【本編完結】異世界まったり逃避行

ひなた

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番外編

ダンジョンへ②痕跡

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 春は冒険者が最も忙しい季節であり、ルギケネ支部も例外ではない。依頼を確認するため掲示板の近くにいたら、懐かしい声が聞こえた。
「あれ?アイザックさんにルカさん!お久しぶりです!」
「リアムか。久しぶりだな」
 リアムが満面の笑みでこちらにやってきた。思いもよらない再会に、兄さんも口角を上げている。傍目にはわかりにくいけど、これは嬉しい時の表情だ。
 リアムは僕たちの関係を知ってからも、変わらずに接してくれた気のいいやつだ。久しぶりの再会でも親しげに話しかけてもらえて安心した。

「リアム久しぶり。拠点を移したの?」
「いえ、拠点はリフケネのままです。実はこの街の近くに遺跡が発見されまして。調査依頼が入ったのでしばらく滞在してます。お二人はなぜここに?」
「あー、えーっと」
 ドラゴンを狩るためとは言えない。アファルータ王国に来たならリフケネの街に行くのが自然だと思うし。

「よく当たる予言に導かれてな」
「それ占いってことですか?奇遇ですね!実は俺もこの前彼女と行きまして。意外と楽しくてハマりそうになりました。まあ、その彼女と別れてから行ってないですけど」
 兄さんが助け舟を出してくれた。言い訳が雑すぎる気がするけど、リアムが信じてくれてよかった。それにしてもリアムの女性好きは相変わらずのようだ。

「遺跡の調査ってどんな感じ?」
「建物自体は三百年前のもので、特に珍しいわけではないみたいですが、内部の壁面が不思議な感じで。見る人によって内容が変わる壁があるらしいです」
「何かの魔法?たしかにそれは気になるね」
「ギルドの受付に行けば詳細を教えてくれると思います。できたらお二人も調査に参加してほしいです!知り合いがいないと寂しくて」
「考えておくね。とりあえず受付に行ってみる」
「はい!あ、お二人とも今夜は飲みましょう!いろいろ話を聞きたいです」

 リアムと飲む約束を交わした後、受付に向かい、調査依頼の内容を確認する。
「ここから遺跡まで馬車で五日かぁ」
「気になるのか?」
「うん。でも、さすがに移動がきついから申し訳ないなって」
「俺は構わない。調査依頼はまだ受け付けているか?」
 兄さんが僕に代わって受付に聞いてくれた。
「むしろ大歓迎です!全然人が集まらなくて困っていたところで……」
 受付の人は僕たちの気が変わらないうちにと思ったのか、ものすごい速さで受付処理をしている。
「飲みの場での話題が一つ増えたな」
「そうだね」
 兄さんと微笑み合いながら、今後の展開に胸を躍らせた。


 遺跡の調査依頼を受けてから十二日後、目の前には歴史を感じる建造物がそびえ立っている。
「特に変わったところはなさそうだけど」
「壁面見るの楽しみですね!後でどんなことが書かれていたか教え合いましょう!」
「はしゃぎすぎだ。仕事で来ていることを忘れるなよ」
「すみませんでした……この感じ懐かしいです」
 兄さんが呆れたような目でリアムを見ている。真剣な様子の兄さんには申し訳ないけど、僕もリアムに同感だ。このやり取りが懐かしくてつい笑ってしまう。
 口に手を当てて静かに笑っていると兄さんに気づかれてしまった。慌ててキリッとした顔を作ると、目尻を下げた兄さんが優しく頭を撫でてくれた。

「お二人とも相変わらずですねー」
「すまない。お前の存在を忘れていた。絶対ルカの顔を見るなよ」
「あ、はい。俺はもう何も言いません」
 リアムから生暖かい目で見守られて居た堪れない気持ちになる。今後は態度に気をつけようと思いながら、急いで持ち場に戻った。

 遺跡の内部は快適な温度で、シャツ一枚で過ごせる。通路は大人三人が並んで歩いてもゆとりのある広さで閉塞感はない。魔物の気配は感じられなかったが、膨大な魔力が漂っていた。
 学者たちはいくつかのグループに分かれて例の壁がある部屋を調査するようだ。兄さんと同じグループになれて安堵した。
 しばらく別の場所を調査していたら、僕たちグループの番になった。

