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2章 初任務
#9 洞窟の魔力
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体を丸めながら見上げると、レンは立ったままで向こう側をじっと見つめていた。レンはしゃがむと、ベティの両肩を掴んで立たせた。
「大丈夫。ゆっくり歩いて、進もう。原因を突き止めないと、出口は塞がったままだからね」
ベティは両肩に手を当てられたまま歩いた。触れられる手はひどく冷たかった。歩けば歩くほど震えてくる。寒いのではない。悪寒がするのだ。
やがて二人はこちらに背を向けて座り込んでいる魔術士を見つけた。その魔術士は女性で、何かをぶつぶつと呟いていた。歳は14.15くらいで、伸びきった茶髪の髪の毛がぼさぼさと絡まっていた。
「……してやる……絶対に殺してやる……」
覆っていた氷の色がルビー色に変化する。ここで待ってて、とレンはその場にベティを座らせると、その少女の元へと歩いていった。
「母さんを……あいつら……絶対に私が……」
頭を抱えながら呻く少女の体をレンはひしと抱きしめた。少女はレンが思っていたよりもずっと小さかった。
「かたきは取った」
「どうして、どうして?何も悪いことなんかしてないのに。どうして母さんが」
「憎しみに駆られちゃ駄目だ。……俺達は負けないよ、家族を奪った奴らのことをこれからだって許さない。それは俺も君も同じだ」
「……貴方は、レン・グレイ?」
殺気に満ちていた少女の顔がみるみるうちに柔らかくなり、そして涙を流した。少女は声を上げて泣いた。ルビー色の氷が元の色に戻り、そして徐々に溶けていった。それとともにベティの悪寒も治まった。
少女は気を失って、レンの腕の中にぐったりと倒れた。レンは少女をおぶってベティに言った。
「帰ろう。ベティ先頭を歩いてくれ」
「その子は?」
「連れていく。ここに置いていけないからね」
涙の跡が残ったままの少女の顔は、不思議と可愛らしく見えた。
森はもう道が完成していて、一行は帰路を急いだ。少女をおぶったまま歩いているレンを見て、体力は大丈夫なのかとツバサは少し心配した。ベティは疲れきったような顔をしてとぼとぼと歩いていた。そんな彼女にアルルは声をかけた。
「ねえベティ見てよこの写真。さっきベティ達が探索に行っている間に飛んでいた動物なの。これって珍獣になるかな」
アルルが差し出した写真に映っていたのは、鳥だった。大きな翼を持って、何故か体は鳥というよりも猛獣―ライオン―のように見えた。顔も鳥ではない。
「何だか気味の悪い鳥ね。初めて見たよこんな生き物」
「珍獣は多分大蛇様だからな」
迷いの森を抜けると、一同は別行動を取る事になった。レクタングルの王宮にある救済シェルターに向かうため、レンはハネハネを起動させた。おぶっていた少女をゆっくりとハネハネに座らせるようにレンが置くと、アルルが様子を伺いつつ声をかけた。
「その子、シェルターに連れて行くんでしょう?私も行こうか?1人だと……それに同性が居た方がその子も」
「あ、ああ……そうだね。ありがとう、アルル。ただこの子結構混乱をしていて。ベティのことは認識していたから、ベティの方が良いかも。ベティ、一緒に来てもらえる?」
「え、あ、私が行くの?まあ、大丈夫だけど……」
じゃあまた後で、とレンとベティは残った2人に手を振った。
アルルとツバサは気を取り直し、依頼人の元へと向かった。無事、依頼人に届いたジュエルフルーツは三つ。その為報酬は少なかったが、珍獣の写真を見せると野菜をプレゼントしてくれた(依頼人は農家だった)。実際アルルが撮った珍獣は迷いの森の珍獣ではないそうだが、珍しい動物で気に入ったということで、無事に初めての依頼が完了した。
レクタングルの救済シェルターは、常に人がひっきりなしに出入りしていた。別世界には、戦闘を始めとしたその他原因不明で倒れている魔術士や様々な種族を、一時的に受け入れる場所として、救済シェルターという機関が存在していた。
「着いたは良いけど、この子名前も分からないわね」
「うん……ちょっと失礼して」
レンが少女のローブのポケットに手を入れた。手に触れるのは物騒な武器ばかりだった。身分が分かりそうなものは見つからなかった。
「んん……」
「彼女起きそうよ」
「……ここは」
「大丈夫、救済シェルターまで来たんだ。君の名前は?」
「……私は、スズナです。レジスタンスの……とても眠くて目が」
スズナね、とベティは自分に言い聞かせるように繰り返した。レンはスズナの両手を握ると、覗き込むようにして目を合わせた。スズナの頬がかすかに赤くなる。
「ゆっくりここで休んで。体力を温存して。元気に、良いね?」
「はい、レンさん……この恩は、きっと、いや必ず、お返しさせてください。あなたも」
ぼうっとレンとスズナのやり取りを眺めていたベティは、いきなり話しかけられ慌てて頷いた。
「ええ、ちゃんと食べて、回復してね」
「お名前は」
「私はベティよ」
そこまでスズナは把握すると安心したのか、また眠りについた。その後、レンに横抱きにされて運ばれ、救済シェルターの受付を済ませた。ベティはレンの運転するハネハネに乗っている時、沈黙に耐えきれず何となく尋ねた。
「あの子、これからどうするの?」
「また少ししてから、シェルターを訪ねてみるよ。でも心配することは無い。元気になれば、1人で出ていくと思う、きっと」
「どこか行くあてがあるとか?」
「……ああ、そうだね。だからスズナは大丈夫。ありがとうベティ、付き合ってくれて」
