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「……ぅ、うっ……ん、っぐ……」
ガンガンと頭まで響くような衝撃に僕は目が覚めた。
よく知っている、内臓を乱暴に突き上げられる感覚。体を折り畳まれ、圧し掛かられて、孔をオナホのように使われる。手には性器を握らされ、口にも突っ込まれる。こちらを顧みることなく続けられる暴力。
そう僕はただ性欲を満たすための玩具で……
――あれ、僕、これが嫌で命を断ったはずなのに。
見たくもない顔を見てしまうからと、いつもは頑なに閉じている瞼をうっすらと開いた。
そこには見たこともない男の顔。くすんだ茶髪にごつい体であいつらとは違った。周りの男たちも似たような体つきの全く知らない顔ぶれだった。
「急に大人しくなりやがって」
「ま、ヤりやすいから良いだろ」
「俺は悲鳴上げてる方が好きだけどなぁ」
「おまえの趣味なんて聞いてねぇよ」
外国人のように見えているのに、日本語を流暢に話していて違和感しか覚えない。でも、レイプされていることだけはわかった。
それを認識すると同時に、体と五感がラジオのチャンネルを合わせたかのようにぴたりと合致した。
「う、あ……っ」
途端に体が痛みを訴え、どこから発生したのかもわからない悲しみと恐怖が脳に流れ込んできたのだ。自分の記憶と誰かの記憶が入り乱れ掻き混ぜられて、心に塗りたくられる。その苦痛を伴う不快感に歯を喰いしばった。
『触るな! 僕に触るな!』
『助けて、殿下!』
『おねがい、やめて。やめて』
愛しい人に助けを求める悲痛な叫び。それがこの口から発せられた最期の言葉だった。
――ああ、僕乗り移ちゃったんだ、この子に。
ユノス・マルベス。
伯爵マルベス家の次男。
そして、第一王子ランベルトの婚約者だった子。
この世界には光の神子という者が存在し、世界を侵す瘴気を払う役目を担う。任命されれば、その活動に身を捧げることになる。
瘴気の元凶である魔王の発生が予言されたため、光の属性を持っていたユノスがその神子になる任を受けた。そして、報酬としてランベルトと婚約したのだ。
神子は神殿にて神降ろしのような儀式を行い、毎日祈りを捧げる。魔王討伐後も世界に飛散した瘴気を払い続けるため、一生を費やすこともある。人と会うにも、外出するにも護衛がつき、何をしようにも許可がいる。その前に自分の我儘を通すこともできない。神子はそんな制限だらけのつまらない人生を歩むのだ。
ユノスはそれでも良かった。ランベルトを愛していたから。
伯爵家では王子の妻になるなど夢のまた夢。ユノスにとってはまたとない機会で、ランベルトの側室になろうとも、彼が会いに来てくれさえすればいい。そうすれば自分は頑張れるからと。
そう思っていた。
しかし、ある人物がそれを邪魔した。神子の適性があると平民から神子のスペアとして選出されたニールという少年。彼は神殿を後見人として貴族の学園に入り、その天真爛漫さと愛らしい容姿によって次々とランベルトの側近など周囲の人物をオトしていった。
ニールが得体のしれない力を持っていると気付いたユノスはニールに何度も警告し、ランベルトに何度も訴えた。そんな者を信じてはいけないと。
ただ、それが裏目に出てしまった。
執拗なユノスに対して不審を抱き始めた王子に、ニールが悪い噂を吹き込んだのだ。側近たちもすべてニールに陥落されていたためただのイエスマンであり、噂を否定する者はいなかった。
そして、ニールが暴漢に襲われるという事件が起こった。強姦未遂でニールは事なきを得たが、ユノスが教唆したのだろうと当然噂が立った。確証がないためユノスは捕まりこそしなかったけれど、ほとんど罪人のように見られることになってしまった。勿論それはユノスがやったことじゃない。ニールの策略でしかないことはわかり切っていたのに。
僕は男たちが満足し行為を終わらせるのをひたすら待った。
こんなの僕にしたら慣れたものだったけど、この体は初めて他人のモノを受け入れて悲鳴を上げていた。これ以上抵抗しても痛みが増すだけ。それにもう暴れたとしてもこの子は戻ってこない。絶望し、この世界にいることを拒んだ。
純粋で、哀れで、あんな馬鹿な男のために必死で生きたこの子はもう……。
涙腺が壊れたみたいに涙が溢れ頬を伝い落ちる。自分の痛みとこの子の痛みが重なって、心が張り裂けそうだった。
「っ……こういうのって、最悪な事態になる前に回避していくものじゃないの? この世界には役立たずの神しかいないのかよ……っ」
それとも、慣れっこの僕ならこんなことされても平気だと思ってるの?
