83 / 158
ラウリア王国編
シャツ
しおりを挟む
明日は褒賞金を受け取る日であり、この国を去る日でもある。
引越しの準備と片付けは完璧に終わらせた。夕飯も外食で済ませ、後は寝るだけとなった。
明日に備えて早く寝てしまおう。そう思って着替えようとしたら気づいてしまった。僕の寝る用の服がない。間違えて兄さんの服を余分に洗ったみたいだ。
予備の服はあるがこれからしばらく海の上だ。潮風で身体がベタつくことを考えると、予備を含め1枚も無駄にしたくない。
兄さんには悪いがシャツを借りよう。寝る用の服ではないが、兄さんのシャツは大きいから代わりになるだろう。
さっそく着てみたが見事にブカブカだ。身長差は仕方ないとして、体格差がここまであると同じ男して悔しい気持ちになる。
切実に筋肉が欲しい。僕も鍛えているから、そこそこ筋力があるはずなのになぁ。今度魔法でプロテインを作ってみようか。
くだらないことを考えながら寝室に入ると、すでに兄さんがベッドで寛いでいた。
「兄さんごめん。寝る服がなかったから兄さんのシャツ借りたよ」
「は?」
「ごめんね、今日だけだから。見て見て袖のとこブカブカ。兄さんの大きいね」
「……」
「あれ?どうしたの黙って」
「……下は?」
「暑いし、寝るだけだからいいかなって」
「履いてくれ」
「えー?そんなに見苦しいかな。あ、下着だったら履いてるよほら」
シャツの裾をめくってアピールすると、兄さんが片手で顔を覆った。
「頼むから、下を、履いてくれ」
「わかった」
手が邪魔で表情は見えないが、鬼気迫る声だったので反射的に返事をした。暑いから下穿きを履きたくないが、従わないと寝室から追い出されるかもしれない。
急いで下穿きを履いて寝室に戻ると、兄さんが頭まですっぽりとシーツを被って横になっていた。
「それ暑くない?」
「平気だ。むしろこれがないと辛い」
「もしかして風邪?大丈夫?」
「いたって健康だ」
「ならいいけど。明日早いからもう寝るね。おやすみ」
「おやすみ」
いつも抱き合って寝ているから少しだけ淋しい。そう思っていると、シャツからほのかに兄さんの匂いがした。全身を兄さんに包まれているような安らぎを感じる。一度意識したら、じわじわと胸に温かなものが広がって自然と瞼が落ちていた。
翌朝、目覚めると兄さんが隣にいた。兄さんはいつも朝早く起きてリビングにいるから、風邪を引いてしまったのかと心配になる。まずは熱を測ろうと兄さんの様子を確認すると、既に起きていたようだ。よく見ると兄さんの目の下にくっきりとクマが出来ている。
「熱はある?寝た?」
「熱はないし寝てない」
「ギリギリまで寝る?起こすよ」
「頼む」
兄さんはそれだけ言うとすぐに寝息をたてた。
まさか一睡もしてないとか?今日は船に乗るのに大丈夫だろうか。船酔いしなければいいけど……。
眠そうな兄さんを連れて冒険者ギルドに行くと、既に用意されていたようで早々に褒賞金を渡された。確認すると周りから怪しまれない上限ギリギリの絶妙な金額だった。心の中で改めて王子に感謝する。
褒賞金の受け取りという大事な用事が終わったので、お世話になった人達に別れの挨拶を済ませギルドを後にした。
ラウリドの冒険者ギルドから港までそこそこ距離がある。僕達は身体強化を使って全力で移動し、なんとか船の時間に間に合った。
寝不足のはずなのに兄さんは特に疲れた様子を見せず僕についてきた。この調子なら船に乗っても平気そうだ。
ラウリア王国からミヅホまで船で10日の距離だ。潮の流れなどで日程に変動はあるが、その間暇なことに変わりはない。
「兄さんは魔法の鍛練?」
「そうだな」
「なんでそこまで魔法を頑張るの?」
「使えるようになったら話す」
兄さんはラウリア王国滞在中も魔法の鍛練を続けていた。身体強化と武器を硬化させる魔法を同時に使うのはかなり難易度が高い。
それでも兄さんは必死に努力して、あと一歩というところまできている。
既にかなり強い兄さんがなぜ魔法に拘るのか、その理由を知りたいが、あの様子では聞き出せないだろう。
身体強化と武器の硬化を同時に使えるようになったら教えてくれるらしいので、僕は兄さんのサポートに専念することにした。
ミヅホまでの船旅は忙しくなりそうだ。さっそく鍛練に取り組もうと、甲板へ足を進める。甲板に出ると、真上にある太陽が容赦なく照りつけてきた。その暑さと同調するように、僕は気合を入れて伸びをした。
引越しの準備と片付けは完璧に終わらせた。夕飯も外食で済ませ、後は寝るだけとなった。
明日に備えて早く寝てしまおう。そう思って着替えようとしたら気づいてしまった。僕の寝る用の服がない。間違えて兄さんの服を余分に洗ったみたいだ。
予備の服はあるがこれからしばらく海の上だ。潮風で身体がベタつくことを考えると、予備を含め1枚も無駄にしたくない。
兄さんには悪いがシャツを借りよう。寝る用の服ではないが、兄さんのシャツは大きいから代わりになるだろう。
