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第8章 冬が来ます
第179話 精霊の立場からも良いそうです
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さて、リーナはオークレフトさんの説明を受けて地下道の建設を承認してしまいました。
しかし、ここで安易にオークレフトさんの口車に乗ったらダメです。
長期的な視野に立って彼の言うような計画を立てるのは良いことだと思います。
でも、この件は元々冬場の職人達の通勤をどうするかという話だったのです。
そう、本格的な冬の到来まであと一月もないのです。
そんな短期間で工房とシューネフルトの間に地下道を掘るなんて人の力では絶対無理です。
最初から私の契約精霊を当てにする計画など、そんな虫の良い話をあの子達がウンと言う訳がありません。
「オークレフトさん、最初から言っているように精霊は意思を持つ存在なのよ。
都合が良く使える機械とは違うの。
こっちの勝手ばかり押し付けるような事を言っても聞いてもらえないわよ。」
私がオークレフトさんに釘を刺した時のことです。
「そうね、ロッテちゃん。その通りよ。
ロッテちゃんの一族は常にそう言い続けてきた、だから精霊達もあなたの一族と寄り添ってきたの。
精霊を、意思あるモノ、対等なモノと扱ってくれたから。
そこの男、そこを弁えないと痛い目に合うわよ。」
ポンと私の前に大地の精霊ノミーちゃんが現れました。
どうやら、私達の会話を聞いていたらしいです。
「でもね、あんたの計画、それに乗ってあげるわ。」
「えっ?」
ノミーちゃんの口をついて出てきた意外な言葉に、私は思わず聞き返してしまいました。
「だから、私はその男の計画に手を貸してあげると言っているのよ。」
「ノミーちゃんはそれで良いの?
オークレフトさんは、このところ私の精霊達に頼り過ぎだと思うのだけど。」
「そうね、そこは反省してもらわないといけないわね。
私達は、その男の契約精霊ではないのだから。
でもね、その男の話、面白いと思ったのよ。」
「面白いの?精霊のノミーちゃんが?」
精霊のノミーちゃんがオークレフトさんの話のどこが気に入ったのでしょうか。
正直、全く見当が付きません。
「その男の国は酷かった。
森は伐り払われ、水は汚され、空気は汚かった。
あんなところには精霊は住めないわよ。
その点、その男の計画、森も切らない、水も汚さない、空気も汚さない。
人は便利なモノがあると直ぐに真似をするでしょう。
蒸気機関なんてモノがこの地に持ち込まれたら堪らないわ。
流れる水の力を利用しようと言うその男の考えはすごく面白いと思うわ。
蒸気機関よりも先に電気を広めてしまいましょう。」
そう言えば、アルビオン王国では精霊を見かけませんでした。
ブラウニーのステラちゃんは、豊かな自然が残る湖水地方辺りに引き籠ってしまったのでは、と言ってましたね。
ノミーちゃんだけではなく、精霊たちみんながアルビオン王国を見て、あんな風になったら嫌だなと感じたそうです。
オークレフトさんの計画は、自然豊かなアルム山麓を売りにリゾート地として有閑階級を呼び込むもうとするモノです。
しかも、人の利便性は、石炭や木炭を燃やす蒸気機関ではなく、川の流れで発電した電気を使って高めようとしています。
その辺りの話がノミーちゃんの琴線に触れたようです。
「それでは、僕の計画に協力してくれると言うのですか?」
ノミーちゃんの言葉にオークレフトさんが目を輝かせて言いました。
「調子に乗らないでよ、あんた、私達に頼り過ぎよ。
計画が私達ありきになっているじゃない。
人の力だけでできるようにしないとダメでしょうが。
いつでも、私達が力を貸すと思ったら大間違いよ。
今回の話はたまたま私達に都合が良かったから手を貸すだけよ。」
