噂の不良は甘やかし上手なイケメンくんでした

ミヅハ

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相談

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 週明け。周防くんから昇降口にいるって連絡を受けた俺は、薫と悠介に先に行くと告げて駆け足で門を通り抜けた。
 最近の周防くん、本当に早起き頑張ってるみたいで、こうして俺より早く学校に来ている事も増えてきてて俺も頑張らなきゃって気持ちになる。それに朝は早く起きた方がおはようのメッセージを送るって約束したから、今は圧倒的に周防くんからが多いんだよね。
 昇降口の扉から顔を覗かせると周防くんはいたけど、クラスの女子たちと何やら楽しそうに話してた。

「神薙くんもそんな事気にするんだ」
「如何にもオラオラって感じなのに」
「うっせぇな。初めてなんだから仕方ねぇだろ」
「そもそもそれが意外なのよ」
「でも神薙くんの言う事も分かるなー。守ってあげたくなるタイプだよね」
「たまに子犬とか子兎系の、プルプルしてる小動物に見える」
「かーわいーよねー」
「見んなよ、減る」
「はい出た独占欲ー」
「何が減るのよ」

 何の話をしてるのかは分からないけど凄く盛り上がってる。何となく入れなくて見てると、気付いた周防くんが手招きしてくれた。

「湊、そんなとこで何してんの。こっちに来な?」
「あ…えっと…」

 俺はまだクラスメイトと話す事は慣れてなくて、しかも一斉に見られたから思わず俯いてしまい…どうしよう、気を悪くしたかも。
 こんな時、薫ならおはようって言いながら輪の中に入るのに。

「じゃあ教室行くね」
「イチャついて遅刻しないでよ」
「しねぇよ。はよ行け」
「おはよう、弟くん」
「おはよー」
「おはよう!」
「おっはー」

 やっぱり邪魔したって思ってたら、明るい声がかけられて思わず顔を上げたら女子たちが手を振ってくれてた。
 あんな態度取ったのに挨拶してくれるんだ。
 女子たちの優しさが嬉しくて、ぎこちなく手を振って「おはよう」って返すと、みんなにこっと笑って上履きに履き替えお喋りしながら歩いて行った。

「おはよ」
「おはよう、周防くん」

 それを見送ってた俺の隣に周防くんが立ち頭を撫でてくれる。それがよく出来ましたって言ってくれてるみたいで心の中がほわってした。

「今日は抱き着かないのか?」
「…薫に、昇降口は他の人が困るからもうやめなさいって言われて」
「そうか。…じゃあこっち」
「え?」

 本当は抱き着きたいけど…と思ってると、周防くんに手を握られて昇降口を出て、どうしてか校舎裏に連れて行かれる。目を瞬いてたら手を離してくるりとこっちを向いた周防くんが腕を広げてくれた。

「ここなら人いないし、誰も困らないだろ」
「!」

 俺に耳とか尻尾があったら今のでピンって立ってると思う。
 地面を蹴って飛び込むと周防くんもすぐにぎゅってしてくれるから嬉しい。周防くんの温もりと香りに包まれて幸せいっぱいだ。

「湊」
「?」

 腰元に腕を回して目を閉じてくっついてたら名前を呼ばれて、何だろうって見上げたら優しく微笑む周防くんがいて、じっと見てると顔が近付いてきた。
 あ、キスだって気付いて目を閉じて少しだけ背伸びする。
 チョンって触れただけで離れて、物足りなくて眉を寄せたら周防くんがふっと笑った。

「ここなら、こういう事も出来るな」

 そう言って今度は俺の唇に噛み付くようなキスをする。
    まるでそのまま食べられてしまいそう勢いのキスに応える事に必死な俺は、上手に息が出来なくてくらくらしてきた。
    周防くんが息継ぎの時間を作ってくれなかったら酸欠で気を失ってたかもしれない。

 俺の顔の熱がなかなか引かなくて予鈴が鳴るまでそこにいた俺たちは、教室に入るなり女子たちから「イチャついて遅刻するなって言ったでしょ」と怒られてしまった。
 なんでイチャイチャしてたって分かったんだろう。



 昼食後、先生に呼び出された周防くんが物凄く面倒臭そうに職員室へ向かったのを見送った俺は、教室に戻り昇降口で周防くんと話してた女子四人組に近付いた。

「あ、あの…」
「? あれ、どうしたの、弟くん」

 躊躇いがちに声をかけると振り向いてキョトンとされる。
 うぅ、やっぱり一斉に見られると緊張して身体が強張ってしまう。でも、ここまで来て諦めたらさすがに格好悪い。

「あの、教えて欲しい事が、あって…」
「教えて欲しい事? 勉強なら神薙くんの方が良いと思うよ?」
「あ、違う、勉強じゃなくて……その…恋人同士の…事…」

 尻すぼみながらも言えばみんなが目を丸くする。やっぱり言わない方が良かったかもと後悔してると、一番近くにいた子が立ち上がり俺の手を両手で握ってきた。

「!?」
「そういう相談なら大歓迎だよ! それで、何が聞きたいの?」
「え、えっと…」
「うんうん」
奈央なお、ちょっと落ち着いて。それだと弟くん話しにくいから」
「椅子借りよう。ここおいで、弟くん」

