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ザガルバ編
94.ドラゴン解体の時間だよ
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――さて、取り敢えず後ろのアサルトドラゴンはエリナさんに任せることにして……俺は目の前のロックドラゴンの方をどうにかすることにしよう。サラさんたちは何か色々とうるさくしているけど……どちらからもそれなりに距離が離れてくれたから当面の危険はないか。
かといって、ザガルバへ向かう道も塞がれている。このままじゃ逃げることは出来ない……なら、早く決着をつけないとな。
「――――――!!!!!!」
聞こえない、にも拘らず確実に俺を襲う咆哮。嫌な感じがして少し後ろに下がれば――飛んでくるのは、ロックドラゴンによるテイルアタックのフルスイングだ。
「っ……」
その威力、空振りしてさえも減衰しているように感じない。
ブオン
ではなく、
ドゴオオオオオ!!!!!
という、まさに衝撃波そのものの音をさせて、地面ごと俺を吹っ飛ばそうと礫と共に襲い掛かってくる。……流石に重いな、俺のステータスが普通だったら、多分これだけで吹っ飛ばされていたかもしれない。
「上位の冒険者が数十人がかりで討伐するもの、か……確かにな」
ゲーム脳をこじらせたやつなら、フルレイドパーティーで挑むレイドボスっていう表現をするのかもしれない。けど……現実でこういう事態に陥ってたらそんなこと考える余裕もないかな。
「店長!!」
「大丈夫です。そこで大人しく見ていてください。……ああそうだ、余力があったらクララさん、エリナさんに回復魔法をお願いします」
「え……ひっく……わ、私……そん、な……!」
「お願いしますよ!」
……さて、では本格的にこのデカブツを処理しないと。一撃の威力はアサルトドラゴンよりも数倍は大きい、でもその重量が邪魔してなのかスピードははるかに遅い。それでも人間が長距離を走るくらいのスピードでは移動するけど……
この世界、ゲームみたいに都合よく敵のステータスは見えない。素材はともかく生物そのもののステータスを鑑定するスキルは、この世界にはない。でなければ絶対俺はエリナさんのステータスを逐一観察している。
いずれにしてもそう言う不便を強いられてはいるけど、何となく動きやなんやでどういう特徴を持っているかはわかる。
パワーは俺の数倍、スピードや器用さは俺やエリナさんに大きく劣る。体力は数十倍って言ったところだけど、距離をとるとわざわざ接近してくるあたり魔法のような遠隔攻撃はないものと考えていいかもしれない。
そして、敵のテイルアタックの打ち終わりを狙ってハンドアックスを思いっきりぶつけてみると――
ガキイィィィィィィィィン!!!!!
「っくうう……っ、何だ、これ……!」
おおよそ今まで感じた事のない荒い手応えが俺の右腕に伝わってくる。鉄、いや、そんなものよりもっと高硬度かもしれない。ハンドアックスの刃が欠けたり割れたりしなかったのが不思議なくらいだ。
「どんな金属で出来てるんだ……ん?」
ふと違和感を覚えて目線を上げると、ロックドラゴンは俺を横目に見ながら何やらぼりぼりと食べている。……おかしい、いくらロックドラゴンが獰猛なれど草食ドラゴンとはいえ、あんなところに食べるような植物が生えていた記憶が――
いや待て、あそこはまさか……
「そうか、ロックドラゴンは草食なんじゃない。分泌物を染み込ませて変異させた岩を主食にしているのか……っ!」
確かに、考えればおかしな話ではある。
そもそも周囲の岩場に分泌物を染み込ませて組成を変えるなら、ドラゴンにとってはそうするべき生物学的理由があるはずだ。……なるほど、そこから鉱物を取り込んで硬鱗を形成しているのか……!