男たちが去った後、散らばった服をかき集める。震える指を叱咤しながら袖を通していると、廊下から複数の笑い声が聞こえ、僕は耳を澄ませた。
「こっちに、来る……?」
見られたら面倒なことになる。そうわかっているものの、この子の恐怖心に当てられた体は固まってうまく動かない。
そうこうしているうちにも足音は部屋の前で止まり、扉が躊躇なく開けられた。
「ニールの気持ちがわかったか?」
入ってきた途端に放たれた第一声。それはユノスが愛してやまないランベルトの声だった。
でも、僕はその一言ですべてを察した。
この暴行事件を仕組んだ犯人。ユノスを貶めて神子の座を捨てさせようとしたのが誰なのか。
腹の底にどろりとした黒い感情が溜まっていく。この子がどれだけ恐怖を味わったのか。絶対に失ってはならない大切なものを最後まで守ろうと抵抗し、助けを求めた彼の気持ちを。
――ユノスの純愛を踏みにじったこの屑共に思い知らせてやる。
それが自分の感情なのか、ユノスの恨みを引き継いでしまったために沸いたものなのか、区別はつかなかった。
でも、そんなのはどうでもよかった。
連中は逆光で僕の姿が見えないらしく、ぞろぞろとニールを中心に部屋へ入ってくる。
「……ひッ」
僕は恐怖に顔を歪めた。そして、どろりとした体液が付着し、力任せに掴まれた所為で痣が浮き出た足をわざと目につくように投げ出した。
「ユノス、そろそろ白状したらどうだ」
「……で、殿下……? ぁ、あ、見ないで……見ないで……!」
視線から逃げるようにずり下がり、か細く震える悲鳴を上げる。
緊張で呼吸を激しくすれば、誰かが生唾を呑み込む音が響いた。
「……ユ、ユノス?」
「ぃや……いやっ……」
一歩こちらに踏み出してくる足音。壁に阻まれて追い詰められているフリをしていると、無遠慮なニールの手によってカチリと照明のスイッチが押された。
隅々まで照らされた部屋。眩しそうに細められた王子の目が直後、驚愕に見開かれた。
「こ、これは!? どういうことだ!」
この場で起こったことが何のフィルターにもかけられることなく連中の目に晒される。引き千切られた服、屑共が馬鹿の一つ覚えのように放った精子、そしてユノスの血。
「お、俺はこんなことを命じていないはずだ! なぜ……うそだ、こんな、ありえない!」
王子の取り乱しように頭の中がスッと冷えていく。
ああ、そういうこと。レイプまでは流石に指示してなかったんだ。なら、あの屑共の勝手な判断か、おおよそニールの仕業。
ただ、そんなことはどうでもいい。
あんたが受け入れられなくとも、間違いなくこれが現実。
「……殿下が、命じた……?」
「ち、違う。ユノス、信じてくれ、俺は決してこんなことをするつもりでは……っ」
「…………信じる……? そんな……そんなの……。もう、僕は……、僕は、」
神子にはなれないのに――。
この世の者と体を繋げれば穢れとなる。そして光の属性は忽然と消える。
「神子に、なれない? おまえはすでに純潔ではなかっただろう! それを、……そうか、あいつらをたぶらかして――」
「純潔ではなかった……? 誰がそんなことを……」
「そ、それはニールが、おまえがアーロンと行為を、していたと……」
「アーロンと?」
アーロンはユノスの護衛であり、神殿が派遣した騎士だ。
だが、こうしてユノスが暴漢に襲われたのはアーロンが守るべきユノスを裏切ったからだった。
「……殿下は、彼の、ニールの言い分を信じるのですか? 婚約者の僕ではなく……?」
「――っ、」
頬を静かに涙が伝った。これは僕ではなくユノスの流した涙かもしれない。愛する人に信じてもらえない虚しさに、僕の心にまでぽっかりと穴が空いたみたいだった。
