6 / 39
第一部 第一章
幻想と現実
しおりを挟むいつものベッドの上で目が醒めた。
ほのかにアルの香りがする。
あれは夢だったんだろうか。
「ティ!」
その声と同時に抱きしめられる。
俺ちゃんとアルの所にいるんだ。
「………アル」
アルの耳の横でそう呟くと、アルはバッと体を離し、俺の顔を目を見開き、見つめた。それから泣きそうになりながら顔を綻ばせた。
名前を呼ばないことでアルを傷つけていたのだろうか。こんな風に喜んでくれるなんて。
でも、もう声を出せるとも耳が聞こえるともばれてしまった。どうしたらいいんだろう。
違う世界から来たなんて知られたら、どうなるんだろう。どこか連れていかれたりするかもしれない。
いやだ。
いやだ、アルと離れたくない。
離れたくない、一緒にいたい。
――ああ、そうか。
俺、アルを好きになってしまったんだ。
「……アル、…っ…アル…」
アルの名を呼ぶたびに涙がこぼれる。
アルは慌てふためいて、俺を抱きしめながら涙をぬぐってくれる。
それでも涙は止まらなくて。
不意にアルの顔が近づいてきて、唇に何か触れた瞬間、驚きに涙は止まってしまった。
キス、してる?
離れて行ったアルは俺の涙が止まった事を確認して、微笑みを浮かべた。
どうして?
キスしたこと、今まであっただろうか。
思い出してみれば、タカシともしたことがなかった。
俺初めてキスしたかもしれない。
そう思うと、顔がじんわりと熱くなってきて、アルとキスしたという事実に喜びが溢れた。
アルが力強く抱きしめてきた。
体勢を変えた時にふと膝に硬いものが当たる。それが何かなんて考えなくてもわかった。
セックスしたいのかもしれない。俺とばかりいるから遊びにも行けず、溜まっているのかもしれない。
アルと、と考えると全く抵抗がない。でも、俺みたいな奴とするなんてアルが嫌なんじゃないだろうか。
口で抜くだけなら大丈夫かもしれない、と思い立って、俺はアルのズボンの紐の結び目を緩めた。
すると、目を見開いたアルは俺の手首を掴んで、それを止めた。俺は自分の口を指さしてから、アルの性器がある場所を指さした。
アルは怒ったように眉尻を上げ、首を振った。俺がアルの性欲の処理をしたいだけなのに、アルはそれを許してくれなかった。
アルは困った顔をして何か言い聞かせるように俺の頭を撫でると、部屋を出て行った。
どうしてそんな困った顔するの?
俺じゃダメだった?
俺は何の役にも立てない?
それとも、俺に……。
そうだ…。
そんなの当たり前だ。
数えきれないぐらい咥えてきたんだから、汚いに決まってる。
アルに拒否された絶望に、地の底まで沈んで行くような気がした。
何のためにここにいるんだろう。
自分の体が急に汚くて、悍ましいものに思えてきて、消えてしまいたい衝動に駆られる。
体が震えて止まらない。
汚い汚い汚い。
こんなことなら、あの盗賊の所にいる方がましだった。
こんな、こんな、思いをするなら。
こんな体、要らない。必要ない。
アルに愛される体でいたかった。
綺麗な体でいたかった。
アルに愛されたかった。
「――!」
「―ィ!」
「ティ!」
身体を揺さぶられる。
「ティ!」
何度も呼び声がして、暗くなりかけていた意識が徐々に戻ってくる。
目を開くと、苦しそうな表情をしたアルの顔があって、俺はその頬にまだ震えの治まらない手を伸ばした。
アルはその手を握りしめて、ずっと同じ言葉を繰り返していた。前も同じことがあった気がする。
そんなことを考えて、ぼんやりとアルを見上げていると、アルが何度も何度もキスをしてきた。
「…アル…?」
俺の襟元にあるボタンに手をかけて、上から順番に外していく。
なにしてるの?
