聖女追放ラノベの馬鹿王子に転生しましたが…あれ、問題ないんじゃね?

越路遼介

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第3話 新たな婚約者

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「ああ…。殿下、私のようなメイドにこのような…」
「何を言う。私や父母によう仕えてくれる。この程度のことはさせてほしい」


 俺は城内で働く女たちの出産補助を行うようになった。
 最初に現在の出産事情を聞いた時は驚いた。天井につるしたロープをしっかりと握った妊婦がいて、立位もしくは膝立ちのまま産婆が赤子を取り上げるという原始的なものだった。
 このへん、洋の東西問わないのか、どこの時代劇か、妊婦殺す気かと思った。

 そして、調べたところこの世界では妊婦の出産死は多い。令和日本の比じゃない。
 それはそうか。魔法は発達しているが技術は乏しい。
 治癒魔法を出産に使うという概念すらなかった。大丈夫か、この世界。


 最初は反発を受けた。男が出産に立ち会うこと自体が禁忌であり、まして夫以外の者に肌は無論、性器まで晒さなくてはならないのだ。

「アホッ!医療行為者が出産補助中に見る女の性器など背景みたいなもんだ!道端の石ころだ、石ころ!」

 と、俺は王子である身を利用してゴリ押し、城内の一室にて行われた従姉妹マリスの出産に乱入して分娩補助をした。
 最初は抵抗し、羞恥のあまり俺を罵ったマリスだが、徐々に手際の良さが分かったか大人しくなり、短促呼吸など俺の指示に従うようになった。初産なのに思ったより苦痛がないことを驚いているみたいだ。

 子供は無事に生まれた。出産という偉業を成し遂げたマリスは赤子を抱いて泣いていた。体が華奢なので、どれほどの地獄か怖くてたまらなかったのだろう。マリスがさほどに苦しまずに出産出来たことに立ち合っていたメイドたちも驚いていた。

「うううっ、レンドル…。ありがとう、私怖かった。愛するあの人の子を生みたいと思っても、どんなに地獄の苦しみなのかと思って…」
「良いんだよ。治癒魔法が使えるのなら出産に苦しむ女性に施して当然、礼には及ばないよ」


 これがキッカケとなり、俺はメイドや下女の出産にも赴き、その補助をしている。
 地獄の苦しみ、死ぬかもしれない恐怖、それから解放され安心して生めるよう尽力するのは治癒魔法を使える身として、そして彼女たちの主君として当然だ。ましてや俺には令和の出産補助技能と知識もあるのだから。
 いつか、あの世で前世の伴侶和美と再会した時に褒めてもらいたいものな。

 今日も城内で夫婦共々住み込みで働くメイドのところに赴き
「ああ…。殿下、私のようなメイドにこのような…」
「何を言う。私や父母によう仕えてくれる。この程度のことはさせてほしい」
「殿下、私は終生の忠誠を…」
 むさい庭師の夫が膝を屈して言うから
「暑苦しいからいい」
「それはあんまりかと!あはははは!」


 それにしても『気功』のエネルギーは、ここ魔法が存在する世界に来て、より量が増えている気がするな。七日に一度の結界構築のための放出は苦にならないし、出産補助や他の負傷を治すにも問題ない。
 しかし、俺一人がそんな出産補助が出来るのは、いい傾向ではない。治癒魔法は貴重らしいから術者をもっと増やして、俺なんかがいなくても国民同士で病や怪我に立ち向かえるようにならないとな。
 おおっ、我ながらいいこと言っているじゃないの。
 そんな物思いにふけつつテラスに立ち城下町を眺めていると

「殿下、国王陛下がお呼びです」
「ありがとう、すぐに行くよ。ケイト、産後はどうかな?」
「はい、殿下のおかげで母子ともに健康です。お乳もたんと出ますし」
「それは良かった。治癒魔法使いとして何よりの言葉だよ。子供が怪我した時も遠慮なく頼ってくれていいのだからな」
「はい、殿下のおかげで私たちがどれだけ安心して働けるか…」
 俺はメイドのケイトと共に国王の間へと歩いて行った。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「父上、レンドル参りました」
「おお、よう来た。最近の働き聞いておるぞ。城内で働く女たちの出産を補助して痛みも少なく生ませていること。その他、怪我なども治していることもな」
「彼らあっての私たちです。自分に出来ることならば行うが当然かと」
「うんうん」
 父と母は満足げだ。馬鹿と思っていた息子が英邁になっている。嬉しいのだろうな。自分で言うのも何だが。

