最後の魔女は目立たず、ひっそりと暮らしたい

アイイロモンペ

文字の大きさ
371 / 580
第15章 秋から冬へ、仕込みの季節です

第368話 広い世界を見せてあげます

しおりを挟む
 さて、私がモヤモヤした気分で館へ戻ってくると。

「これが、『アー』って読むの?
 で、同じ文字でもアルビオンじゃ『エー』って読むんだ。
 こっちは帝国では『エー』って読むんだけど、アルビオンじゃ『イー』って読むの?
 なんか、ややこしいね。同じ文字を使っているのに読み方が違うなんて。」

「あっ、ナナお姉ちゃん、そこ綴りが違っているよ。」

 ノノちゃん達がいるリビングルームからそんな声が聞こえてきました。
 覗いてみると、ノノちゃんがナナちゃんに文字の読み書きを教え始めた所のようでした。
 その横では、アリィシャちゃんがナナちゃんの間違いを指摘しています。
 リビングルームの端に寄せて積み上げておいた石板を取り出してきて、実際に書きながら教えている様子です。

 ノノちゃんの両隣では、アリスちゃんとクララちゃんも黙々と文字の練習をしています。

「あら感心ね。
 やれと言われた訳でもないのに、読み書きの勉強をしているなんて。」

 私が五人に向かって声を掛けると。

「シャルロッテ様、おかえりなさいませ。
 先日から、アリスちゃんとクララちゃんに読み書きを教えるようになったんです。
 クララちゃんの家にあった絵本を読んであげたら、自分でも読みたいって言うものですから。
 まだちょっと早いかなって思ったんですけど。
 クララちゃんが絵本を読みたいと言うなら、良い機会かなと思って。」

 そんな答えを返してくれたノノちゃん。
 そろそろ風が冷たい季節になったので、外で遊ぶより家の中にいる時間が増えているとのことで。
 暖炉の前の絨毯に腰掛けたノノちゃんの膝の上に乗って、絵本の読み聞かせをしてもらう。
 それが、最近のクララちゃんのお気に入りだそうです。

「で、今日からナナちゃんもその仲間入りかな?」

「クララちゃんもアリスちゃんも、まだ小さいのに黙々と文字の練習をしているんだもの。
 せっかくだから、私も教えてもらおうかなって。
 それに、この中で私だけ、読み書きが出来ないなんてちょっと恥ずかしいもん。
 でも、全然違う言葉なのに、アルビオンと帝国で同じ文字を使っていると知って驚いた。
 しかも、同じ文字なのに読み方が違うと聞いて、またビックリです。」

 ナナちゃんから聞くところでは、私が出掛けてしばらくはお茶を飲みながらおしゃべりをしていたそうです。
 ですが、そのうち初めて来た私の館が物珍しかったのか、クララちゃんがリビングルームを徘徊し始め。
 部屋の隅に積んであった石板を見つけたと言います。

 その石板、ブライトさん達一行を招いた時、『海の女神号』に積んでいた石板です。
 ノノちゃんに、子供のお絵描き用にと頼まれて揃えておいたのです。
 ノノちゃんの目論見通り、その石板は長い船旅の間、子供達の退屈しのぎに一役かったと聞いています。

「クララちゃん、最近お気に入りのウサギさんが主役の絵本を自分で読みたいらしいのです。
 だから、読み方を教えって、良くせがまれるんですよ。
 熱中しちゃうと、いつまでも文字の練習をしてるんですよ。
 それで、アリスちゃんも負けじと頑張るんです。
 自分の方がお姉ちゃんだからって。」

 小さい時から絵本を読み聞かせることは、子供達に読み書きに対する関心を持たせるのには良いみたいです。
 ですが、本は非常に高価な物で、子供に絵本を与える事が出来る家などほんの一握りです。
 リーナが領民学校を開設する時は、学校に子供が喜ぶ絵本を沢山揃えた方が良いかもしれませんね。
 今度、リーナに提案してみましょう。

 しばらくの間、黙々と文字の練習をする子供達を感心して見ていると。

「あっ、しゃるろってさま、おかえりなさい。」

 石板から顔を上げたアリスちゃんが私を見て言います。えっ、今頃ですか?

    ********

 黙々と文字の練習をしていたクララちゃんが一息ついたところで、ランチにすることにしました。
 ステラちゃん達ブラウニーが用意してくれたランチに舌鼓を打ちながら子供達の様子を眺めていると。

「はい、どうぞ。これなら食べ易いでしょう。」

 まだ幼いクララちゃんはスプーンやフォークの使い方が心許ないです。
 そんなクララちゃんが食べ易いように、一口大に食べ物を刻んであげているノノちゃん。
 まるで、お母さんのような世話焼きぶりで、とても微笑ましいです。

「午前中は、ずっと読み書きの練習をしていたのかしら。」

「いいえ、クララちゃんが石板を見つける前は、帰りの旅の話を聞いていたんです。
 アルムハイムを出てから、アルビオンまでの旅の話を。
 船旅の最中に海賊に襲われたなんて話も聞きました。」

「うん、ののおねえちゃんがわるいひとをおいはらってくえたの。」

 私が出掛けている間の事を聞くと、午前中にしていたおしゃべりの内容を教えてくれたナナちゃん。
 海賊に襲撃された話は、ノノちゃんから報告を受けていました。
 姿を消したままブリーゼちゃんとアクアちゃんが退治してくれたのですが。
 当然クララちゃんは精霊が見えていませんでした。
 クララちゃんの中では、ノノちゃんは海賊を退治したヒロインのようです。

