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第15話 語り部
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森の中ではセナが必死に馬を走らせていました。
セナは魔物の足止めをくらい戻って来るのにずいぶんと時間がかかってしまったようです。朝靄の立ち込める中、前からやって来る影に足を止めました。セナは剣に手を当てて目を凝らします。
「お前は、クロッカスの村長?」
そこにいたのは二頭の馬が引く荷馬車に乗った村長でした。
セナの声に気づき村長も慌てて馬を止めます。セナは馬から降りると荷馬車へ近づいて行きました。
「おい、どうした! 村に何かあったのか?」
「お、お前……どうしてここに? いや、まあいい。とにかくそこをどけ!」
村長は強引に馬を進めようとしました。しかしセナがそれを制止します。
「なるほど。一人だけ逃げるつもりか。村を捨てて」
セナは荷馬車に積まれた荷物を一瞥してそう言いました。はあっと嘆息をもらすセナ。村長の行動に呆れてものも言えません。
「お、お前らがいけないんだ! お前らよそ者が魔物を引き連れて来たんだろう! 大体、救世主だなんて法螺を吹きおって! この罰当たりめ!」
「救世主だと? どういう事だ? いや、それよりも……すでに村に魔物が入り込んだのか?」
「は、離せ! わしは何も知らん!」
村長はそう言って馬に鞭を打ちました。進み始めた馬にセナは仕方なく道を開けます。そしてすぐに自分も馬に飛び乗りました。
「……急ごう!」
風のように速く駆けていく馬。それでもセナの不安は消える事なく、余計に焦りがやって来るだけでした。
その頃、馬小屋付近で立ち尽くすのはリサとディー。
「あっのクソ村長! 一人でさっさと逃げやがった!」
地団駄を踏むリサにディーはただオロオロとしていました。
「つーか、何でお前までついて来るんだよ。まだ寝てりゃいいのに」
何も答えないディーにリサは舌打ちをします。村はまだ静かで分厚い雲に覆われた空をリサは見上げました。
「せっかく早起きしたのにな。この天気じゃ朝焼けなんて見れやしねえ」
石を蹴飛ばすリサにディーは何か言いたげに近づいてきます。
「何だよ」
服に伸ばされた手を振り払うリサ。ディーはフードの下で少し悲しげな表情を見せました。しかし、リサにはその表情は見えません。
「あの馬鹿村長。救世主だっつっても信じなかったな。わたしが説得するしかねえって思ったのに」
「…………」
「あの様子じゃ村の連中も信じてくれねーのかな。ちくしょう、切り札だと思ってたのに意味ねえ」
「……リサ」
「あいつ、『お前なんかが救世主なわけがない』ってよ」
何かに気がついたディーはリサの後ろに視線を移します。だけどもリサは気づいていないようです。忌々しげに呟きました。
「それ……世界中のみんながそう言ってくれねーかなぁ。そしたら……わたしは『救世主』じゃなくなるかな」
「救世主……って?」
突然後ろから聞こえて来た声に、リサはハッとして振り返りました。そこには茫然と立ち尽くすタキとナギの姿が。
「今の……」
聞いてたのか? と、確認するよりも早くタキは踵を返して歩き始めました。
「あ、タキ……。あ、あのね、リサ。僕達、起きたらリサ達がいなかったから探してて……それでね」
ナギがしどろもどろになって話し出しますがリサは追い払うように手を振ります。
「言い訳するつもりはない。わたしからはそれだけだ。さっさとタキを追えよ」
「…………」
ナギは黙って頷くとタキの後を追って走り出しました。
「あーあ。最悪な形でバレちまった。よりによってタキに聞かれるなんてなー」
リサはその場にしゃがみこみ頭を抱えます。
「……リサ」
すると、ディーが隣にしゃがんでリサの服を引っ張りました。怯えたその様子にリサは首を傾げます。
