込まれちゃったよ。

     ********

 その後アルトは、今回のスタンピードの件の落とし前について、王様に要求を突き付けたの。
 一方的な要求だったけど、逆らったら命がないと思ったのか、要求を丸呑みしたよ。

 そして、最期に。

「さて、あんた個人に対しては…。」

 アルトが王様を睨みつけて、一旦言葉を切ったの。
 タメの後に何を言われるか、王様は戦々恐々としている。

「これ以上、余をどうしようと…。」
 
 そこまでの要求を全て飲まされた王様が、怯えながら呟くと。

「もう良いわ。これで勘弁してあげる。
 本当は、落とし前として『エルダートレント』の若木をごっそりもらう予定だったのよ。
 でも、あんたがごちゃごちゃ言うもんだから、古木まで倒しちゃったしね。
 この国に貰うほどの価値のあるモノは、もう残ってないわ。
 あんたの命なんてもらっても、レベルの足しにもならないしね。」

 アルトの言葉を聞いて、王様はあからさまにホッとした顔をしてたよ。
 実は王様、さっきから目の前に転がっているモノをずっと気にしてたんだ。 
 王様の前に転がされた十人の騎士、その中の一人の姿を。
 ピクピクと痙攣を繰り返し、生ける屍と化しているクッころさんの自称結婚相手のカイエン。
 王様は、カイエンの姿に、間近に迫った自分の将来を映していたみたい。

 カイエンの二の舞いにならずに済んだと、心から喜んでいる様子の王様。
 でも、王様として、それで良いの?
 アルト、この国や王様のことを無茶苦茶ディスってたよ。
 もう貰う価値のあるものがないとか、レベルの足しにもならないとか。

 で、アルトの言う所の落とし前の内容が固まったので、番外騎士団が戻って来るまで王都に滞在することになったんだ。
 多分、五日もしないで戻って来るだろうって。

「アルトローゼン様、どうやら私の娘が大変お世話になったようですので。
 王都にいる間、是非とも私の屋敷にご逗留ください。」

 とモカさんが家に招いてくれたので、お言葉に甘えることにしたんだ。

 そして、王宮の裏庭を立ち去る時。

「こいつ等だけど、元気な九人はきっちり落とし前が付くまで預かっておくわね。
 大事な生き証人だから、口封じされたら困るからね。
 このゴミは、もう役に立たないから適当に処分しておいて。
 ノイエが手加減しなかったみたいなんで、たぶん一生このままよ。
 一思いにプチっと殺っちゃっても良いし。
 妖精の機嫌を損ねるとどうなるかの見せしめにしても良いんじゃない。」

 アルトはそう告げて、有無を言わさず九人の騎士を『積載庫』へ戻したんだ。
 残った一つの物体に周囲にいた人の視線が集まり…。

「なにかと思えば、ピマン男爵家のバカ息子ではないですか。
 私のバカ息子とつるんで悪さばっかりしておったんですが。
 妖精様の不興をかったのが運の尽きですな。
 これはピマン家に帰しておきましょう。
 これでも一人息子ですからね。
 今までは、ピマン家として庇いだてするしかなかったようですが。
 こうなってしまえば、諦めも付くでしょう。」

 モカさんはそう言って、部下にカイエンを運び出すように指示してたよ。
 周囲にいる人達からは、面倒を起こす人間が減ったって喜ぶ声が漏れ聞こえたんだ。
 やっぱり、カイエンって王宮の中でも鼻つまみ者だったみたい。

 んじゃ、あとは本命の番外騎士団の処分だけだね。

 
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