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第13章 春、芽生えの季節に

第299話 ブラウニー達も喜ばれました

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 さて、今回お招きしたお客様ですが、貴族のご婦人方は本来私の一族が住まうべき棟に逗留して頂きます。
 私の館は、上から見るとコの字型をしており、館の正面の両端に二棟の建物が付いたような形をしています。
 本来はその片翼が主人である私とその一族が暮らす棟、もう片翼が来客にお泊り頂く棟になっています。

 ですが、私の住まう棟でさえ使っている部屋は僅か、来客用の棟に至っては館の建造以降ほとんど使われていません。
 今回、貴族のご婦人方と平民の資産家の家族連れという、二グループのお客様を迎えるに当たり使用する棟を分けました。
 平民の方々からすれば、貴族の方が四六時中近くにいると堅苦しい思いをし、羽を伸ばせないかも知れません。
 逆に貴族のご婦人方からすれば、平民の方と同じ場所に滞在するのは難色を示すかもしれません。

 と言う事で、客室棟を資産家の家族連れに使って頂くことにし、貴族のご婦人方には一族用の部屋を開放しました。
 もちろん、一族用の部屋の方がグレードが上です。
 何と言っても、初代の大祖母様が皇帝陛下から賜った館で、その辺の国の王宮並みの豪華さですから。
 それに関しては、良く泊まりに来るトリアさんの折り紙付きです。

 加えて、ご婦人方は皆さん年配の方ですので、こまめに目が届くお部屋に滞在して頂いた方が良いかと思いました。
 そして、資産家の家族連れの方々にはない、特別なおもてなしも用意しました。

「あら、可愛らしい子達。
 何々、この子達がルームサービスしてくださるの。
 まあ、素敵、おとぎの国に来たみたいだわ。」

 リビングで寛ぐご婦人方の中から、そんな声が上がりました。
 今、ご婦人方の前には、アインちゃんとブラウニー隊の一同が勢揃いしています。
 そう、特別感を出すために、貴族のご婦人方の接待の一部をアインちゃん達にお願いしたのです。
 みなさん、穏やかそうな方ですので、気弱なブラウニー達も怖がることが無いと思いましたから。

「この館をずっと維持してくれているブラウニーのみんなです。
 ブラウニー達は気の弱い子が多くて、あまり話しませんし、姿を見せませんが。
 部屋に備え付けてあるハンドベルを鳴らしていただければ、姿を現しますので御用を申し付けください。」

「まあ、ブラウニー、私の国のお伽噺にもよく出てくるわ。
 私が子供の頃にも聞かせられたし、私も孫が小さい頃に聞かせてあげたものよ。
 そんなブラウニーが本当にいるなんて知らなかったわ。
 こうして、実際に可愛らしいブラウニーに会えただけでもここへ来た甲斐があったわ。
 よろしくね、ブラウニーちゃん。」

 私がブラウニー達を紹介すると、一人のご婦人がとても嬉しそうにブラウニー達に声を掛けます。

「ブラウニーのアインです。
 何か御用がありましたら、何なりとお申し付けください。」

 アインちゃんが代表して挨拶をすると、ご婦人方はみなさん相好を崩していました。

「あら、そうすると、私達の国にもブラウニーがいたのかしらね。
 お伽噺が残っているくらいだもね。」

 何方からか、そんな呟きが聞こえました。

「えっ、実際に今でもいますよ、私の王都の屋敷に。
 百年以上屋敷を維持してくれているんですよ。
 あの屋敷、何十年も空き家状態でしたのにブラウニーのおかげで全然痛んでなかったんです。」

 私は、一人で王都の館を守ってきたステラちゃんのことを皆さんに伝えました。
 そして、ステラちゃんが頑張って館を維持しているのに、幽霊屋敷と言って気味悪がられていたことも。

「まあ、そうでしたの…。
 良いお話を聞かせて頂きましたわ。
 何十年も空き家なのに、まるで人が住んでいるような奇麗な館ですか。
 もしかしたら、そんな館が他にもあるかも知れませんわ。
 もし、ブラウニーちゃんが維持してくれているなら…。
 そんな館が、幽霊屋敷なんて気味悪がられて取り壊されるなんてことになったらいけませんわね。
 ねえ、みなさん。そんな館があれば、私達のトラストでそれも買い取りませんこと。」

 私の話を聞いたメアリーさんがそんなことを言い出したのです。
 すると、すぐに賛同する声が聞こえてきます。

「メアリー様、それはとても素敵なご意見ですわ。
 私も賛成です。
 こんなかわいい子達が頑張って維持しているのですもの。
 取り壊されることにでもなったら、大変ですわ。
 メアリー様が音頭をとって設立された基金、みなさんからの寄付のおかげで大分大きくなりました。
 山や湖沼といった自然だけではなく、古い館なども買い取りの対象に加えても良いと思います。」

 ああ、あの基金、メアリーさんが音頭を取っていたのですか。
 一年半ほど前、前々回の年越しパーティに呼ばれた時のことです。
 メアリーさんをはじめ、体の具合の悪い年配の方々を私とリーナの契約精霊が手分けをして治療をしました。

 その際、精霊の事が話題になって、かつてはアルビオン王国にも沢山の精霊がいたという話をしました。
 長い時間の中で、アルビオン王国では、精霊を信仰する人々への迫害が有ったり、自然破壊の進行が有りました。
 そのため、精霊にとって住み難い土地となってしまい、精霊は姿を消して行ったのです。
 そのとき、今なお豊かな自然が残る湖水地方辺りにまだ精霊達がいるのではないかと、私は言ったのです。

