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III プレ女王国連合の成立

来ちゃった……大都会の七華

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 ―ニナルティナ港湾都市中央駅。
 ここには路面念車の中央駅とは別に、新ニナルティナ‐リュフミュラン間の直通道路、裂岩の新・幹道を結ぶ駅魔車の駅も新たに併設されていた。

「ここが……新ニナルティナ……フルエレや砂緒が居る街……」

 そこにつばが異常に広くリボンが巻かれた女優さん帽子を深々と被り、サングラスを掛け白い手袋を着用し大きなトランクを二つも持ったエレガントな旅人風白いドレス姿の七華が降り立った。今しがた到着したばかりの駅魔車から降りた所だ。

「人が多いわ……」
(……砂緒……来ちゃった……砂緒の胸に抱き着くわたくし……)
「いやいや違いますわね……それでは男に頼り過ぎですわ」
(おーーーーほっほっほ、貴方達がどんな暮らしぶりか暇潰しに観察に来てさし上げましたのっ)
「これも……違いますわね。今やフルエレは同盟の女王、ただの王女の私が地位や権力でマウントを取る事はもはや出来ないですわ……ふふ、結局どうすれば良いのかしらね」

 ドンッ!!

「きゃっ痛いっ」

 一人で道の往来のど真ん中で妄想に耽る派手過ぎる格好の七華リュフミュラン王女に何者かが勢いよくぶつかった。

「おっと綺麗なお姉さんごめんよっ!」
「まあっなんて失礼なのかしら! ぶつかっておいて走り去る等、我が国なら打ち首にして差し上げますわっ」

 案の定スリだった。

「……どうしましょう……ハンドバッグの有り金を全て奪われてしまいましたわっふふっ仕方が無いですわね、フルエレか砂緒さまに援助を請いましょう。砂緒はわたくしの顔を見た途端に何やかやと言って優しくせっせと世話をしてくれるのでしょうね……」

 七華は来たそうそうスリに遭った事で砂緒に会う理由が出来たと内心ホッとしてしまった。


 ……しかし彼女は砂緒も雪乃フルエレも何処に住んでいるか全く知らなかった。

「同盟女王はどこに住んでらっしゃいますか? なーんて聞いた所で変人扱いですわ。ふふ、一人で外国に来た途端に何の力も権限も無い事を思い知らされましたわっ……でもこれで良かったのかもしれませんわね」

 等と強がりを言っても、いずれどんどん日が暮れてしまうだろう。両国間の駅魔車の本数は少なく、しかも帰りのチケットを買うお金は全てスリにすられてしまっていた。

「あの……貴方、旅人さんですか?」
「えっ?」

 突然七華は少し浅黒い肌色の女給さんの服を着た小さな可愛い少女に声を掛けられた。

「ごめんなさいね、私お金は無いのよ、貴方に何も渡す事は出来ないのですわ」
「でしょうね、ひと目貴方を見てそう思いました。私はホテルの呼び込みでも無ければ物乞いでもありませんからご安心を。もうすぐ日が暮れます。そんな時に貴方みたいなお上りさんが一人でこの街では危険です」

 七華は小さな少女がやけに達観した様子で淡々と話し続ける事に違和感を感じた。

「貴方は何者?」
「貴方と似た者よ。この国に来たばかりの人間です。ですのでお声を掛けさせて頂きました。私のお店では困った人をボランティアでお助けしているみたいなので、ご主人様にご紹介しますから。その後はご自由に」

 浅黒い少女はさらに無表情で淡々と話し続けたが、どうやら助けるという言葉を信じるしかないようだった。

「ええ、ではお言葉に甘えさせて頂きますわっご主人さまとやらにご紹介下さいまし」

 七華は小さな少女に帽子を取って頭を下げた。よく見ると少女の首には大きな不似合いな首輪があった。

「どうぞ、私に付いて来て下さいな」
「ええ、よろしくお願いしますわね」

 言うや否やスタスタと歩き出す少女に、七華は無言で後に続いた。歩きながら七華は四、五階建てのマンションやビルが立ち並び、幅の広い道路を路面念車が走り去る大都会ニナルティナの様子を見て、自分が如何に小さな国で井の中の蛙であったかを思い知らされた。

