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第18章 冬、繫栄する島国で遭遇したのは

第560話 少年たちへの提案

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 全員が満腹になり、食事を口に運ぶ手が止まったの見計らうように。

「こんなウメー物を腹いっぱい食ったの初めてだ。
 貴族の姉ちゃん、有難うよ。」

 一番年嵩の少年が感謝の言葉を口にします。
 相変わらず無茶苦茶な言葉遣いですが、喧嘩腰の態度はもう見られませんでした。
 言葉遣いがなっていないのは元からのようですね。

「そう、それは良かったわ。
 それで、あなた達はどういった集団なのかしら?」

 ブラウニーのツバイちゃんからの報告で素性は分かっていますが、念のため確認しておきます。

「俺達は、同じ親方のもとで煙突掃除の仕事をしてるんだ。
 あちこちの家でバラバラに仕事をしてるんで、仲間という訳じゃねえんだが。
 毎朝、仕事が終わると親方のところに給金を貰うために集まってくるんだ。
 今日も集まってるところに、『アルスポ』の記者だというおっさんが来てよ。
 サクラソウの丘でやってるお祭りに行けば、銅貨二枚やるって言われたから来てみたんだ。」

 『アルスポ』の記者ってバカではないですか。
 そう言うことは、ちゃんと口止めしておかないと…。
 子供なんて気分が良ければ勝手にベラベラ話しちゃいますよ。
 尋ねてもいないのに、『アルスポ』の回し者だとバラしちゃったじゃないですか。

「『アルスポ』のおっさんが、貴族の偽善を暴くのに協力しろと言うんだ。
 孤児を保護するなんてお優しい事を言ってるけど。
 実際は、高く売れそうな女の子供しか保護するつもりがないに決まっているってな。
 俺達みたいな薄汚くてガラの悪い連中が押し掛ければ、冷たく追い返すに決まってるって言ってたぜ。」

 少年達は、ここで食事を与えてもらえるとは期待してなかった様子です。
 単に、食事を強請ねだるだけで銅貨二枚もらえるのなら、儲けものと思ってやって来たと言います。
 『アルスポ』の記者からは、なるべく悪い態度をとるように注文されたとのことでした。

 少年達にしてみれば、『アルスポ』に義理立てするいわれもないですからね。
 お腹が膨れて上機嫌な子供達は、聞くまでもなく事情を暴露してくれます。
 
 まあ、『アルスポ』の記者からしてみれば、想定外の事なのでしょう。
 二十人ものガラの悪い少年の集団を、貴族がもてなすとは思いもしなかったでしょうから。

「そう、みんな、この町で煙突掃除をしてるんだ。
 どう、煙突掃除の仕事は面白い? やりがいはあるかしら?」

 問い掛けるまでもないかもしれませんが、一応尋ねてみると。

「ヤリガイなんてことは考えたこともねえよ。
 全身煤だらけになって狭い煙突の中に入らねえといけねえんだ。
 面白れえ訳がねえだろう。
 でも、俺たち、スラムの孤児なんて他に仕事はねえし。
 仕事しねえと、食ってけねえからな。」

 少年達が親方から貰っている給金は、深夜から明け方まで働いて僅かに銅貨五枚だと言います。
 それですら、働きが悪いとされると減らされることがあるそうです。
 
 少年が言うには、それでも『泥ひばり』と呼ばれる仕事よりはましだと言います。
 川岸の汚泥の中から売れる物を拾う仕事で、成果報酬なのですって。
 一日働いて精々銅貨三、四枚、運が悪ければ一枚も稼げないことがあるそうです。

 何よりも、仕事前と仕事後に二食、給金とは別に食事が当たるので食いっぱぐれが無いそうです。
 そのため、ある程度の歳になった男の子は進んで煙突掃除の仕事をすると言います。
 何でも、六歳くらいから煙突掃除の仕事に従事する子供がいるのですって。

 少年達の話を聞くと、想像を絶する劣悪な環境での仕事を強いられている様子でした。
 作業中に命を落とす子供もいるそうですし、劣悪な環境で働くうちに体を壊す子供もいるようです。
 また、それに対する給金の余りの低さに驚かされました。
 