ああ、可哀想なユノス。こんな男に未来を潰されてしまうなんて。
僕は破かれた服を手繰り寄せ、外套を羽織った。こんな屑共に体をこれ以上見られたくなかった。
立ち上がれば、中に出されたものが内腿を伝い落ちて、その気持ち悪さに鳥肌が立つ。でも今はそんなことよりも、こいつに、この屑に、現実を突きつけてやりたかった。
痛む足を引き摺りながら王子に近づく。そして目の前に立って、伏せていた瞼をゆっくりともち上げた。視界には綺麗な、ユノスが愛していた空色があって――。僕はその瞳を虚ろに見つめた。
「……あなたのために守ってきた純潔を、こんなふうに散らされるなんて……」
瞼を閉じれば、ツと涙が頬をこぼれ落ちる。
僕はそのまま彼の横を通り過ぎ、振り返らずに部屋を出た。屑共の中に僕に声をかけてくるような馬鹿がいなかったことだけが幸いだった。
しばらく壁伝いに歩いて、角を曲がったところで立ち止まる。
「なーんてね」
笑いを堪え切れず、口を押さえてその場にしゃがみ込んだ。クククと喉が震える度に体に激痛が走ってもう最悪。
でもしょうがない。王子の絶望した顔が可笑しくて可笑しくて。ってか絶望していいのはユノスだけだろ? おまえにそんな権利なんてねーよ。
「屑が」
吐き捨てた途端、視界がぐらりと揺れる。座っているのに目が回る。流石にこの体は限界だったらしい。僕の意識はそのままブラックアウトした。
ガンガンと頭まで響くような衝撃に僕は目が覚めた。
よく知っている、内臓を乱暴に突き上げられる感覚。体を折り畳まれ、圧し掛かられて、孔をオナホのように使われる。手には性器を握らされ、口にも突っ込まれる。こちらを顧みることなく続けられる暴力。
そう僕はただ性欲を満たすための玩具で……
――あれ、僕、これが嫌で命を断ったはずなのに。
見たくもない顔を見てしまうからと、いつもは頑なに閉じている瞼をうっすらと開いた。
そこには見たこともない男の顔。くすんだ茶髪にごつい体であいつらとは違った。周りの男たちも似たような体つきの全く知らない顔ぶれだった。
「急に大人しくなりやがって」
「ま、ヤりやすいから良いだろ」
「俺は悲鳴上げてる方が好きだけどなぁ」
「おまえの趣味なんて聞いてねぇよ」
外国人のように見えているのに、日本語を流暢に話していて違和感しか覚えない。でも、レイプされていることだけはわかった。
それを認識すると同時に、体と五感がラジオのチャンネルを合わせたかのようにぴたりと合致した。
「う、あ……っ」
途端に体が痛みを訴え、どこから発生したのかもわからない悲しみと恐怖が脳に流れ込んできたのだ。自分の記憶と誰かの記憶が入り乱れ掻き混ぜられて、心に塗りたくられる。その苦痛を伴う不快感に歯を喰いしばった。
『触るな! 僕に触るな!』
『助けて、殿下!』
『おねがい、やめて。やめて』
愛しい人に助けを求める悲痛な叫び。それがこの口から発せられた最期の言葉だった。
――ああ、僕乗り移ちゃったんだ、この子に。
ユノス・マルベス。
伯爵マルベス家の次男。
そして、第一王子ランベルトの婚約者だった子。
この世界には光の神子という者が存在し、世界を侵す瘴気を払う役目を担う。任命されれば、その活動に身を捧げることになる。
瘴気の元凶である魔王の発生が予言されたため、光の属性を持っていたユノスがその神子になる任を受けた。そして、報酬としてランベルトと婚約したのだ。
神子は神殿にて神降ろしのような儀式を行い、毎日祈りを捧げる。魔王討伐後も世界に飛散した瘴気を払い続けるため、一生を費やすこともある。人と会うにも、外出するにも護衛がつき、何をしようにも許可がいる。その前に自分の我儘を通すこともできない。神子はそんな制限だらけのつまらない人生を歩むのだ。
