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お弁当
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悠介に一緒に帰ろうって言われて嬉しいはずなのに、どうしてか周防くんが離れて行く事の方が嫌だった。
『久し振りなんだし、今日は幼馴染みくんと帰んな』
そう言って手を振り図書室を出て行く周防くんの背中を見てどうしようもない寂しさを感じて、急いで荷物を纏めた俺は悠介に挨拶して駆け出してた。
廊下に出た時点で既に遠くにいる周防くんが階段のところで曲がって見えなくなった時、行かないでって思いながら追い掛けて一階まで降りたら周防くんが微笑んで待っててくれて。
その瞬間、俺は気付いた。
いつの間にか、悠介よりも周防くんの事を好きになってた事に。
『何で追い掛けてきてんだよ。せっかく好きな奴と帰れるとこだったのに』
笑いながら俺の頭を少しだけ乱暴に撫でる周防くんはどこか嬉しそうで、俺がその手を掴むと一瞬目を見開き抱き寄せられる。周防くんの匂いに身体中包まれて心臓がきゅってなった。
『俺を選んでくれて嬉しいよ』
優しい声に耳元で囁かれ赤くなった顔を隠すように周防くんの胸元に顔を埋める。
帰りに手を繋いでデートして家まで送って貰って、別れ際におでこにキスされて…自分の気持ちに気付いてからいつものキスと違う感じがする。
俺が好きって言ったら、周防くんはどんな反応をするんだろう。
それからしばらくして週末。ようやく覚悟が出来た俺はいつもより二時間早く起きて、既にキッチンに立っているお母さんに思い切ってお願いしてみた。
「あの、お母さん…俺にお弁当の作り方、教えてくれない?」
「いいわよ、いらっしゃい」
お母さんは少しだけ驚いた顔をしてたけど、すぐにいつもの優しい笑顔になって手招きしてくれる。隣に立つと卵を一つ渡された。
「じゃあまずは卵を割ってみましょうか。ほんの少し力を入れてコンコンって…そう、そうしたらヒビが入ったところに両手の親指を当てて広げるように……あら」
「……」
ヒビを入れるのは上手くいったのに、殻を広げるのを失敗して黄身が潰れた。オマケに小さな殻もいくつか入っちゃったし、卵を割るのって案外難しい。
でもお母さんはささっと殻を取ると、もう一つ新しいのを渡してきた。
「どうせ掻き混ぜちゃうから、潰れても大丈夫。殻が入ったらお母さんが取るから、もう一度やってみて」
「うん」
さっきと同じようにヒビを入れ今度は慎重に割ると、殻の欠片は入ったけど黄身は潰れずにボウルの中で揺れた。
「出来た!」
「上手ね、湊。これに味付けをしたら焼いていきましょうか」
「うん」
お母さんの見様見真似で卵を焼いたりお肉を揚げたり、切った野菜を炒めたりしてどうにかお弁当は完成したけど、やっぱりお母さんが作ったものと比べると物凄く不格好だった。
お母さんは、「初めてにしては上出来よ」なんて言ってくれたけど。
本当は俺が作った方を食べて欲しかったけど、周防くんにはお母さんが作ってくれたお弁当を渡そう。
気付いたら傷だらけになってた指に絆創膏を貼りながら俺はガックリと溜め息をついた。
昼休み。いつものように購買へ行こうとする周防くんを引き止めて屋上前の踊り場に連れて行った俺は、保冷バッグの中から二つのお弁当箱を取り出し一つを差し出した。
目を瞬きつつも受け取ってくれたから手を離そうとしたら掴まれて驚く。
「これ、どした?」
「え? あ、いや、ちょっと紙で切って……」
「両手を? こんなに?」
片方の手も取られ周防くんの顔の前まで持ち上げられる。
本当の事を言うべきかどうか迷っていたらパッと手が離されて、代わりに俺の膝の上に置いてたお弁当が取り上げられた。
「あ、それは…っ」
「……これ」
問答無用とばかりに蓋を開けた周防くんが固まる。
そりゃそうだよね。お世辞にも美味しそうとは言えないくらいいろいろ崩れてる。卵焼きだって上手に巻けなかった上に焦げてるし、アスパラのベーコン巻きもピックの位置おかしくて剥がれかけてるし…唐揚げも揚げすぎてちょっと固いし。
「あの、周防く…」
「もしかして、俺の為に作ってくれた?」
「う……はい……あ、でも、もっと上手になったらちゃんと渡すから、今日はそっちの綺麗な方食べて。俺がこっち食べるから」
「何で? 俺のだろ?」
「え、で、でも…きっと美味しくない…よ…?」
味付けはお母さんに教えて貰ったけど、上手く計れなくて濃くなったり薄くなったりしてる。むしろ焦げの味しかしないかもしれないのに、周防くんはお母さんが作った方のお弁当を俺の膝に乗せた。
「湊が俺の為に、こんな怪我しながらも頑張って作ってくれたもんが美味くない訳がない。すげぇ嬉しいよ。ありがとな、湊」
また手が握られて絆創膏を貼った指先に口付けられる。誰が見たって失敗作だって思うのに、周防くんは嬉しそうな笑顔でそう言ってくれた。
どうしよう、俺の方が嬉しい。
ギュッと握り返したら目を瞬いた周防くんの空いている手が俺の首の後ろに回り引き寄せられる。顔が近付いて、いつもみたいに口の端に唇が触れそうになり目を瞑ったら、俺のポケットに入れてたスマホが震えて飛び上がった。
「あ…え…」
「……チッ」
し、舌打ち。
慌てて取り出すと薫からの着信で、無視しようかとも思ったけどあとで絶対文句言われるから、溜め息をついて仕方なく受話器のマークを押し耳に当てた。
「何?」
『あ、湊? お母さんからのメッセージ見た?』
「え、見てない」
『今日二人とも遅くなるから、外で食べるか出前取るかしてってあったの。だからせっかくだし外で食べない? 部活終わりに落ち合おうよ』
「外で? …うん、いいよ。あ」
本当は家で食べる方が落ち着くし好きなんだけどなと思いながら返事をしていると、手首を掴まれてスマホが外され周防くんの手によってスピーカーがオンにされる。
『じゃあ駅前のファミレスね。家の方が近いし、終わったら連絡する』
「湊は俺と飯食うから」
「え?」
『え! ちょ、神薙くん? 何言って…』
「ちゃんと家まで送るから安心しろ」
『ちょっと…!』
まだ薫が何かを話しているのに、周防くんは容赦なく通話終了のボタンを押して切ると消音モードにして俺に返してきた。受け取ったけど、薫と話してた事を考えるとポケットにしまう手が震える。
「えっと、夜ご飯一緒に食べるの?」
「弁当のお礼させて」
「でも俺、来週からも作ってくるつもりだった…から……」
お礼してたらキリがないって言おうとしたのに、急に周防くんに抱き締められて目を瞬く。
危うく手が当たってお弁当をひっくり返しそうになり、それを避けるように周防くんにしがみつくとこめかみに唇が押し当てられてビクッてなった。
「あ、あの…」
「可愛すぎるって…」
「え?」
「ほんと、見る目ない奴ばっかで良かった」
周防くんの腕が痛いくらいに俺を抱き締めて、ドキドキと煩く鳴ってる心臓の音が聞こえてしまわないか心配になる。このまま好きって言って体重を預けたらどうなるんだろう。
もっとぎゅってしてくれるのかな。
髪を撫でられて反射的に顔を上げると思ったよりも近くに周防くんの顔があってドキッとする。ふっと笑って寄せられるから強めに目を閉じたら額にキスされた。
「さ、飯食うぞ。時間なくなる」
「……う、うん」
口にして欲しかったなんてとてもじゃないけど言えない。
周防くんはまだ、俺が悠介を好きだって思ってるんだよね。タイミングが掴めなくて言えてない俺が悪いし、周防くんなりの優しさだっていうのは分かるから文句なんてない。
「湊」
「あ、な、何?」
「やっぱ美味いよ」
ぐるぐる考えてると不意に呼ばれて顔を上げる。周防くんは焦げてる卵焼きを箸で持ち上げてにこっと笑いながらそう言ってくれた。
絶対美味しくないはずなのに、焦げた味しかしないと思うのに、本当に周防くんは優しい。
「ありがとう」
決めた。俺、今日中に周防くんに気持ちを伝える。家まで送ってくれるって言ってたから、その時絶対言う。
一人気合いを入れた俺は、嫌な顔一つせず俺の不格好なお弁当を食べてくれる周防くんに心が暖かくなるのを感じながら、お母さん作の綺麗なお弁当を食べ始めた。
『久し振りなんだし、今日は幼馴染みくんと帰んな』
そう言って手を振り図書室を出て行く周防くんの背中を見てどうしようもない寂しさを感じて、急いで荷物を纏めた俺は悠介に挨拶して駆け出してた。
廊下に出た時点で既に遠くにいる周防くんが階段のところで曲がって見えなくなった時、行かないでって思いながら追い掛けて一階まで降りたら周防くんが微笑んで待っててくれて。
その瞬間、俺は気付いた。
いつの間にか、悠介よりも周防くんの事を好きになってた事に。
『何で追い掛けてきてんだよ。せっかく好きな奴と帰れるとこだったのに』
笑いながら俺の頭を少しだけ乱暴に撫でる周防くんはどこか嬉しそうで、俺がその手を掴むと一瞬目を見開き抱き寄せられる。周防くんの匂いに身体中包まれて心臓がきゅってなった。
『俺を選んでくれて嬉しいよ』
優しい声に耳元で囁かれ赤くなった顔を隠すように周防くんの胸元に顔を埋める。
帰りに手を繋いでデートして家まで送って貰って、別れ際におでこにキスされて…自分の気持ちに気付いてからいつものキスと違う感じがする。
俺が好きって言ったら、周防くんはどんな反応をするんだろう。
それからしばらくして週末。ようやく覚悟が出来た俺はいつもより二時間早く起きて、既にキッチンに立っているお母さんに思い切ってお願いしてみた。
「あの、お母さん…俺にお弁当の作り方、教えてくれない?」
「いいわよ、いらっしゃい」
お母さんは少しだけ驚いた顔をしてたけど、すぐにいつもの優しい笑顔になって手招きしてくれる。隣に立つと卵を一つ渡された。
「じゃあまずは卵を割ってみましょうか。ほんの少し力を入れてコンコンって…そう、そうしたらヒビが入ったところに両手の親指を当てて広げるように……あら」
「……」
ヒビを入れるのは上手くいったのに、殻を広げるのを失敗して黄身が潰れた。オマケに小さな殻もいくつか入っちゃったし、卵を割るのって案外難しい。
でもお母さんはささっと殻を取ると、もう一つ新しいのを渡してきた。
「どうせ掻き混ぜちゃうから、潰れても大丈夫。殻が入ったらお母さんが取るから、もう一度やってみて」
「うん」
さっきと同じようにヒビを入れ今度は慎重に割ると、殻の欠片は入ったけど黄身は潰れずにボウルの中で揺れた。
「出来た!」
「上手ね、湊。これに味付けをしたら焼いていきましょうか」
「うん」
お母さんの見様見真似で卵を焼いたりお肉を揚げたり、切った野菜を炒めたりしてどうにかお弁当は完成したけど、やっぱりお母さんが作ったものと比べると物凄く不格好だった。
お母さんは、「初めてにしては上出来よ」なんて言ってくれたけど。
本当は俺が作った方を食べて欲しかったけど、周防くんにはお母さんが作ってくれたお弁当を渡そう。
気付いたら傷だらけになってた指に絆創膏を貼りながら俺はガックリと溜め息をついた。
昼休み。いつものように購買へ行こうとする周防くんを引き止めて屋上前の踊り場に連れて行った俺は、保冷バッグの中から二つのお弁当箱を取り出し一つを差し出した。
目を瞬きつつも受け取ってくれたから手を離そうとしたら掴まれて驚く。
「これ、どした?」
「え? あ、いや、ちょっと紙で切って……」
「両手を? こんなに?」
片方の手も取られ周防くんの顔の前まで持ち上げられる。
本当の事を言うべきかどうか迷っていたらパッと手が離されて、代わりに俺の膝の上に置いてたお弁当が取り上げられた。
「あ、それは…っ」
「……これ」
問答無用とばかりに蓋を開けた周防くんが固まる。
そりゃそうだよね。お世辞にも美味しそうとは言えないくらいいろいろ崩れてる。卵焼きだって上手に巻けなかった上に焦げてるし、アスパラのベーコン巻きもピックの位置おかしくて剥がれかけてるし…唐揚げも揚げすぎてちょっと固いし。
「あの、周防く…」
「もしかして、俺の為に作ってくれた?」
「う……はい……あ、でも、もっと上手になったらちゃんと渡すから、今日はそっちの綺麗な方食べて。俺がこっち食べるから」