ベティはそれ以上何も聞かなかった。レンはアルルともツバサとも違う。その年相応でない冷静さが、改めてベティには少し気味悪く感じた。
「大丈夫。ゆっくり歩いて、進もう。原因を突き止めないと、出口は塞がったままだからね」
ベティは両肩に手を当てられたまま歩いた。触れられる手はひどく冷たかった。歩けば歩くほど震えてくる。寒いのではない。悪寒がするのだ。
やがて二人はこちらに背を向けて座り込んでいる魔術士を見つけた。その魔術士は女性で、何かをぶつぶつと呟いていた。歳は14.15くらいで、伸びきった茶髪の髪の毛がぼさぼさと絡まっていた。
「……してやる……絶対に殺してやる……」
覆っていた氷の色がルビー色に変化する。ここで待ってて、とレンはその場にベティを座らせると、その少女の元へと歩いていった。
「母さんを……あいつら……絶対に私が……」
頭を抱えながら呻く少女の体をレンはひしと抱きしめた。少女はレンが思っていたよりもずっと小さかった。
「かたきは取った」
「どうして、どうして?何も悪いことなんかしてないのに。どうして母さんが」
「憎しみに駆られちゃ駄目だ。……俺達は負けないよ、家族を奪った奴らのことをこれからだって許さない。それは俺も君も同じだ」
「……貴方は、レン・グレイ?」
殺気に満ちていた少女の顔がみるみるうちに柔らかくなり、そして涙を流した。少女は声を上げて泣いた。ルビー色の氷が元の色に戻り、そして徐々に溶けていった。それとともにベティの悪寒も治まった。
少女は気を失って、レンの腕の中にぐったりと倒れた。レンは少女をおぶってベティに言った。
「帰ろう。ベティ先頭を歩いてくれ」
「その子は?」
「連れていく。ここに置いていけないからね」
涙の跡が残ったままの少女の顔は、不思議と可愛らしく見えた。
森はもう道が完成していて、一行は帰路を急いだ。少女をおぶったまま歩いているレンを見て、体力は大丈夫なのかとツバサは少し心配した。ベティは疲れきったような顔をしてとぼとぼと歩いていた。そんな彼女にアルルは声をかけた。
「ねえベティ見てよこの写真。さっきベティ達が探索に行っている間に飛んでいた動物なの。これって珍獣になるかな」
アルルが差し出した写真に映っていたのは、鳥だった。大きな翼を持って、何故か体は鳥というよりも猛獣―ライオン―のように見えた。顔も鳥ではない。
「何だか気味の悪い鳥ね。初めて見たよこんな生き物」
「珍獣は多分大蛇様だからな」
迷いの森を抜けると、一同は別行動を取る事になった。レクタングルの王宮にある救済シェルターに向かうため、レンはハネハネを起動させた。おぶっていた少女をゆっくりとハネハネに座らせるようにレンが置くと、アルルが様子を伺いつつ声をかけた。
「その子、シェルターに連れて行くんでしょう?私も行こうか?1人だと……それに同性が居た方がその子も」
「あ、ああ……そうだね。ありがとう、アルル。ただこの子結構混乱をしていて。ベティのことは認識していたから、ベティの方が良いかも。ベティ、一緒に来てもらえる?」
「え、あ、私が行くの?まあ、大丈夫だけど……」
じゃあまた後で、とレンとベティは残った2人に手を振った。
アルルとツバサは気を取り直し、依頼人の元へと向かった。無事、依頼人に届いたジュエルフルーツは三つ。その為報酬は少なかったが、珍獣の写真を見せると野菜をプレゼントしてくれた(依頼人は農家だった)。実際アルルが撮った珍獣は迷いの森の珍獣ではないそうだが、珍しい動物で気に入ったということで、無事に初めての依頼が完了した。
レクタングルの救済シェルターは、常に人がひっきりなしに出入りしていた。別世界には、戦闘を始めとしたその他原因不明で倒れている魔術士や様々な種族を、一時的に受け入れる場所として、救済シェルターという機関が存在していた。
「着いたは良いけど、この子名前も分からないわね」
「うん……ちょっと失礼して」
レンが少女のローブのポケットに手を入れた。手に触れるのは物騒な武器ばかりだった。身分が分かりそうなものは見つからなかった。
「んん……」
「彼女起きそうよ」
「……ここは」
「大丈夫、救済シェルターまで来たんだ。君の名前は?」
「……私は、スズナです。レジスタンスの……とても眠くて目が」
スズナね、とベティは自分に言い聞かせるように繰り返した。レンはスズナの両手を握ると、覗き込むようにして目を合わせた。スズナの頬がかすかに赤くなる。
「ゆっくりここで休んで。体力を温存して。元気に、良いね?」
「はい、レンさん……この恩は、きっと、いや必ず、お返しさせてください。あなたも」
ぼうっとレンとスズナのやり取りを眺めていたベティは、いきなり話しかけられ慌てて頷いた。
「ええ、ちゃんと食べて、回復してね」
「お名前は」
「私はベティよ」
そこまでスズナは把握すると安心したのか、また眠りについた。その後、レンに横抱きにされて運ばれ、救済シェルターの受付を済ませた。ベティはレンの運転するハネハネに乗っている時、沈黙に耐えきれず何となく尋ねた。
「あの子、これからどうするの?」
「また少ししてから、シェルターを訪ねてみるよ。でも心配することは無い。元気になれば、1人で出ていくと思う、きっと」
「どこか行くあてがあるとか?」
「……ああ、そうだね。だからスズナは大丈夫。ありがとうベティ、付き合ってくれて」
ベティはそれ以上何も聞かなかった。レンはアルルともツバサとも違う。その年相応でない冷静さが、改めてベティには少し気味悪く感じた。
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