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第25話 デバフの使い方

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 リークは魔族の少年の足元に向かってデバフを発動させた。
 デバフのイメージは生きた者を腐らせる事だったり、物の耐久率を下げて軽くさせたり、スキルを対象から奪ってしまう事だった。だから単純に地面を腐らせて足場を悪くさせて。

「ズボ!」

 という足が地面にはまる音を響かせた。
 魔族の少年は両足が地面にめり込み、こちらに攻撃できない。

「なんだぁ?」

 魔族の少年は不思議そうにこちらを見て、足を地面から抜く、隣の地面に足を踏みつけるも、そこはデバフを使っている。

「グボ!」

 また魔族の少年の両足が埋まる。

「嘘だろ」

【デバフ魔法:バインドを習得しました】

「久しぶりの謎の声が来た! バインドだってこのスキル使えるよ、カナシー」

「それはいいから早く倒せばかもの」

「よーし、レベル4000に勝てる保証は無いけどスキル発動しまくりだああああ」

【破壊武人】【狂戦士の心】【超新星】を発動させ、かつてオークハイキングが持っていたスキル【体重操作】と【破壊衝動】を発動させる。
【超人】スキルは持続的に発動しており。
 
 リークの体の体重を劇的に重たくさせる。
 地面に足がめり込む感じがする。

 右手にアンクレイサーの斧を握りしめて、左手にランクレイサーの槍を握りしめる。
 
 2本の武器を右斜めと左斜めからクロスに落下させる。

「ちょ、ちょっとまてよぼけ、死ぬぞこっち、おめー強すぎだろがあああああ」

 魔族少年が叫び声をあげる。

 リークの脳内では破壊の衝動が強すぎる為、言葉など頭には入らない。
 思考はかつて倒したオークハイキングの事を思い出す。
 なぜなら奴もこんな気持ちだったのだろう。

 感覚は過去に飛び、感覚は現在に戻る。

「ったく足が足がはまってええええ」

 魔族少年の声がうっすらと聞こえる。
 だが、もう迷う暇すらない事をリークは知っている。

「うんどれやああああああ」

 怪力のおっさんみたいな声を上げて、高速で振りぬかれた武器は、魔族の体を地面にめり込ませ、衝撃音を響かせながら、地面に完全に埋まってしまった。
 しかも目をぱちくりさせて動けないようだ。

「おい、おめーつえーな、気に入った」

「まだ生きていたか」

 リークはもはや破壊衝動に包まれており。
 誰にも止める事が出来ない。

「ちょっとまてあの冒険者達を殺したのは俺の兄貴で、兄貴を止めようと」

「嘘をつくな、現に死体をいじっていたではないか、カナシーは倒したと見たが?」

「いや、仲間だと思ったんだが」

「ちげーよあのくそ兄貴と一緒にすんじゃねーバカ幽霊」

「よし、リークよこやつを殺せ」

「ちょ、ちょっと待ってくれよおおおおおお」
 
 リークは問答無用で、アンクレイサーとランクレイサーを荒野の土に全身が埋まって身動きの取れない魔族の少年に叩き落した。

 地面が吹き飛び、巨大な噴水のような形になり、空から荒野の土が落ちてくるという謎現象になり。

 魔族の少年は空からふわりふわりと落下してきており。

 地面に落下すると、身動きがとれないようで、ちなみに生きてました。

「お前しつけーな」

「これでも魔族やってるからな、俺は魔族だけど、魔族から追放されたものだ。こう見えても人間が好きでね、人間と話がしたい、頼むからこれ以上やられたら死ぬぞ、お前を呪ってやるぞ」

「ふぅ、どうやら本当のようだ。僕も鬼じゃないよ、さて、どうする、カナシー」

「生かそう、何かがおかしい」

 カナシーがそう呟き。
 リークは取り合えずミラクルヒールをぼろぼろの死にかけの魔族の少年にかけた。
 改めて魔族の少年を観察する。背丈はリークと同じくらいだ。
 髪の毛はツンツンしており赤黒く輝いている。耳はエルフのように尖がっている。 
 服はぼろぼろのマントにぼろぼろの布製のシャツとズボンだった。
 両方の腰には2本の剣が握られていた。

「そもそもお前を殺すつもりなら拳じゃなくて2本の剣を使ってるつうの」

「それもそうだな、その2本の剣は凄い魔力で光ってる、最高な物だな」

「お、分かるか、これは爺さんが命を使って造ったんだ。爺さんはそれで死んだ」

「それって、命を捧げた?」

「その通りだ。爺さんの命がこれには宿ってる。全部で4本、残りの2本は兄貴が持ってる。兄貴は人間を滅ぼす為にワールドダンジョンに来た。手始めにワールドダンジョンからやるそうだ。それを俺様が止めに来た」

「1人でか?」

「兄貴は俺様の双子の兄だ俺様くらいしか止められない、だが兄貴は強い、お前も強いがな、一体何をした、足元がおかしくなったぞ」

「まぁ色々だ。こっちで相談するから待っててくれ」

「おう、なにを?」

 魔族の少年の話を無視して、リークとカエデちゃんとカナシーは相談をし始める。

「さて、どうします?」
「うちは信じてもいいと思います」
「私は分からぬが、あの少年はバカだから信用しよう、それに兄貴とやらを放っておくと、ワールドダンジョンで問題になるしな、故郷がおかしくなるのは見ていられない」

「決まりだな」

 リークは魔族の少年の元に向かうと。

「協力するよ、君の兄貴を倒すのをさ」

「そうか、それはいいや」

「その代わり、モンスターを捕縛するのも手伝ってほしい」

「いいぜ、お前ら面白い事してんだな、聞いた事ねーぞワールドダンジョンのモンスターを捕まえるってのは」

「まぁな、僕の名前はリーク。君は?」

「俺様はシェイザーよろしく頼む」

「後ろにいるのはカエデちゃんとカナシーという幽霊だ」

「そうか、よろしく頼むな」

「あ、そうだ」

 リークは死体となって転がってるはずの場所に向かったが死体はなくなっていた。

「あれ、死体が」

「それなら、俺の魔剣で吸収したぞ、これは死者を吸収して強くなるからな、兄貴は生者を吸収する魔剣だ」

「と言う事は、先程あった死体にはきっとスキルはないのか」

 リークは頭の中でどことなく理解していた。
 スキルとは人に宿る魂の一部みたいなもので、生者そのものを吸い取るという事は、スキルの根源となる一部を吸い取るという事なのだから。

 シェイザーの兄は生者を吸い取り死体は残る、シェイザーは死者を吸い取り死体は残らない。
 
 少しだけややこしいと感じつつも、尋ねる。

「で、その兄貴とやらは?」

「見失っちまったから、しばらく冒険しようぜ、人間と話したかったんだ。夢だったんだ。魔族の領地から出たのも追放されたのも人間といーっぱい話がしたかったんだ。人間が作る飯、人間が作る武器屋防具、お店だって見て見たい、人間のオシャレも知りたい、俺様は最高に人間が好きなんだ」

 なんだかリークは照れ臭くなりつつも。

「俺、幻想ショップってお店の店主やってるんだ。ここ終わったら行こうぜ」

「おもろそうだな、その店の品を見せてくれよ、金貯めて買ってやるよ」

 シェイザーはにんまりと口の端を歪ませながら笑った。
 きっと上手に笑えないのだろうと思った。
 
「まったく、魔族と友達になりおったぞこいつは」

 カナシーは空を浮遊しながらそう呟いた。
 その声はリークにだけ届いた。

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