「貴方も此処に来たばかりってどうやって来たのかしら?」
「奴隷です。戦闘に負けて捕虜として連れてこられました」

 少女はやはり無表情のまま事も無げに言った。一瞬七華はどう対応すれば良いか迷ったが、相手の少女に会わせてオーバーリアクションは避けた。

「あらまあ、劇的ねえ」
「ご安心を、襲い掛かったりしませんので」
「ふふ、ずっと敵地で一人で不安なのね」
「………………別に」
(いつかサッワさまが助けに来てくれます……)


 少女がスタスタと歩き続けると、割とすぐに目的地に着いた様だった。七華の目の前には、少女が指差す七階建て程のモダンでお洒落なビルディングがあった。おかしな場所では無いと感じ、七華は胸を撫で下ろした。

「こちらです……」

 しかし続けて少女が案内しようとしているのは、場末感が漂うビルディングの地下入り口であった。明らかに華やかな地上入り口より、薄暗く敷居が高く入り辛い。いかに王女で世間知らずでも、もしかして犯罪に巻き込まれるのではという警戒心が働く。

「え、此処ですの?」
「怖いですか?」

 一瞬浅黒い少女が七華の性根を試すかの様に薄っすらと笑みを浮かべた気がして、七華は少しカチンと来た。自国では意地悪王女と言われた自分がこんな子供に舐められる訳には行かなかった。

「は~~? 何が怖いのですって? さっさと案内して下さいなっ」
「ええ、ではどうぞ」

 少女に導かれるままコツコツと地下に降りる階段を下ると、場末感漂う純喫茶の入り口があった。

「此処です」
「ええっではお邪魔しますわ」
「フゥー只今帰りました」

 七華が店の中に入ると、ギロリと睨み付ける目つきの悪い少年が腕を組んで壁にもたれ掛かって立っている。

「遅かったな」
「申し訳ありませんシャルさま、都会の真ん中で道に迷っていた旅人の方を保護したのです」
「……何余計な事してんだ? 正義の味方気取りか奴隷の癖してよっ」
「申し訳ありません」

 浅黒い少女は反論する事も無く深々と無礼な少年に頭を下げた。

「何なの貴方は? ちょっと失礼じゃないかしら? この私を導いてくれた少女はもはや私の身内、身内を侮辱する者は許しませんわよっ!」
「へーー、一体どうするっていうのさ田舎の綺麗なお姉さん」
「何ですって!?」

 シャルがニヤッと笑いながら手を上げ、何かしようとするとフゥーが割って入って止める。

「私、貴方の身内じゃないです。余計な事は言わないで下さい。シャル様ご無礼申し訳ありません」
「ふん、勝手にしなよ」
 
 シャルは店を出て行った。フルエレに置いて行かれた彼は常時機嫌が悪かった。

「あらら……お姫様じゃない……なして此処に?」
「??」
「あら……ネコミミの猫の子さんですわね」

 七華の目の前には騒ぎを聞きつけ、店の奥から出て来たオーナー猫呼ねここクラウディアとバイトシェフのイライザが居た。

「猫の子さんでは無い、猫呼さんです此処のオーナーですから。フゥーちゃんどゆこと?」

 猫呼はフゥーに経緯を訪ねた。

「猫呼様、この方が港湾都市中央駅でお一人で途方に暮れられている時にお見掛けして思わず声を掛けてしまいました。出過ぎた真似をして申し訳ありません」

 フゥーは深々と頭を下げる。七華は一体どういう関係性かといぶかしく思った。

「いいのよ、この人は砂緒とちょっと関係があるから……砂緒が喜ぶわよ。フルエレは嫌だろうけどね」

 七華は接点は薄いが短期間でも元同郷の猫呼と再会し、さらには砂緒やフルエレの名前を聞いて内心かなりホッとしていた。

「い、今砂緒様は何処にいらっしゃるの……かしら?」

 七華はそわそわしつつ軽く店内を見回した。

「あーーーー今砂緒もフルエレも長期出張中なのよねえ」
「え……」

 意を決して此処まで来て、完全に行き違いだった。
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