「で、早速本題だが、そろそろおぬしも身を固める時かと思ってな。婚約者であったアメリアは行方知れずであるし、もういいであろうと思うのだ」
「念のため聞きますがレンドル、あなたに想い人は?」

「おりませぬ。父上母上のお眼鏡に叶った女性を娶る所存です」
「これは責任重大じゃな妃よ」
「ふふっ、でも大丈夫です。トルステン公爵」
「ははっ」
「これは宰相殿、ご健勝で何より」
「殿下も、ご機嫌麗しゅう」

 彼も見事な手のひら返しだな。あんなに無能と蔑んでいたのに。
 しかしまあ、先の通り俺の実年齢は五十五の中年だ。不惑を越したばかりの若僧の態度など笑って許せるよ。

「殿下、どうか、私の娘ソフィアを娶ってくれませぬか。御父上、御母上にも許可をいただきました。殿下のような俊英を我が息子と出来れば、これに過ぎたるものはなし」

 そう来たか、と思った。有能な宰相であるトルステン公爵の申し出を父母は断り切れなかったのだろう。
 彼が万一離反でもすれば、この王国は海を持たない国となる。

「願っても無いこと。父上母上、私には異存ございません」
「おおっ、良かったな宰相!」
「はい、殿下、ありがとうございます」
「ああ、宰相一つだけお願いが」
「なんでございましょうか」
「宰相の領国シートピアは美しい海の町と聞きます。私は生まれてからずっと、海を見たことが無く、ぜひ見てみたいのです。夕暮れの海を見つめながら婚約者殿を口説きたいと思います」
「そのようなことでしたら喜んでお迎えいたします。よろしいでしょうか、国王陛下、妃殿下」
「かまわぬ。海はいいぞ息子よ。とくと見てまいれ」
「はいっ」


ガタゴトガタゴト


 王国の城下町から馬車でトルステン公爵領シートピアに向かう。婚約者であるソフィアは領地内の屋敷にいる。
 その馬車内でのこと。

「殿下は私の娘が醜女と呼ばれているのを知っておりましたか?」
「え?」
「数年前、重い病を患い、治りはしたものの顔に痘痕が出来て崩れましてな…。屋敷に引きこもりがちなのですよ」

 この野郎、婚約後に娘が醜いと言うなんてルール違反じゃないのか?
 油断できないな。俺が失望するか否か表情で探っている。それで俺の器を婿としても、次代の王として相応しいかも見ている。

 でも残念だったな若僧、俺は小説で知っているのよ。宰相の娘は病で顔が崩れたと言うのはね。もっとも、ソフィア自身は小説に登場せずナレーションで終わり。あらかじめ知っていたなら動じもしない。

「…しかし、花や動物を愛する心優しい女性と聞いています」
 宰相トルステンは驚いたように俺を見た。これも小説の情報だ。それに実年齢五十五歳の中年男が十八の娘の美醜にこだわると思う?白人JKですよ、白人JK!それを嫁に出来るんですよ。よだれが出るわ!
 おおっと、シリアスを続けないと。

「伴侶としたい理由はそれで十分、それに宰相殿、冗談でもご自分の娘のことを醜女だと言うものではありません。それが巡り巡ってご息女の耳に入らぬとは限らない。どんなに傷つくか」
「…………」
「古の名将いわく『女の顔など年齢と病でいかようにも変わるもの。変わらぬのは心の美しさよ』とあります。私もその通りだと思っていますよ」
「そのような言葉が…。いやいや、私も勉強不足ですな」
 おおっと!つい明智光秀の名言を言ってしまいましたよ。
 でも本当にその通りだと思う。無駄に美形のこのレンドルだって、中年になれば腹も出てくるのだから。


ガタゴトガタゴト


 馬車は揺れて、やがて目的地シートピアに!
「おおおおおっ」
 すごい、何という美しさなのか。令和日本の汚れた海水浴場しか知らない俺には夢のような美しき海!なんつーの、オーシャンブルー?エメラルドグリーン?
 馬車の窓から見て感動した!俺は馬車内にいる宰相に振り向いて
「さっ、宰相殿、俺ってば、ここに住んでいいかな!」
「いやいやいや、殿下落ち着いて下さい。私が国王陛下と妃殿下に叱られてしまうではないですか」
「そんなこと言っても、この町から離れがたいよ!素晴らしい!」
「お褒め恐縮、このシートピアの海は我が領地の宝にございます」
「海鮮料理!夕食は海鮮料理で!」
「承知しました。当家のシェフたちが腕を振るわせていただきます。さて、我が屋敷が見えてきましたぞ」