「でも、海って想像がつきません。
 シューネ湖よりもずっと広いなんて言われても…。」

 船旅の話を聞いたというナナちゃんがそんな事を呟きます。
 そう言えば、ナナちゃんは今朝ここに来てから屋敷を一歩も出ていません。
 ナナちゃんが今まで目にした一番大きな町はシューネフルト、一番大きな水溜りはシューネ湖なのです。

「そう、じゃあ、午後からは手が空いているし。
 ちょっと、海を見に行きましょうか。
 その子達も、せっかく遊びに来たのですもの。
 館の中にこもりっきりでも、面白くないでしょう。」

「本当ですか!行きたいです海!
 すごい、楽しみ!」

 即座に私の提案に乗って来たナナちゃん、午後は少し遠出をすることになりそうです。

「シャルロッテ様、ペガサスさんのこと、この子達に教えちゃっても良いのですか?
 この子達、絶対に両親に話しちゃいますよ。」

「良いのよ、もし知られちゃっても。
 乗せてくれなんて、大公様に向かって軽々しく言えないだろうから。」

 心配そうな顔のノノちゃんに私はそう返しました。
 身分制度が崩れつつあるこの国でも、大公クラスになると平民が易々と話を出来る存在ではなくなります。
 私から気安く話しかける分には問題ありませんが。
 私に向かって、ヴァイスの引く馬車に乗せろとか、ましてやヴァイスを譲れなどと言ってくる者が現れる事は無いでしょう。
 確かに、肩書って大事かも。

 昼食後、ヴァイスの引く馬車で舞い上がった王都の上空。

「これが、王都…。
 シューネフルトの何倍、いえ、何十倍の大きさがあるんだろう。」

 上空から見下ろす王都の広さに目を丸くするナナちゃん。
 ナナちゃんを村から連れ出す際にこの馬車を使いました。
 そしてシューネフルトまで飛んで、一旦ネネちゃんに預けたのです。
 その時、今のように上空から見下ろして、シューネフルトの町の大きさを把握しています。

 ナナちゃんが今まで目にした一番大きな町はシューネフルト。
 それよりもはるかに大きなアルビオンの王都に驚愕している様子です。

「ナナちゃん、シューネフルトはクラーシュバルツ王国の町の中でも小さな方なの。
 クラーシュバルツ王国の王都はシューネフルトよりだいぶ大きいわ。
 その王都よりも、ここアルビオンの王都は何倍も大きいの。
 でもね、セルベチアの王都はここよりもまだ大きいのよ。
 覚えておいて、世界の広さを。
 あなたの知っている世界は、この広い世界のほんの一角なの。」

「広い世界…。」

 眼下に広がる王都の景色を呆然と眺めるナナちゃん、今初めて世界の広さを認識したのかも知れません。

「わーい、おそらだ!」

「あのお馬さん、羽が生えている。」

 そんなナナちゃんの事はお構いもなしに、無邪気に喜ぶ年少組の二人。
 世界の広さを認識するには少し幼すぎるようですね。

 そして、ヴァイスは快調に飛ばして、一時間もせずに海峡へ出ます。

「これが、海…。
 本当に広い、海の向こうの景色があんなに小さく見える。」

 海を目にして、言葉に詰まったナナちゃん。その広さに圧倒されたようです。

「ナナちゃん、これもまだ序の口よ。
 対岸に見えるのはナナちゃんや私が住んでいる大陸。
 海峡を挟んで対岸にあるのはセルベチアね。
 ここは、海峡と呼ばれているように海が狭まったところなのよ。
 今日は時間がないけど、機会があれば本当の大海原を見せてあげるわ。」

「これで海が狭まったところなのですか。
 ここでもシューネ湖よりずっと広いですよ。
 本当に世界って広いんだ。
 それに、向こうに見えるのが私達が住んでいる大陸…。
 私、今、本当に遠くまで来ちゃったんですね。」

 海峡の先に霞んで見える陸地が自分の住んでいる大陸と知ったナナちゃん。
 やっと、自分が遠くまで来たと実感できたようです。

  
しおりを挟む
感想 137

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

学園アルカナディストピア

石田空
ファンタジー
国民全員にアルカナカードが配られ、大アルカナには貴族階級への昇格が、小アルカナには平民としての屈辱が与えられる階級社会を形成していた。 その中で唯一除外される大アルカナが存在していた。 何故か大アルカナの内【運命の輪】を与えられた人間は処刑されることとなっていた。 【運命の輪】の大アルカナが与えられ、それを秘匿して生活するスピカだったが、大アルカナを持つ人間のみが在籍する学園アルカナに召喚が決まってしまう。 スピカは自分が【運命の輪】だと気付かれぬよう必死で潜伏しようとするものの、学園アルカナ内の抗争に否が応にも巻き込まれてしまう。 国の維持をしようとする貴族階級の生徒会。 国に革命を起こすために抗争を巻き起こす平民階級の組織。 何故か暗躍する人々。 大アルカナの中でも発生するスクールカースト。 入学したてで右も左もわからないスピカは、同時期に入学した【愚者】の少年アレスと共に抗争に身を投じることとなる。 ただの学園内抗争が、世界の命運を決める……? サイトより転載になります。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...