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第五話・子どもができても逃げられない
異世界で達者に暮らしなさい
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あの夜を境に、息子は完全に父を憎むようになった。ドーエスの飲み物に毒物を混入しようとしたり、即死のトラップを仕掛けようとする息子を発見するたびに
「お父様はそれくらいじゃ死なない。命が惜しければ何もするな」
とナンデは必死の形相でヒーロに言い聞かせた。
しかしそれでもヒーロは、いつか強くなってドーエスを殺す。そして母上を自由にして差し上げるんだと言って聞かない。
自分にはヒーロを止められないと悟ったナンデは、召喚師に頼んで息子を異世界に逃がすことにした。この世界にいる限りはドーエスの予言どおり、いつか父に歯向かって返り討ちにされるとしかナンデにも思えなかったからだ。
「わぁぁん!? どうしてですか、母上!? 悪いのは父上なのに! どうして僕を遠くへやるのですか!?」
号泣する我が子に、ナンデは疲れ切った顔で
「あなたがお父様を殺すと言って聞かないからよ。だけどこれはあなたの身を護るためにするのよ。お願いだからお父様を殺すのは諦めて、異世界で達者に暮らしなさい」
もちろんまだ7歳の子どもを、1人で異世界には行かせられない。ナンデは護衛兼教育係として、
「頼んだわよ、ランギャク。ヒーロが独り立ちできるまで護ってあげてね」
「お任せください」
ランギャクという名の凄腕の戦士に息子を託し、召喚士のゾーハンに異世界へと送らせた。
ナンデははじめ、ヒーロは行方不明になったことにしようとした。息子を異世界に逃がしたことを、ドーエスに反逆だと思われたら自分が殺されるかもしれないからだ。しかしドーエスを欺き切れるはずがなく、けっきょくは白状させられて
「ほう? 私に無断で息子を異世界に送るとは、臆病なそなたがずいぶん思い切ったものだな?」
「すみません。あの子が生まれた時、処分しても構わないとおっしゃっていたので、異世界に捨てるのも処分のうちかと」
「つまり私からあれを護るために逃がしたのではなく、育て切れないから捨てたと?」
その確認にナンデは、頷きかけた首をギシッと止めた。ドーエスの意向に逆らうのもマズいが、息子を捨てたと言えば「それでも母親か?」と殺されるかもしれない。
(どう答えるのが正解なのぉぉ!? ドーエス様のキルラインが未だに分からない~!)
内心で頭を抱えながら、口をパクパクさせるナンデに
「答えずともよい。そなたの親心は買ってやろう。いざという時に庇い切れないから、あれが愚を犯す前に私から遠ざけたそなたの判断もな」
ドーエスはナンデを落ち着かせるように頭を撫でたが、
「……ただそなたの親心が、あれに通じるかは別だが」
「えっ? なんて?」
意味深な呟きに、ナンデは思わず素で聞き返した。しかしドーエスはニッコリと笑って
「それより邪魔者が消えて、今日からはまた夫婦水入らずだな、ナンデ?」
「はぇっ!?」
ドーエスはナンデの顎を固定すると、ジッと目を覗き込んで
「正直あれが居た時は、そなたの注意が分散されるのが不満だった。今日からは以前のように私だけに集中しろ。今日までは無事に生きられても、明日からもそうとは限らないのだからな」
激しい情交の訪れを告げる深い口づけに、ナンデは「んぐぅ」と涙目になった。ドーエスとは数え切れないほど、そういうことをしている。しかし危険に敏感なナンデは未だに、少しでもドーエスの機嫌を損ねれば、自分の首など簡単に飛ぶと分かっている。だから夫の腕に抱かれるだけで、冷や汗と震えが止まらないのだった。
「お父様はそれくらいじゃ死なない。命が惜しければ何もするな」
とナンデは必死の形相でヒーロに言い聞かせた。
しかしそれでもヒーロは、いつか強くなってドーエスを殺す。そして母上を自由にして差し上げるんだと言って聞かない。
自分にはヒーロを止められないと悟ったナンデは、召喚師に頼んで息子を異世界に逃がすことにした。この世界にいる限りはドーエスの予言どおり、いつか父に歯向かって返り討ちにされるとしかナンデにも思えなかったからだ。
「わぁぁん!? どうしてですか、母上!? 悪いのは父上なのに! どうして僕を遠くへやるのですか!?」
号泣する我が子に、ナンデは疲れ切った顔で
「あなたがお父様を殺すと言って聞かないからよ。だけどこれはあなたの身を護るためにするのよ。お願いだからお父様を殺すのは諦めて、異世界で達者に暮らしなさい」
もちろんまだ7歳の子どもを、1人で異世界には行かせられない。ナンデは護衛兼教育係として、
「頼んだわよ、ランギャク。ヒーロが独り立ちできるまで護ってあげてね」
「お任せください」
ランギャクという名の凄腕の戦士に息子を託し、召喚士のゾーハンに異世界へと送らせた。
ナンデははじめ、ヒーロは行方不明になったことにしようとした。息子を異世界に逃がしたことを、ドーエスに反逆だと思われたら自分が殺されるかもしれないからだ。しかしドーエスを欺き切れるはずがなく、けっきょくは白状させられて
「ほう? 私に無断で息子を異世界に送るとは、臆病なそなたがずいぶん思い切ったものだな?」
「すみません。あの子が生まれた時、処分しても構わないとおっしゃっていたので、異世界に捨てるのも処分のうちかと」
「つまり私からあれを護るために逃がしたのではなく、育て切れないから捨てたと?」
その確認にナンデは、頷きかけた首をギシッと止めた。ドーエスの意向に逆らうのもマズいが、息子を捨てたと言えば「それでも母親か?」と殺されるかもしれない。
(どう答えるのが正解なのぉぉ!? ドーエス様のキルラインが未だに分からない~!)
内心で頭を抱えながら、口をパクパクさせるナンデに
「答えずともよい。そなたの親心は買ってやろう。いざという時に庇い切れないから、あれが愚を犯す前に私から遠ざけたそなたの判断もな」
ドーエスはナンデを落ち着かせるように頭を撫でたが、
「……ただそなたの親心が、あれに通じるかは別だが」
「えっ? なんて?」
意味深な呟きに、ナンデは思わず素で聞き返した。しかしドーエスはニッコリと笑って
「それより邪魔者が消えて、今日からはまた夫婦水入らずだな、ナンデ?」
「はぇっ!?」
ドーエスはナンデの顎を固定すると、ジッと目を覗き込んで
「正直あれが居た時は、そなたの注意が分散されるのが不満だった。今日からは以前のように私だけに集中しろ。今日までは無事に生きられても、明日からもそうとは限らないのだからな」
激しい情交の訪れを告げる深い口づけに、ナンデは「んぐぅ」と涙目になった。ドーエスとは数え切れないほど、そういうことをしている。しかし危険に敏感なナンデは未だに、少しでもドーエスの機嫌を損ねれば、自分の首など簡単に飛ぶと分かっている。だから夫の腕に抱かれるだけで、冷や汗と震えが止まらないのだった。
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