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第19話 語り部
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「リサ!」
剣を抜いてすぐに後を追うセナ。
「だ、誰か自警団を呼んで来て!」
その様子を見ていた町の住人が叫びました。セナは一人でどんどん森の奥へと走って行きます。そして、そこでセナが見たものは。
「これも……魔物なのか?」
馬車をも飲み込んでしまいそうな大きな大きな禍々しい赤い花。
たくさんの蔦を自由自在に操り口のように花びらを広げていました。
「リサ!」
セナはすぐに剣を振るいリサの足に絡みついた蔦を立ちきります。高く掲げられていたリサの体が落ちてきてセナは両手でそれを受け止めました。
「大丈夫か?」
「う、うん」
すぐにリサを下へ降ろすと魔物に向かって剣を構えるセナ。魔物はすぐに新しい蔦を伸ばしてこちらへと突きだします。リサを背にしてセナは次々と切り払って行きます。
「キリがないな。リサ、一気に町まで走るぞ」
「わ、分かった」
そう返事をしてリサが走り出そうとした時。
足下の地面が盛り上がり木の根が飛び出して来たのです。それはその魔物の根でした。先を鋭く尖らせリサに襲いかかります。
すんでのところでセナがリサを庇いました。しかし、その鋭い根はセナの肩を切り裂いたのです。
「セナ!」
「心配するな。そこで伏せてろ!」
リサは言われた通りその場に伏せて両手で頭を押さえます。さらに追撃しようとする根をセナはさらりとかわしてそのまま魔物本体へと向かって走り出します。絡みつこうとする蔦をなぎ払いながら大きく花を咲かせた魔物の目の前まで来た時セナは力一杯踏み切りその魔物の体を飛び越えました。
すると、そのすぐ真後ろまで来てセナを捉えようとしていた根が魔物に突き刺さったのです。魔物はどこから発したのか絹を裂くような叫び声を上げて力尽きました。
「何とかなったな……。しかし、植物の形をした魔物までいるとは……恐ろしいものだ」
セナは血の止まらない肩の傷を押さえながらリサの元へ戻りました。
「怪我はないか?」
「…………」
リサはその場にへたりこんだまま首を縦に振ります。
「良かった」
「で、でも、セナはわたしのせいで……」
「このくらい何ともない。お前が無事ならそれでいい」
強がって見せるセナの肩にリサはそっと手を伸ばしました。
「血が……」
「気合いで止める」
「何だよそれ……」
「さあ、早く町に戻ろう」
そう言ってセナが立ち上がろうとした瞬間、リサが大きく目を見開きました。
その表情でセナはすぐに後ろを振り向こうとしました。
でも、そうするよりも先に、剣を構えるよりも速く、魔物の根がセナの体を貫いたのです。
セナは咄嗟にリサの体を押しました。リサは後ろへと倒れセナを貫いた根の先は地面へと突き刺さります。
魔物はまだ生きていたのです。魔物の最後の一撃が取り返しのつかない深手をセナに負わせました。真っ赤な血が根を伝いボタボタと地面に落ちます。
「い、いやあぁぁぁあ! セナーーーー!」
リサは泣き叫びながらその根を引き抜こうとしますが深く地に刺さったそれはピクリとも動こうとしません。セナは後ろの気配に神経を集中させます。魔物が潰れた花をまた咲かせようとゆっくりとうごめいている音が聞こえました。
「……リサ、逃げろ」
「い、嫌だ! セナを置いていけるわけないだろ!」
「私はもう助からない」
「そんな事ない! 気合いで血止めろ馬鹿!」
流れ続ける血で手が滑り思うように力が入りません。それでもリサは必死に根を引き抜こうとします。
「リサ」
すると、セナがその手を掴みリサに何かを握らせました。
「お願いだ、逃げて、生き延びてくれ」
「セナ? これは……」
「私の『遺志』だ。ディーを頼む」
「セナ……」
「行け!」
リサは肩を震わせて後ろへ一歩下がりました。息も絶え絶えなセナを目に映しながらさらに一歩下がります。
「セナ……わたし、お前に謝った方がいい?」
リサのそんな問い掛けにセナはフッと微笑みました。
「そんな必要はない。……でも、そうだな。いつか……母親には謝ってやれ」
リサは溢れる涙を拭いながらセナに背を向けました。