 例の壁がある部屋はちょっとした会議室くらいの広さだった。テーブルと椅子を設置したら十名前後が入るくらいだ。実際は何もないがらんとした空間なので、もっと広く感じる。扉から入ると、正面にその壁があった。
「これって」
 大声が出そうになるのを無理やり抑え込む。僕はしばらく壁から目が離せなかった。壁に刻まれた文字が日本語で書かれていたからだ。深呼吸を繰り返して、日本人が残したメッセージを読み進めることにした。


『転生したらダンジョンマスターだった件~可愛い恋人が出来たら世界最強のダンジョンマスターになっちゃいました!』
 目が覚めたら何もない空間にいた。意味がわからず混乱していたら頭に衝撃が走り、唐突に自身がダンジョンマスターであることを理解した。
 これは一時期流行った異世界転生というやつだろうか。ダンジョンってゲームとかによくあるアレか?たしかに趣味はゲームだったが、最近仕事が忙しくて全然してなかった。このまま何もしないでここにいたら死ぬと本能が警鐘を鳴らしているので、行動することにする。

 どうやらダンジョンマスターというのは、ダンジョンポイントを使ってダンジョンを運営するのが仕事みたいだ。
 ダンジョンポイントは人間の魂や魔力をわかりやすく変換したもので、これと引き換えにダンジョンの拡張やモンスターの配置などを行うらしい。
 人間の魂を奪う=ダンジョン内で殺すのが手っ取り早いが、リピーターが減ることを考えたら魔力をちょっとずつ頂くほうが効率がいい気がする。

 それにあんまりやりすぎると謎の存在からダメ出しされるんだよなぁ。そいつはダンジョン内の言語を統一化することに余念がなくて、日本語が読めないと脱出できないトラップを作ったら、全身に痛みが走ってしばらくの間のたうち回った。
 あとダンジョン内の時間は必ず暦通りに流れるみたいだ。まあ俺に寿命という概念はないから、単純に季節が巡るってだけの話だが。一部のフィールドを除いて季節の影響を受けるから地形を考えるのも一苦労だ。

 ダンジョンの運営が難しすぎる。前世より頭を使って仕事をしてる気がする。これはひとりで続けるのは無理だと、ネームドモンスターを召喚し秘書兼ボスの役割を与えることに決めた。
 ネームドモンスターは通常召喚されるモンスターと違い、強さも知恵も段違いで意思の疎通が取れる。話し相手としても最適だろう。

 大量のポイントを消費して召喚を行なった。召喚陣から出る眩い光が収まったと思ったらそこにはツノが生えた美丈夫がいた。お互い軽く挨拶を交わす。美丈夫の名前は鬼丸、鬼神族という種族らしい。故郷の村でのんびり過ごしていたが召喚に応じてここに来てくれたようだ。
 最初は男が来たことにがっかりしたが、彼は感じのいい青年だった。前世でなかなかお目にかかれないレベルの美形に「マスター」と呼ばれるのは不思議な気分だ。でも悪い気はしない。これからこいつと共に頑張っていこう。

 鬼丸を秘書にしてからずいぶんと長い月日が流れた。運営は順調だ。少しの間だけならダンジョンから離れても平気になったので人間、特に冒険者達と交流を深めて定期的に情報を仕入れている。
 わかっていたが、この世界は俺がいた世界ではないようだ。そもそもダンジョンがあったり魔法がある時点で全然違う。
 人間達と交流を深めれば深めるほど、孤独感が俺を襲った。ダンジョンマスターの恩恵で精神を病むことはなかったが、解消されない孤独感はじわじわと俺を苛んでいった。

 そんなある時事件が起きた。とある冒険者パーティーがダンジョンの最深層に到達し、鬼丸がそいつらに討伐されかけたのだ。ネームドモンスターは一度討伐されたら二度と復活しない。
 冷静さを失った俺は無理やり戦闘に介入して冒険者パーティーを撤退させた。重大なルール違反を起こした俺は、謎の存在から罰を受けた。全身に激痛が走ったと思ったら、魔法が使えなくなっていた。しばらくダンジョン運営に支障がでるかもしれない。

 鬼丸は俺の行動に憤慨していた。ダンジョンモンスターはマスターのために死力を尽くして戦うことが何よりも優先される。その戦いで命を失ってもそれが彼らの存在意義であり、それを冒涜するのはたとえダンジョンマスターであっても許されないことらしい。
 鬼丸から向けられる敵意の目に、今までマスターとして取り繕っていた何かがぷつんと切れてしまった。