ユノスはそれでも良かった。ランベルトを愛していたから。
伯爵家では王子の妻になるなど夢のまた夢。ユノスにとってはまたとない機会で、ランベルトの側室になろうとも、彼が会いに来てくれさえすればいい。そうすれば自分は頑張れるからと。
そう思っていた。
しかし、ある人物がそれを邪魔した。神子の適性があると平民から神子のスペアとして選出されたニールという少年。彼は神殿を後見人として貴族の学園に入り、その天真爛漫さと愛らしい容姿によって次々とランベルトの側近など周囲の人物をオトしていった。
ニールが得体のしれない力を持っていると気付いたユノスはニールに何度も警告し、ランベルトに何度も訴えた。そんな者を信じてはいけないと。
ただ、それが裏目に出てしまった。
執拗なユノスに対して不審を抱き始めた王子に、ニールが悪い噂を吹き込んだのだ。側近たちもすべてニールに陥落されていたためただのイエスマンであり、噂を否定する者はいなかった。
そして、ニールが暴漢に襲われるという事件が起こった。強姦未遂でニールは事なきを得たが、ユノスが教唆したのだろうと当然噂が立った。確証がないためユノスは捕まりこそしなかったけれど、ほとんど罪人のように見られることになってしまった。勿論それはユノスがやったことじゃない。ニールの策略でしかないことはわかり切っていたのに。
僕は男たちが満足し行為を終わらせるのをひたすら待った。
こんなの僕にしたら慣れたものだったけど、この体は初めて他人のモノを受け入れて悲鳴を上げていた。これ以上抵抗しても痛みが増すだけ。それにもう暴れたとしてもこの子は戻ってこない。絶望し、この世界にいることを拒んだ。
純粋で、哀れで、あんな馬鹿な男のために必死で生きたこの子はもう……。
涙腺が壊れたみたいに涙が溢れ頬を伝い落ちる。自分の痛みとこの子の痛みが重なって、心が張り裂けそうだった。
「っ……こういうのって、最悪な事態になる前に回避していくものじゃないの? この世界には役立たずの神しかいないのかよ……っ」
それとも、慣れっこの僕ならこんなことされても平気だと思ってるの?
男たちが去った後、散らばった服をかき集める。震える指を叱咤しながら袖を通していると、廊下から複数の笑い声が聞こえ、僕は耳を澄ませた。
「こっちに、来る……?」
見られたら面倒なことになる。そうわかっているものの、この子の恐怖心に当てられた体は固まってうまく動かない。
そうこうしているうちにも足音は部屋の前で止まり、扉が躊躇なく開けられた。
「ニールの気持ちがわかったか?」
入ってきた途端に放たれた第一声。それはユノスが愛してやまないランベルトの声だった。
でも、僕はその一言ですべてを察した。
この暴行事件を仕組んだ犯人。ユノスを貶めて神子の座を捨てさせようとしたのが誰なのか。
腹の底にどろりとした黒い感情が溜まっていく。この子がどれだけ恐怖を味わったのか。絶対に失ってはならない大切なものを最後まで守ろうと抵抗し、助けを求めた彼の気持ちを。
――ユノスの純愛を踏みにじったこの屑共に思い知らせてやる。
それが自分の感情なのか、ユノスの恨みを引き継いでしまったために沸いたものなのか、区別はつかなかった。
でも、そんなのはどうでもよかった。
連中は逆光で僕の姿が見えないらしく、ぞろぞろとニールを中心に部屋へ入ってくる。
「……ひッ」
僕は恐怖に顔を歪めた。そして、どろりとした体液が付着し、力任せに掴まれた所為で痣が浮き出た足をわざと目につくように投げ出した。
「ユノス、そろそろ白状したらどうだ」
「……で、殿下……? ぁ、あ、見ないで……見ないで……!」
