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第147話 語り部
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魔物のほとんどは人の姿を残していました。
いつだったかどこかで見たような人魚のようなもの。そして背中から竜のような翼を生やしたもの。さらに、腕だけが異様に大きく変化したもの。
みながみな、人であった事にしがみつくように。
人だと主張するかのように、その両目だけをそのまましっかりと見開いてこちらへ向かって来ました。
「リサちゃんは一人倒せれば上出来かもね」
カモメは微動だにせず呑気にその光景を眺めます。
「……魔物?」
リサは思わず疑問形でそう言いました。何故なら、リサがこれまで見てきた魔物の姿とはかけ離れていたからです。リサの見てきた魔物は、獣にしか見えないもの、さらには植物そのもの。人の面影のある魔物なんていませんでした。
「お城で話は聞いてたでしょ? 人から魔物が現れた話。ぼくが思うには……と、話してる暇ないかも」
説明をしようとしたカモメは、邪魔が入ったことに落胆して首を横に振ります。
「すーっごくお喋りしたい気分なのに。また後でね。リサちゃんはそこから動かずに迎え撃って!」
カモメはそう言って、スピードを上げて魔物達の中へ走っていきました。
「ベル!」
魔物達は一斉にカモメに襲いかかります。
まず飛び込んで来た大きな魔物の腕。しかし、カモメはそれをヒラリとかわして、その腕を台にして大きくジャンプしました。
空中でクルリと回り、すぐに追って羽ばたこうとした羽を持つ魔物の上に着地します。再び腕を振り上げた魔物は、カモメを捕らえる為にその羽の魔物ごとなぎ払いました。
「ベル!」
「カモメ!」
床にべしゃりと落ちる魔物。羽も体も曲がり、倒れたままピクピクと動いています。
そこにカモメの姿はなく、駆け寄ろうとしたリサの足が止まりました。
完全にカモメの姿を見失った魔物達が、そんなリサの方を見た時。突然、人魚の体がくの字に曲がりました。
姿勢を低くし床に片手をついて放たれたカモメの蹴りが、背後から人魚のような魔物の脇腹に叩きつけられたのです。
カモメはそのまま手に力を入れて回るようにして真っ直ぐ立ちました。
大きな腕の魔物は、ヘラヘラ笑ってこちらを見ているカモメに向かって再び腕を振ります。
しかし、その大きな腕を振る為には一瞬時間が出来てしまいます。
カモメの蹴りを食らい、一度は倒れた人魚のような魔物は、カモメだけを視界に映してすぐに起き上がりました。
その人魚のような魔物がカモメに飛びかかろうとしたのと、大きな腕がカモメをなぎ払おうとしたのはほぼ同時。
ガシャン、と。陶器の割れるような音がして、カモメの目の前で人魚のような魔物の頭が砕け散りました。
大きな腕の魔物は、たった今頭を砕いた手をそのまま反対側へ、カモメ目掛けて力一杯振りました。
遠心力につられるように、もう片方の腕も動きます。しかしカモメはその動きを読んでいたように、後ろへ飛び、追いかけるように回って来た腕の上に飛び乗ります。
魔物はさらに腕を振り回しますが、あまりに大きなその腕。重心が傾き、今度は腕に振り回されるようにしてその場に倒れようとします。
その瞬間、カモメは腕から飛び降りて倒れてくる魔物の目の前へ。そして魔物の顎を蹴り上げました。首の折れる音。そんな音が甲板に響き渡り、リサもディーも思わず耳を塞ぎました。
わずかな時間に三体もの魔物を倒したカモメ。少しの疲れも見せず、再び扉へ目をやります。
魔物は船の中から溢れ出すようにまた姿を見せました。困った事に、羽を持つ魔物が先程よりも数を増しています。
「んー……一人じゃ防ぎきれないなぁ。リサちゃん、そっちに一人くらい行っちゃうかもー」
カモメがそう声をかけますが、リサの返事はありません。カモメが振り向く寸前に、コケシが動きました。リサも耳を塞いでいた手を下ろしてそちらに反応します。コケシはディーを後ろから抱き上げました。
「コケシ?」
「ディーくん、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
コケシはディーをぎゅっと抱きしめたまま、涙をこぼして謝り続けました。
「ディーを離せ!」
リサがそんな二人の前に立ちはだかります。
「ディーくん!」
カモメも駆け寄ろうとしましたが魔物達はもうすぐそこまで迫っておりその足を躊躇させます。
「くそっ……! リーダー達は何やってるんだよ」
「ごめんなさい、ディーくん。悲しい想いをさせてしまって、嫌な気持ちにさせてしまって、怖い目に合わせてしまって」
「コケシ……」
その腕は今のディーなら簡単に振り払えてしまえそうでした。でも、コケシの涙がそれをためらわせます。
その時、コケシの体に変化が現れ始めました。ディーに絡みつく腕には鱗が現れ、背中にはおぞましい羽が生え始めたのです。
「い、嫌……どうして」
「コケシ!」
「ディー、そいつから離れろ!」
「来ないで!」
さらに近づこうとしたリサに、コケシは叫びます。
「リサ、やめて!」
足を止めるリサ。コケシの叫びではなく、ディーの叫びがリサの動きを止めました。
「ディーくん……」
「コケシ、ディーに何をするつもりだ?」
「私、私は……」
後ろでは、カモメが魔物と戦っています。
ディーを助けられるのは、自分だけ。
リサは、ふうっと息を吐くと今度は刃を前にしてコケシにナイフを向けました。
「お前が人の姿を残してくれていて良かったよ。わたしは、『人』としか戦った事がないから」
「リサ……何するの?」
「ディー、わたしは……お前を怖がらせてばっかだけどさ」
リサは、ディーの目を真っ直ぐ見て話しかけます。
「嫌われても、憎まれても、お前の命だけは、守りたいんだ。もう、仲直り出来なくてもいいよ。だから、わたしは戦う」
「リサ……」
ディーが自分から離れようとしたのを感じたコケシはぐっと力を入れ直すと、そのまま空高く舞い上がりました。
「コケシ、何を……」
「ディー!」
「リサ! コケシ、離して!」
ディーはじたばたと暴れます。
「ディーくん、大人しくしてください! あっ!」
コケシの腕の中から、ディーが離れました。そのまま、まっ逆さまに落下していきます。
「ディー!」
「ディーくん!」
リサはナイフを放り出しディーの体を受け止めます。
背中から後ろへ倒れながらも、しっかりとディーを抱きしめるリサ。ディーを助けようとしたコケシもその上に覆い被さるようにしてローブを掴んでいました。
「ディー、大丈夫か?」
「ディーくん!」
ディーの返事はありません。ですが、どうやら気を失っているだけのようです。それを見て、リサとコケシは一瞬安堵した表情を見せました。
「良かった……」
「リサさん、ディーくんを返してください」
コケシはディーを抱き上げようとしましたが、リサはしっかりと抱きしめて離そうとしません。倒れたままの状態でコケシを睨みつけます。
「お前にこいつは渡さない」
「お願い、この子を返して下さい!」
リサは先程放り投げたナイフの方を見ました。手を伸ばせば届きそうです。でも。
「絶対に渡さない! つーか、返せって何だよ! こいつはお前のもんじゃねーだろ!」
リサはディーを抱きしめる手を一向に緩めません。手を伸ばせば、きっとディーは奪われてしまいます。
「だって……私は、この子が……」
コケシの流す涙が、リサの頬を濡らします。
「コケシ……」
その時、戦いの音が激しさを増しました。しかし、魔物が増えたわけではありません。
リーダー達が加勢に来たのです。
いつだったかどこかで見たような人魚のようなもの。そして背中から竜のような翼を生やしたもの。さらに、腕だけが異様に大きく変化したもの。
みながみな、人であった事にしがみつくように。
人だと主張するかのように、その両目だけをそのまましっかりと見開いてこちらへ向かって来ました。
「リサちゃんは一人倒せれば上出来かもね」
カモメは微動だにせず呑気にその光景を眺めます。
「……魔物?」
リサは思わず疑問形でそう言いました。何故なら、リサがこれまで見てきた魔物の姿とはかけ離れていたからです。リサの見てきた魔物は、獣にしか見えないもの、さらには植物そのもの。人の面影のある魔物なんていませんでした。
「お城で話は聞いてたでしょ? 人から魔物が現れた話。ぼくが思うには……と、話してる暇ないかも」
説明をしようとしたカモメは、邪魔が入ったことに落胆して首を横に振ります。
「すーっごくお喋りしたい気分なのに。また後でね。リサちゃんはそこから動かずに迎え撃って!」
カモメはそう言って、スピードを上げて魔物達の中へ走っていきました。
「ベル!」
魔物達は一斉にカモメに襲いかかります。
まず飛び込んで来た大きな魔物の腕。しかし、カモメはそれをヒラリとかわして、その腕を台にして大きくジャンプしました。
空中でクルリと回り、すぐに追って羽ばたこうとした羽を持つ魔物の上に着地します。再び腕を振り上げた魔物は、カモメを捕らえる為にその羽の魔物ごとなぎ払いました。
「ベル!」
「カモメ!」
床にべしゃりと落ちる魔物。羽も体も曲がり、倒れたままピクピクと動いています。
そこにカモメの姿はなく、駆け寄ろうとしたリサの足が止まりました。
完全にカモメの姿を見失った魔物達が、そんなリサの方を見た時。突然、人魚の体がくの字に曲がりました。
姿勢を低くし床に片手をついて放たれたカモメの蹴りが、背後から人魚のような魔物の脇腹に叩きつけられたのです。
カモメはそのまま手に力を入れて回るようにして真っ直ぐ立ちました。
大きな腕の魔物は、ヘラヘラ笑ってこちらを見ているカモメに向かって再び腕を振ります。
しかし、その大きな腕を振る為には一瞬時間が出来てしまいます。
カモメの蹴りを食らい、一度は倒れた人魚のような魔物は、カモメだけを視界に映してすぐに起き上がりました。
その人魚のような魔物がカモメに飛びかかろうとしたのと、大きな腕がカモメをなぎ払おうとしたのはほぼ同時。