 すると、この時精霊達に癒された人達の間で、精霊が住んでいそうな豊かな自然を残そうという声が上がりました。
 この方々、お金と人脈を山のように持っている方々です。
 あっという間に、基金を設立して湖水地方一帯を買い取ってしまいました。

「じゃあ、そういうことで『ナショナル・トラスト』の対象にブラウニーが住んでいそうな建物も加えましょう。
 そうね、我が国の伝統的・歴史的建物を保存するとかいう建前でも付けておきましょうか。」

 えっ、そんないい加減な…。大きなお金が動く事業をそんなに簡単に決めてしまって良いのでしょうか。

「ええっと、メアリーさん、この場でそんな事を決めてしまって良いのでしょうか…。」

「あら、言ってませんでしたっけ。
 今回誘った人達は全員、基金のメンバーよ。
 しかも、全員が理事なの。ここにいる人だけで理事会の大部分を占めるわ。
 はーい、賛成の人は手を上げて。」

 『○○を欲しい人、手を上げて』というような、メアリーさんのお気軽な声が響きます。
 すると、その場の全員の手が上がりました。

「ほら、全員賛成、理事会の圧倒的多数で決まりよ。
 そうそう、シャルロッテちゃんにも手伝いをお願いするわ。
 出モノの建物があったら、ブラウニーちゃんが住んでいるか見てちょうだいね。
 普通の人の前には姿を現さないのでしょう。」

「はあ…、まあ、そのくらいは協力させて頂きますが…。」

 そんなことで、呆然とする私の前で、お金と人脈を山ほど持つご婦人たちがブラウニー達が住まう建物の保護に乗り出してしまいました。

 みなさん、各部屋にブラウニー達が付いてくれるという事で大喜びで割り振られた部屋に散っていきました。

 そして、一人残ったメアリーさんに私は尋ねます。

「メアリーさん、みなさんに精霊の治癒の力の事はバラしちゃったんですか?」

 それを知られていると、これから起こすイベントがサプライズになりません。

「安心して、シャルロッテちゃん。
 今回のメンバーで何人かは、あなたも顔見知りだったでしょう。
 年越しパーティーに来ていた人達、あの人達はもちろん気付いているでしょうけど。
 精霊の治癒能力を口外しない事は、年越しパーティー参加者の間で示し合わせてあるの。
 だから仲間内でも、ちゃんと内緒になっているわ。
 それに、バラしちゃったら、ビックリさせられないじゃない。
 それじゃ、つまらないでしょう。」

 とメアリーさんは茶目っ気たっぷりの顔で言いました。

 精霊の治癒能力が知れ渡ってしまうと、私の許に人が殺到しかねません。
 特に、年越しパーティー参加者のお知り合いは年配の方が多いでしょうから。
 それでは、恩を仇で返すことになってしまうので、精霊の治癒能力については口外禁止としてあるそうです。

 基金を設立する際も、主要な人達には年越しパーティー参加者が精霊の実在とその保護の必要性を説いたそうです。
 ですが、この時、個々の精霊の能力までは説明はしなかったと言います。
 更に広く資金を募る際は、アルビオン王国に残る豊かな自然を開発から守ると言う建前だけが知らされた様子です。
 精霊の事を知っているのは、メアリーさん達年越しパーティー参加者と一部の主要メンバーだけのようです。

 今回、メアリーさんは、まだ精霊の力の恩恵にあずかっていない協力者の皆さんに、奇跡のお裾分けをと思ったそうです。
 で、声を掛けたのはメアリーさんが古くから懇意にしている方の中でも、基金の有力メンバーの方々となったようです。

     ********

 さて、みなさんには、夕食の前に温泉に入って疲れを癒してもらうことにしました。

 今回、お客様を迎えるに当たって、温泉を大幅に改装しました。
 精霊達には大活躍してもらったのです。

 まずは、身内しか入浴しなかったので湯船は一つしかありませんでしたが。
 来客を迎えるという事で、殿方用とご婦人用の二つに分け、建屋も別にしました。
 更に、来客棟向けにもう一ヶ所、浴場を設けたのです。
 もちろん、こちらも、殿方とご婦人を分けました。

「私、六十年以上生きているけど、温泉って初めて入ったわ。
 お風呂と言うと、小さなバスタブの中で、体を洗うだけのものかと思っていたのよ。
 あんな大きなお風呂に満々と湛えられたお湯、そこに浸かるなんて考えた事もなかった。
 しかも、あんな豊富なお湯が地面から勝手に湧き出しているなんて信じられなかった。
 最初はおっかなびっくり入ったけど、お湯に浸かっているといい気分になってきたわ。
 まるで、体から疲れが抜けていくようだったわ。
 温泉って良いわね、これだけでも、ここに来て良かったと思えるほどよ。」

 お風呂上がりのメアリーさんは、温泉がお気に召したようです。
 セルベチアも大概酷いようでしたが、アルビオン王国もお風呂に浸かるという習慣が余りありません。
 メアリーさんが言った通り、お風呂というのはそこに入って体を洗うためのものなのです。

 今回、お風呂に浸かる習慣のない方々の反応を確かめたかったのですが、感触は良いようです。
 入浴を嫌うセルベチア生まれのシャルちゃんやアルビオンのトリアさんもお気に入りなので悪くはないと思ってました。
 ただ、長年、お湯に浸かる習慣のなかった年配の方に受け入れらるかが、不安だったのです。
 あと、来客棟に泊まって頂く資産家の方々の反応が良いようであれば、ホテルにも造るよう計画に盛り込みます。

 さて、次のおもてなしは。
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