目いっぱい精霊の力を借りようとするオークレフトさんにノミーちゃんは釘を刺しますが。
オークレフトさんは手許に置いてあったカバンの中をゴソゴソと探ると…。
「申し訳ございません。
計画を急ごうと思うとどうしても人の力だけでは手に余るモノですから。
今回の計画に協力してもらえるだけでも有り難いです。
これ感謝のしるしです、よろしかったら召し上がってください。」
王都で大量に買い込んだショコラーデの箱をノミーちゃんに差し出しながら言いました。
こういう時のために常に持ち歩いているのですね。
「あんたねえ、私はそんなモノに釣られるような安い女じゃないわよ。
まあいいわ、これはもらっといてあげる。」
用意周到なオークレフトさんにノミーちゃんは呆れたように言いました。
その割には嬉しそうに受け取るのですね…。
**********
ノミーちゃんの協力を得られることになった私達は、ヴァイスの引く馬車でリーナを館まで送り届けることにします。
ノミーちゃんはヴァイスの背中に座って、空から工房とリーナの館の位置関係を確認していました。
そして翌日。
「位置関係は昨日把握したよ。
それで希望は幅十ヤード、高さ八ヤードの横穴をリーナの館の地下まで掘れば良いのね。
で、崩れないように補強しろと。
それじゃあ、壁面は石化してしちゃおうか。」
工房の敷地の一角でオークレフトさんから要望を聞いていたノミーちゃんは、確認するように言いました。
「はい、なるべく平坦になるようにお願いします。」
「分かった、ここからリーナちゃんの館まであまり高低差は無いから平坦にできる。」
ノミーちゃんは少し進み出ると…。
「うんじゃ、ちゃっちゃといきましょう!
大地にトンネル掘りましょう~♪最初は斜めにスロープ作り~♪
ちょうどいい深さまで降りたら~♪横へ一気に進めます~♪
リーナの家まで一直線~♪」
ドドッドドドドドドドドド……
口ずさむのんきな鼻歌とは裏腹に、信じられない光景が起こりました。
地面が音を上げて退くように掘り下げられていくのです。
いったい、掘られた土は何処へ行ってしまうのでしょうか?
オークレフトさんとの打ち合わせ通り、最初は資材搬入のため傾斜路で地面が掘り下げられます。
十五ヤードくらいは掘り下げたでしょうか、そこからリーナの館に向かって一直線に横穴が走ります。
土を押し退けるようにして、とんでもない速さで横穴が進んでいきます。いや、本当に掘り出した土は何処に?
リーナの館までの距離は二マイル近く、人力でこの規模のトンネルを掘ったらどのくらいの日数を要するでしょうか。
とても半年や一年で掘れるとは思えません。
ところが、もう工房の敷地からでは闇が続いているだけで、どこまで掘り進んだのかはとても見えません。
二時間ほど経過して、この勢いだと半分くらいは掘り進んだのかなと考えていると。
「へい、いっちょう上がり!」
「へっ?」
ノミーちゃんから、いつもながらの気風の良い声が上がりました。
想像を絶する速さに思わず聞き返してしまいました。
「お待たせ!
リーナの館まで繋がったよ、さっそく見に行こう。」
ノミーちゃんの報告を受けて私達は地下道の確認に行くことになりました。
私が光の玉を作り、頭上の放ると地下道の中が明るく照らされ、中の様子が浮かび上がりました。
オークレフトさんは、さっそく壁面の様子を確認しています。
「凄い、壁面が堅い岩になっている。
しかも、全然凹凸のない滑らかな壁面なのが驚きだ…。」
その言葉通り、壁面全体が白っぽい堅い岩になっていてとても堅固な感じです。
「元々ここにあった土をギュッと押し固めて石にしたんだ。
すっごく圧縮したからちょっとやそっとじゃ絶対に崩れないよ。」
掘っているはずなのに残土が出てこなかったのは、文字通り土を周囲に押し退けて圧縮してしまったようです。
そんなことできるのでしょうか?
「シャルロッテ様、精霊達のやることを真剣に考えたらダメです。
僕はシャルロッテ様に紹介された時から、精霊というのは人知の及ばないものだと割り切っています。
だからこそ、次はどんな不思議な事を見せてくれるのかとワクワクしているです。
それに、シャルロッテ様の使う転移魔法の方がよっぽど不思議だと思いますよ。」
精霊と共に生まれ育ってきた私が、精霊と出会って数ヶ月の人に精霊との接し方を諭されてしまいました。
それもそうですね…。
幅十ヤードの地下道は起伏もなく、また路面も全く凹凸がない滑らかなもので大変歩き易い道になっていました。
地上をいくと三十分はかかる道のりも直線で結んでしまうと二十分ほどで歩けることが分かりました。
「この上がリーナの館が建っている場所だよ。」
地下道の終点が私の光の魔法で照らし出された時、ノミーちゃんが教えてくれました。
「じゃあ、昨日教えた工房の職人が借りている建物の近くにある空き地に向かって階段を作って地上と繋いでもらえるかしら。」
私はリーナやオークレフトさんと相談した位置に開口部を作って欲しいとお願いします。
「合点承知だよ!」
ノミーちゃんはいつも通り気風の良い返事を返すと、術を振るい始めました。
あっという間に目の前に階段の空間が出来ていき、ほどなくそれが地上に繋がります。
階段を上るとそこは予定通りの場所で、穴が開くことを前提に縄で囲って立ち入り禁止にしておいた所です。
人の力で掘ると一年では終わらないかと言う地下道の掘削を、ノミーちゃんは半日も掛からずのやってのけました。
ホント、びっくりです。
**********
そして、約一ヶ月後の12月上旬。
私はリーナと二人で、リーナの館に設けた地下道入り口の階段を降りたところに立っています。
今は、目の前に深い闇が続いています。
しばらく、立っていると闇の奥の方、はるか遠くに小さな光が見えたかと思うと。
その光は結構な速さでこちらに向かってきます。
それがどんどん近づいてきて、バチバチと音を立てたかと思うと…。
三ヤードほど程先の天井付近に設置した電気灯に眩い明かりが灯りました。
「やった、成功だわ!」
私の隣でリーナが歓喜の声を上げました。
そう、今日は先日ノミーちゃんが掘ってくれた地下道の中に設置した電気灯の点灯試験の日だったのです。
本格的な雪の季節の到来を目の前に、オークレフトさん達が徹夜仕事で電気灯の設置を行ったのです。
オークレフトさんの計算では、ここまで十分な送電が可能という事でしたが。
彼自身も実際に出来るかは自信が無かったようです。
それが、今こうして電気灯が煌々と光を放っているのです。
やがて、電気灯が灯って二十分ほど過ぎた時。
「おお、ちゃんと終点まで電気灯が灯っているではないですか。
良かったです、ノミーさんに無茶なお願いをしておいて失敗しましたでは面目丸つぶれですからね。
これなら、シューネフルトの街に街灯を設置するのも出来そうですね。」
そう言いながら、ジョンさんとここに住む職人の代表ヤンさんを伴ったオークレフトさんが現れました。
彼らは地下道の中に異常ないかを確認しながら、工房から歩いて来たのです。
「こりゃあ、すげーや。
借りている家から工房まで二十分で歩けるのか。
地下道の中は明るいし、凸凹も無くて歩き易い。
地下を通るから雪の心配はないし、寒風が吹きこまないからそれほど寒くないぜ。
冬場は雪で外に出られなくなるから、どうしても体が鈍っちまう。
朝夕、二十分ずつ歩くのは体に良さそうだぜ。」
ここに住むヤンさんが地下道の出来栄えに驚くとともに、大変うれしそうに言いました。
そうですね、どうしても雪に閉ざされると運動不足になりがちですものね。