「どうした?」
「……何か、来る」
「え? 何かって……」
辺りを確かめようと二人が立ち上がった瞬間。
馬達が一斉に騒ぎ始めました。
それと同時に茂みを掻き分けて何かがもの凄い勢いでこちらに向かって来ました。二人はおぞましい足音が聞こえて来る方向を見て立ちすくみます。そして、それはリサ達の目の前に姿を現しました。
リサは思わず悲鳴を上げました。そこには熊のようなとても大きな真っ黒な体毛で覆われた魔物が立っていたのです。真っ赤に血走った目はリサ達をとらえ大きな口の中には鋭い牙が見えます。
「あ……」
二人は動く事も出来ずにその巨体を見上げます。魔物はその尖った爪のついた太い腕をリサ達目掛けて振り上げました。
「伏せろ!」
その声にリサとディーは目を瞑ってその場に伏せました。風を切る音。何かを切り裂くような音。次いで大きな何かが倒れて地響きがしました。リサは恐る恐る目を開けます。
「セナ!」
そこにいたのは馬に乗り剣を構えたセナでした。セナは剣を収めると馬から降りてすぐに二人に駆け寄りました。倒れている魔物を見て二人はまだ怯えた様子です。
「無事で良かった……。さあ、二人とも馬に乗れ! 今すぐここから逃げるんだ!」
セナがそう叫んだ瞬間村のあちこちで獣の咆哮と何かが崩壊する音が聞こえて来たのです。
咄嗟に村の方を見たリサ達の視界に飛び込んで来た光景。それはとても恐ろしいものでした。先程と同じ魔物が次々と現れ村を襲っているのです。
畑は踏み荒らされ、家は次々と壊され、炉から火が移ったのかあちこちから火の手が上がりました。
「村が……!」
「リサ! 急げ! さあ、ディーも乗るんだ!」
涙を溜める二人をセナは無理矢理馬に乗せました。
「セナ! ナギ達は……」
「私が何とかする! 必ずだ! だから、リサ。ディーを頼むぞ! すぐに追いつく! 行け!」
セナはまくし立てるようにそう言って馬に鞭を打ちました。途端に馬は村の外へと走り出します。走り去った二人を見送った後セナは剣を握りしめ村の中心へと走って行ったのです。
セナは魔物の足止めをくらい戻って来るのにずいぶんと時間がかかってしまったようです。朝靄の立ち込める中、前からやって来る影に足を止めました。セナは剣に手を当てて目を凝らします。
「お前は、クロッカスの村長?」
そこにいたのは二頭の馬が引く荷馬車に乗った村長でした。
セナの声に気づき村長も慌てて馬を止めます。セナは馬から降りると荷馬車へ近づいて行きました。
「おい、どうした! 村に何かあったのか?」
「お、お前……どうしてここに? いや、まあいい。とにかくそこをどけ!」
村長は強引に馬を進めようとしました。しかしセナがそれを制止します。
「なるほど。一人だけ逃げるつもりか。村を捨てて」
セナは荷馬車に積まれた荷物を一瞥してそう言いました。はあっと嘆息をもらすセナ。村長の行動に呆れてものも言えません。
「お、お前らがいけないんだ! お前らよそ者が魔物を引き連れて来たんだろう! 大体、救世主だなんて法螺を吹きおって! この罰当たりめ!」
「救世主だと? どういう事だ? いや、それよりも……すでに村に魔物が入り込んだのか?」
「は、離せ! わしは何も知らん!」
村長はそう言って馬に鞭を打ちました。進み始めた馬にセナは仕方なく道を開けます。そしてすぐに自分も馬に飛び乗りました。
「……急ごう!」
風のように速く駆けていく馬。それでもセナの不安は消える事なく、余計に焦りがやって来るだけでした。
その頃、馬小屋付近で立ち尽くすのはリサとディー。
「あっのクソ村長! 一人でさっさと逃げやがった!」
地団駄を踏むリサにディーはただオロオロとしていました。
「つーか、何でお前までついて来るんだよ。まだ寝てりゃいいのに」
何も答えないディーにリサは舌打ちをします。村はまだ静かで分厚い雲に覆われた空をリサは見上げました。
「せっかく早起きしたのにな。この天気じゃ朝焼けなんて見れやしねえ」
