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ラウリア王国編
指名依頼
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過ごしやすい季節も終わり蒸し暑さが襲うようになった。もうすぐ夏、僕もそろそろ16歳だ。
今日はギルドの受付嬢ジュディに呼び出されて兄さんとカウンター前にいる。
いつも冷静で淡々と仕事をしている印象の彼女が、珍しく嬉しそうに口角を上げて話し始めた。
「あなた方に指名の依頼がありまして」
「指名の?」
「近々、国王陛下の即位15周年と第三王子殿下の成人を盛大に祝う催しがあることはご存知ですか?」
「はい。王都全体が賑やかになってきてますよね」
「実はあなた方に催しの当日、城周辺の警備を依頼したいと指名がきています」
「なぜ僕達が?外国から来て日が浅い冒険者に頼む仕事ではないと思うのですが」
「実はバーナデットさんがあなた達を是非にと推薦されまして。特別に指名依頼として処理することになりました。あのバーナデットさんの推薦ですよ!すごいことです!」
ジュディが目を輝かせて僕達の返答を待っている。その顔は当然受けますよね?と主張しているようで正直断りづらい。
でも僕達にこの依頼を受けるメリットがない。面倒な予感がする。
僕の様子を見て察したのか、兄さんが先に答えてくれた。
「断る」
「どうしてですか!?バーナデットさんの推薦ですよ!」
「受ける理由がない」
「俺からも改めてお願いしたい。是非この依頼を受けてほしい」
「なぜお前がここにいる」
「お前達が依頼を受けてくれたら、俺が助かる。普段の依頼より報酬もいい。夜に周辺を警備するだけだ。城の中に入るわけではないから難しい仕事でもない」
急にバーナデットが現れたので驚いて声も出なかった。彼にはどうしても、僕達にこの依頼を受けてもらいたい理由があるようだ。
でもその理由が全くわからない。バーナデットはこの場でそれを言う気はないようだ。彼の目的がわからず不安な気持ちになる。
依頼を承諾しない僕達に痺れを切らしたのか、バーナデットが僕達にだけ聞こえるように囁いた。
「断ってもいいが、この国のギルドから確実に目をつけられるぞ。お前達が実力を隠していることはわかってる。目立つことはしたくないだろう?」
「脅しのつもりか?笑わせるなよ」
まずい。一触即発の状態だ。このままだと兄さんがバーナデットに大剣を向けるかもしれない。
後で兄さんに謝ろう。僕はふたりに届くように声を張り上げた。
「その依頼受けます」
「ありがとう。助かる」
「ルカどうして」
「割りのいい仕事みたいだし、考えたら断る理由がないからね」
「では手続きを進めますね。契約は個室で行いますので2階に移動して下さい」
兄さんが凄まじい形相でバーナデットを睨みつけているが、彼はそれを無視して涼しい顔をしている。むしろ目的を達成して嬉しそうな様子だ。
兄さんの服の裾を掴むと、屈むようにジェスチャーで伝え耳打ちする。
「あの様子じゃ、今断ってもバーナデットは別の手で依頼を受けさせようと画策すると思う。今回は依頼を受けて報酬を受け取ったらこの国を出よう」
兄さんが小さく頷くと姿勢を元に戻した。悔しそうに拳を握りしめている。
ここにいるとまたバーナデットと一悶着ありそうだ。僕は兄さんに呼びかけて急いで2階に向かうことにした。
「以上で契約完了です。当日にまた説明があるので冒険者ギルドの受付に声をかけて下さい」
「ありがとうございました」
「……」
兄さんは静かに俯いている。何か考え事をしているかのように、その目は一点を見つめていた。
個室から出るとバーナデットが近くの壁にもたれていた。僕達が退室するのを待っていたようだ。
「アイザックに話がある。少しだけ時間がほしい」
「断る。俺にはない」
「強引な真似をしてすまなかった。頼む少しだけ話をさせてほしい」