という事で、冬場の職人達の通勤の問題が解決するとともに、オークレフトさんの壮大な計画の最初のステップが成功を収めたのです。
************
お読み頂き有り難うございます。
本年もよろしくお願いいたします。
しかし、ここで安易にオークレフトさんの口車に乗ったらダメです。
長期的な視野に立って彼の言うような計画を立てるのは良いことだと思います。
でも、この件は元々冬場の職人達の通勤をどうするかという話だったのです。
そう、本格的な冬の到来まであと一月もないのです。
そんな短期間で工房とシューネフルトの間に地下道を掘るなんて人の力では絶対無理です。
最初から私の契約精霊を当てにする計画など、そんな虫の良い話をあの子達がウンと言う訳がありません。
「オークレフトさん、最初から言っているように精霊は意思を持つ存在なのよ。
都合が良く使える機械とは違うの。
こっちの勝手ばかり押し付けるような事を言っても聞いてもらえないわよ。」
私がオークレフトさんに釘を刺した時のことです。
「そうね、ロッテちゃん。その通りよ。
ロッテちゃんの一族は常にそう言い続けてきた、だから精霊達もあなたの一族と寄り添ってきたの。
精霊を、意思あるモノ、対等なモノと扱ってくれたから。
そこの男、そこを弁えないと痛い目に合うわよ。」
ポンと私の前に大地の精霊ノミーちゃんが現れました。
どうやら、私達の会話を聞いていたらしいです。
「でもね、あんたの計画、それに乗ってあげるわ。」
「えっ?」
ノミーちゃんの口をついて出てきた意外な言葉に、私は思わず聞き返してしまいました。
「だから、私はその男の計画に手を貸してあげると言っているのよ。」
「ノミーちゃんはそれで良いの?
オークレフトさんは、このところ私の精霊達に頼り過ぎだと思うのだけど。」
「そうね、そこは反省してもらわないといけないわね。
私達は、その男の契約精霊ではないのだから。
でもね、その男の話、面白いと思ったのよ。」
「面白いの?精霊のノミーちゃんが?」
精霊のノミーちゃんがオークレフトさんの話のどこが気に入ったのでしょうか。
正直、全く見当が付きません。
「その男の国は酷かった。
森は伐り払われ、水は汚され、空気は汚かった。
あんなところには精霊は住めないわよ。
その点、その男の計画、森も切らない、水も汚さない、空気も汚さない。
人は便利なモノがあると直ぐに真似をするでしょう。
蒸気機関なんてモノがこの地に持ち込まれたら堪らないわ。
流れる水の力を利用しようと言うその男の考えはすごく面白いと思うわ。
蒸気機関よりも先に電気を広めてしまいましょう。」
そう言えば、アルビオン王国では精霊を見かけませんでした。
ブラウニーのステラちゃんは、豊かな自然が残る湖水地方辺りに引き籠ってしまったのでは、と言ってましたね。
ノミーちゃんだけではなく、精霊たちみんながアルビオン王国を見て、あんな風になったら嫌だなと感じたそうです。
オークレフトさんの計画は、自然豊かなアルム山麓を売りにリゾート地として有閑階級を呼び込むもうとするモノです。
しかも、人の利便性は、石炭や木炭を燃やす蒸気機関ではなく、川の流れで発電した電気を使って高めようとしています。
その辺りの話がノミーちゃんの琴線に触れたようです。
「それでは、僕の計画に協力してくれると言うのですか?」
ノミーちゃんの言葉にオークレフトさんが目を輝かせて言いました。
「調子に乗らないでよ、あんた、私達に頼り過ぎよ。
計画が私達ありきになっているじゃない。
人の力だけでできるようにしないとダメでしょうが。
いつでも、私達が力を貸すと思ったら大間違いよ。
今回の話はたまたま私達に都合が良かったから手を貸すだけよ。」
目いっぱい精霊の力を借りようとするオークレフトさんにノミーちゃんは釘を刺しますが。
