119 / 173
・・・
しおりを挟む
「──今戻った」
背後から突然、耳触りの良い愛しい声が聞こえ、幸成は我に返った様に後ろの勝手口へ振り返った。
「…………琥珀……」
「どうした?そんな幽霊でも見た様な顔して…」
銀の髪を後ろで纏め、小脇に抱えるように持った籠には山で採ってきたのだろう、茸や山菜が山のように入れられている。
そしてその一番上には、淡い黄色の花が一輪乗っている。
長い指が幸成の頬に掛かる髪を優しく耳に掛け、慈しむ様にその温かい頬を撫でた。
「疲れているか?」
「───え…………あ……いえ……そういう訳じゃ……」
頬に触れる指が心地好く感じ、その上から手で覆うと幸成は瞼を閉じた。
何故か胸の中を占める焦燥感と不安が、湿気を含んだ黒い靄の様に渦巻いていく。
「……どうした?何かあったか?」
心配そうな声が酷く愛おしく思えて、幸成は目を開けると、声だけではなく自分を気遣うように見つめる琥珀へ微笑んだ。
身体の中に渦巻く不安がなんなのか、自分でも解らない。
酷く嫌な夢を見た後の様に、どうしようもない不安に本当はすぐにでも琥珀に抱きしめて欲しかった。
しかし、そんな事を言えば琥珀まで不安にしてしまうかもしれない。
「何もありません」
感情を隠すことには慣れている。
幼い頃からそうして生きてきた。
「………今の時期は……水仙が綺麗に咲くんだ。お前に見せてやりたかった……」
「…………え……」
温かい腕が不意に背中に回され、幸成の身体を抱き寄せた。
「……帰りが遅くなってすまなかった」
口付けするように髪に埋められた口から囁かれた言葉に、胸が締め付けられる様に痛んだ。
隠していても琥珀には分かってしまう。
いつもならそれが嬉しくて、胸が熱くなる。
それが今は何故か苦しくて、身体に渦巻いている靄を一層色濃くした。
抱きしめる腕の強さが、その温もりさえも苦しい。
「……謝らないでください……俺は…大丈夫です」
「………そうか?」
「……はい………」
それでも離そうとしない琥珀に、僅かに躊躇いながら幸成はもう一度口を開いた。
「あの……本当に俺…大丈夫ですから……」
「ああ。そうだな」
そう言いながら籠の持っていない腕が離される気配すらなく、幸成も温かい背中に腕を回した。
不安の正体が解らない。それでも琥珀はそれに気付き抱きしめ安心させようとしてくれている。
抱きしめる胸から琥珀の匂いがする。
「………琥珀……?」
「ん?」
「……愛してます…」
何度言っても言い慣れない言葉に顔が熱くなる。
「ああ……」
抱きしめる腕の力が痛い程強くなり、不意に甘ったるい香りが鼻についた。
───この……匂いは…………
鼓動が一気に早くなる………。
───琥珀………
「……俺も愛してる──幸成」
無意識に見上げた瞳に、見慣れた顔が映った。
自分を蔑むように見つめる眼差し…………。
「…………兄上……」
背後から突然、耳触りの良い愛しい声が聞こえ、幸成は我に返った様に後ろの勝手口へ振り返った。
「…………琥珀……」
「どうした?そんな幽霊でも見た様な顔して…」
銀の髪を後ろで纏め、小脇に抱えるように持った籠には山で採ってきたのだろう、茸や山菜が山のように入れられている。
そしてその一番上には、淡い黄色の花が一輪乗っている。
長い指が幸成の頬に掛かる髪を優しく耳に掛け、慈しむ様にその温かい頬を撫でた。
「疲れているか?」
「───え…………あ……いえ……そういう訳じゃ……」
頬に触れる指が心地好く感じ、その上から手で覆うと幸成は瞼を閉じた。
何故か胸の中を占める焦燥感と不安が、湿気を含んだ黒い靄の様に渦巻いていく。
「……どうした?何かあったか?」
心配そうな声が酷く愛おしく思えて、幸成は目を開けると、声だけではなく自分を気遣うように見つめる琥珀へ微笑んだ。
身体の中に渦巻く不安がなんなのか、自分でも解らない。
酷く嫌な夢を見た後の様に、どうしようもない不安に本当はすぐにでも琥珀に抱きしめて欲しかった。
しかし、そんな事を言えば琥珀まで不安にしてしまうかもしれない。
「何もありません」
感情を隠すことには慣れている。
幼い頃からそうして生きてきた。
「………今の時期は……水仙が綺麗に咲くんだ。お前に見せてやりたかった……」
「…………え……」
温かい腕が不意に背中に回され、幸成の身体を抱き寄せた。
「……帰りが遅くなってすまなかった」
口付けするように髪に埋められた口から囁かれた言葉に、胸が締め付けられる様に痛んだ。
隠していても琥珀には分かってしまう。
いつもならそれが嬉しくて、胸が熱くなる。
それが今は何故か苦しくて、身体に渦巻いている靄を一層色濃くした。
抱きしめる腕の強さが、その温もりさえも苦しい。
「……謝らないでください……俺は…大丈夫です」
「………そうか?」
「……はい………」
それでも離そうとしない琥珀に、僅かに躊躇いながら幸成はもう一度口を開いた。
「あの……本当に俺…大丈夫ですから……」
「ああ。そうだな」
そう言いながら籠の持っていない腕が離される気配すらなく、幸成も温かい背中に腕を回した。
不安の正体が解らない。それでも琥珀はそれに気付き抱きしめ安心させようとしてくれている。
抱きしめる胸から琥珀の匂いがする。
「………琥珀……?」
「ん?」
「……愛してます…」
何度言っても言い慣れない言葉に顔が熱くなる。
「ああ……」
抱きしめる腕の力が痛い程強くなり、不意に甘ったるい香りが鼻についた。
───この……匂いは…………
鼓動が一気に早くなる………。
───琥珀………
「……俺も愛してる──幸成」
無意識に見上げた瞳に、見慣れた顔が映った。
自分を蔑むように見つめる眼差し…………。
「…………兄上……」
0
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる