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2日目

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「…下、殿下!」

「ん、んぅ?」

声がする。俺は昨日夜遅くまで魔法関連の本を読んで疲れているんだ。起こさないで欲しい。

「起きてくださいませ、アーダン殿下!」

「なんだもう少し寝かせてくれ」

「いけません!もう一日も猶予がないのです」

「だがな、エディン。昨日はあまり寝てなくて寝不足でな…って、エディン!」

「はい、殿下」

「殿下ではない。未婚の女性が男の部屋に入ってくるとは…」

「殿下とは婚約者ですよ。それに、いつものことですわ」

そう言えばそうか。とりあえずは学園に行く準備だ。

「そういえば今日の補修は数学だったな」

「はい。苦手な教科ですが頑張ってくださいませ!」

「うむ。今日も付いて来てくれるんだろう?」

「当たり前です。殿下はもう一日も無駄に出来ないのですよ。それに、まだお体が心配です。学園まで連れ出しておいてなんですが、無事卒業出来たら休息をとってくださいね」

「そうだな。じゃあ、その時はご褒美にエディンと一緒に出掛けるか!」

「で、殿下!からかわないでくださいませ」

からかったつもりはないんだが…。時間も迫っているので着替えて学園に向かう。

「今日は時間もかかると思いますが頑張りましょうね」

「ああ、まあ、そうだな」

実は昨日のうちに教科書は開いている。魔法のお陰か科学系の発展は遅く、今の俺の知識でも出来ることは確認した。後はどうやってひらめきを得た!という感じを出すかだな。天才と思われても、そもそも数学は苦手な方でその先を期待されても困るしな。かと言ってこれまでサボっていたなんて、エディンが聞いたら激怒するだろう。

「流石にそれはなぁ…」

「殿下、何かおっしゃいましたか?」

「いや」

エディンのシアル家は王国でも有数の名家だ。そんなエディンにはこれ以上負担をかけたくはない。これまでも婚約者として何をやっているのかと、非難を浴びて来ただろうからな。

「さあ、授業ですよ。頑張りましょう」

「では、授業を始めますぞ」

昨日と同様、授業が始まる。だが、昨日は最初の魔法講義はさっぱりだったし、歴史も大変だったが今日の範囲は楽勝だ。というかただの四則演算だが…。

「ど、どうしました殿下?もしやもう限界ですか?」

「い、いや。どうも、この前から頭の調子が良くてな。これぐらいなら何とか解けそうだ」

それからは苦痛の時間だった。足し算引き算に始まり、たかが掛け算の問題に正解するだけでエディンが褒めてくれるのだ。

「エ、エディン。あまり褒めないでくれ。この程度は常識だろう?」

「ですが、殿下にとっては目覚ましい一歩です!私、感動いたしました。何か希望があればかなえて差し上げたいぐらいですわ!」

「そ、そうか。まだ午前中で午後もあるんだが…では、名前で呼んでくれないか。婚約者だが滅多に名前で呼んでくれないだろう?」

「そ、それは…」

「貴族として言ったことは守らないと」

「…分かりました。ア、アーダン様」

うむ、改めてこんな綺麗な婚約者に名前を呼ばれるなんて、いい身分だ。
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