「「お帰りなさいませ!」」
「「レンドル殿下、ようこそお越しに!トルステン公爵家、光栄の極み」」
 使用人のしつけが行き届いている。さすがは一国の宰相だと思った。これでは馬鹿王子当時のレンドルを見限っていて当然だ。

「ん?モニカ、娘は、ソフィアは?」
 モニカさん、どうやら宰相殿の奥さんらしい。
「すいません、いつもの理由です」
 ああ、病で崩れた顔を見せたくないのだな。婚約者となった王子が来ても出迎えたくないということか。ん、病で顔が崩れた…?

「ああ、なんで気が付かなかったかな」
「殿下?」
「宰相殿、痘痕の原因となった病そのものには治癒魔法でも対応できませんが、その後に顔に現れた痘痕は治癒魔法にとって外傷扱いになります。治せるかもしれません」
「「え……」」
 宰相と奥さんが固まってしまった。

 この世界に来て、俺の『気功』は『魔力』に替わり、優れた治癒エネルギーとなっている。結界魔法は無論のこと、治癒にも絶大な威力を発揮する。さすがに四肢欠損や重病には無理だが、病による痘痕なら対応できるかもしれない。

 俺は宰相に腕を掴まれて屋敷の奥へと。
「もっ、もし、娘の顔を治して下されたら!私は無論、せがれたちも殿下に一生の忠誠ををを!」
 母親のモニカさんも全力疾走だ。
「ソフィア、入るぞ!」

 ノックしたあと、扉を開ける宰相。驚いた我が婚約者殿は俺を見るやレンドルと分かったか、ベッドに駆けこみ、シーツで体を包んだ。
「出ていって!こんな醜い私をさらし者に…!」
 俺は宰相殿を落ち着かせて、ベッドへ歩んだ。
「…初めまして、我が婚約者殿、私はレンドル、クレシェンド王国の王子です」
「…………」

「ソフィア殿、私は貴女の顔に痘痕があることを問題にはしておりません。女の顔など、年齢や病でいかようにも変わるからです。変わらぬのは花と動物を愛でる貴女の美しき心」
「…………」

「そうは言っても顔は女の命…。元に戻るに越したことはない。ソフィア殿、私は治癒魔法を使います。さきほどご両親には言いましたが、痘痕の原因となった病そのものには対応が出来ません。しかし、それにより生じた痘痕は治癒魔法にとって外傷扱いになります。元の美しい顔に戻せるかもしれません」
「えっ…!」
「勇気を出して、一度だけでいい。今の貴女の顔を私の前に出して下さい。治したあと、その顔を忘れろと云うのなら忘れましょう」
「殿下……」

 長考のあと、ソフィアはシーツを下ろして、俺の前に顔を出した。
 ああ、これは年頃の娘にはつらかろうと思った。痘痕で顔の皮膚が引きつり、左目が吊り上がり、鼻の両穴が真正面から見られる状態。その他大小のコブが顔中に点在し、染みと吹き出物も著しい。

 ソフィアもまた真剣に俺の顔を見ているね…。少しでも嫌悪感を示した時、口先だけの男として彼女の婚約者失格となる。でも、何度も言うけど実年齢五十五歳の中年男に取っちゃ十八の娘の美醜など話の外なんだよ。

「つらかったでしょうな。でも今日限りです」
「で、殿下…」
「レンドル」
「レンドル様」
「様は必要ないのですが、まあ今はいいでしょう、始めますよ。『ハイヒール』」

 ソフィアの顔が俺の魔力に包まれた。おおっ、効いている効いているっ!
 痘痕とコブが消えていく!思った通りだ!

「「ああああああ…!」」
 ソフィアのご両親が泣き崩れた。
「終わりました」

「…………」
 ソフィアは大小のコブが消え失せ、鼻が元の位置に戻っていることを触って実感、そして鏡に駆けて
「ああっ、あああああ!」
 大粒の涙を流して泣き崩れた我が婚約者殿、やはり顔は女の命、嬉しいのだな。
 歓喜するご両親と抱きしめ合うソフィア、家族の絆に俺は邪魔だ。その部屋から出ていった。
 そう、名医は患者に恩は売らぬ。黙って立ち去るのが渋いのよ。前世からそれが俺の信条。
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