184 / 221
第182話 NAGI
しおりを挟む
その日は『外』から来た人間が村長さんの家を訪ねてきていた。僕はよく分からずいつも通り仕事をする。
お昼になって、畑のそばに座ってタキとフロルとリサさんと四人で昼食をとっていた。
「タキ、だーいすきー!」
フロルがタキに抱きつく。タキはフロルを押しのけようとしてるけどびくともしない。
「いーたーいー」
「や!」
「ああ、もう! 可愛すぎ! フロルちゃんの愛情表現って大胆ね」
「愛情表現?」
「ええ。これはフロルちゃんの好き好き攻撃っていう愛情表現よ」
「へぇー、そうなんだ。タキ、良かったね」
「よーくーなーいー!」
恥ずかしがるタキも、それでも抱きつくフロルも、二人ともすごく可愛い。自然と笑顔になる。
でも、僕は普段もできるだけ笑顔でいるようにした。すると、自然と言葉が出やすくなったから。
「愛情表現かぁ。僕がタキやフロルを抱っこするのも?」
「ええ。それもナギくんの、可愛い大好きハグーっていう愛情表現よ」
「あはは、何それ」
「ふふ、いい名前でしょ?」
愛情表現。両親の姿が頭に浮かんだ。あれも……きっと愛情表現だったんだ。そうぼんやりと考えていた。
「ナギくん? どうしたの?」
「え? あ、ううん。そろそろ仕事しようかな。今日はみんなが手伝ってくれたから早く終わりそうだよ」
僕はありがとうと言ってタキとフロルを抱きしめた。僕なりの愛情表現。
その日、家に帰ると、外から来た人達がまだいた。僕は玄関に立ち尽くしたままその大人達を見た。灰色のコートを着て帽子を被った男の人が二人。
「ナギ、来なさい」
祖父が僕を呼ぶ。僕はすぐに駆け寄った。
「お前はこれから首都に行くんだ。村を出ろ」
「…………」
うん、とは答えなかった。だけど、祖父の言いつけに首を振った事がない僕が、答えようが答えまいが祖父には関係なかった。話はどんどん進められ、すでにまとめてあった荷物を渡された。
「…………」
その人達は、とある騎士の名家に仕える人達だった。その人達は父の知り合いで、そこで働いていた父を探しに来ていた。父の死を話し、祖父は、息子である僕を代わりに奉公に出すという話をその人達にした。
「お前なんかが騎士に仕えられるんだ。光栄に思え」
祖父は僕の背中を押して家から出した。
「…………」
「さあ、出ていけ」
「…………」
「いいか? 二度と帰って来るな」
「おじいちゃん」
そう言った瞬間、祖父の平手打ちが飛んで来た。
「そう呼ぶなと何度も言ったはずだ」
頬がすごく熱くて痛くて、なのに、涙も出ない。頭が追いつかない。
「さっさと連れて行ってくれ」
祖父はもう僕の方を見なかった。男の人達は僕の手を引いて村を出た。馬に乗り、港を目指す。
初めて見る村の外の事とか、魔物に会うかもしれないという事とか、全部どうでも良かった。
完全に何も考える事ができなくなってた。
こうして、僕はクロッカスを去った。
「あの時はね、本当にびっくりしたなぁ」
「…………」
僕は、『リサ』に話しかける。前に僕が貸してあげたあのぶかぶかの真っ白なカーディガンを着て、カーディガンの中はフロルが作った真っ白なワンピース。
そして、その手にはあの朝焼け色のベストが握られていた。
ベッドの上で小さく膝を抱えるリサ。
僕は隣に座って話し続ける。
約束したから。ちゃんと話すって。
あのアンジュの話をした日から二ヶ月。
僕達は今、『アクアマリン』にいた。
ほとんど、人のいなくなったアクアマリンに。
「それでね」
リサは頷く。
じっと僕の話を真剣に聞いてくれていた。
僕は、話し続ける。