「今度こそ……『リサ』を守れて、良かった」
セナの最期の言葉を背中に受けながらリサは走り出します。
もう決して後ろを見ずに、一度も振り返らないまま、町まで一気に。
リサは、逃げ続けたのです。
「君! 大丈夫か?」
滑り込むように町に飛びこんで来たリサを駆けつけて来た自警団や町のみんなが取り囲みます。
「怪我はないかい?」
「一緒にいた剣士は?」
町の人達の声にも答えずリサは膝をついてただ泣き崩れます。
「リサ!」
そこへ人波を掻き分けて誰かがやって来ました。それは、ディーを抱きかかえたナギでした。リサ達の帰りが遅くその上町はこの騒ぎで心が騒ぎ思わず宿を飛び出して来てしまったようです。
「ど、どうしたの? ま、魔物? リサ、怪我は? ねえ、セナさんは一緒じゃないの?」
矢継ぎ早に投げ掛けてくるナギの言葉にリサは涙を流しながら顔を上げました。
「セナが……死んだ! わたしのせいで! 魔物と戦って、わたしをかばって死んだ!」
そう言ってリサを声を上げて泣き出しました。
「そ、そんな……セナさんが? リサ、嘘だよね?」
さらにディーまで泣き始めてしまいナギはただうろたえています。
「君、落ち着いて! その魔物は一体どこに……」
あの時最初に話し掛けて来た自警団の青年がリサの肩に手を置きました。しかしリサはその手を思い切り叩き落とします。
「うるせえ! お前ら今さら来ても遅えんだよ! 何で、町の奥に本部があんだよ! 何でお前らが普通に一番安全な場所にいんだよ! 自警団の意味ねえだろーが! 何が大陸一の自警団だ! 名ばかりの腰抜けの集まりじゃねえか! 魔物が出た時に役に立たないなら意味ねーだろ!」
止まらないリサの暴言にみんな唖然として顔を見合せました。
「リサ……お願い。もう……」
ナギがそっとリサを抱き寄せました。
「助けに行けなくて、ごめんね。ごめんね……リサ」
三人は身を寄せあいながら泣き続けます。すると、自警団の青年が三人を見下ろしたまま言いました。
「君は……『リサ』というのか?」
先程まで混乱していた人々が今度は別の事でざわつきだしました。
それでもまだ泣き続けるリサの手には、金貨の入った袋が握られていました。
剣を抜いてすぐに後を追うセナ。
「だ、誰か自警団を呼んで来て!」
その様子を見ていた町の住人が叫びました。セナは一人でどんどん森の奥へと走って行きます。そして、そこでセナが見たものは。
「これも……魔物なのか?」
馬車をも飲み込んでしまいそうな大きな大きな禍々しい赤い花。
たくさんの蔦を自由自在に操り口のように花びらを広げていました。
「リサ!」
セナはすぐに剣を振るいリサの足に絡みついた蔦を立ちきります。高く掲げられていたリサの体が落ちてきてセナは両手でそれを受け止めました。
「大丈夫か?」
「う、うん」
すぐにリサを下へ降ろすと魔物に向かって剣を構えるセナ。魔物はすぐに新しい蔦を伸ばしてこちらへと突きだします。リサを背にしてセナは次々と切り払って行きます。
「キリがないな。リサ、一気に町まで走るぞ」
「わ、分かった」
そう返事をしてリサが走り出そうとした時。
足下の地面が盛り上がり木の根が飛び出して来たのです。それはその魔物の根でした。先を鋭く尖らせリサに襲いかかります。
すんでのところでセナがリサを庇いました。しかし、その鋭い根はセナの肩を切り裂いたのです。
「セナ!」
「心配するな。そこで伏せてろ!」
リサは言われた通りその場に伏せて両手で頭を押さえます。さらに追撃しようとする根をセナはさらりとかわしてそのまま魔物本体へと向かって走り出します。絡みつこうとする蔦をなぎ払いながら大きく花を咲かせた魔物の目の前まで来た時セナは力一杯踏み切りその魔物の体を飛び越えました。
すると、そのすぐ真後ろまで来てセナを捉えようとしていた根が魔物に突き刺さったのです。魔物はどこから発したのか絹を裂くような叫び声を上げて力尽きました。
「何とかなったな……。しかし、植物の形をした魔物までいるとは……恐ろしいものだ」
セナは血の止まらない肩の傷を押さえながらリサの元へ戻りました。
「怪我はないか?」
「…………」
リサはその場にへたりこんだまま首を縦に振ります。
「良かった」
「で、でも、セナはわたしのせいで……」