ガシャン、と。陶器の割れるような音がして、カモメの目の前で人魚のような魔物の頭が砕け散りました。
大きな腕の魔物は、たった今頭を砕いた手をそのまま反対側へ、カモメ目掛けて力一杯振りました。
遠心力につられるように、もう片方の腕も動きます。しかしカモメはその動きを読んでいたように、後ろへ飛び、追いかけるように回って来た腕の上に飛び乗ります。
魔物はさらに腕を振り回しますが、あまりに大きなその腕。重心が傾き、今度は腕に振り回されるようにしてその場に倒れようとします。
その瞬間、カモメは腕から飛び降りて倒れてくる魔物の目の前へ。そして魔物の顎を蹴り上げました。首の折れる音。そんな音が甲板に響き渡り、リサもディーも思わず耳を塞ぎました。
わずかな時間に三体もの魔物を倒したカモメ。少しの疲れも見せず、再び扉へ目をやります。
魔物は船の中から溢れ出すようにまた姿を見せました。困った事に、羽を持つ魔物が先程よりも数を増しています。
「んー……一人じゃ防ぎきれないなぁ。リサちゃん、そっちに一人くらい行っちゃうかもー」
カモメがそう声をかけますが、リサの返事はありません。カモメが振り向く寸前に、コケシが動きました。リサも耳を塞いでいた手を下ろしてそちらに反応します。コケシはディーを後ろから抱き上げました。
「コケシ?」
「ディーくん、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
コケシはディーをぎゅっと抱きしめたまま、涙をこぼして謝り続けました。
「ディーを離せ!」
リサがそんな二人の前に立ちはだかります。
「ディーくん!」
カモメも駆け寄ろうとしましたが魔物達はもうすぐそこまで迫っておりその足を躊躇させます。
「くそっ……! リーダー達は何やってるんだよ」
「ごめんなさい、ディーくん。悲しい想いをさせてしまって、嫌な気持ちにさせてしまって、怖い目に合わせてしまって」
「コケシ……」
その腕は今のディーなら簡単に振り払えてしまえそうでした。でも、コケシの涙がそれをためらわせます。
その時、コケシの体に変化が現れ始めました。ディーに絡みつく腕には鱗が現れ、背中にはおぞましい羽が生え始めたのです。
「い、嫌……どうして」
「コケシ!」
「ディー、そいつから離れろ!」
「来ないで!」
さらに近づこうとしたリサに、コケシは叫びます。
「リサ、やめて!」
足を止めるリサ。コケシの叫びではなく、ディーの叫びがリサの動きを止めました。
「ディーくん……」
「コケシ、ディーに何をするつもりだ?」
「私、私は……」
後ろでは、カモメが魔物と戦っています。
ディーを助けられるのは、自分だけ。
リサは、ふうっと息を吐くと今度は刃を前にしてコケシにナイフを向けました。
「お前が人の姿を残してくれていて良かったよ。わたしは、『人』としか戦った事がないから」
「リサ……何するの?」
「ディー、わたしは……お前を怖がらせてばっかだけどさ」
リサは、ディーの目を真っ直ぐ見て話しかけます。
「嫌われても、憎まれても、お前の命だけは、守りたいんだ。もう、仲直り出来なくてもいいよ。だから、わたしは戦う」
「リサ……」
ディーが自分から離れようとしたのを感じたコケシはぐっと力を入れ直すと、そのまま空高く舞い上がりました。
「コケシ、何を……」
「ディー!」
「リサ! コケシ、離して!」
ディーはじたばたと暴れます。
「ディーくん、大人しくしてください! あっ!」
コケシの腕の中から、ディーが離れました。そのまま、まっ逆さまに落下していきます。
「ディー!」
「ディーくん!」
リサはナイフを放り出しディーの体を受け止めます。
背中から後ろへ倒れながらも、しっかりとディーを抱きしめるリサ。ディーを助けようとしたコケシもその上に覆い被さるようにしてローブを掴んでいました。
「ディー、大丈夫か?」
「ディーくん!」
ディーの返事はありません。ですが、どうやら気を失っているだけのようです。それを見て、リサとコケシは一瞬安堵した表情を見せました。
「良かった……」
「リサさん、ディーくんを返してください」
コケシはディーを抱き上げようとしましたが、リサはしっかりと抱きしめて離そうとしません。倒れたままの状態でコケシを睨みつけます。
「お前にこいつは渡さない」
「お願い、この子を返して下さい!」
リサは先程放り投げたナイフの方を見ました。手を伸ばせば届きそうです。でも。
「絶対に渡さない! つーか、返せって何だよ! こいつはお前のもんじゃねーだろ!」
リサはディーを抱きしめる手を一向に緩めません。手を伸ばせば、きっとディーは奪われてしまいます。
「だって……私は、この子が……」
コケシの流す涙が、リサの頬を濡らします。
「コケシ……」
その時、戦いの音が激しさを増しました。しかし、魔物が増えたわけではありません。
リーダー達が加勢に来たのです。
応援ありがとうございます!
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