言葉をまったく話さなくなったリサに。
お昼になって、畑のそばに座ってタキとフロルとリサさんと四人で昼食をとっていた。
「タキ、だーいすきー!」
フロルがタキに抱きつく。タキはフロルを押しのけようとしてるけどびくともしない。
「いーたーいー」
「や!」
「ああ、もう! 可愛すぎ! フロルちゃんの愛情表現って大胆ね」
「愛情表現?」
「ええ。これはフロルちゃんの好き好き攻撃っていう愛情表現よ」
「へぇー、そうなんだ。タキ、良かったね」
「よーくーなーいー!」
恥ずかしがるタキも、それでも抱きつくフロルも、二人ともすごく可愛い。自然と笑顔になる。
でも、僕は普段もできるだけ笑顔でいるようにした。すると、自然と言葉が出やすくなったから。
「愛情表現かぁ。僕がタキやフロルを抱っこするのも?」
「ええ。それもナギくんの、可愛い大好きハグーっていう愛情表現よ」
「あはは、何それ」
「ふふ、いい名前でしょ?」
愛情表現。両親の姿が頭に浮かんだ。あれも……きっと愛情表現だったんだ。そうぼんやりと考えていた。
「ナギくん? どうしたの?」
「え? あ、ううん。そろそろ仕事しようかな。今日はみんなが手伝ってくれたから早く終わりそうだよ」
僕はありがとうと言ってタキとフロルを抱きしめた。僕なりの愛情表現。
その日、家に帰ると、外から来た人達がまだいた。僕は玄関に立ち尽くしたままその大人達を見た。灰色のコートを着て帽子を被った男の人が二人。
「ナギ、来なさい」
祖父が僕を呼ぶ。僕はすぐに駆け寄った。
「お前はこれから首都に行くんだ。村を出ろ」
「…………」
うん、とは答えなかった。だけど、祖父の言いつけに首を振った事がない僕が、答えようが答えまいが祖父には関係なかった。話はどんどん進められ、すでにまとめてあった荷物を渡された。
「…………」
その人達は、とある騎士の名家に仕える人達だった。その人達は父の知り合いで、そこで働いていた父を探しに来ていた。父の死を話し、祖父は、息子である僕を代わりに奉公に出すという話をその人達にした。
「お前なんかが騎士に仕えられるんだ。光栄に思え」
祖父は僕の背中を押して家から出した。
「…………」
「さあ、出ていけ」
「…………」
「いいか? 二度と帰って来るな」
「おじいちゃん」
そう言った瞬間、祖父の平手打ちが飛んで来た。
「そう呼ぶなと何度も言ったはずだ」
頬がすごく熱くて痛くて、なのに、涙も出ない。頭が追いつかない。
「さっさと連れて行ってくれ」
祖父はもう僕の方を見なかった。男の人達は僕の手を引いて村を出た。馬に乗り、港を目指す。
初めて見る村の外の事とか、魔物に会うかもしれないという事とか、全部どうでも良かった。
完全に何も考える事ができなくなってた。
こうして、僕はクロッカスを去った。
「あの時はね、本当にびっくりしたなぁ」
「…………」
僕は、『リサ』に話しかける。前に僕が貸してあげたあのぶかぶかの真っ白なカーディガンを着て、カーディガンの中はフロルが作った真っ白なワンピース。
そして、その手にはあの朝焼け色のベストが握られていた。
ベッドの上で小さく膝を抱えるリサ。
僕は隣に座って話し続ける。
約束したから。ちゃんと話すって。
あのアンジュの話をした日から二ヶ月。
僕達は今、『アクアマリン』にいた。
ほとんど、人のいなくなったアクアマリンに。
「それでね」
リサは頷く。
じっと僕の話を真剣に聞いてくれていた。
僕は、話し続ける。
言葉をまったく話さなくなったリサに。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる