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不愉快な着信(周防視点)
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紆余曲折ありつつも湊と正式に付き合い始めて一ヶ月半。あっという間に季節も秋に移り変わり始めた今日この頃、俺は少しだけ困った状況に頭を悩ませていた。いや、困ったというか、嬉しすぎてどうしたらいいか戸惑ってるっつーか。
「あ、周防くん。おはよう」
朝、薫と幼馴染み野郎と登校して来た湊が、昇降口で俺を見付けるなりパッと笑顔になって駆け寄って来た。周りの視線なんて何のその、その勢いのままに抱き着いて胸元に頬を寄せてくる。
これが、俺が今一番どうしたらいいか悩んでいる事だ。主に俺の理性的な意味で。
「朝メッセージ送ったの気付いた?」
「気付いた。卵焼き上手くなったな」
「頑張ったよ」
「いい子いい子」
柔らかな髪を撫でると嬉しそうに見上げてくる顔が堪らない。
俺といる時だけでも湊のしたい事をして欲しいと思って何でも受け入れていたら、いつの間にか湊は俺限定で甘えるようになった。これまでの事があるからそうなれたのはいい事なんだけど、それがまぁ俺の理性をグラグラと揺さぶってくる。
とにかく可愛くて仕方がない。
最初のぎこちない時から既に可愛さが完成していたのに、完全に俺を信用して身体を預けて甘えてくれるって彼氏冥利に尽きると思わねぇ?
こうして毎日、俺を見付けるたびに満面の笑顔で抱き着いてくるんだぞ。ホント俺、良く耐えてる。
「周防くん?」
「ん?」
「…何でもない」
「何だそりゃ」
上目遣いクソ可愛いな。ホント、悠介に奪られなくて良かった。
カタンと音がして視線を上げると、件の幼馴染み野郎がいて俺を睨み付けてから自分のクラスの下駄箱へ向かう。睨まれたところで何とも思わねぇし、湊を手放すつもりなんかサラサラねぇよ。
薫は薫で、湊のこんな姿見りゃもう何も言うことねぇのか、最近はこうしてくっついてても突っかかって来る事はなくなった。
何だかんだ、弟が幸せならいいって思う辺り姉ちゃんだよな。
「ほら、教室行くぞ」
「うん」
まだ抱き着いている湊の頭を撫でて促せば何とも名残惜しそうに離れて上靴に履き替える。そんな顔されると、このまま学校なんかサボって家に連れ込んでずっと抱き締めたくなるだろ…そんな事しようもんなら即薫がすっ飛んで来て怒るからしねぇけど。
先に上靴を履いた湊が俺を待つのも常になりつつある。並んで教室に向かう俺たちに周りはまだヒソヒソしてるけど、それを睨み付けて黙らせてから湊の肩を抱き寄せた。
最近の昼休みは屋上前の踊り場で飯を食うのが当たり前になって来てる。ここは基本的に誰も来ねぇし、元々俺がサボりに使ってた場所だから普通の奴は近付こうともしないからな。
だから、湊と何をしても誰かに見られる心配はない。
「……湊、口開けて」
「…ッ、ん…んん…っ」
昼飯を食べたあと、湊を膝に座らせた俺は小さくて柔らかい唇を堪能していた。俺の言葉通り薄く開いた隙間から舌を差し込みぎこちなく動く舌を絡め取って吸えば小さな身体が跳ねる。
意外にも湊はキスが好きらしくこれに関してはねだられる事も多くて、純真無垢な子がイケナイ事を覚えたようでちょっと興奮するのは仕方ない。
でも初めてうちに泊まった日以降、身体的触れ合いはほとんどして来なかった。何と言っても湊が何も知らなさ過ぎて、逆に手を出すのが躊躇われるっつーか…箱入りにするにもほどがあるだろって話。
「…は…ぅ…周防く…」
「…苦しい?」
「だいじょ、ぶ…」
真っ赤な顔で忙しなく呼吸してるのに小さく首を振る湊の頬に触れ、滑らかな肌を親指で撫でる。僅かに潤んだ目が俺を見て、ふにゃりと気の抜けた笑顔を浮かべるものだからガラにもなくきゅんとした。
いちいち可愛いんだよな。
「もうすぐ予鈴鳴るし、これ以上はやめとこうな」
「…ん……」
「そんな残念そうな顔すんなって。いつでも出来るだろ? それに、時間置かないと湊の顔戻んないし」
「ぅ…」
柔らかな頬をムニムニと抓みながら揶揄うように言えば恥ずかしいのか更に赤くなる。この、如何にも何かしてましたっていう蕩けた顔は俺だけの特権だからな。他の奴らには絶対見せたくない。
首に腕を回しててくる湊の背中を撫でていると、滅多に鳴らないスマホが唐突に機械的な着信音を鳴らした。跳ね上がるほど驚いた湊を宥めて確認し眉を顰める。
「……」
「? 出なくていいの?」
「いい。今更話す事なんかないし」
鳴ったままなのも鬱陶しい為切ボタンをスライドして切りそのままサイレントモードにする。
湊は気にしてたようだけど、何も言わずに体勢を変えて横向きに座ると寄りかかってきた。頬に髪が当たって擽ったい。
「また周防くんのお家に泊まりたいな」
「好きな時に来たらいいよ」
「でもまだ道覚えられてない」
「じゃあ今日来るか?」
「行きたいけど、帰りたくなくなるから…」
あからさまにしゅんとしてそんな事を素直に言う湊に、どうしようもない愛しさを感じ強く抱き締める。
何でこう、俺のツボを突くような可愛い事言うかな。これが薫の過保護の賜物だってのは悔しいが、今は感謝しかない。逆に今度は俺が薫の比じゃねぇくらい過保護になりそうだけど、こんだけ純粋で素直なら守ってやるのが当然だろって気になる。
このまんま、何も知らねぇままでいて欲しいってのも俺の我儘ではあるけど。
「放課後、どこ行きたいか決めとけよ」
「えっと…うん、頑張る」
「行きたいとこ決めるのを頑張るのか」
でも今は、湊がやりたい事をやらせてやるのが優先だからな。ここ行きたいとかあそこ行きたいとか、あれ食べたいこれ食べたいとか、薫に遠慮して言えなかった事何でも言って欲しい。
俺は腕にすっぽりと収まる小動物みたいな可愛い恋人を抱き締め、その髪に頬を寄せて吐息だけで笑った。
あの日から毎日スマホが鳴ってる。 着信画面に表示される名前は名目上の〝母親〟で俺は舌打ちをしてソファに放り投げた。着信拒否にしないのはあとが面倒だからだか、出る訳ねぇんだからいい加減諦めればいいのに。
俺が親として慕って、敬愛してるのはばあちゃんだけだ。諸々の金は出してくれたのかもしんねぇけど、親としての愛情をくれたのはばあちゃんだ。アイツらは親でもなんでもない。
優しいばあちゃんは俺の将来を案じてか、通帳をこっそり作り、少しずつ身の回りのものを換金しては入金してくれていたらしく、亡くなる前に渡された通帳には驚くほどの金額が入ってた。だからこそ親に頼らず湊と同じ高校に行けたんだけど、アイツら─特に父親が、親だから管理する権利があるっつって俺の通帳を取り上げようとしやがって……それにブチ切れて家を出た俺の心の支えは湊だけだった。
もう一度会いたい、話したい。そんな気持ちばかりが溢れて止まらなかったのに、実際は話し掛ける事すら儘ならなくて。
今は恋人だし、湊も俺を好きだって言ってくれるから幸せしかねぇんだけど。
「会いてぇな…」
週末のたった二日だけなのに、会えないと切なくなる。特に今は執拗く連絡してくる母親の事もあり、湊だけが俺を癒してくれる存在だから声が聞けないのも辛い。
湊は今、父方の親戚の家に行っているらしく、つい一時間ほど前に『周防くんといる方が楽しい』ってメッセージが届いてた。それに『俺もだよ』って返したら泣いてるカバのスタンプが送られて来て思わず吹き出す。スタンプの絵柄のチョイスよ。
でもホントすげぇよな。文字だけでも俺の心を温かくしてくれんだから、湊の存在ってマジで偉大だわ。
「月曜日はたくさん甘やかしてやんねぇと」
どうせあっちでは薫に押されて言いたい事の半分も言えてねぇんだろうし、メッセージの様子だと親戚とはいえ馴染めてねぇみたいだしな。
着信の止んだスマホを取り画面を点けてロック画面を見る。そこには、この間泊まりに来た時に撮った湊の寝顔が表示されていて知らずに口元が緩んだ。
湊はどうも何かを掴んで寝る癖があるらしく、この時も俺の服を握って離さなかった。どうにかこうにか布団と入れ替えてベッドから抜け出したらそのまま布団に抱き着いて寝始めて。それがまぁ可愛くて思わず撮っちまったんだけど、ロック画面だし本人に見られねぇようにしねぇと。
そんな事を思ってるとまた母親から電話がかかってきて溜め息をつく。すぐに切ボタンを押してベッドに投げ付けた。
「早くくたばってくんねーかな」
何にせよろくな話じゃないはずだ。
せっかく湊で落ち着いたのにまたイライラが襲ってきて、おおよそ血の繋がった親へ向けるべきではない言葉が零れ出た。
親とは欠片も思ってねぇけど。
目を閉じて湊の笑顔を思い浮かべて嫌な気持ちを追い払った俺は、早く休みが終わればいいのにと愚痴を零しながらソファに寝転んだ。
「あ、周防くん。おはよう」
朝、薫と幼馴染み野郎と登校して来た湊が、昇降口で俺を見付けるなりパッと笑顔になって駆け寄って来た。周りの視線なんて何のその、その勢いのままに抱き着いて胸元に頬を寄せてくる。
これが、俺が今一番どうしたらいいか悩んでいる事だ。主に俺の理性的な意味で。
「朝メッセージ送ったの気付いた?」
「気付いた。卵焼き上手くなったな」
「頑張ったよ」
「いい子いい子」
柔らかな髪を撫でると嬉しそうに見上げてくる顔が堪らない。
俺といる時だけでも湊のしたい事をして欲しいと思って何でも受け入れていたら、いつの間にか湊は俺限定で甘えるようになった。これまでの事があるからそうなれたのはいい事なんだけど、それがまぁ俺の理性をグラグラと揺さぶってくる。
とにかく可愛くて仕方がない。
最初のぎこちない時から既に可愛さが完成していたのに、完全に俺を信用して身体を預けて甘えてくれるって彼氏冥利に尽きると思わねぇ?