アルの唇が首を撫でて、ピクリと電流が通ったように体が跳ねた。
首から唇を離して、俺の目を強い眼差しで見つめてくる。
「ティ、―――、―――」
そして何度も口づけ、また俺の服を開けさせて、そこに唇を這わせた。
アルが触れるところから、何か味わった事のない感覚が広がってくる。
腰にぞくぞくした痺れのようなものが走り、勝手に口から吐息と共に声が漏れた。
アルは俺の胸の突起を口に含み、舌で転がす。同時に性器を触り出し、上下に扱くように手を動かし始めると、ピリピリとした刺激が全身に走った。
「……っ……んっ、……ぅぅん…」
久しくしていない自慰よりも強烈な快感。
声が漏れないように唇を噛みしめていると、アルが俺の唇を包み込むような深い口づけをしてきた。
唇をこじ開けるように舌が口内に入ってきて、驚きながらも、俺の心は浮き立った。
これはなんていう行為なんだろう。
アルが俺の事を慰めてくれてるんだろうか。
ぐりぐりと鈴口を弄ばれ、頭の中が真っ白になるような刺激に精液を放った。
肩を上下させている俺の髪を労わるように撫で、アルは微笑んだ。
俺の何人もの男を受け入れてきた穴に触れ、そこに軟膏のようなものを掬った指をゆっくりと挿入してきた。
やっぱり、これってセックスなんだ。
アルとするんだ。
そう思うと、かあっと体中が熱を持ったように火照りだす。
アルの指が出入りして、入り口と中を解していくことが嬉しくてたまらない。それとは裏腹に、穢れたところを触らせているという罪悪感が募る。
アルが俺の体中にキスを落とし、何度も軟膏が継ぎ足され解されていくうちに、体の中から得体のしれない感覚がじくじくと湧き出てくる。
「……っ…アル…」
息が上がり、内腿がヒクつく。
アルに訴えるように見上げると、熱を宿した赤い目が俺を射た。アルは服を脱ぎ捨てると、ぶつかるかという勢いで口づけてくる。
抱き合い、アルの少し汗ばんだしっとりとした肌と合わさり、その刺激に声が漏れた。
「ティ」
かすれた声が耳に入ってくると同時に後ろに猛ったものが押し当てられた。
アル!
掻き分けるように中に入ってくる熱の塊。
俺の顔を探るように見て、抜き差しを繰り返しながらゆっくりと入ってくる。痛みも引き攣れも伴わない挿入にアルの優しさを感じて胸が熱くなった。
こんな風に表情を見られながらセックスをするなんて初めてで、羞恥心が溢れる。アルから顔を横に向けて逸らしたけれど、まだアルの視線を感じて、ますます恥ずかしくなった。
軟膏が溶けてくちゅくちゅと卑猥な音を立てて、それをなぜかいやらしいと感じてしまう。こんな音聞きなれているというのに。
熱い吐息が耳にかかり、その粘着音と相まって、脳まで犯されているような錯覚に陥る。
アルが中を擦るたびに体中にじんわりと何とも言えない痺れが拡がり、その初めての感覚に恐怖を感じてアルにしがみ付いた。
なに、これ。
こわいこわい。
「ティ」
アルは身体を強張らせた俺の頭を何度も撫で、キスをしてくれる。怖いことではないと安心していいと言われているようで、俺は頷いた。
アルが与えてくれるもの、それが恐ろしいものであるはずがないのだから。
体の力を抜くと再開される抽送。またあの感覚が起こってきて、俺を包み込んだ。
「…ぁ…っ……はぁ、……」
まるで喘ぎ声のような声が口から出て、慌てて口を塞いだけれど、アルはその手を取って、ベッドに縫い付けた。
「…ん……んぁ……あ、ァ……」
俺、セックスで感じてるんだ。
幻想かと思ってたのに。
アルが動くたびに脳天まで突き抜ける快感に身を委ねた。
10
お気に入りに追加
518
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
異世界に転移したら運命の人の膝の上でした!
鳴海
BL
ある日、異世界に転移した天音(あまね)は、そこでハインツという名のカイネルシア帝国の皇帝に出会った。
この世界では異世界転移者は”界渡り人”と呼ばれる神からの預かり子で、界渡り人の幸せがこの国の繁栄に大きく関与すると言われている。
界渡り人に幸せになってもらいたいハインツのおかげで離宮に住むことになった天音は、日本にいた頃の何倍も贅沢な暮らしをさせてもらえることになった。
そんな天音がやっと異世界での生活に慣れた頃、なぜか危険な目に遭い始めて……。
選択的ぼっちの俺たちは丁度いい距離を模索中!
きよひ
BL
ぼっち無愛想エリート×ぼっちファッションヤンキー
蓮は会話が苦手すぎて、不良のような格好で周りを牽制している高校生だ。
下校中におじいさんを助けたことをきっかけに、その孫でエリート高校生の大和と出会う。
蓮に負けず劣らず無表情で無愛想な大和とはもう関わることはないと思っていたが、一度認識してしまうと下校中に妙に目に入ってくるようになってしまう。
少しずつ接する内に、大和も蓮と同じく意図的に他人と距離をとっているんだと気づいていく。
ひょんなことから大和の服を着る羽目になったり、一緒にバイトすることになったり、大和の部屋で寝ることになったり。
一進一退を繰り返して、二人が少しずつ落ち着く距離を模索していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる