魔術じゃ呪いに打ち勝てない

琥珀

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2章 初任務

#7 悪夢

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 「おい! 何がどうなってんだよ!」

  ベティは急いでローブのポケットに手を突っ込み何か無いか探ったが、そんな暇もなかった。2人は既に森を見渡せる位置に居た。果実が数えるくらいしか入っていない袋を持ちつつ、仰向きで落下しながらツバサはベティに言った。

 「まあ落ち着けよベティ。多分さっきの蛇は森の主だったんだ。だけどなぁ、ベティが得意の稲妻なんかを食らわせち――」
 「そんなことよりどうすんのよ! このままだと私達死ぬよ!」
 「だから落ち着けって。風のおかげで俺達はどうやら湖に落下するらしい。だから生きて帰れるさ。溺死しなければな!!」
 「ねえツバサ知ってる?」
 「何を」
 「あそこの湖ってね、底無し湖って呼ばれてんのよ」

  しばらくツバサは黙ったまま落下を続けた。どんどん湖が迫ってくる。どうやって泳ぐんだっけ?そんなことをベティは頭の中をフル回転させて考えていた。

 「まじかよー!!!」

  ツバサは絶叫すると、仰向けからうつ伏せに体勢を変え湖を正面に迎える形になった。そして空いている左手で魔術を発動させた。

 「っ!!」

  怪我をした腕から血がどばっと溢れ、ツバサは呻いた。黒いドロドロが大きなボートのような形に変わり、湖の水面に浮かんだ。ベティはそのボートの上に綺麗に落下した。トランポリンのように体がまた少し宙に浮いたが、すぐに止んだ。何とか助かってほっとしたのもつかの間、ツバサが消えていた。
  ボートの上には果実の入った袋が落ちていた。

 「まさか」

  ふとボートから身を乗り出すと、水面に血の色が浮かんでいるのをベティはすぐに捉えた。幸い、水中で岩にツバサのローブが引っかかっていて、底に沈むことは無かった。ベティは力ずくで引き上げ、ボートの上に一緒に倒れ込んだ。
  蛇に噛まれた傷を癒しながら、ベティはこの先のことを考える。ここは湖のど真ん中。アルルやレンは見あたらなかった。

 「どうにかしてこのボートを動かせないものか……」

  ビリビリと電気が走る自分の手を見て、あることを思いついた。このボートに自分の魔術を流して、電気ボートに変えれば動かせるかもしれない。魔術士は他人の魔術を体に少し入れることで、その魔術と融合したものを発動することができるのだ。
  ボートの縁に触れて、ツバサの魔術を自分の体の中に少し入れた。

 「あああああ!!!」

  体を貫かれたような感覚が全身に襲い、ベティは絶叫してボートの上に倒れた。ボートに触れていた手からはシュウウと煙が出ていた。今のは何だ?魔術融合は初めてではない。何度もやったことがある。杭で思い切り貫かれたようなあの痛みは今まで感じたことがない。

 「まるでツバサの魔術が私の身体を拒んでいるみたい。いや……」

  ツバサの魔術そのものが融合してはいけないものだったのかもしれない。さっき少し体内に入れただけで彼女の魔力も体力もかなり消耗していた。ベティはもう起き上がることが出来なかった。



  赤い。地面が赤い。空も何だか赤い。地上には何か生き物が沢山いた。どす黒い色や赤は赤でも暗い赤といった決して鮮やかな色ではない生き物達だった。中には手足が10本ある者もいた。首が2つある者もいた。大きな鉤爪を持った者もいた。見たことない色のローブをまといフードをかぶった魔術士もいた。気づいたときには、右にも左にも後ろにも生き物はいて、レンはその集団の中に溶け込んでいた。

 「我が子よ!」

  そう女の叫ぶ声がしたと思うと、生き物達は歓声を上げた。声のする方には冠をかぶった女がどぎつい色の玉座に座っていた。よく見ると人間の女ではなかった。頭には角が2本生えていた。両手は黒い手袋をして、足はドラゴンのように指がそれぞれ3本しかなく硬い皮膚で覆われていた。地面につくほどの長い黒髪は艶やかで美しかった。
  悪魔だ。レンは率直にそう思った。 そして彼女は"黒の女王"だ。また勝手に頭の中に情報が入ってくる。

 「我々の時代の幕開けは近いらしい!」

  また歓声が上がる。レンはきょろきょろと見回す他なかった。状況が全く掴めない。どうなっている?そしてここはどこだ?
  魔術士が近くにいた。その顔には見覚えがあった。

 「ジュリ! ジュリだね?」

  ジュリは黙ってこちらを向くと、無表情な顔で答えた。

 「私達は生き延びなければいけないんだ。私達の時代がやってくる。私達は皆兵士。そして私達は皆黒の女王の子」
 「ジュリ! ここは一体どこなんだ!」

  レンはジュリの肩を揺さぶったが、ジュリは何も答えなかった。そんなことは気にとめずに女王の声はなおも続いた。

 「武力のある者が必ず勝つ! それが世界の縮図である! 容姿も何も関係ないのだ! 強い者が勝つ! それだけのこと!」

  レンは女王と目が合ったような気がした。全身にゾワッと鳥肌が立った。

 「私達の計画を邪魔しようとする連中……"グループ"の存在を知らない者は居ないだろう。奴らのせいで私達はたくさんの仲間を失った。たくさんの魔術士が拷問に遭い監禁され無様に殺された。奴らは我々の敵!逃げてばかりなどいられるものか!」

  悪魔達の歓声の中で、レンの体がふわっと浮いた。体は悪魔達の頭上にまで浮かんで、一斉に彼らはこちらを注目した。

 「レンよ、お前は我が一族の誇りとして名に恥じない行動をしてくれた! 犠牲になった家族が喜んでおるぞ!この立派なアサシンに、闇術士に、栄光の拍手を!」
 「違う……俺はアサシンなんかじゃ……」

  叫んだはずの声は小さく、そしてあっという間に歓声にかき消された。引き寄せられるように身体が勝手に女王の元へ移動した。女王と目が合うと、何だか引き込まれる気がしてレンは慌てて目を逸らした。

 「……俺の両親は、奴らに殺されたんだ。……牢獄に捕らえられて、拷問されて……」

  勝手に口が言葉を喋っていく。忘れていた何か、ぽっかりと空いていたブランクが埋められていくような気がした。

 「奴らが憎くて仕方がない」
 「大丈夫、私達グレイの一族は必ず勝てるわ。だってこんなにも立派な家族達が揃ってるんだから!」

  また悪魔達の歓声が上がる。ようやくレンの足は地面に着いた。レンの隣に別の魔術士が立っていた。魔術士はレンの耳にはっきり聞こえるような声で言ってきた。

 「女王は裏切り者はすぐに殺す。家族の掟は絶対だ。レン・グレイ、グレイの名を持っていることを忘れるな。私はお前のことを監視している。次に私がお前の前に現れた時、必ず私はお前を殺す」
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