さっそく着てみたが見事にブカブカだ。身長差は仕方ないとして、体格差がここまであると同じ男して悔しい気持ちになる。
切実に筋肉が欲しい。僕も鍛えているから、そこそこ筋力があるはずなのになぁ。今度魔法でプロテインを作ってみようか。
くだらないことを考えながら寝室に入ると、すでに兄さんがベッドで寛いでいた。
「兄さんごめん。寝る服がなかったから兄さんのシャツ借りたよ」
「は?」
「ごめんね、今日だけだから。見て見て袖のとこブカブカ。兄さんの大きいね」
「……」
「あれ?どうしたの黙って」
「……下は?」
「暑いし、寝るだけだからいいかなって」
「履いてくれ」
「えー?そんなに見苦しいかな。あ、下着だったら履いてるよほら」
シャツの裾をめくってアピールすると、兄さんが片手で顔を覆った。
「頼むから、下を、履いてくれ」
「わかった」
手が邪魔で表情は見えないが、鬼気迫る声だったので反射的に返事をした。暑いから下穿きを履きたくないが、従わないと寝室から追い出されるかもしれない。
急いで下穿きを履いて寝室に戻ると、兄さんが頭まですっぽりとシーツを被って横になっていた。
「それ暑くない?」
「平気だ。むしろこれがないと辛い」
「もしかして風邪?大丈夫?」
「いたって健康だ」
「ならいいけど。明日早いからもう寝るね。おやすみ」
「おやすみ」
いつも抱き合って寝ているから少しだけ淋しい。そう思っていると、シャツからほのかに兄さんの匂いがした。全身を兄さんに包まれているような安らぎを感じる。一度意識したら、じわじわと胸に温かなものが広がって自然と瞼が落ちていた。
翌朝、目覚めると兄さんが隣にいた。兄さんはいつも朝早く起きてリビングにいるから、風邪を引いてしまったのかと心配になる。まずは熱を測ろうと兄さんの様子を確認すると、既に起きていたようだ。よく見ると兄さんの目の下にくっきりとクマが出来ている。
「熱はある?寝た?」
「熱はないし寝てない」
「ギリギリまで寝る?起こすよ」
「頼む」
兄さんはそれだけ言うとすぐに寝息をたてた。
まさか一睡もしてないとか?今日は船に乗るのに大丈夫だろうか。船酔いしなければいいけど……。
眠そうな兄さんを連れて冒険者ギルドに行くと、既に用意されていたようで早々に褒賞金を渡された。確認すると周りから怪しまれない上限ギリギリの絶妙な金額だった。心の中で改めて王子に感謝する。
褒賞金の受け取りという大事な用事が終わったので、お世話になった人達に別れの挨拶を済ませギルドを後にした。
ラウリドの冒険者ギルドから港までそこそこ距離がある。僕達は身体強化を使って全力で移動し、なんとか船の時間に間に合った。
寝不足のはずなのに兄さんは特に疲れた様子を見せず僕についてきた。この調子なら船に乗っても平気そうだ。
ラウリア王国からミヅホまで船で10日の距離だ。潮の流れなどで日程に変動はあるが、その間暇なことに変わりはない。
「兄さんは魔法の鍛練?」
「そうだな」
「なんでそこまで魔法を頑張るの?」
「使えるようになったら話す」
兄さんはラウリア王国滞在中も魔法の鍛練を続けていた。身体強化と武器を硬化させる魔法を同時に使うのはかなり難易度が高い。
それでも兄さんは必死に努力して、あと一歩というところまできている。
既にかなり強い兄さんがなぜ魔法に拘るのか、その理由を知りたいが、あの様子では聞き出せないだろう。
身体強化と武器の硬化を同時に使えるようになったら教えてくれるらしいので、僕は兄さんのサポートに専念することにした。
ミヅホまでの船旅は忙しくなりそうだ。さっそく鍛練に取り組もうと、甲板へ足を進める。甲板に出ると、真上にある太陽が容赦なく照りつけてきた。その暑さと同調するように、僕は気合を入れて伸びをした。
106
お気に入りに追加
1,076
あなたにおすすめの小説

ある日、人気俳優の弟になりました。2
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。
平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

弟は僕の名前を知らないらしい。
いちの瀬
BL
ずっと、居ないものとして扱われてきた。
父にも、母にも、弟にさえも。
そう思っていたけど、まず弟は僕の存在を知らなかったみたいだ。
シリアスかと思いきやガチガチのただのほのぼの男子高校生の戯れです。
BLなのかもわからないような男子高校生のふざけあいが苦手な方はご遠慮ください。

ある日、人気俳優の弟になりました。
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア

兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる