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第18章 冬、繫栄する島国で遭遇したのは
第559話 毛色の変わった孤児達がやって来ました
しおりを挟む私の館にいる精霊達にすっかり魅せられてしまったマーブル青年。
結局、『スノーフェスティバル』の期間中、ずっと私の館に入り浸ることになりました。
そして、スノーフェスティバルの四日目、それは起こりました。
私がサリーとエリーを連れてスノーフェスティバルの会場を見回っていた時のことです。
「ロッテ~!また、孤児が来たよ~!
でも、何か~、ちょっとへ~ん…。」
風の精霊ブリーゼちゃんがやって来て孤児の到来を知らせてくれました。
ブリーゼちゃんの持ち場は、フェスティバルの入り口となっているクリスタルゲート前。
ゲート前に孤児が保護を求めて来たら、私に知らせるのがお祭りの間の役割なのです。
ただ、今回やって来た孤児には少し変なところがある様子です。
ブリーゼちゃんも首を傾げています。
取り敢えず、ブリーゼちゃんに先導されてクリスタルゲート前に赴くと。
二十人ほどの薄汚れた少年たちがたむろしていました。
全員、十五歳以上の歳に見え、顔や手が煤で真っ黒に汚れています。
私が保護対象として想定していた年齢を越えているようです。
十五歳と言えばこの国でも普通に働いてる年連ですから。
確かに、今まで見なかったタイプの子供達ですね。
その中で一番年嵩に見える少年が言います。
「おう、あんたが、俺たち孤児を助けてくれると言うお優しい貴族様かい。
俺たち、腹を空かせているんだ、助けてくれないかい。」
年齢は十七、八でしょうか、私とあまり違わない歳に見えます。
他の少年たちは、年嵩の少年の言葉を聞いてニヤニヤと笑っていて妙な雰囲気です。
「そう、それは大変だったわね。
良いわ、お腹いっぱい食べさせてあげる。
ただ、あなた達、顔も煤だらけで真っ黒。
そんな状態でゴハンを食べたらお腹を壊すわ。
先にお風呂に入ってもらうから、ついて来て。」
「風呂? 何だそれは?
上手いこと言って、メシを食わせねえつもりじゃ無いのか?」
何故、この少年は喧嘩を売るようなセリフを吐くのでしょうか。
スラムの男の子と言うとケリー君しか知りませんが、雲泥の差ですね。
「お風呂と言うのは、お湯で体を洗う場所よ。
この寒空で冷え切った体も温まるから良いと思うわ。
安心しなさい、その後でお腹いっぱい食べさせてあげるから。」
「ちっ、すぐにメシにありつける訳じゃねえのかよ。
わーたよ、付いて行くから飯食わせろよな。」
この少年は自分がごはんを食べさせてもらう立場だと言うことを理解しているのでしょうか。
全く、感謝の気持ちが見られません。
それとも、単に口の利き方を知らないだけなのでしょうか。
私は、そんな疑問を感じつつ館に少年達を案内したのです。
**********
私が少年達を連れて館に入ると、出迎えてくれたメアリーさんがギョッとした顔をしました。
まあ、ガラの悪い少年を二十人も引き連れて戻って来れば、誰しも驚きますよね。
「あら、あら、随分と汚れているわね。
早くお風呂に入った方が良いわ。
この子達を、男風呂に連れて行ってください。」
メアリーさんは、すぐさま自分の後ろに控えていた子飼いのメイドに少年達を浴室に案内するように指示を出しました。
そして、メイドに連れられて少年たちが姿を消すと。
「シャルロッテちゃん、あんな柄の悪い子供達を連れて来て大丈夫かしら。
この館にいる女の子たちに乱暴でも働かれたら困るわよ。」
メアリーさんは心配そうにいます。
「少し不審なところがありますが。
私を頼って来たのですから、一応、食事は与えようと思います。
その後どうするかは、事情を聞いてからですね。
どの道、『希望の家』での保護が必要な年齢ではありませんから。
仕事を世話するくらいしか考えられませんが。」
私はそう言いつつ、ブラウニーの一人に男風呂の様子を探って欲しいとお願いしました。
そして、水の精霊アクアちゃんに少年達の服を洗ってもらうようにも。
元々、保護する対象を十二、三までと想定していたので、服が用意してありません。
かと言って煤だらけの服装で館の中を歩かれても困りますので、アクアちゃんに洗濯してもらいます。
少年たちの入浴が終るまでには、洗濯が終って乾いているはずです。
「おや、大公、先程の煙突掃除の少年の集団はいったい何ですか?
この屋敷の煙突はステラさんが魔法で掃除しているのですよね。」
先程までリビングで精霊達と遊んでいたマーブル青年ですがが。
リビングを出たところで、浴室に向かっていく少年達を目にしたようです。
「あれが煙突掃除の少年達ですか?
