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第5章。「魔族の血が宿りし者」

4、魔族の血が宿りし者(012)ー毒入りカレーつづきーー

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--魔族の血が宿りし者(012)--
--毒入りカレー(3)--

裕也は、食堂の席に着いた。
カレーライスをテーブルに置く。
ゆっくり座る。
なにげない見慣れた風景である。
彼はカレーライスを一口食べる。
(味は、まぁまぁかなぁ)
彼は、一口、二口、…、半分食べた。
彼は、意識が遠のいていく。
(だめだ、目眩めまいがする。)
(でも、最後まで食べないと食べ物を粗末そまつにしてはいけない)
彼は、思った。
もう一口食べようとする。
(無理だ)
裕也は、ふらつきながらも立ち上がり、
カレーライスを捨て、食器を定位置に置いた。
そして、食堂をでた。
(うぅ。吐き気がする)
お手洗いに向かった。
彼は大きい方を出す個室のトイレに入った。
「バタン」
体は、素直にカレーを拒否した。
裕也は、便器のふちに両手をつき体を支えた。
苦しさとは別にのどからカレーライスは出ていく。


--毒入りカレー(4)--

裕也は、食べたものを便器に吐いた。
「オエェ オエェ オエェ」
(何かにあたったのかなぁ)
全部吐き終わると、ふらつきながらも自分の部署ぶしょまでもどった。
(熱が出てる。でも、先よりましになった)
裕也の体の中では、魔族の血が、毒と戦っていた。
魔族の血と言っても、リアルに裕也の血が何か変わったわけではない。
しかし、裕也の血に妖精と言うか、神と言うか。
そのようなものが乗りついたと言うか。
魔力を持ったというか。要は、魔族の血が宿り超自然の抵抗力を持ったのである。

それは、仏様の守護しゅごでもある。
しかし、彼は熱が出て気分が悪い。
裕也は、冷静になれない頭で必死に考えようとした。
やり残した仕事があった。
でも、それが出来ないことは、裕也自身よく分かっていた。
(普通の腹痛ではない。
 問題は、お腹と言うより、頭がふらつく)
(しかたない)
裕也は決断した。

彼は、仕事を早退することを決めたのである。
「係長。気分が悪いので帰ります」
「気を付けて帰りなさい」
係長は、素直に受け入れた。
何かを知ってる様子で裕也をあわれんだ。
(彼、最近、おかしな宗教をしているらしい)
裕也は、壁にしがみつき、会社のビルをやっとのことで出た。
残念なことに、
彼は、貧乏性と言うべきか病院に行くという気は、少しも浮かばなかった。

--毒入りカレー(5)--

裕也は、もうろうとかすむ意識の中、帰りの電車の中に座っていた。
(今日は、電車がすいてるな。
 あ。そうか。
 早退だからか)
ふと、向かいの左隅を見た。
白衣の人が座っている。
(彼は、私を見てる。
 どっかで見たようなぁ。
 あ。食堂の従業員の人。かな。
 彼は、私を心配して私を見に来たのだろう)
裕也は、微笑んでみせた。

暗殺僧ヤァーは、結果を見届けに来たのだ。
(彼は、生きている。
 私を見ている。
 なんで、微笑んでいるんだ。
 なぜだ。死にかけているんだぞ。
 不安も。恐怖心も感じていないのか。
 あの人は、本当に普通の人だ。
 そう言うより守られている)
ヤァーは、敗北を感じた。
自分が悲しくなった。

(俺は、誰を殺そうとしているんだ。
 あの人は、悪魔などではない)
ヤァーは、裕也を殺せなくて良かったと考えた。

つづく。

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