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ラウリア王国編
肉と米
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「兄さん本当にいいの?」
「問題ない」
「危なくなったら魔法で援護するから」
「助かる。足止めを頼む」
僕達は今魔物討伐のため草原にいる。視線の少し先にはグレートホーンブルが美味しそうに草を食んでいる。魔物ということに目をつぶればとても穏やかな光景だ。
グレートホーンブルはそこそこの強さの魔物だが、僕達の敵ではない。
ではなぜわざわざ確認したのか。兄さんが大剣を持たず、ミスリルナイフ片手に立っているからである。
昨日ミスリルナイフを受け取った時に、兄さんが大剣の手入れも鍛冶屋に頼んだら終わるのに2日かかると言われた。
武器を受け取るまで休みにしようかと提案したら、兄さんがミスリルナイフで倒すから問題ないと押し切って現在に至る。
危なくなっても魔法があるからいいかなと呑気に考えていたが、いざ魔物を前にすると心配になってきた。
兄さんは心なしかうきうきした様子でミスリルナイフの素振りをしている。
兄さんを危ない目に遭わせないためにも、確実に足止めしなければならない。
グレートホーンブルは角や体格は立派だが体の構造は前世の牛と大差ない。
土属性魔法で作った棘で固定するにも足が細いし、蹄が固いのでそもそも通らない可能性がある。力も強いので氷で足を地面に固定させても砕いてしまうかもしれない。
そこでグレートホーンブルの周囲の土を底なし沼のように柔らかくして足を沈め、再度土を固めて足を固定させることにした。
兄さんにその作戦を伝え、魔法を使うため精神を集中させる。
「土属性魔法《土操作》」
『グオォ』
いきなり膝から下が地面に埋まったことで、グレートホーンブルが驚いたような声を上げる。
兄さんはすでに動いていた。グレートホーンブルが動けなくなったのを確認すると背中に飛び乗り、すかさず頸動脈を切った。血が勢いよく吹き出したが、兄さんはそれが身体にかかる前に背中から飛び降りていた。
「お疲れ様」
「助かった。ありがとう」
兄さんの戦闘に関する才能はどういうことなんだ。まさかナイフの扱いにも長けているなんて思ってもいなかった。確かめたことはないが、大体の武器は扱えるのかもしれない。
グレートホーンブルは巨体だからギルドまで持って帰るのも一苦労だ。
運んでいる間、グレートホーンブルの肉を使ったメニューを考えていた。最近香辛料を使った料理ばかり食べているから、ミヅホのお米を食べていない。たまにはかき込むようにご飯を食べるのもいいかもしれない。
肉と米といったらアレだろう。準備に時間がかかるから今日食べられないが仕方ない。
僕はギルドの解体担当の職員さんに欲しい部位を細かく伝えた。ものすごく嫌な顔をされたけど、美味しいもののためには必要なことだ。
グレートホーンブルを討伐してから3日後。兄さんには昼は少なめにして、とにかくお腹を空かせてほしいと事前に伝えてある。
「七輪?懐かしいな。ミヅホから持ってきてたのか」
「無限収納があるからね」
「魚でも焼くのか?」
「今日は焼肉食べ放題だよ」
「焼肉?食べ放題?」
「お肉とかいろいろなものをたくさん食べられるってこと。ご飯もたくさん炊いたよ」
「それは楽しみだ」
テーブルに並ぶ肉の量に思わず頬が緩む。まさに圧巻の光景だ。
グレートホーンブルのカルビ、ロース、ハラミ、タン、モモ、ヒレ。オーク肉のバラカルビ、肩ロース。ロック鳥のモモ肉。ミヅホで購入していたホタテ、エビ、イカ。一応野菜も揃えておいた。
あとはサラダとデザートにシャーベットを用意した。
タレも醤油ベースの焼肉のタレに味噌ダレ、塩ダレとレモンダレもある。
完璧だ。量も充分ある。余ったら無限収納に仕舞えるから出来る贅沢ってやつだ。
「こんな感じで1枚1枚焼いて、完全に火が通ったらタレにつけて食べてね」
「わかった」
兄さんの食べるスピードを考慮して七輪は2台用意した。
肉を焼く音と匂いに空間が支配される。目の前で繰り広げられる光景に釘付けになり、余計なことを考える余裕もない。
肉の脂が炭に落ちて煙が上がり、それが燻煙となって肉の美味しさを一層引き上げる。
「…………」
「…………」
目を閉じながらうっとりと肉を頬張る。言葉は出さずにただ味わい尽くす。ふたりとも感極まってひたすら無言で食べ進めている。
まずは脂身の少ないものから、と思っていたのにいつのまにか食べたいものを欲望のまま食べていた。
タレをつけた肉をご飯の上にバウンドさせて食べていたら、兄さんがいつのまにか真似していて笑ってしまった。
少しだけお腹が満たされたことで、あと一品出し忘れがあることを思い出した。せっかく作ったので兄さんに伝えておこう。
「カレーも作ったけど食べる?」
「えっ?」
「どうしたの?変な顔して」
「ルカは俺に怒っているのか?」
「ん?」
「もしかしてルカに近づくなとバーナデットに言ったことがバレて」
「えっ!そんなこと言ってたの?最近バーナデットがよそよそしいから変だと思ってた」
「違ったか。じゃあ何でそんな酷いことを」
「いや、食べ放題といえばカレーだから用意しただけだよ」
「そんな究極の選択じゃないか!俺は肉とカレーどちらを選べばいいんだ」
「好きに食べたらいいんだよ。食べ放題なんだから」
「……カレーは、いらな、い」
兄さんが苦渋の決断を下した。食べ放題といえばカレーだと思って作っただけなのに。