石を蹴飛ばすリサにディーは何か言いたげに近づいてきます。
「何だよ」
服に伸ばされた手を振り払うリサ。ディーはフードの下で少し悲しげな表情を見せました。しかし、リサにはその表情は見えません。
「あの馬鹿村長。救世主だっつっても信じなかったな。わたしが説得するしかねえって思ったのに」
「…………」
「あの様子じゃ村の連中も信じてくれねーのかな。ちくしょう、切り札だと思ってたのに意味ねえ」
「……リサ」
「あいつ、『お前なんかが救世主なわけがない』ってよ」
何かに気がついたディーはリサの後ろに視線を移します。だけどもリサは気づいていないようです。忌々しげに呟きました。
「それ……世界中のみんながそう言ってくれねーかなぁ。そしたら……わたしは『救世主』じゃなくなるかな」
「救世主……って?」
突然後ろから聞こえて来た声に、リサはハッとして振り返りました。そこには茫然と立ち尽くすタキとナギの姿が。
「今の……」
聞いてたのか? と、確認するよりも早くタキは踵を返して歩き始めました。
「あ、タキ……。あ、あのね、リサ。僕達、起きたらリサ達がいなかったから探してて……それでね」
ナギがしどろもどろになって話し出しますがリサは追い払うように手を振ります。
「言い訳するつもりはない。わたしからはそれだけだ。さっさとタキを追えよ」
「…………」
ナギは黙って頷くとタキの後を追って走り出しました。
「あーあ。最悪な形でバレちまった。よりによってタキに聞かれるなんてなー」
リサはその場にしゃがみこみ頭を抱えます。
「……リサ」
すると、ディーが隣にしゃがんでリサの服を引っ張りました。怯えたその様子にリサは首を傾げます。
「どうした?」
「……何か、来る」
「え? 何かって……」
辺りを確かめようと二人が立ち上がった瞬間。
馬達が一斉に騒ぎ始めました。
それと同時に茂みを掻き分けて何かがもの凄い勢いでこちらに向かって来ました。二人はおぞましい足音が聞こえて来る方向を見て立ちすくみます。そして、それはリサ達の目の前に姿を現しました。
リサは思わず悲鳴を上げました。そこには熊のようなとても大きな真っ黒な体毛で覆われた魔物が立っていたのです。真っ赤に血走った目はリサ達をとらえ大きな口の中には鋭い牙が見えます。
「あ……」
二人は動く事も出来ずにその巨体を見上げます。魔物はその尖った爪のついた太い腕をリサ達目掛けて振り上げました。
「伏せろ!」
その声にリサとディーは目を瞑ってその場に伏せました。風を切る音。何かを切り裂くような音。次いで大きな何かが倒れて地響きがしました。リサは恐る恐る目を開けます。
「セナ!」
そこにいたのは馬に乗り剣を構えたセナでした。セナは剣を収めると馬から降りてすぐに二人に駆け寄りました。倒れている魔物を見て二人はまだ怯えた様子です。
「無事で良かった……。さあ、二人とも馬に乗れ! 今すぐここから逃げるんだ!」
セナがそう叫んだ瞬間村のあちこちで獣の咆哮と何かが崩壊する音が聞こえて来たのです。
咄嗟に村の方を見たリサ達の視界に飛び込んで来た光景。それはとても恐ろしいものでした。先程と同じ魔物が次々と現れ村を襲っているのです。
畑は踏み荒らされ、家は次々と壊され、炉から火が移ったのかあちこちから火の手が上がりました。
「村が……!」
「リサ! 急げ! さあ、ディーも乗るんだ!」
涙を溜める二人をセナは無理矢理馬に乗せました。
「セナ! ナギ達は……」
「私が何とかする! 必ずだ! だから、リサ。ディーを頼むぞ! すぐに追いつく! 行け!」
セナはまくし立てるようにそう言って馬に鞭を打ちました。途端に馬は村の外へと走り出します。走り去った二人を見送った後セナは剣を握りしめ村の中心へと走って行ったのです。
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