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番外編
ダンジョンへ①手紙
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これは由々しき事態だ。無限収納の中身を何度も確かめながら頭を抱える。
恐れていたことが、こんなに早く訪れるなんて。兄さんが心配そうな顔でこちらを見ている。僕は覚悟を決めて重たい口を開いた。
「ドラゴン肉が、残り二十食分しかありません」
「思ったよりも深刻な事態だった」
兄さんも頭を抱えている。わかってくれてよかった。ドラゴン肉の美味しさを知ってしまったらもう戻れない。昨日食べたドラゴン肉シチューの味を思い出して、涙が出そうになった。
「ドラゴンを狩りたいのにドラゴンがいないなんて」
「目撃情報もないしな」
この世界のドラゴンは、滅多に姿を現さない。普段はマグマの底や雪山の奥深く、底なし毒沼など過酷な環境に生息していて、気まぐれに人間の領域に立ち入る。
その気まぐれで街をいくつか壊滅させることもあるのだから、迷惑極まりない生物だ。冒険者ギルドは発見次第即報告を義務付けている。
「我慢できるかな。これから春になったら魔物討伐が増えるから、ご褒美のドラゴンステーキが食べたくなると思う」
「ならウォーロックのところに行くか?あいつなら情報を持っていそうだが」
「この前手紙が返ってきたけど、シアンくんがいなくて寂しいって内容で埋め尽くされてた。直接会ったら絶対面倒くさいよ」
「あいつらまだ留学してるのか」
「延長して来年の夏に帰るんだって。ウォーロックが、自分はハイエルフなのに一日が長くて退屈だって嘆いてた」
「重症だな。行くのはやめておこう。会ったら三日ほど愚痴で終わりそうだ」
しばらく二人で頭を抱えていたが、悩んでいても仕方がないと冒険者ギルドに行って依頼を受けることにした。
僕達は現在、ストバーラ帝国の南部に滞在している。本当はバチードの街でもよかったけど、兄さんとのんびり二人きりで過ごしたくてこの街に決めた。
依頼票を持ってギルドの受付に声をかけると、にこやかな顔で対応してくれた。
「おはようございます。ルカさんにお手紙が届いていますよ」
お礼を言って手紙を受け取る。差出人を確認すると、ミゲルの名前があった。
ミゲルとは何回か手紙のやり取りをしているが、前回受け取ったのは二週間前だ。僕が先日出した返信もまだ届いていないはずだ。
兄さんに断りを入れて、依頼より先に手紙を確認することにした。ギルド酒場で飲み物を頼み手紙を開封する。
書き出しは時候の挨拶と近況を伝えるものだった。『銀色の風』のメンバーはシアンくんやライオネルくんと親しくなったみたいで、交流の様子が楽しそうに書かれている。後でウォーロックに手紙で報告してあげよう。
「みんな元気でやってるみたい」
「そうか」
兄さんが安堵した様子で表情を緩めた。僕も同じ気持ちだ。何かあったのではと焦ったが、その心配はなさそうだ。
それならなぜ立て続けに手紙をだしのか。気になって読み進めると衝撃的なことが書かれてあった。指で文字をなぞりながら読み返すくらいの内容だ。
「兄さん」
「ルカ?」
周辺に防音の魔法をかけて兄さんに手紙を渡す。程なくして兄さんの驚いた声が吸収された。
「すごい偶然だな」
「五日以内に準備して、アファルータ王国に行こう」
「賛成だ」
ミゲルの手紙には『春の一の月にレッドドラゴンと対峙するお二人を予知したっす。場所はアファルータ王国、ルギケネの街の近くっす。詳細な日時と場所を書き記しておくので絶対に近づかないでくださいっす。お二人とも余裕そうな様子でしたけど、くれぐれも命を大事にしてくださいっす』と書かれてあった。
書き言葉も普段の口調なのが、いつ見ても面白い。これは絶対行けってことでしょ。
僕と兄さんは急いで受領した依頼を終わらせると、旅の支度を調えてアファルータ王国に向かうことにした。