「何で? 俺のだろ?」
「え、で、でも…きっと美味しくない…よ…?」
味付けはお母さんに教えて貰ったけど、上手く計れなくて濃くなったり薄くなったりしてる。むしろ焦げの味しかしないかもしれないのに、周防くんはお母さんが作った方のお弁当を俺の膝に乗せた。
「湊が俺の為に、こんな怪我しながらも頑張って作ってくれたもんが美味くない訳がない。すげぇ嬉しいよ。ありがとな、湊」
また手が握られて絆創膏を貼った指先に口付けられる。誰が見たって失敗作だって思うのに、周防くんは嬉しそうな笑顔でそう言ってくれた。
どうしよう、俺の方が嬉しい。
ギュッと握り返したら目を瞬いた周防くんの空いている手が俺の首の後ろに回り引き寄せられる。顔が近付いて、いつもみたいに口の端に唇が触れそうになり目を瞑ったら、俺のポケットに入れてたスマホが震えて飛び上がった。
「あ…え…」
「……チッ」
し、舌打ち。
慌てて取り出すと薫からの着信で、無視しようかとも思ったけどあとで絶対文句言われるから、溜め息をついて仕方なく受話器のマークを押し耳に当てた。
「何?」
『あ、湊? お母さんからのメッセージ見た?』
「え、見てない」
『今日二人とも遅くなるから、外で食べるか出前取るかしてってあったの。だからせっかくだし外で食べない? 部活終わりに落ち合おうよ』
「外で? …うん、いいよ。あ」
本当は家で食べる方が落ち着くし好きなんだけどなと思いながら返事をしていると、手首を掴まれてスマホが外され周防くんの手によってスピーカーがオンにされる。
『じゃあ駅前のファミレスね。家の方が近いし、終わったら連絡する』
「湊は俺と飯食うから」
「え?」
『え! ちょ、神薙くん? 何言って…』
「ちゃんと家まで送るから安心しろ」
『ちょっと…!』
まだ薫が何かを話しているのに、周防くんは容赦なく通話終了のボタンを押して切ると消音モードにして俺に返してきた。受け取ったけど、薫と話してた事を考えるとポケットにしまう手が震える。
「えっと、夜ご飯一緒に食べるの?」
「弁当のお礼させて」
「でも俺、来週からも作ってくるつもりだった…から……」
お礼してたらキリがないって言おうとしたのに、急に周防くんに抱き締められて目を瞬く。
危うく手が当たってお弁当をひっくり返しそうになり、それを避けるように周防くんにしがみつくとこめかみに唇が押し当てられてビクッてなった。
「あ、あの…」
「可愛すぎるって…」
「え?」
「ほんと、見る目ない奴ばっかで良かった」
周防くんの腕が痛いくらいに俺を抱き締めて、ドキドキと煩く鳴ってる心臓の音が聞こえてしまわないか心配になる。このまま好きって言って体重を預けたらどうなるんだろう。
もっとぎゅってしてくれるのかな。
髪を撫でられて反射的に顔を上げると思ったよりも近くに周防くんの顔があってドキッとする。ふっと笑って寄せられるから強めに目を閉じたら額にキスされた。
「さ、飯食うぞ。時間なくなる」
「……う、うん」
口にして欲しかったなんてとてもじゃないけど言えない。
周防くんはまだ、俺が悠介を好きだって思ってるんだよね。タイミングが掴めなくて言えてない俺が悪いし、周防くんなりの優しさだっていうのは分かるから文句なんてない。
「湊」
「あ、な、何?」
「やっぱ美味いよ」
ぐるぐる考えてると不意に呼ばれて顔を上げる。周防くんは焦げてる卵焼きを箸で持ち上げてにこっと笑いながらそう言ってくれた。
絶対美味しくないはずなのに、焦げた味しかしないと思うのに、本当に周防くんは優しい。
「ありがとう」
決めた。俺、今日中に周防くんに気持ちを伝える。家まで送ってくれるって言ってたから、その時絶対言う。
一人気合いを入れた俺は、嫌な顔一つせず俺の不格好なお弁当を食べてくれる周防くんに心が暖かくなるのを感じながら、お母さん作の綺麗なお弁当を食べ始めた。
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