 子供達の命がまるで消耗品のように扱われているではないですか。

      **********

 少年たちの話を聞き終えた私は一つの提案をしてみようと思いました。

「ねえ、みんな、もっと給金が良くて、安全な仕事があるとしたらどうする?
 働く気はあるかな?」

 私がそう尋ねると…。

「ああ? 給金が良くて、安全な仕事?
 そんな虫のいい仕事が、俺たちみたいなスラムの子供に当たる訳が無いだろう。」

 一人の少年が、最初からそんな仕事は無いものだと決めつけて言葉を返してきました。

「もし、あなた方が真面目に頑張って働くなら、私が仕事を用意してあげるわ。
 給金は、私の国の隣にある国の銀貨で月に二百枚。
 この国の銅貨で言えば、一日当たり二十枚と言ったところね。
 給金とは別に、住む場所と一日三食の食事、それと仕事着を支給するわ。」

「一日、銅貨二十枚だって。
 今、親方から貰っているのが、一日五枚だから…。」

 私が仕事を用意することが出来ると伝えると、少年は指折り数え始めます。
 どうやら、両手の指の数に余る大きさの数を数えるのは苦手なようです。
 これは、数を数えるところから教育しないとダメですね。

 ややあって…。

「すげえ! 煙突掃除四日分の給金が一日で貰えるのか。
 嘘じゃ、ねえだろうな。」

 やっと、正解に辿り着けたようでした。

「ええ、嘘ではないわ。
 私が経営する工房では、それが最低賃金ですから。
 ただし、幾つか条件があります。
 一つは、この国を離れて私の国の隣国クラーシュバルツ王国に来てもらう事です。
 次に、上司の指示に素直に従うこと。
 おそらく、あなた方を雇い入れるとしたら、上司は女の子になります。
 女だと言ってバカにして、指示に従わない人を雇う訳には参りません。
 最後に、私の経営する職場では全員に義務付けているのですが。
 仕事の後で、読み書き算術、それとライヒ語の研修を受けてもらいます。」

 私は、併せて昇給や昇進についても伝えました。
 今提示した給金は見習いとして最低のモノで、研修を修了すればその時点で給金が上がること。
 更に、勤務評定により働きが認められれば、給金も上がるし、責任ある立場に昇進できることなどを。

「貴族の姉ちゃんの話は、難しくて良く分からねえけど。
 住む所が与えられると言うのは、屋根のある所で寝られるのか?
 メシも三食食わせて貰るって?」

 衣食足りて礼節を知ると言う言葉がありますが、…。
 路上生活を強いられている孤児達には、まさにその点がツボのようです。

「ええ、一人一人に個室と言う訳にはいかないけど。
 清潔で、寝心地の良いベッドが一人に一台、専用のモノが当たるわ。
 食事も、余り贅沢なモノは出せないけど、栄養のあるモノをお腹一杯食べられるわよ。
 それと、さっき入ってもらったお風呂、寮にも備え付けてあるから毎日入れるわ。」

「俺、行く!
 屋根のある所で寝られて、三食もメシが食わせてもらえるなら。
 何処へだって行ってやるぜ!」

 少年の一人が凄い喰い付きで、話に乗って来ました。
 しかし、他の条件は聞いてくれるのでしょうか?

「乗り気になっているところ申し訳ないけど。
 女の上司の指示にちゃんと従うって約束してもらえるかしら。
 私の経営する仕事場は、全て男女平等で、体力よりも知力優先なの。
 みんながみんなそうではないけど。
 男の子は頭を使うより、体を動かす方が得意な子が多くて。
 結果として、うちでは女の子の方が責任ある立場にいる事が多いわ。
 だから、女の指示には従えないと言う人は雇うことが出来ないの。」

 私の経営する工房やホテルなどは、この条件に従うことが雇用にあたっての最重要事項です。
 この国もそうですが、アルム地方でも男尊女卑の風潮がありますからね。

 私がそれを重ねて伝えると、少年たちは静まり返ってしまいました。
 やはり、スラムの少年たちの間でも、女の子のことは下に見ているようです。

「俺、女の言うことでもちゃんと聞くよ。
 それで、住む場所に満足な食い物、それに今よりも良い給金が貰えるんだったら。
 女の言うことは聞けねえなんて、贅沢なことは言えねえよ。」

「俺もそうする!
 やっぱり、屋根のある所で寝たいし、腹を空かせるのは嫌だもんな。」

 一人の少年が私の条件に従うと声を上げると、すぐに追随する子が現れ…。
 最後には二十人全員が、条件に従うことを約束してくれました。

 では、『アルスポ』の記者に目にモノを見せてあげましょうか。 
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