「このくらい何ともない。お前が無事ならそれでいい」
強がって見せるセナの肩にリサはそっと手を伸ばしました。
「血が……」
「気合いで止める」
「何だよそれ……」
「さあ、早く町に戻ろう」
そう言ってセナが立ち上がろうとした瞬間、リサが大きく目を見開きました。
その表情でセナはすぐに後ろを振り向こうとしました。
でも、そうするよりも先に、剣を構えるよりも速く、魔物の根がセナの体を貫いたのです。
セナは咄嗟にリサの体を押しました。リサは後ろへと倒れセナを貫いた根の先は地面へと突き刺さります。
魔物はまだ生きていたのです。魔物の最後の一撃が取り返しのつかない深手をセナに負わせました。真っ赤な血が根を伝いボタボタと地面に落ちます。
「い、いやあぁぁぁあ! セナーーーー!」
リサは泣き叫びながらその根を引き抜こうとしますが深く地に刺さったそれはピクリとも動こうとしません。セナは後ろの気配に神経を集中させます。魔物が潰れた花をまた咲かせようとゆっくりとうごめいている音が聞こえました。
「……リサ、逃げろ」
「い、嫌だ! セナを置いていけるわけないだろ!」
「私はもう助からない」
「そんな事ない! 気合いで血止めろ馬鹿!」
流れ続ける血で手が滑り思うように力が入りません。それでもリサは必死に根を引き抜こうとします。
「リサ」
すると、セナがその手を掴みリサに何かを握らせました。
「お願いだ、逃げて、生き延びてくれ」
「セナ? これは……」
「私の『遺志』だ。ディーを頼む」
「セナ……」
「行け!」
リサは肩を震わせて後ろへ一歩下がりました。息も絶え絶えなセナを目に映しながらさらに一歩下がります。
「セナ……わたし、お前に謝った方がいい?」
リサのそんな問い掛けにセナはフッと微笑みました。
「そんな必要はない。……でも、そうだな。いつか……母親には謝ってやれ」
リサは溢れる涙を拭いながらセナに背を向けました。
「今度こそ……『リサ』を守れて、良かった」
セナの最期の言葉を背中に受けながらリサは走り出します。
もう決して後ろを見ずに、一度も振り返らないまま、町まで一気に。
リサは、逃げ続けたのです。
「君! 大丈夫か?」
滑り込むように町に飛びこんで来たリサを駆けつけて来た自警団や町のみんなが取り囲みます。
「怪我はないかい?」
「一緒にいた剣士は?」
町の人達の声にも答えずリサは膝をついてただ泣き崩れます。
「リサ!」
そこへ人波を掻き分けて誰かがやって来ました。それは、ディーを抱きかかえたナギでした。リサ達の帰りが遅くその上町はこの騒ぎで心が騒ぎ思わず宿を飛び出して来てしまったようです。
「ど、どうしたの? ま、魔物? リサ、怪我は? ねえ、セナさんは一緒じゃないの?」
矢継ぎ早に投げ掛けてくるナギの言葉にリサは涙を流しながら顔を上げました。
「セナが……死んだ! わたしのせいで! 魔物と戦って、わたしをかばって死んだ!」
そう言ってリサを声を上げて泣き出しました。
「そ、そんな……セナさんが? リサ、嘘だよね?」
さらにディーまで泣き始めてしまいナギはただうろたえています。
「君、落ち着いて! その魔物は一体どこに……」
あの時最初に話し掛けて来た自警団の青年がリサの肩に手を置きました。しかしリサはその手を思い切り叩き落とします。
「うるせえ! お前ら今さら来ても遅えんだよ! 何で、町の奥に本部があんだよ! 何でお前らが普通に一番安全な場所にいんだよ! 自警団の意味ねえだろーが! 何が大陸一の自警団だ! 名ばかりの腰抜けの集まりじゃねえか! 魔物が出た時に役に立たないなら意味ねーだろ!」
止まらないリサの暴言にみんな唖然として顔を見合せました。
「リサ……お願い。もう……」
ナギがそっとリサを抱き寄せました。
「助けに行けなくて、ごめんね。ごめんね……リサ」
三人は身を寄せあいながら泣き続けます。すると、自警団の青年が三人を見下ろしたまま言いました。
「君は……『リサ』というのか?」
先程まで混乱していた人々が今度は別の事でざわつきだしました。
それでもまだ泣き続けるリサの手には、金貨の入った袋が握られていました。
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