 俺は鬼丸に土下座しながら泣き叫んでいた。気づいたら今まで俺の身に起こったことを口に出してした。
 死んだと思ったら転生してダンジョンマスターになっていたこと、死にたくなくてダンジョン運営をしていただけで本当は人の生き死にを見るのが辛いこと、前世では戦闘とは無縁の生活を送っていたから自分の分身ともいえるモンスターを人間と戦わせることにどうしても抵抗があること、この世界の人間と交流を深めても孤独感が拭えないこと、俺にはもうダンジョンモンスターしか縋れるものがおらず特に鬼丸には絶対に死んでほしくないこと。

 いつのまにか鬼丸に抱きしめられていた。男とハグなんて気持ち悪いはずなのに、鬼丸とならいいかと思えた。鬼丸は俺に泣きながら謝ってきた。秘書なのにマスターのこと何もわかってなくてごめんなさいと、責任感が強いあいつらしい謝罪だった。
 鬼丸がこれからも俺と共に生きたいと言ってくれた。どうして俺なんかのためにそんな、と聞いたら柔らかいはにかんだような笑みで答えてくれた。

「マスターを……アキラ様をお慕い申しております」

 もうそれからの事は記憶が曖昧だ。気がついたら鬼丸を押し倒していた。時間を忘れ夢中でお互いを激しく求め合った。

 鬼丸と恋人になった俺は最強だった。吹っ切れたおかげで前世の知識を最大限に活用して最難関ダンジョンのダンジョンマスターになれた。
 謎の存在も俺のことを少し認めてくれたようだ。西大陸のほぼ中央部に位置するダンジョンを複数任されることになった。
 おそらくダンジョンというのは、謎の存在がこの世界に影響を及ぼすために作った便利施設みたいなものだろう。暦や文字、通貨が世界共通なのは謎の存在の功績だ。やつの手のひらで転がされているのは癪だが仕方ない。
 俺は恋人と共に最強の存在であり続ける。そしていつまでもふたりで仲良く寄り添いあって生きていこう。

 このダンジョン跡地に訪れた哀れな日本人へ
 前世と比べたら人の命が安いクソみたいな世界だが、それでもここで生きていくしかない。だから幸せになるために足掻いてほしい。その先に何が待っているかはわからないが、少なくとも俺は胸を張って今が一番幸せだと言える。
 俺の恋人のように、奥ゆかしいが時に大胆で小悪魔のように翻弄してくる魅力的な人物と巡りあえることを願っている。まあ、俺の恋人以上に最高の存在がいるとは思えないが。
 もしよかったら俺がいるダンジョンを訪ねてくれないだろうか。同胞と話がしてみたい。ダンジョンマスターは地球産の食品や道具を召喚できるから、今後の異世界生活の役に立つかもしれない。ぜひ検討してほしい。
 かつて同じ世界を生きた者としてお前の幸せを祈っている。元気で頑張れよ。


 表題が理解不能すぎて心配になったけど、最後まで読めてよかった。
 西大陸のほぼ中央部といえばフランディン共和国だ。フランディン共和国がダンジョン共和国と呼ばれるようになったのも彼が原因かもしれない。
 恋人の存在ってすごいな。ものすごく張り切った結果、国の根幹に影響を与えるとは驚きだ。

 ところどころ入ってくる恋人自慢にうんざりするが、前世持ちとして心に訴えかけるものがある。もし僕が兄さんに出会えていなかったら、同じような孤独感に苛まれていただろう。

 地球の食品が手に入るかもしれないと思うとダンジョンに行きたくなってきた。会ったら延々と恋人自慢をされそうだけど、そこは我慢しよう。
 今が一番幸せか。その通りだ。この殺伐とした世界で、兄さんと共に生きることが僕にとって何よりも幸福だ。

「ルカ、どうした?先ほどから様子がおかしい」
「ごめん。後でゆっくり話すね」
 僕たち以外の部屋にいる全員が、壁を夢中で眺めている。
 僕はここぞとばかりに、兄さんの手を両手で包み込んだ。温かい手が力強く存在を主張している。兄さんは僕の様子に何かを察したのか、しばらくされるがままでいてくれた。
 調査が終わって街に帰ったら思いっきり甘えようと決めて、兄さんに笑いかけた。
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