春の一の月。ルギケネの街に到着した僕らは、ドラゴン討伐に向けて目的地まで歩を進めていた。無限収納はすでに拡張済みだ。
ルギケネの街は、僕たちが以前滞在していたリフケネの街の隣にある。深い森に面している街だが、意外と魔物は少ない。
その割に数年前はグリーンドラゴンが近くに現れて今度はレッドドラゴンだ。この森には何かあるのかもしれない。これもウォーロックに報告しておこう。
「しまった」
「どうした?」
「調子に乗ってドラゴン肉を食べちゃったけど、僕たち解体できないじゃん。あと十八食分しかないよ」
「ウォーロックのところに行くしか」
「それは最終手段で」
「わかった。とりあえず倒すことだけ考えよう」
森の奥深くまで足を運ぶと、強大な魔力の気配がした。間違いなくレッドドラゴンだ。
「とりあえず様子見で。気づいたことがあったら報告よろしくね」
「わかった」
レッドドラゴンは普段火山地帯に生息していることもあり、滅多に目撃されない。そのため、文献や情報があまり残っておらず、討伐方法が確立されていない。
いざとなったら僕の魔法でズタズタにする予定だ。肉は無駄になるけど、下手に逃走して建物や人に被害が出るより遥かにましだ。
「俺が誘き出すから魔力防御を頼む」
「気をつけてね」
レッドドラゴンは魔力を炎に変換してブレス攻撃をしてくる。その炎を防ぐには無属性魔法の魔力防御が不可欠だ。
「そっちに行ったぞ!」
「了解!」
木々が薙ぎ倒される音が近づいてくる。地面が揺れた衝撃を感じた直後、赤い鱗に覆われた巨大なレッドドラゴンが姿を現した。
縦長の瞳孔が忙しなく動いている。前方に突出した口に噛まれたらひとたまりもないだろう。強靭そうな尻尾は軽い一振りで巨木を砕いていた。地を這うように移動する様は、前世のクロコダイルを彷彿とさせる。背中に小さな羽根がなかったらワニそのものだ。
レッドドラゴンは僕を視界に捉えると、口を大きく開けた。数十秒後、炎のブレスが辺りに吹き荒れた。魔力防御が全て吸収してくれたが、迫るような炎に身がすくむ。
「ルカ! 平気か!」
「ちょっとびっくりしたけど大丈夫!」
「俺はやつの動きを観察する。ルカは防御を頼む」
「了解」
兄さんがレッドドラゴンを引きつけている間に魔力の動きに注視する。
何回目かのブレス攻撃の後、あることに気づいた。レッドドラゴンは口を開いている間、魔力を消費し続けている。
土魔法で頑丈な柱を作り、レッドドラゴンの口を開きっぱなしにしたら魔力切れが狙えるかもしれない。
「今から魔法を使って、僕に注意を向けるように仕掛けるね」
「無理するなよ」
兄さんに合図を送り、レッドドラゴンの目を氷魔法で凍らせる。予想通りすぐに氷が溶かされ、レッドドラゴンが大きく開けた口をこちらに向けてきた。
ブレスが吐き出される前に、魔法で大きな柱を作り、レッドドラゴンの口を強制的に開かせる。
ブレス攻撃が終わっても、レッドドラゴンは魔力を消費している。作戦が成功したかと思いきや、レッドドラゴンは煩わしそうに口を閉じ柱をへし折った。
「うわ、力強すぎ」
「ルカ!」
レッドドラゴンの体当たりを魔法で防ぎ、兄さんの元に駆け寄る。
「ごめん。思ったより噛み付く力が強かった」
「なぜ口を開かせようと?」
「口が開いてる間は魔力を消費してたから。でも意図的にさせるのは難しそう」
「なら持久戦に持ち込もう。ルカは俺に回復魔法をかけ続けてくれ」
兄さんが走りながら、レッドドラゴンのブレス攻撃を誘い込む。僕はその間に、レッドドラゴンの羽根を魔法で切り落として上空からの攻撃を封じた。そのままとどめを刺したいが、鱗が硬すぎて傷がつけられない。
「次にやつがブレス攻撃を仕掛けてきたら頭に登って目を潰す」
「わかった。足場を作るね」
「頼む」
レッドドラゴンが僕に狙いを定めて口を開けた。すかさず足場を作ると、兄さんが背中に登った。
なるべくブレスの範囲外まで逃げるため走り出そうとした時に、ふと気づいた。
レッドドラゴンって、ちゃんと喉があるんだな。