お腹を空かせているそうで、食事を求めてスノーフェスティバルの会場にやって来たのですが。」
どうりで煤けているはずです、あの汚れは煙突の煤だったのですか。
「それは妙ですね。
煙突掃除の仕事は、えらい安い給金で扱き使うのですが…。
夜から朝まで働かせる代わりに、晩飯と朝飯はちゃんと出されるはずです。
ものの損得がわからない少年達は、その飯に釣られて煙突掃除に行くのですが。」
青年の話では、ロクな食事は出ないようですが、お腹を空かせている事は無いと言います。
青年とそんな会話を交わしていると…。
「ああ、それね、お風呂でのあの子達の話を聞いてきたわよ。
あの子達、『アルスポ』の記者に雇われて来たみたいよ。」
お風呂場の様子を探っていたブラウニーのツバイちゃんが、会話に加わって来ました。
先ほど、お願いしたのは別のブラウニーだったのですが、ツバイちゃんも一緒に浴室に付いて行ったようです。
浴室での少年たちの会話を漏れ聞いたツバイちゃんが、取り敢えず報告に来た様子です。
先ほどお願いしたブラウニーは、まだ少年達に付いているそうです。
それで、少年達の会話の内容ですが…。
少年達は煙突掃除の仕事を終えて、親方から給金を貰うために集まっていたそうです。
そこへ、『アルスポ』の記者がやって来て小遣い銭を稼がないかと言ったそうです。
王都のあちこちに張り紙のあるスノーフェスティバル。
そこに、孤児の保護をしていると書かれているのをみて、嫌がらせを考えたようです。
『アルスポ』の記者は、私の偽善を暴くのに協力しろと持ち掛けた様子です。
ガラの悪い少年達を送りつけて、少年達の保護を拒否したら『アルスポ』に書き立てるそうです。
偽善者のアルムハイム大公は孤児を差別すると。
しかも、それにかこつけて。
少女だけを保護したように見せかけて、何処かに売り飛ばしているのではないかと憶測記事を書くつもりのようです。
この三日間で保護した女の子たちが屋敷に吸い込まれてしまったかのように、一人として出て来ないのを見ていて。
どうやら、そんな筋書きを考えたようです。
まさか魔法で離れた場所にある孤児院に送っているとは、考えもしないでしょうからね。
しかし、良く見ていますね、いったい何処に潜んで監視しているのでしょうか。
「『アルスポ』の奴ら、またしょうもない事を企んで…。」
マーブル青年は、『アルスポ』の行いに腹を立てつつも、呆れている様子でした。
まあ、そういう事をウリにしている新聞だと思えば、腹も立ちませんが。
**********
「すげえな、俺、風呂なんてもんに初めて入ったぜ。
お湯があんなにいっぺえある所に入れるなんて。
体が芯まであったまってポカポカするわ。
石鹸って奴で体を洗ったら、染みついた煙突の煤もすっかり取れたぜ。
天にも昇る気持ちってのはこんなのを言うんだろうな。」
「おおう、それに、いつの間にか服が洗ってあるぜ。
これも、石鹸の良い匂いがしやがる。
全く、至れり尽くせりだな。」
「これなら、メシも上手いモノが期待できるんじゃねえか。」
そんなことを口々にこぼしながら、メイドさんに連れられた少年達が戻って来ました。
どうやら、お風呂は気に入った様子で、先程と違って少し角が取れたように見えます。
悪ぶっていても所詮は子供ですね、冷えた体がお風呂で温まると無邪気に喜んでいるようでした。
私は、少年達をダイニングに案内しました。
今日の食事は、スノーフェスティバルの時恒例のポトフとパンです。
スノーフェスティバルの時は、みんな出払ってしまいます。
大量に作り置きが出来て、三々五々戻って来てもすぐに食事がとれるポトフは都合が良いのです。
テーブルに着いた少年達の前に、大き目の深皿にもったポトフと山盛りのパンが並びます。
腸詰やジャガイモ、ニンジンなどがゴロゴロと入ったポトフに、少年達は唾を飲み込みました。
「これ、食べても良いのか?」
「ええ、冷めないうちに召し上がれ。
足りなければ、お替りもありますから。
お腹いっぱい食べればいいわ。」
私が少年の問いに答えるやいなや、我先にと深皿に盛られたポトフを貪るように食べ始める少年達。
「うめえ! こんなうめえモン食わせてもらえるとは思わなかったぜ。」
「おお、俺たちみたいな悪ガキは追い払われると思ってたよ。
ここのお貴族様は、俺たちにだってお優しいじゃないか。」
「誰が、孤児を差別する偽善者だよ。
『アルスポ』の記者の方が大ウソつきじゃねえか。」
ああ、やっぱり子供ですね。
私が尋ねるまでもなく、ポロリと真相を漏らしています。
まあ、ポトフを喜んでいるようですので。
無粋な話は食事の後にして、今は心行くまで食べてもらう事にしましょうか。
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