オークレフトさんは手許に置いてあったカバンの中をゴソゴソと探ると…。
「申し訳ございません。
計画を急ごうと思うとどうしても人の力だけでは手に余るモノですから。
今回の計画に協力してもらえるだけでも有り難いです。
これ感謝のしるしです、よろしかったら召し上がってください。」
王都で大量に買い込んだショコラーデの箱をノミーちゃんに差し出しながら言いました。
こういう時のために常に持ち歩いているのですね。
「あんたねえ、私はそんなモノに釣られるような安い女じゃないわよ。
まあいいわ、これはもらっといてあげる。」
用意周到なオークレフトさんにノミーちゃんは呆れたように言いました。
その割には嬉しそうに受け取るのですね…。
**********
ノミーちゃんの協力を得られることになった私達は、ヴァイスの引く馬車でリーナを館まで送り届けることにします。
ノミーちゃんはヴァイスの背中に座って、空から工房とリーナの館の位置関係を確認していました。
そして翌日。
「位置関係は昨日把握したよ。
それで希望は幅十ヤード、高さ八ヤードの横穴をリーナの館の地下まで掘れば良いのね。
で、崩れないように補強しろと。
それじゃあ、壁面は石化してしちゃおうか。」
工房の敷地の一角でオークレフトさんから要望を聞いていたノミーちゃんは、確認するように言いました。
「はい、なるべく平坦になるようにお願いします。」
「分かった、ここからリーナちゃんの館まであまり高低差は無いから平坦にできる。」
ノミーちゃんは少し進み出ると…。
「うんじゃ、ちゃっちゃといきましょう!
大地にトンネル掘りましょう~♪最初は斜めにスロープ作り~♪
ちょうどいい深さまで降りたら~♪横へ一気に進めます~♪
リーナの家まで一直線~♪」
ドドッドドドドドドドドド……
口ずさむのんきな鼻歌とは裏腹に、信じられない光景が起こりました。
地面が音を上げて退くように掘り下げられていくのです。
いったい、掘られた土は何処へ行ってしまうのでしょうか?
オークレフトさんとの打ち合わせ通り、最初は資材搬入のため傾斜路で地面が掘り下げられます。
十五ヤードくらいは掘り下げたでしょうか、そこからリーナの館に向かって一直線に横穴が走ります。
土を押し退けるようにして、とんでもない速さで横穴が進んでいきます。いや、本当に掘り出した土は何処に?
リーナの館までの距離は二マイル近く、人力でこの規模のトンネルを掘ったらどのくらいの日数を要するでしょうか。
とても半年や一年で掘れるとは思えません。
ところが、もう工房の敷地からでは闇が続いているだけで、どこまで掘り進んだのかはとても見えません。
二時間ほど経過して、この勢いだと半分くらいは掘り進んだのかなと考えていると。
「へい、いっちょう上がり!」
「へっ?」
ノミーちゃんから、いつもながらの気風の良い声が上がりました。
想像を絶する速さに思わず聞き返してしまいました。
「お待たせ!
リーナの館まで繋がったよ、さっそく見に行こう。」
ノミーちゃんの報告を受けて私達は地下道の確認に行くことになりました。
私が光の玉を作り、頭上の放ると地下道の中が明るく照らされ、中の様子が浮かび上がりました。
オークレフトさんは、さっそく壁面の様子を確認しています。
「凄い、壁面が堅い岩になっている。
しかも、全然凹凸のない滑らかな壁面なのが驚きだ…。」
その言葉通り、壁面全体が白っぽい堅い岩になっていてとても堅固な感じです。
「元々ここにあった土をギュッと押し固めて石にしたんだ。
すっごく圧縮したからちょっとやそっとじゃ絶対に崩れないよ。」
掘っているはずなのに残土が出てこなかったのは、文字通り土を周囲に押し退けて圧縮してしまったようです。
そんなことできるのでしょうか?