視線から逃げるようにずり下がり、か細く震える悲鳴を上げる。
緊張で呼吸を激しくすれば、誰かが生唾を呑み込む音が響いた。
「……ユ、ユノス?」
「ぃや……いやっ……」
一歩こちらに踏み出してくる足音。壁に阻まれて追い詰められているフリをしていると、無遠慮なニールの手によってカチリと照明のスイッチが押された。
隅々まで照らされた部屋。眩しそうに細められた王子の目が直後、驚愕に見開かれた。
「こ、これは!? どういうことだ!」
この場で起こったことが何のフィルターにもかけられることなく連中の目に晒される。引き千切られた服、屑共が馬鹿の一つ覚えのように放った精子、そしてユノスの血。
「お、俺はこんなことを命じていないはずだ! なぜ……うそだ、こんな、ありえない!」
王子の取り乱しように頭の中がスッと冷えていく。
ああ、そういうこと。レイプまでは流石に指示してなかったんだ。なら、あの屑共の勝手な判断か、おおよそニールの仕業。
ただ、そんなことはどうでもいい。
あんたが受け入れられなくとも、間違いなくこれが現実。
「……殿下が、命じた……?」
「ち、違う。ユノス、信じてくれ、俺は決してこんなことをするつもりでは……っ」
「…………信じる……? そんな……そんなの……。もう、僕は……、僕は、」
神子にはなれないのに――。
この世の者と体を繋げれば穢れとなる。そして光の属性は忽然と消える。
「神子に、なれない? おまえはすでに純潔ではなかっただろう! それを、……そうか、あいつらをたぶらかして――」
「純潔ではなかった……? 誰がそんなことを……」
「そ、それはニールが、おまえがアーロンと行為を、していたと……」
「アーロンと?」
アーロンはユノスの護衛であり、神殿が派遣した騎士だ。
だが、こうしてユノスが暴漢に襲われたのはアーロンが守るべきユノスを裏切ったからだった。
「……殿下は、彼の、ニールの言い分を信じるのですか? 婚約者の僕ではなく……?」
「――っ、」
頬を静かに涙が伝った。これは僕ではなくユノスの流した涙かもしれない。愛する人に信じてもらえない虚しさに、僕の心にまでぽっかりと穴が空いたみたいだった。
ああ、可哀想なユノス。こんな男に未来を潰されてしまうなんて。
僕は破かれた服を手繰り寄せ、外套を羽織った。こんな屑共に体をこれ以上見られたくなかった。
立ち上がれば、中に出されたものが内腿を伝い落ちて、その気持ち悪さに鳥肌が立つ。でも今はそんなことよりも、こいつに、この屑に、現実を突きつけてやりたかった。
痛む足を引き摺りながら王子に近づく。そして目の前に立って、伏せていた瞼をゆっくりともち上げた。視界には綺麗な、ユノスが愛していた空色があって――。僕はその瞳を虚ろに見つめた。
「……あなたのために守ってきた純潔を、こんなふうに散らされるなんて……」
瞼を閉じれば、ツと涙が頬をこぼれ落ちる。
僕はそのまま彼の横を通り過ぎ、振り返らずに部屋を出た。屑共の中に僕に声をかけてくるような馬鹿がいなかったことだけが幸いだった。
しばらく壁伝いに歩いて、角を曲がったところで立ち止まる。
「なーんてね」
笑いを堪え切れず、口を押さえてその場にしゃがみ込んだ。クククと喉が震える度に体に激痛が走ってもう最悪。
でもしょうがない。王子の絶望した顔が可笑しくて可笑しくて。ってか絶望していいのはユノスだけだろ? おまえにそんな権利なんてねーよ。
「屑が」
吐き捨てた途端、視界がぐらりと揺れる。座っているのに目が回る。流石にこの体は限界だったらしい。僕の意識はそのままブラックアウトした。
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