こうして毎日、俺を見付けるたびに満面の笑顔で抱き着いてくるんだぞ。ホント俺、良く耐えてる。
「周防くん?」
「ん?」
「…何でもない」
「何だそりゃ」
上目遣いクソ可愛いな。ホント、悠介に奪られなくて良かった。
カタンと音がして視線を上げると、件の幼馴染み野郎がいて俺を睨み付けてから自分のクラスの下駄箱へ向かう。睨まれたところで何とも思わねぇし、湊を手放すつもりなんかサラサラねぇよ。
薫は薫で、湊のこんな姿見りゃもう何も言うことねぇのか、最近はこうしてくっついてても突っかかって来る事はなくなった。
何だかんだ、弟が幸せならいいって思う辺り姉ちゃんだよな。
「ほら、教室行くぞ」
「うん」
まだ抱き着いている湊の頭を撫でて促せば何とも名残惜しそうに離れて上靴に履き替える。そんな顔されると、このまま学校なんかサボって家に連れ込んでずっと抱き締めたくなるだろ…そんな事しようもんなら即薫がすっ飛んで来て怒るからしねぇけど。
先に上靴を履いた湊が俺を待つのも常になりつつある。並んで教室に向かう俺たちに周りはまだヒソヒソしてるけど、それを睨み付けて黙らせてから湊の肩を抱き寄せた。
最近の昼休みは屋上前の踊り場で飯を食うのが当たり前になって来てる。ここは基本的に誰も来ねぇし、元々俺がサボりに使ってた場所だから普通の奴は近付こうともしないからな。
だから、湊と何をしても誰かに見られる心配はない。
「……湊、口開けて」
「…ッ、ん…んん…っ」
昼飯を食べたあと、湊を膝に座らせた俺は小さくて柔らかい唇を堪能していた。俺の言葉通り薄く開いた隙間から舌を差し込みぎこちなく動く舌を絡め取って吸えば小さな身体が跳ねる。
意外にも湊はキスが好きらしくこれに関してはねだられる事も多くて、純真無垢な子がイケナイ事を覚えたようでちょっと興奮するのは仕方ない。
でも初めてうちに泊まった日以降、身体的触れ合いはほとんどして来なかった。何と言っても湊が何も知らなさ過ぎて、逆に手を出すのが躊躇われるっつーか…箱入りにするにもほどがあるだろって話。
「…は…ぅ…周防く…」
「…苦しい?」
「だいじょ、ぶ…」
真っ赤な顔で忙しなく呼吸してるのに小さく首を振る湊の頬に触れ、滑らかな肌を親指で撫でる。僅かに潤んだ目が俺を見て、ふにゃりと気の抜けた笑顔を浮かべるものだからガラにもなくきゅんとした。
いちいち可愛いんだよな。
「もうすぐ予鈴鳴るし、これ以上はやめとこうな」
「…ん……」
「そんな残念そうな顔すんなって。いつでも出来るだろ? それに、時間置かないと湊の顔戻んないし」
「ぅ…」
柔らかな頬をムニムニと抓みながら揶揄うように言えば恥ずかしいのか更に赤くなる。この、如何にも何かしてましたっていう蕩けた顔は俺だけの特権だからな。他の奴らには絶対見せたくない。
首に腕を回しててくる湊の背中を撫でていると、滅多に鳴らないスマホが唐突に機械的な着信音を鳴らした。跳ね上がるほど驚いた湊を宥めて確認し眉を顰める。
「……」
「? 出なくていいの?」
「いい。今更話す事なんかないし」
鳴ったままなのも鬱陶しい為切ボタンをスライドして切りそのままサイレントモードにする。
湊は気にしてたようだけど、何も言わずに体勢を変えて横向きに座ると寄りかかってきた。頬に髪が当たって擽ったい。
「また周防くんのお家に泊まりたいな」
「好きな時に来たらいいよ」
「でもまだ道覚えられてない」
「じゃあ今日来るか?」
「行きたいけど、帰りたくなくなるから…」
あからさまにしゅんとしてそんな事を素直に言う湊に、どうしようもない愛しさを感じ強く抱き締める。