そんなことを思っていたら、兄さんがレッドドラゴンの右目を潰した。やつは咆哮を上げながら暴れ回っている。
兄さんを風属性魔法で包んで落下の衝撃を逃す。レッドドラゴンは憎悪の籠った左目で兄さんを睨みつけた。やつの視界が塞がれたおかげで、ある作戦を思いついた。
「兄さん、あいつのブレス攻撃中に魔法を使うからよろしく」
「了解」
レッドドラゴンが兄さんに向けて口を開く。僕はレッドドラゴンの右側に立つと、急いで魔力を練り上げ水の塊を生成し、やつの口に放り込んだ。
一分経過したが、ブレス攻撃が来ない。レッドドラゴンは、聞いたこともない鳴き声を発しながら口を開きっぱなしにしている。
すごいな。ドラゴンにも咽頭反射があるんだ。あの鳴き声がえずきだと思うと可哀想になってきた。まあ、討伐はするけど。
「いいね。えずいてる間も魔力を消費してるし、この作戦でいこう」
「情け容赦ない……」
その後一時間ほど攻防を続けていると、明らかにレッドドラゴンの動きが鈍くなった。兄さんが魔力を練り上げドラゴンの首を大剣で斬ると、硬い鱗がぱっくりと割れ血が吹き出した。魔力を全て失うと防御力も落ちるみたいだ。
やがて、レッドドラゴンはぴくりとも動かなくなった。急いで無限収納にしまうと、なんとか全身を入れることができた。
「お疲れ様。兄さん歩ける?」
「少し休みたい」
肩で息をしている兄さんを見るのは久しぶりだ。土属性魔法でベンチとついでに机も作る。兄さんの横に座り飲み物を手渡す。
「これ飲んで」
「ありがとう」
暇な時に気まぐれで作ったスポーツドリンクが役に立った。兄さんが美味しそうに飲んでいる横顔を眺めながら、僕も水分補給をする。
兄さんの肩に頭を預ける。戦闘後の火照った身体が触れ合うと、それだけで胸が高鳴った。
「疲れたね」
「そうだな。でも、ここは森の中だから、あんまり近づくのは……汗臭いだろ」
「それはお互い様だよ。あと結界魔法発動させてるから魔物の襲撃はないよ」
「わざわざ長椅子を作るからおかしいと思った」
ドラゴン肉の話をしているうちに少年の顔になった兄さんを微笑ましく思いながら、ゆっくりと身体を休めた。
恐れていたことが、こんなに早く訪れるなんて。兄さんが心配そうな顔でこちらを見ている。僕は覚悟を決めて重たい口を開いた。
「ドラゴン肉が、残り二十食分しかありません」
「思ったよりも深刻な事態だった」
兄さんも頭を抱えている。わかってくれてよかった。ドラゴン肉の美味しさを知ってしまったらもう戻れない。昨日食べたドラゴン肉シチューの味を思い出して、涙が出そうになった。
「ドラゴンを狩りたいのにドラゴンがいないなんて」
「目撃情報もないしな」
この世界のドラゴンは、滅多に姿を現さない。普段はマグマの底や雪山の奥深く、底なし毒沼など過酷な環境に生息していて、気まぐれに人間の領域に立ち入る。
その気まぐれで街をいくつか壊滅させることもあるのだから、迷惑極まりない生物だ。冒険者ギルドは発見次第即報告を義務付けている。
「我慢できるかな。これから春になったら魔物討伐が増えるから、ご褒美のドラゴンステーキが食べたくなると思う」
「ならウォーロックのところに行くか?あいつなら情報を持っていそうだが」
「この前手紙が返ってきたけど、シアンくんがいなくて寂しいって内容で埋め尽くされてた。直接会ったら絶対面倒くさいよ」
「あいつらまだ留学してるのか」
「延長して来年の夏に帰るんだって。ウォーロックが、自分はハイエルフなのに一日が長くて退屈だって嘆いてた」
「重症だな。行くのはやめておこう。会ったら三日ほど愚痴で終わりそうだ」
しばらく二人で頭を抱えていたが、悩んでいても仕方がないと冒険者ギルドに行って依頼を受けることにした。
僕達は現在、ストバーラ帝国の南部に滞在している。本当はバチードの街でもよかったけど、兄さんとのんびり二人きりで過ごしたくてこの街に決めた。
依頼票を持ってギルドの受付に声をかけると、にこやかな顔で対応してくれた。