「シャルロッテ様、精霊達のやることを真剣に考えたらダメです。
僕はシャルロッテ様に紹介された時から、精霊というのは人知の及ばないものだと割り切っています。
だからこそ、次はどんな不思議な事を見せてくれるのかとワクワクしているです。
それに、シャルロッテ様の使う転移魔法の方がよっぽど不思議だと思いますよ。」
精霊と共に生まれ育ってきた私が、精霊と出会って数ヶ月の人に精霊との接し方を諭されてしまいました。
それもそうですね…。
幅十ヤードの地下道は起伏もなく、また路面も全く凹凸がない滑らかなもので大変歩き易い道になっていました。
地上をいくと三十分はかかる道のりも直線で結んでしまうと二十分ほどで歩けることが分かりました。
「この上がリーナの館が建っている場所だよ。」
地下道の終点が私の光の魔法で照らし出された時、ノミーちゃんが教えてくれました。
「じゃあ、昨日教えた工房の職人が借りている建物の近くにある空き地に向かって階段を作って地上と繋いでもらえるかしら。」
私はリーナやオークレフトさんと相談した位置に開口部を作って欲しいとお願いします。
「合点承知だよ!」
ノミーちゃんはいつも通り気風の良い返事を返すと、術を振るい始めました。
あっという間に目の前に階段の空間が出来ていき、ほどなくそれが地上に繋がります。
階段を上るとそこは予定通りの場所で、穴が開くことを前提に縄で囲って立ち入り禁止にしておいた所です。
人の力で掘ると一年では終わらないかと言う地下道の掘削を、ノミーちゃんは半日も掛からずのやってのけました。
ホント、びっくりです。
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そして、約一ヶ月後の12月上旬。
私はリーナと二人で、リーナの館に設けた地下道入り口の階段を降りたところに立っています。
今は、目の前に深い闇が続いています。
しばらく、立っていると闇の奥の方、はるか遠くに小さな光が見えたかと思うと。
その光は結構な速さでこちらに向かってきます。
それがどんどん近づいてきて、バチバチと音を立てたかと思うと…。
三ヤードほど程先の天井付近に設置した電気灯に眩い明かりが灯りました。
「やった、成功だわ!」
私の隣でリーナが歓喜の声を上げました。
そう、今日は先日ノミーちゃんが掘ってくれた地下道の中に設置した電気灯の点灯試験の日だったのです。
本格的な雪の季節の到来を目の前に、オークレフトさん達が徹夜仕事で電気灯の設置を行ったのです。
オークレフトさんの計算では、ここまで十分な送電が可能という事でしたが。
彼自身も実際に出来るかは自信が無かったようです。
それが、今こうして電気灯が煌々と光を放っているのです。
やがて、電気灯が灯って二十分ほど過ぎた時。
「おお、ちゃんと終点まで電気灯が灯っているではないですか。
良かったです、ノミーさんに無茶なお願いをしておいて失敗しましたでは面目丸つぶれですからね。
これなら、シューネフルトの街に街灯を設置するのも出来そうですね。」
そう言いながら、ジョンさんとここに住む職人の代表ヤンさんを伴ったオークレフトさんが現れました。
彼らは地下道の中に異常ないかを確認しながら、工房から歩いて来たのです。
「こりゃあ、すげーや。
借りている家から工房まで二十分で歩けるのか。
地下道の中は明るいし、凸凹も無くて歩き易い。
地下を通るから雪の心配はないし、寒風が吹きこまないからそれほど寒くないぜ。
冬場は雪で外に出られなくなるから、どうしても体が鈍っちまう。
朝夕、二十分ずつ歩くのは体に良さそうだぜ。」
ここに住むヤンさんが地下道の出来栄えに驚くとともに、大変うれしそうに言いました。
そうですね、どうしても雪に閉ざされると運動不足になりがちですものね。
という事で、冬場の職人達の通勤の問題が解決するとともに、オークレフトさんの壮大な計画の最初のステップが成功を収めたのです。
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お読み頂き有り難うございます。
本年もよろしくお願いいたします。
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