何でこう、俺のツボを突くような可愛い事言うかな。これが薫の過保護の賜物だってのは悔しいが、今は感謝しかない。逆に今度は俺が薫の比じゃねぇくらい過保護になりそうだけど、こんだけ純粋で素直なら守ってやるのが当然だろって気になる。
このまんま、何も知らねぇままでいて欲しいってのも俺の我儘ではあるけど。
「放課後、どこ行きたいか決めとけよ」
「えっと…うん、頑張る」
「行きたいとこ決めるのを頑張るのか」
でも今は、湊がやりたい事をやらせてやるのが優先だからな。ここ行きたいとかあそこ行きたいとか、あれ食べたいこれ食べたいとか、薫に遠慮して言えなかった事何でも言って欲しい。
俺は腕にすっぽりと収まる小動物みたいな可愛い恋人を抱き締め、その髪に頬を寄せて吐息だけで笑った。
あの日から毎日スマホが鳴ってる。 着信画面に表示される名前は名目上の〝母親〟で俺は舌打ちをしてソファに放り投げた。着信拒否にしないのはあとが面倒だからだか、出る訳ねぇんだからいい加減諦めればいいのに。
俺が親として慕って、敬愛してるのはばあちゃんだけだ。諸々の金は出してくれたのかもしんねぇけど、親としての愛情をくれたのはばあちゃんだ。アイツらは親でもなんでもない。
優しいばあちゃんは俺の将来を案じてか、通帳をこっそり作り、少しずつ身の回りのものを換金しては入金してくれていたらしく、亡くなる前に渡された通帳には驚くほどの金額が入ってた。だからこそ親に頼らず湊と同じ高校に行けたんだけど、アイツら─特に父親が、親だから管理する権利があるっつって俺の通帳を取り上げようとしやがって……それにブチ切れて家を出た俺の心の支えは湊だけだった。
もう一度会いたい、話したい。そんな気持ちばかりが溢れて止まらなかったのに、実際は話し掛ける事すら儘ならなくて。
今は恋人だし、湊も俺を好きだって言ってくれるから幸せしかねぇんだけど。
「会いてぇな…」
週末のたった二日だけなのに、会えないと切なくなる。特に今は執拗く連絡してくる母親の事もあり、湊だけが俺を癒してくれる存在だから声が聞けないのも辛い。
湊は今、父方の親戚の家に行っているらしく、つい一時間ほど前に『周防くんといる方が楽しい』ってメッセージが届いてた。それに『俺もだよ』って返したら泣いてるカバのスタンプが送られて来て思わず吹き出す。スタンプの絵柄のチョイスよ。
でもホントすげぇよな。文字だけでも俺の心を温かくしてくれんだから、湊の存在ってマジで偉大だわ。
「月曜日はたくさん甘やかしてやんねぇと」
どうせあっちでは薫に押されて言いたい事の半分も言えてねぇんだろうし、メッセージの様子だと親戚とはいえ馴染めてねぇみたいだしな。
着信の止んだスマホを取り画面を点けてロック画面を見る。そこには、この間泊まりに来た時に撮った湊の寝顔が表示されていて知らずに口元が緩んだ。
湊はどうも何かを掴んで寝る癖があるらしく、この時も俺の服を握って離さなかった。どうにかこうにか布団と入れ替えてベッドから抜け出したらそのまま布団に抱き着いて寝始めて。それがまぁ可愛くて思わず撮っちまったんだけど、ロック画面だし本人に見られねぇようにしねぇと。
そんな事を思ってるとまた母親から電話がかかってきて溜め息をつく。すぐに切ボタンを押してベッドに投げ付けた。
「早くくたばってくんねーかな」
何にせよろくな話じゃないはずだ。
せっかく湊で落ち着いたのにまたイライラが襲ってきて、おおよそ血の繋がった親へ向けるべきではない言葉が零れ出た。
親とは欠片も思ってねぇけど。
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