「おはようございます。ルカさんにお手紙が届いていますよ」
お礼を言って手紙を受け取る。差出人を確認すると、ミゲルの名前があった。
ミゲルとは何回か手紙のやり取りをしているが、前回受け取ったのは二週間前だ。僕が先日出した返信もまだ届いていないはずだ。
兄さんに断りを入れて、依頼より先に手紙を確認することにした。ギルド酒場で飲み物を頼み手紙を開封する。
書き出しは時候の挨拶と近況を伝えるものだった。『銀色の風』のメンバーはシアンくんやライオネルくんと親しくなったみたいで、交流の様子が楽しそうに書かれている。後でウォーロックに手紙で報告してあげよう。
「みんな元気でやってるみたい」
「そうか」
兄さんが安堵した様子で表情を緩めた。僕も同じ気持ちだ。何かあったのではと焦ったが、その心配はなさそうだ。
それならなぜ立て続けに手紙をだしのか。気になって読み進めると衝撃的なことが書かれてあった。指で文字をなぞりながら読み返すくらいの内容だ。
「兄さん」
「ルカ?」
周辺に防音の魔法をかけて兄さんに手紙を渡す。程なくして兄さんの驚いた声が吸収された。
「すごい偶然だな」
「五日以内に準備して、アファルータ王国に行こう」
「賛成だ」
ミゲルの手紙には『春の一の月にレッドドラゴンと対峙するお二人を予知したっす。場所はアファルータ王国、ルギケネの街の近くっす。詳細な日時と場所を書き記しておくので絶対に近づかないでくださいっす。お二人とも余裕そうな様子でしたけど、くれぐれも命を大事にしてくださいっす』と書かれてあった。
書き言葉も普段の口調なのが、いつ見ても面白い。これは絶対行けってことでしょ。
僕と兄さんは急いで受領した依頼を終わらせると、旅の支度を調えてアファルータ王国に向かうことにした。
春の一の月。ルギケネの街に到着した僕らは、ドラゴン討伐に向けて目的地まで歩を進めていた。無限収納はすでに拡張済みだ。
ルギケネの街は、僕たちが以前滞在していたリフケネの街の隣にある。深い森に面している街だが、意外と魔物は少ない。
その割に数年前はグリーンドラゴンが近くに現れて今度はレッドドラゴンだ。この森には何かあるのかもしれない。これもウォーロックに報告しておこう。
「しまった」
「どうした?」
「調子に乗ってドラゴン肉を食べちゃったけど、僕たち解体できないじゃん。あと十八食分しかないよ」
「ウォーロックのところに行くしか」
「それは最終手段で」
「わかった。とりあえず倒すことだけ考えよう」
森の奥深くまで足を運ぶと、強大な魔力の気配がした。間違いなくレッドドラゴンだ。
「とりあえず様子見で。気づいたことがあったら報告よろしくね」
「わかった」
レッドドラゴンは普段火山地帯に生息していることもあり、滅多に目撃されない。そのため、文献や情報があまり残っておらず、討伐方法が確立されていない。
いざとなったら僕の魔法でズタズタにする予定だ。肉は無駄になるけど、下手に逃走して建物や人に被害が出るより遥かにましだ。
「俺が誘き出すから魔力防御を頼む」
「気をつけてね」
レッドドラゴンは魔力を炎に変換してブレス攻撃をしてくる。その炎を防ぐには無属性魔法の魔力防御が不可欠だ。
「そっちに行ったぞ!」
「了解!」
木々が薙ぎ倒される音が近づいてくる。地面が揺れた衝撃を感じた直後、赤い鱗に覆われた巨大なレッドドラゴンが姿を現した。
縦長の瞳孔が忙しなく動いている。前方に突出した口に噛まれたらひとたまりもないだろう。強靭そうな尻尾は軽い一振りで巨木を砕いていた。地を這うように移動する様は、前世のクロコダイルを彷彿とさせる。背中に小さな羽根がなかったらワニそのものだ。
レッドドラゴンは僕を視界に捉えると、口を大きく開けた。数十秒後、炎のブレスが辺りに吹き荒れた。魔力防御が全て吸収してくれたが、迫るような炎に身がすくむ。
「ルカ! 平気か!」
「ちょっとびっくりしたけど大丈夫!」
「俺はやつの動きを観察する。ルカは防御を頼む」
「了解」
兄さんがレッドドラゴンを引きつけている間に魔力の動きに注視する。
何回目かのブレス攻撃の後、あることに気づいた。レッドドラゴンは口を開いている間、魔力を消費し続けている。
土魔法で頑丈な柱を作り、レッドドラゴンの口を開きっぱなしにしたら魔力切れが狙えるかもしれない。
「今から魔法を使って、僕に注意を向けるように仕掛けるね」
「無理するなよ」
兄さんに合図を送り、レッドドラゴンの目を氷魔法で凍らせる。予想通りすぐに氷が溶かされ、レッドドラゴンが大きく開けた口をこちらに向けてきた。
ブレスが吐き出される前に、魔法で大きな柱を作り、レッドドラゴンの口を強制的に開かせる。
ブレス攻撃が終わっても、レッドドラゴンは魔力を消費している。作戦が成功したかと思いきや、レッドドラゴンは煩わしそうに口を閉じ柱をへし折った。
「うわ、力強すぎ」
「ルカ!」
レッドドラゴンの体当たりを魔法で防ぎ、兄さんの元に駆け寄る。
「ごめん。思ったより噛み付く力が強かった」
「なぜ口を開かせようと?」
「口が開いてる間は魔力を消費してたから。でも意図的にさせるのは難しそう」
「なら持久戦に持ち込もう。ルカは俺に回復魔法をかけ続けてくれ」
兄さんが走りながら、レッドドラゴンのブレス攻撃を誘い込む。僕はその間に、レッドドラゴンの羽根を魔法で切り落として上空からの攻撃を封じた。そのままとどめを刺したいが、鱗が硬すぎて傷がつけられない。
「次にやつがブレス攻撃を仕掛けてきたら頭に登って目を潰す」
「わかった。足場を作るね」
「頼む」
レッドドラゴンが僕に狙いを定めて口を開けた。すかさず足場を作ると、兄さんが背中に登った。
なるべくブレスの範囲外まで逃げるため走り出そうとした時に、ふと気づいた。
レッドドラゴンって、ちゃんと喉があるんだな。
そんなことを思っていたら、兄さんがレッドドラゴンの右目を潰した。やつは咆哮を上げながら暴れ回っている。
兄さんを風属性魔法で包んで落下の衝撃を逃す。レッドドラゴンは憎悪の籠った左目で兄さんを睨みつけた。やつの視界が塞がれたおかげで、ある作戦を思いついた。
「兄さん、あいつのブレス攻撃中に魔法を使うからよろしく」
「了解」
レッドドラゴンが兄さんに向けて口を開く。僕はレッドドラゴンの右側に立つと、急いで魔力を練り上げ水の塊を生成し、やつの口に放り込んだ。
一分経過したが、ブレス攻撃が来ない。レッドドラゴンは、聞いたこともない鳴き声を発しながら口を開きっぱなしにしている。
すごいな。ドラゴンにも咽頭反射があるんだ。あの鳴き声がえずきだと思うと可哀想になってきた。まあ、討伐はするけど。
「いいね。えずいてる間も魔力を消費してるし、この作戦でいこう」
「情け容赦ない……」
その後一時間ほど攻防を続けていると、明らかにレッドドラゴンの動きが鈍くなった。兄さんが魔力を練り上げドラゴンの首を大剣で斬ると、硬い鱗がぱっくりと割れ血が吹き出した。魔力を全て失うと防御力も落ちるみたいだ。
やがて、レッドドラゴンはぴくりとも動かなくなった。急いで無限収納にしまうと、なんとか全身を入れることができた。
「お疲れ様。兄さん歩ける?」
「少し休みたい」
肩で息をしている兄さんを見るのは久しぶりだ。土属性魔法でベンチとついでに机も作る。兄さんの横に座り飲み物を手渡す。
「これ飲んで」
「ありがとう」
暇な時に気まぐれで作ったスポーツドリンクが役に立った。兄さんが美味しそうに飲んでいる横顔を眺めながら、僕も水分補給をする。
兄さんの肩に頭を預ける。戦闘後の火照った身体が触れ合うと、それだけで胸が高鳴った。
「疲れたね」
「そうだな。でも、ここは森の中だから、あんまり近づくのは……汗臭いだろ」
「それはお互い様だよ。あと結界魔法発動させてるから魔物の襲撃はないよ」
「わざわざ長椅子を作るからおかしいと思った」
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