転生先が同類ばっかりです!

羽田ソラ

文字の大きさ
94 / 132
ザガルバ編

93.ある冒険者の一瞬

しおりを挟む
 ――よりによって何てところに居合わせちまったんだ。

 ウルバスクのザガルバを拠点に生活している冒険者たるアタシ、サラ=ラディッチは、現場に着いた今更そんなことを考えていた。
 だって無理もねえじゃねえか! いつもお世話になってる屋台の店長が、奥さんで冒険者でもあるエリナさんの仕事ぶりというか職場を見たいからとか何とか言って、そっから採取目的で登録してから依頼をこなしてたらいきなり――

「サラさん、サラさん!! 大丈夫ですか!?」
「あ、ああ……すまねえ、エリナさん……」

 ――いきなり、ドラゴンに襲われるってどう考えたっておかしいだろ! しかも見た感じ、話にしか聞いたことがないアサルトドラゴンだぜアレ!!!

「あんなの、本当に出くわすもんなのかよ……!」
「ええ、正直私も驚いています……流石にあの一撃、不意打ちで食らったら間違いなく命がない」
「そんな問題じゃねえだろ! あんなの相手にしてられっか、早く逃げようぜ!!」

 エリナさんの言ってることはアタシだってわかる。あんなの不意打ちでなくたってまともに食らえば身体がバラバラになって吹っ飛んじまう! エリナさんが助けてくれなかったら今頃……!
 けど、何でか知らねえけど皆動かねえ。

「何やってんだよ! リーダーの言うことが聞けねえか!」
「わ、私も、とっとと、逃げたい、です、けど……」
「さっきので、乗って来た魔動車が吹っ飛んでしまったんだ……そもそも僕も、足がすくんで動けないんだけどね……!」
「な――」

 魔動車が、吹っ飛んだ……?
 そもそもこの辺りで普及している魔動車ってのは、馬車より速くて小回りも利いて、燃料たる魔石さえ補充していれば疲れることもない万能の乗り物だ。あれさえ使えればドラゴンから逃げることだって一応は出来る。
 その魔動車が、吹っ飛んだ? そんな状態で、人間より確実に速いドラゴンに背を向けて逃げる……?

「それに、アサルトドラゴンなら魔動車よりちょっと遅いくらいだからザガルバまで引っ張って行ってしまう。僕たちも逃げられないし、街の人も危険にさらすことになるよ」
「……何だよそれ、何でこうなるんだよ!!!」

 ――絶望だ。
 どうあがいても絶望だ。

 事ここに及んだら、抵抗して死ぬか、抵抗せず死ぬかの違いでしかない。なのにどっちにしても死ぬんだからという諦めの感情も、一矢報いてやるというあがきも、何もかもが頭から吹っ飛んで、ただ混乱しかない。
 そうこう言ってるうちに、アサルトドラゴンの尻尾が振りかぶられる。アタシはそれの意味するところが何か分からないまま――



 バチィィィィィィィン!!!!



 鉄の鞭が鉄の棒を打ち据えたような、鋭く重い金属音で目が覚めた。

「っ……くう……っ! サラさん、大丈夫ですか!?」
「エ……エリナさん!?」

 見れば、マジェリアから来た女冒険者が、ドラゴンの尻尾を業物の短剣で受け止めていた。流石に軽々、というわけにもいかなかったんだろうか。その横顔は重さに歪み、両腕は震えている――

「しっかりしなさい、サラ=ラディッチ!! ここは私が食い止めるから、トーゴさんと一緒にザガルバまで逃げて!!」
「っ……! け、けどそんなことしたらエリナさん、あんたは……!」
「分からないの? このドラゴンと私では、タイマンで五分っていうところなんですよ! 下手に加勢してもらうより、あなたたちにザガルバまで行って報告してもらう方が私としては助かるんです!」

 ――嘘だ。
 普通アサルトドラゴンなんていうのは、1等級の冒険者が20人くらいの大規模パーティーを組んで討伐するような代物だ。それにしたって、討伐出来るかどうかは運次第だってされる。
 ましてや3等級のエリナさんが、ソロで五分なんて絶対に有り得ない。クラッシュボアをあっさり退けたり、さっきの尻尾の攻撃を受け止めるくらいだからステータスはある程度高いんだろうけど、それにしてもだ。