兄さんが背を向けて階段を降りようとしたら、バーナデットが僕達に頭を下げて謝ってきた。
兄さんにだけ話があるというのは気になるがバーナデットの顔は真剣そのものだ。
兄さんもその顔に何かを感じたのか小さく息を吐くと、バーナデットの方に向き直った。
「少しだけだ。話はどこでする」
「ありがとう。個室を取ってある」
「ルカは受付近くで待っていてほしい。絶対動かないように」
「わかった」
暇だ。何もすることがない。中途半端な時間なので今日は依頼を受けることもできない。
そこで情報を集めることにした。受付も今の時間は暇そうなので、少しくらい話をしても咎められることはないだろう。
ジュディにこの国こととバーナデットについて教えてほしいと伝えると快諾された。
彼女は僕が知りたいことを丁寧に教えてくれた。
この国は15年前、国王が変わった。前国王時代、この国は奴隷制が広く浸透していて、特に王都周辺は奴隷の処分場と呼ばれるくらい酷いところだった。その現状を嘆いて立ち上がったのが当時の王弟殿下。兄と甥を処刑し自ら王位についた。
バーナデットは処分場生まれの奴隷だったが、持ち前の強さで幼い頃から奴隷戦士として活躍していた。今の国王が奴隷から解放した後も、王国で数少ない白金級冒険者として活動し凶悪な魔物から人々を守るバーナデットは皆が憧れる存在みたいだ。
そんなすごい人に推薦されたんだから頑張れと応援されて微妙な気持ちになった。
ちょうど話が終わったタイミングで兄さんが2階から降りてきた。ジュディにお礼を言って急いで兄さんに駆け寄る。
兄さんは困惑したような表情で何かが入った袋を握りしめていた。
「バーナデットとどんな話をしたの?」
「とにかく不快な話をされた。それにこんなものを押し付けられた」
「水晶?」
「俺に預かっててほしいと無理やりな。あとルカにも謝ってほしい、当日はよろしくとも言ってた」
袋の中身は水晶の結晶だった。僕の小指ほどの大きさだ。バーナデットはなぜそれを、兄さんに預けたのだろう。
よくわからない、もやもやとした気持ちに襲われる。兄さんの困惑が移ったかのように僕は眉根を寄せた。
今日はギルドの受付嬢ジュディに呼び出されて兄さんとカウンター前にいる。
いつも冷静で淡々と仕事をしている印象の彼女が、珍しく嬉しそうに口角を上げて話し始めた。
「あなた方に指名の依頼がありまして」
「指名の?」
「近々、国王陛下の即位15周年と第三王子殿下の成人を盛大に祝う催しがあることはご存知ですか?」
「はい。王都全体が賑やかになってきてますよね」
「実はあなた方に催しの当日、城周辺の警備を依頼したいと指名がきています」
「なぜ僕達が?外国から来て日が浅い冒険者に頼む仕事ではないと思うのですが」
「実はバーナデットさんがあなた達を是非にと推薦されまして。特別に指名依頼として処理することになりました。あのバーナデットさんの推薦ですよ!すごいことです!」
ジュディが目を輝かせて僕達の返答を待っている。その顔は当然受けますよね?と主張しているようで正直断りづらい。
でも僕達にこの依頼を受けるメリットがない。面倒な予感がする。
僕の様子を見て察したのか、兄さんが先に答えてくれた。
「断る」
「どうしてですか!?バーナデットさんの推薦ですよ!」
「受ける理由がない」
「俺からも改めてお願いしたい。是非この依頼を受けてほしい」
「なぜお前がここにいる」
「お前達が依頼を受けてくれたら、俺が助かる。普段の依頼より報酬もいい。夜に周辺を警備するだけだ。城の中に入るわけではないから難しい仕事でもない」
急にバーナデットが現れたので驚いて声も出なかった。彼にはどうしても、僕達にこの依頼を受けてもらいたい理由があるようだ。
でもその理由が全くわからない。バーナデットはこの場でそれを言う気はないようだ。彼の目的がわからず不安な気持ちになる。
依頼を承諾しない僕達に痺れを切らしたのか、バーナデットが僕達にだけ聞こえるように囁いた。