 勢いに困惑してると周りの子から助け舟が出て、しかも椅子まで用意してくれて俺は小さく頷いてそこに座る。
 何か、この子たちだけじゃなくて別の場所からも視線を感じるけど、とにかく周防くんが戻って来るまでに聞かないといけないから、俺は思い切って口を開いた。

「あの、恋人って何をしたらいいのかな」
「何って?」
「…俺、恋人が出来たの初めてで…デートの場所とか、他の恋人さんたちがどんな風に普段過ごしてるのか全然分からなくて……どうしたら周防くんにも楽しんで貰えるのか…喜んで貰えるのか……良かったら教えて下さい」

 分からないから調べようとは思ったけど、何をどう調べたらいいのかさえ分からなかった。
 だから女の子なら何かヒントだけでもくれるかもと思って答えたんだけど、どうしてかみんな目元を押さえて天井を見上げたり机に突っ伏したりしてるから変な事言ったのかと心配になる。

「あの…」
「…ん゛ん゛、ごめん、気にしないで」
「ち、ちなみに二人はどこまでいってるの?」
「どこ…? デートなら放課後毎日してるけど…」
「あー、ごめん。聞き方が悪かったね。キスはした?」
「……う、うん」

 他の人にこういう事話すのって意外に恥ずかしい。薫にさえ言えないんだからそれもそうなんだけど、今は相談に乗って貰ってるんだからちゃんと答えないと失礼だ。

「じゃあそれ以上は…って聞きたいけど、この様子だとないな」
「?」
「あ、そうだ。ちょっと待ってね」

 何かを聞こうとして、でも一人で完結したらしく、俺の隣にいた子が席を立って鞄をしまっている棚へ向かう。目を瞬いてると、俺の手が取られて手の平にチョコのお菓子が乗せられた。
 くれた子を見るとにこっと笑って「食べて」と言ってくれる。

「デートはお互いが行きたい場所に行ったらいいんだよ。一緒にいるだけで楽しいでしょう?」
「うん、楽しい」
「それに、弟くんはそのままでいいと思うよ?」
「そのまま?」
「うん。今のままで充分神薙くんは癒されてると思うからさ、変に気負わなくていいんだよ」

 そうなのかな。でも俺、本当に何も知らないんだけど。
 そう言われてもまだ不安な俺に、棚から戻ってきた子が一冊の本を差し出してきた。
 
「あったあった。はい」
「?」
「あんたそれ…」
「百聞は一見にしかず。男の子同士なら読んで損はないよ。ただし、帰ってから読んでね」
「う、うん。ありがとう」

 カバーが着いてるから中身は分からないけど、これを読めば俺が分からない事が分かるらしい。帰ったらさっそく読んでみよう。

「あれ、過激なもんじゃないでしょうね」
「そういうシーンないの選んだから大丈夫だと思う」
「でも弟くん、明らか男同士の恋愛初心者っぽいよ?」
「だからこそ勉強になるんでしょ?」
「私、漫画はファンタジーだと思ってる派なんだけど」
「この子の存在自体がファンタジーじゃない」
「それは言えてる」

 何やらヒソヒソ話し始めたけど、周防くんの姿が見えた俺は慌てて立ち上がり四人にお礼を言って椅子を戻す。これも鞄にしまおうと棚に向かおうとしたら、一人の子に「ねぇ」と声をかけられた。

「湊くんって呼んでいい?」
「俺の名前、覚えててくれたの?」
「え、もちろん。クラスメイトだもん。ダメ?」
「ううん、呼んで貰えるの嬉しい。ありがとう」

 弟くんが定着してたから苗字以外覚えて貰えてないと思ってただけに驚いた。でも嬉しくて笑顔で答えると同じように笑い返してくれて、俺は心がポカポカしたまま鞄に借りたものをしまい周防くんのところへ走って行った。

「何あの子~…可愛すぎるんだけど…」
「まさに純粋培養。今時あんな子いるんだ」
「萌え死ぬかと思った」
「こんな事ならもっと早く仲良くなっとくんだったなー」
「でもさ、あの子ってほとんどの人から〝弟くん〟って呼ばれてるよね。お姉ちゃんの印象が強いからって言うのもあるけど……名前呼ばれて嬉しいって事は、やっぱり本人は嫌だったんだろうなぁ」
「私たちだけでもちゃんと呼んであげようね」

 そんな話がされていた事など知らない俺は、教室なのにぎゅーぎゅーと抱き締めてくる周防くんにどうしたらいいのか分からなくてされるがままになってた。



 いつものように周防くんとデートをして帰宅した俺は、自分の部屋で今日借りた漫画を読んでた。中身は男の子同士の恋愛がテーマらしく、まさに俺にはうってつけの話で驚く。
 こういうジャンルの漫画があるんだね。
 主人公の悩みが俺と同じで、ところどころの心境とか凄く共感出来るから途中から夢中になってて…好きな人の為にいろいろ頑張ってる姿を見て俺にもやる気が満ちてきた。
 周防くんの事を想って行動するだけでもいいんだって、この漫画は教えてくれたから。

 ……こういう漫画、お願いしたらまた貸してくれるかな?
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