「分かったら早くしてください! 大丈夫、逃げてくれればすぐに追いつきますから!」
「それは――」
「ダメだ、エリナさん。俺たちだけで逃げるわけにはいかない。……そうしたいのはやまやまなんだけどな」

 アタシがエリナさんを止めようとしたその時、意外なことに……か、当然のごとくか、店長の方から物言いがついた。

「な……何を言ってるのトーゴさん! 早くこの人たちをザガルバまで逃がして!」
「だから、そうしたいのはやまやまなんだけどって言ってるんだよ。こんな状況でないのなら、全部エリナさんに任せて撤退するつもりだったんだけど」

 ……え。何を、言ってるんだこの人は。
 いや、違う。
 何処を見てそんなことを言ってるんだこの人は――

「前門の虎、後門の狼とはこのことを言うんだろうな……エリナさん、逃げるのは物理的に無理そうだよ」

 険しい表情を崩さず、店長は明後日の……正確にはザガルバに続く方向を見ながらなおも言う。
 その視線の先を、恐怖と絶望を抱えたまま追っていくと――そこでは、絶望の重ね掛けが起こっていた。

「あれ、は……まさか、ロックドラゴン……!? アサルトドラゴンと、ロックドラゴンの、同時出現……!?」
「あ、あはは……今日は本当に、厄日で、アタシたちの命日みてえだな……」
「サ、サラ、さん! そんな、私は、嫌ですよ……!」

 ああ、とうとうクララまで現実逃避し始めた。……思えばここまで、パッとしないまま人生過ごしてきたなアタシたち。それがこんな形で終わるのは、ある意味お似合いってことなのか……
 と、ここにきてようやく人生諦めがついた。ああ、もうどうにでもなれ。これから何が起ころうが、アタシたちの知ったこっちゃない――
 そんなアタシの思考を戒めるように、あるいは嘲笑うように、店長がその足を一歩前に踏み出す。……腰に付けたハンドアックスの柄に手をかけながら。

「エリナさん、そういう訳だからさっきの指示は半分だけ了解。……そっちは任せてしまって構わないかな」
「え、ええ。その方がやりやすいけど……まさかトーゴさん、っくう……っ! っ、ロックドラゴンを相手に戦う気?」
「うん、そのつもりだけど」
「無茶よ! ステータスはトーゴさんの方が高いかもしれないけど、戦闘技術じゃ到底敵う相手じゃないわ! ふっ、たああっ!」
「大丈夫、今エリナさんが相手してるアサルトドラゴンよりはどんくさそうだし。それに俺、さっきのサラさんたちとの会話で気付いちゃったことがあってね」

 アタシたちとの、会話で?
 何だ、そんな戦闘のヒントになるようなことを言った記憶はねえんだけど……そもそもアサルトドラゴンやロックドラゴン相手にソロでどうこうなんて、完全に頭おかしい扱いだからヒントも何もねえはずだけど!?

「店長、アタシたちのことならいいから、さ。とっとと逃げちゃってよ」
「うん……旦那さん、僕たちはもう覚悟が出来てるから」
「うぅうっうっ……ひっく……」

 ……クララだけはまだ泣いたままか。今更だけど、お姉さんの言う通りだったかもしれねえな……
 そんなアタシたちの絶望を全部聞いたうえで、店長はなおも言う。

「逃げるつもりも死ぬつもりもありませんよ。……今から俺は、あのドラゴンを俺なりの方法で討伐します。その準備は出来てるんですよ。だから――」

 言って店長は、軽く俺たちに微笑みかけて――

「――あなたたちは、ここで戦果を待っててくれませんか」

――無謀ともいえる決意表明とともに、ドラゴンに向かってその身を投げ出した。



---
前門の虎、後門の狼、か、泣きっ面に蜂、か。
いよいよミズモト=サンタラ夫婦の本領発揮かな?

次回更新は06/12の予定です!
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...