道理で岩山ばかりで見られると言われるはずだ、こいつにとっては文字通りエサの山なんだから。
「……でも、それでも俺には届かない」
確かにロックドラゴンの硬鱗は脅威だ。幾ら攻撃しても通る気がしないし、そんなものを纏った尻尾でまともにぶん殴られれば、どれだけステータスが高かろうが即死は免れないだろう。
けど、俺はロックドラゴンに対峙した時サラさんに言った。
俺なりの方法で討伐する、と。
実はあの時、俺の視界にはこんなアナウンスウインドウが表示されていた。
スキル一時開放情報
スキル「解体」が一時開放されます。これより以下条件にてスキル「解体」が使用可能となります。
解体
討伐以外に素材採取が何ひとつ可能とならない動植物の素材を採取する場合に限り、指定した対象物の討伐に必要な手順及び能力を使用可能にする。
スキルを使用した場合、術者は対象の解体方法を理解出来る。また解体に必要なスキルや戦闘技術を習得していない場合、一時的に習得及び使用可能状態になる。
対象:ロックドラゴン
使用可能期間:半径200メートル以内のロックドラゴンが討伐されるまで
解体スキルを使用しますか? はい/いいえ
そりゃ当然、使用するよね……と言いつつはいを選ぶと、その瞬間斧術中級が上級にランクアップ。さらにどの部分が弱点でどうすれば仕留められるか、その全てを理解することに成功した。
さあ――様子見はこれで終了だ。
「すう――ふっ!!!」
「!?」
一瞬でトップスピードに乗り、ロックドラゴンの背後に回り込んで、背中の鈍感なところを足場にして首の後ろに回り込む。ロックドラゴンは鈍感で鈍重なものだから、俺がどこに移動したのか気付かないし気付いても追いつかない。
狙いは首、の、頭に近い部分。
ロックドラゴンの首はもれなく硬鱗に守られているものの、実際には首の関節に重なる部分が軟鱗により区切られている。その区切られている関節部分は凹凸で組み合わさっているものの、そこを斬り落とされればドラゴンでもひとたまりもない。
もっともそこを斬るにも、パワー系随一の冒険者のパワーとスピード系随一の冒険者のスピード、さらに一級品の切れ味と丈夫さを持つ武器が必要なわけで、それがあの討伐の大変さに繋がっているんだけど――
――都合のいい事に、俺はその全てを持っている。
「せいっ……やああああああっ!!!!!!」
首の上から頸椎に垂直に振り下ろし、硬鱗に当たったところで体側に斬り裂く。もう一度頸椎に垂直に斬り、硬鱗に当たったら頭側に切り裂く。後は薄皮1枚と言わず思いっきり走向に合わせて離断。ここまで1秒ジャストで完了したところで――
「――――――…………――?」
ロックドラゴンの頭は、あの音として聞こえない咆哮を周囲に撒き散らすのを唐突にやめるのだった。
「……勝っ、た……? うそ、だろ……?」
「凄い……旦那さん、こんなに戦えたのか……!」
「……いえ、あくまでこれは素材採取です。人間相手には使えませんし、戦闘を期待されても困りますけど」
「ロックドラゴンを一瞬で倒す時点で十分すぎるわ!!」
……まあ、確かにその通りかもしれない。いずれにせよ今回は緊急事態だったからしょうがないけど、今後はこれ控えた方がいいかも知れないな……
念のため空にしておいた不可視インベントリを展開して、ロックドラゴンをギリギリのキャパシティで収納する。一応腐らないようにはなってるけど、肉やら血やらは早めに処理した方がいいか。
さて――エリナさんの方はどうなってるかな?
---
トーゴさんソロ回です。やっと無双らしい無双が出来た!!! いや、出来てるのかコレ?
採取=討伐なら何でもありっていうトンデモ拡大解釈の元にやったことです反省はしてません。
次回更新は06/15の予定です!
かといって、ザガルバへ向かう道も塞がれている。このままじゃ逃げることは出来ない……なら、早く決着をつけないとな。
「――――――!!!!!!」
聞こえない、にも拘らず確実に俺を襲う咆哮。嫌な感じがして少し後ろに下がれば――飛んでくるのは、ロックドラゴンによるテイルアタックのフルスイングだ。
「っ……」
その威力、空振りしてさえも減衰しているように感じない。
ブオン
ではなく、
ドゴオオオオオ!!!!!
という、まさに衝撃波そのものの音をさせて、地面ごと俺を吹っ飛ばそうと礫と共に襲い掛かってくる。……流石に重いな、俺のステータスが普通だったら、多分これだけで吹っ飛ばされていたかもしれない。
「上位の冒険者が数十人がかりで討伐するもの、か……確かにな」
ゲーム脳をこじらせたやつなら、フルレイドパーティーで挑むレイドボスっていう表現をするのかもしれない。けど……現実でこういう事態に陥ってたらそんなこと考える余裕もないかな。
「店長!!」
「大丈夫です。そこで大人しく見ていてください。……ああそうだ、余力があったらクララさん、エリナさんに回復魔法をお願いします」
「え……ひっく……わ、私……そん、な……!」
「お願いしますよ!」
……さて、では本格的にこのデカブツを処理しないと。一撃の威力はアサルトドラゴンよりも数倍は大きい、でもその重量が邪魔してなのかスピードははるかに遅い。それでも人間が長距離を走るくらいのスピードでは移動するけど……
この世界、ゲームみたいに都合よく敵のステータスは見えない。素材はともかく生物そのもののステータスを鑑定するスキルは、この世界にはない。でなければ絶対俺はエリナさんのステータスを逐一観察している。
いずれにしてもそう言う不便を強いられてはいるけど、何となく動きやなんやでどういう特徴を持っているかはわかる。
パワーは俺の数倍、スピードや器用さは俺やエリナさんに大きく劣る。体力は数十倍って言ったところだけど、距離をとるとわざわざ接近してくるあたり魔法のような遠隔攻撃はないものと考えていいかもしれない。
そして、敵のテイルアタックの打ち終わりを狙ってハンドアックスを思いっきりぶつけてみると――
ガキイィィィィィィィィン!!!!!
「っくうう……っ、何だ、これ……!」
おおよそ今まで感じた事のない荒い手応えが俺の右腕に伝わってくる。鉄、いや、そんなものよりもっと高硬度かもしれない。ハンドアックスの刃が欠けたり割れたりしなかったのが不思議なくらいだ。
「どんな金属で出来てるんだ……ん?」
ふと違和感を覚えて目線を上げると、ロックドラゴンは俺を横目に見ながら何やらぼりぼりと食べている。……おかしい、いくらロックドラゴンが獰猛なれど草食ドラゴンとはいえ、あんなところに食べるような植物が生えていた記憶が――
いや待て、あそこはまさか……
「そうか、ロックドラゴンは草食なんじゃない。分泌物を染み込ませて変異させた岩を主食にしているのか……っ!」
確かに、考えればおかしな話ではある。
そもそも周囲の岩場に分泌物を染み込ませて組成を変えるなら、ドラゴンにとってはそうするべき生物学的理由があるはずだ。……なるほど、そこから鉱物を取り込んで硬鱗を形成しているのか……!
道理で岩山ばかりで見られると言われるはずだ、こいつにとっては文字通りエサの山なんだから。
「……でも、それでも俺には届かない」
確かにロックドラゴンの硬鱗は脅威だ。幾ら攻撃しても通る気がしないし、そんなものを纏った尻尾でまともにぶん殴られれば、どれだけステータスが高かろうが即死は免れないだろう。
けど、俺はロックドラゴンに対峙した時サラさんに言った。
俺なりの方法で討伐する、と。
実はあの時、俺の視界にはこんなアナウンスウインドウが表示されていた。
スキル一時開放情報
スキル「解体」が一時開放されます。これより以下条件にてスキル「解体」が使用可能となります。
解体
討伐以外に素材採取が何ひとつ可能とならない動植物の素材を採取する場合に限り、指定した対象物の討伐に必要な手順及び能力を使用可能にする。
スキルを使用した場合、術者は対象の解体方法を理解出来る。また解体に必要なスキルや戦闘技術を習得していない場合、一時的に習得及び使用可能状態になる。
対象:ロックドラゴン
使用可能期間:半径200メートル以内のロックドラゴンが討伐されるまで
解体スキルを使用しますか? はい/いいえ
そりゃ当然、使用するよね……と言いつつはいを選ぶと、その瞬間斧術中級が上級にランクアップ。さらにどの部分が弱点でどうすれば仕留められるか、その全てを理解することに成功した。
さあ――様子見はこれで終了だ。
「すう――ふっ!!!」
「!?」
一瞬でトップスピードに乗り、ロックドラゴンの背後に回り込んで、背中の鈍感なところを足場にして首の後ろに回り込む。ロックドラゴンは鈍感で鈍重なものだから、俺がどこに移動したのか気付かないし気付いても追いつかない。
狙いは首、の、頭に近い部分。
ロックドラゴンの首はもれなく硬鱗に守られているものの、実際には首の関節に重なる部分が軟鱗により区切られている。その区切られている関節部分は凹凸で組み合わさっているものの、そこを斬り落とされればドラゴンでもひとたまりもない。
もっともそこを斬るにも、パワー系随一の冒険者のパワーとスピード系随一の冒険者のスピード、さらに一級品の切れ味と丈夫さを持つ武器が必要なわけで、それがあの討伐の大変さに繋がっているんだけど――
――都合のいい事に、俺はその全てを持っている。
「せいっ……やああああああっ!!!!!!」
首の上から頸椎に垂直に振り下ろし、硬鱗に当たったところで体側に斬り裂く。もう一度頸椎に垂直に斬り、硬鱗に当たったら頭側に切り裂く。後は薄皮1枚と言わず思いっきり走向に合わせて離断。ここまで1秒ジャストで完了したところで――
「――――――…………――?」
ロックドラゴンの頭は、あの音として聞こえない咆哮を周囲に撒き散らすのを唐突にやめるのだった。
「……勝っ、た……? うそ、だろ……?」
「凄い……旦那さん、こんなに戦えたのか……!」
「……いえ、あくまでこれは素材採取です。人間相手には使えませんし、戦闘を期待されても困りますけど」
「ロックドラゴンを一瞬で倒す時点で十分すぎるわ!!」
……まあ、確かにその通りかもしれない。いずれにせよ今回は緊急事態だったからしょうがないけど、今後はこれ控えた方がいいかも知れないな……
念のため空にしておいた不可視インベントリを展開して、ロックドラゴンをギリギリのキャパシティで収納する。一応腐らないようにはなってるけど、肉やら血やらは早めに処理した方がいいか。
さて――エリナさんの方はどうなってるかな?
---
トーゴさんソロ回です。やっと無双らしい無双が出来た!!! いや、出来てるのかコレ?
採取=討伐なら何でもありっていうトンデモ拡大解釈の元にやったことです反省はしてません。
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