兄さんの目が仄暗い。たしかになぜ食べ放題には必ずといっていいほどカレーがあるのだろう。前世の闇を垣間見た気がした。
「問題ない」
「危なくなったら魔法で援護するから」
「助かる。足止めを頼む」
僕達は今魔物討伐のため草原にいる。視線の少し先にはグレートホーンブルが美味しそうに草を食んでいる。魔物ということに目をつぶればとても穏やかな光景だ。
グレートホーンブルはそこそこの強さの魔物だが、僕達の敵ではない。
ではなぜわざわざ確認したのか。兄さんが大剣を持たず、ミスリルナイフ片手に立っているからである。
昨日ミスリルナイフを受け取った時に、兄さんが大剣の手入れも鍛冶屋に頼んだら終わるのに2日かかると言われた。
武器を受け取るまで休みにしようかと提案したら、兄さんがミスリルナイフで倒すから問題ないと押し切って現在に至る。
危なくなっても魔法があるからいいかなと呑気に考えていたが、いざ魔物を前にすると心配になってきた。
兄さんは心なしかうきうきした様子でミスリルナイフの素振りをしている。
兄さんを危ない目に遭わせないためにも、確実に足止めしなければならない。
グレートホーンブルは角や体格は立派だが体の構造は前世の牛と大差ない。
土属性魔法で作った棘で固定するにも足が細いし、蹄が固いのでそもそも通らない可能性がある。力も強いので氷で足を地面に固定させても砕いてしまうかもしれない。
そこでグレートホーンブルの周囲の土を底なし沼のように柔らかくして足を沈め、再度土を固めて足を固定させることにした。
兄さんにその作戦を伝え、魔法を使うため精神を集中させる。
「土属性魔法《土操作》」
『グオォ』
いきなり膝から下が地面に埋まったことで、グレートホーンブルが驚いたような声を上げる。
兄さんはすでに動いていた。グレートホーンブルが動けなくなったのを確認すると背中に飛び乗り、すかさず頸動脈を切った。血が勢いよく吹き出したが、兄さんはそれが身体にかかる前に背中から飛び降りていた。
「お疲れ様」
「助かった。ありがとう」
兄さんの戦闘に関する才能はどういうことなんだ。まさかナイフの扱いにも長けているなんて思ってもいなかった。確かめたことはないが、大体の武器は扱えるのかもしれない。
グレートホーンブルは巨体だからギルドまで持って帰るのも一苦労だ。
運んでいる間、グレートホーンブルの肉を使ったメニューを考えていた。最近香辛料を使った料理ばかり食べているから、ミヅホのお米を食べていない。たまにはかき込むようにご飯を食べるのもいいかもしれない。
肉と米といったらアレだろう。準備に時間がかかるから今日食べられないが仕方ない。
僕はギルドの解体担当の職員さんに欲しい部位を細かく伝えた。ものすごく嫌な顔をされたけど、美味しいもののためには必要なことだ。
グレートホーンブルを討伐してから3日後。兄さんには昼は少なめにして、とにかくお腹を空かせてほしいと事前に伝えてある。
「七輪?懐かしいな。ミヅホから持ってきてたのか」
「無限収納があるからね」
「魚でも焼くのか?」
「今日は焼肉食べ放題だよ」
「焼肉?食べ放題?」
「お肉とかいろいろなものをたくさん食べられるってこと。ご飯もたくさん炊いたよ」
「それは楽しみだ」
テーブルに並ぶ肉の量に思わず頬が緩む。まさに圧巻の光景だ。
グレートホーンブルのカルビ、ロース、ハラミ、タン、モモ、ヒレ。オーク肉のバラカルビ、肩ロース。ロック鳥のモモ肉。ミヅホで購入していたホタテ、エビ、イカ。一応野菜も揃えておいた。
あとはサラダとデザートにシャーベットを用意した。
タレも醤油ベースの焼肉のタレに味噌ダレ、塩ダレとレモンダレもある。
完璧だ。量も充分ある。余ったら無限収納に仕舞えるから出来る贅沢ってやつだ。
「こんな感じで1枚1枚焼いて、完全に火が通ったらタレにつけて食べてね」
「わかった」
兄さんの食べるスピードを考慮して七輪は2台用意した。
肉を焼く音と匂いに空間が支配される。目の前で繰り広げられる光景に釘付けになり、余計なことを考える余裕もない。
肉の脂が炭に落ちて煙が上がり、それが燻煙となって肉の美味しさを一層引き上げる。
「…………」
「…………」
目を閉じながらうっとりと肉を頬張る。言葉は出さずにただ味わい尽くす。ふたりとも感極まってひたすら無言で食べ進めている。
まずは脂身の少ないものから、と思っていたのにいつのまにか食べたいものを欲望のまま食べていた。
タレをつけた肉をご飯の上にバウンドさせて食べていたら、兄さんがいつのまにか真似していて笑ってしまった。
少しだけお腹が満たされたことで、あと一品出し忘れがあることを思い出した。せっかく作ったので兄さんに伝えておこう。
「カレーも作ったけど食べる?」
「えっ?」
「どうしたの?変な顔して」
「ルカは俺に怒っているのか?」
「ん?」
「もしかしてルカに近づくなとバーナデットに言ったことがバレて」
「えっ!そんなこと言ってたの?最近バーナデットがよそよそしいから変だと思ってた」
「違ったか。じゃあ何でそんな酷いことを」
「いや、食べ放題といえばカレーだから用意しただけだよ」
「そんな究極の選択じゃないか!俺は肉とカレーどちらを選べばいいんだ」
「好きに食べたらいいんだよ。食べ放題なんだから」
「……カレーは、いらな、い」
兄さんが苦渋の決断を下した。食べ放題といえばカレーだと思って作っただけなのに。
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