「断ってもいいが、この国のギルドから確実に目をつけられるぞ。お前達が実力を隠していることはわかってる。目立つことはしたくないだろう?」
「脅しのつもりか?笑わせるなよ」
まずい。一触即発の状態だ。このままだと兄さんがバーナデットに大剣を向けるかもしれない。
後で兄さんに謝ろう。僕はふたりに届くように声を張り上げた。
「その依頼受けます」
「ありがとう。助かる」
「ルカどうして」
「割りのいい仕事みたいだし、考えたら断る理由がないからね」
「では手続きを進めますね。契約は個室で行いますので2階に移動して下さい」
兄さんが凄まじい形相でバーナデットを睨みつけているが、彼はそれを無視して涼しい顔をしている。むしろ目的を達成して嬉しそうな様子だ。
兄さんの服の裾を掴むと、屈むようにジェスチャーで伝え耳打ちする。
「あの様子じゃ、今断ってもバーナデットは別の手で依頼を受けさせようと画策すると思う。今回は依頼を受けて報酬を受け取ったらこの国を出よう」
兄さんが小さく頷くと姿勢を元に戻した。悔しそうに拳を握りしめている。
ここにいるとまたバーナデットと一悶着ありそうだ。僕は兄さんに呼びかけて急いで2階に向かうことにした。
「以上で契約完了です。当日にまた説明があるので冒険者ギルドの受付に声をかけて下さい」
「ありがとうございました」
「……」
兄さんは静かに俯いている。何か考え事をしているかのように、その目は一点を見つめていた。
個室から出るとバーナデットが近くの壁にもたれていた。僕達が退室するのを待っていたようだ。
「アイザックに話がある。少しだけ時間がほしい」
「断る。俺にはない」
「強引な真似をしてすまなかった。頼む少しだけ話をさせてほしい」
兄さんが背を向けて階段を降りようとしたら、バーナデットが僕達に頭を下げて謝ってきた。
兄さんにだけ話があるというのは気になるがバーナデットの顔は真剣そのものだ。
兄さんもその顔に何かを感じたのか小さく息を吐くと、バーナデットの方に向き直った。
「少しだけだ。話はどこでする」
「ありがとう。個室を取ってある」
「ルカは受付近くで待っていてほしい。絶対動かないように」
「わかった」
暇だ。何もすることがない。中途半端な時間なので今日は依頼を受けることもできない。
そこで情報を集めることにした。受付も今の時間は暇そうなので、少しくらい話をしても咎められることはないだろう。
ジュディにこの国こととバーナデットについて教えてほしいと伝えると快諾された。
彼女は僕が知りたいことを丁寧に教えてくれた。
この国は15年前、国王が変わった。前国王時代、この国は奴隷制が広く浸透していて、特に王都周辺は奴隷の処分場と呼ばれるくらい酷いところだった。その現状を嘆いて立ち上がったのが当時の王弟殿下。兄と甥を処刑し自ら王位についた。
バーナデットは処分場生まれの奴隷だったが、持ち前の強さで幼い頃から奴隷戦士として活躍していた。今の国王が奴隷から解放した後も、王国で数少ない白金級冒険者として活動し凶悪な魔物から人々を守るバーナデットは皆が憧れる存在みたいだ。
そんなすごい人に推薦されたんだから頑張れと応援されて微妙な気持ちになった。
ちょうど話が終わったタイミングで兄さんが2階から降りてきた。ジュディにお礼を言って急いで兄さんに駆け寄る。
兄さんは困惑したような表情で何かが入った袋を握りしめていた。
「バーナデットとどんな話をしたの?」
「とにかく不快な話をされた。それにこんなものを押し付けられた」
「水晶?」
「俺に預かっててほしいと無理やりな。あとルカにも謝ってほしい、当日はよろしくとも言ってた」
袋の中身は水晶の結晶だった。僕の小指ほどの大きさだ。バーナデットはなぜそれを、兄さんに預けたのだろう。
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