83 / 134
3:田崎駿也
2
しおりを挟む
「望? コンビニのバイト、今日は何時から?」
耳のそばで駿也の低音が響いた。えっ? 何で駿也がバイトのことを知ってるの? と考えて思い出した。駿也は田崎さん……。まだ慣れない。
「5時から9時まで。」
「そっか。一緒に途中まで行ってもいい?」
まただ……。哀願するような駿也の口調。首の辺りがくすぐったいような気がする。机の上の置き時計を見る。銀色の電波時計は、そろそろ3時になる事を告げていた。
「いいけど……俺、自転車だよ?」
「ああ、問題ない。」
自転車では30分程で着くバイト先。歩くならもう出ないと間に合わない。
「わかった。支度するから待ってて。」
涙で汚れたパーカーは着替える必要がある。駿也の腕の中を抜けて、クローゼットに向かった。少しだけ緊張する。駿也の前でいつものように着替えようとは思えなかった。
「ちょっと待ってて。」
着替えを片手に部屋を出る。階段を降りて洗面所に向かいながら、何だか夢の中にいるような気がした。
『ひどい顔……。』
顔を洗ってタオルで拭きながら鏡を見る。いつもの顔より瞼が腫れているような気がする。鼻の辺りがまだ赤い……。ここ何年も経験したことがないほど泣いてしまった。
『けど、さっきはここに……。』
俺の勘違いじゃなければ、キスをされた。触れるか触れないかぐらいの優しいキス……。俺は瞼を触りながら、鏡の中の自分が段々と赤くなるのを見ていた。
『支度しないと!』
頭をブンブン振って気を引き締める。まだ今俺の部屋で駿也が待ってる。急がないと……。服を脱いで着替える。今日は暖かい方だから夜でもパーカーだけで大丈夫に違いない。グレーのTシャツに黒のいつものパーカーを羽織る。ジーンズも履き替えて……。
『はい、出来た。』
頭をおざなりに撫でつけて、駿也の待つ自分の部屋へ駆けて行った。
「もう行けるのか?」
「うん、後、財布とスマホを持つだけ。スマホ、スマホ……。」
駿也の問いかけに答えながら机の引き出しから財布を取って、スマホを探す。どこに置いただろう?机の上にはない。駿也からメールをもらって、動揺して部屋を歩き回って……。チャイムの音が聞こえて……。
「あ、布団?」
ぐちゃぐちゃになっている掛け布団を引っ張った。その反動で2つの物体が跳ね上がった。スマホと……写真立て。
「!」
あっと思った時には、駿也が写真立てをキャッチして覗いていた。
「……これって……俺?」
「……。」
か、顔が上げられない。何でいつもの引き出しにしまっておかなかったんだろ。なんて言おうか考えていると、ガバッと駿也に抱きすくめられた。
「ああ……キツい。望……キスしたい……。」
キ、キス? え? キスって……。キス? お、俺と? 何か言おうとするけれど、言葉が思いつかなかった。
気がつくと、俺は布団の上に押し倒されていた。駿也の体がのしかかる。
「望……いい?」
少しだけ眉を下げた駿也の顔がそこにある。俺の返事も待たずに、駿也の唇が重ねられた。そっと触れるだけの優しいキス。
『俺の返事は待たないのかよっ。』
そう思ったのは一瞬だけ。俺もずっと待ってたような気がする。高校の時のステージの上で駿也にファーストキスを奪われてから、ずっと……。
優しいだけのキスは、思いのほか長かった。俺は、自分の気持ちを素直に認めて、そっと駿也の背中に腕を回した。
耳のそばで駿也の低音が響いた。えっ? 何で駿也がバイトのことを知ってるの? と考えて思い出した。駿也は田崎さん……。まだ慣れない。
「5時から9時まで。」
「そっか。一緒に途中まで行ってもいい?」
まただ……。哀願するような駿也の口調。首の辺りがくすぐったいような気がする。机の上の置き時計を見る。銀色の電波時計は、そろそろ3時になる事を告げていた。
「いいけど……俺、自転車だよ?」
「ああ、問題ない。」
自転車では30分程で着くバイト先。歩くならもう出ないと間に合わない。
「わかった。支度するから待ってて。」
涙で汚れたパーカーは着替える必要がある。駿也の腕の中を抜けて、クローゼットに向かった。少しだけ緊張する。駿也の前でいつものように着替えようとは思えなかった。
「ちょっと待ってて。」
着替えを片手に部屋を出る。階段を降りて洗面所に向かいながら、何だか夢の中にいるような気がした。
『ひどい顔……。』
顔を洗ってタオルで拭きながら鏡を見る。いつもの顔より瞼が腫れているような気がする。鼻の辺りがまだ赤い……。ここ何年も経験したことがないほど泣いてしまった。
『けど、さっきはここに……。』
俺の勘違いじゃなければ、キスをされた。触れるか触れないかぐらいの優しいキス……。俺は瞼を触りながら、鏡の中の自分が段々と赤くなるのを見ていた。
『支度しないと!』
頭をブンブン振って気を引き締める。まだ今俺の部屋で駿也が待ってる。急がないと……。服を脱いで着替える。今日は暖かい方だから夜でもパーカーだけで大丈夫に違いない。グレーのTシャツに黒のいつものパーカーを羽織る。ジーンズも履き替えて……。
『はい、出来た。』
頭をおざなりに撫でつけて、駿也の待つ自分の部屋へ駆けて行った。
「もう行けるのか?」
「うん、後、財布とスマホを持つだけ。スマホ、スマホ……。」
駿也の問いかけに答えながら机の引き出しから財布を取って、スマホを探す。どこに置いただろう?机の上にはない。駿也からメールをもらって、動揺して部屋を歩き回って……。チャイムの音が聞こえて……。
「あ、布団?」
ぐちゃぐちゃになっている掛け布団を引っ張った。その反動で2つの物体が跳ね上がった。スマホと……写真立て。
「!」
あっと思った時には、駿也が写真立てをキャッチして覗いていた。
「……これって……俺?」
「……。」
か、顔が上げられない。何でいつもの引き出しにしまっておかなかったんだろ。なんて言おうか考えていると、ガバッと駿也に抱きすくめられた。
「ああ……キツい。望……キスしたい……。」
キ、キス? え? キスって……。キス? お、俺と? 何か言おうとするけれど、言葉が思いつかなかった。
気がつくと、俺は布団の上に押し倒されていた。駿也の体がのしかかる。
「望……いい?」
少しだけ眉を下げた駿也の顔がそこにある。俺の返事も待たずに、駿也の唇が重ねられた。そっと触れるだけの優しいキス。
『俺の返事は待たないのかよっ。』
そう思ったのは一瞬だけ。俺もずっと待ってたような気がする。高校の時のステージの上で駿也にファーストキスを奪われてから、ずっと……。
優しいだけのキスは、思いのほか長かった。俺は、自分の気持ちを素直に認めて、そっと駿也の背中に腕を回した。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
心が聞こえる二人の恋の物語
たっこ
BL
クールイケメンと無自覚天然小悪魔の両片想い。高校生ノンケ×ノンケ
生まれつき人の心の声が聞こえる野間は、高校で同じ力を持つ黒木と出会う。
いつも明るい野間と一人殻に閉じこもっている黒木。傷ついてきた過去も悩みも同じ二人は、すぐに分かり合えて急激に仲良くなっていく。
あるときクラスメイトの心で男同士のエッチな場面を見てしまった二人は、自分たちと重ねて想像してしまい、お互いに想像が見えてしまった。
「……して……みる……? 俺たちも……」
黒木→イケメン、クール、溺愛
野間→無自覚天然小悪魔、心が読めるせいで人を好きになったことも無かったため、恋愛か友情か超鈍感なほどわからない。
通常会話→「 」
心の声→『 』
心の会話と通常会話が入り乱れるシーンもあり、読みずらい可能性があります。ご了承の上でお読みくださると幸いです。
Always in Love
水無瀬 蒼
BL
イケメンマネージャー×好感度抜群俳優
−−−−−−−−−−−−−−−
俳優の城崎柊真はマネージャーの壱岐颯矢のことが好きで、何度好きだと言っても相手にして貰えない。
ある日、颯矢がお見合いをしたと聞き、ショックを受ける。
ドラマの撮影でバンコクを訪れたとき、スリにあいそうになったところを現地駐在の小田島に助けられ、海外での生活の話を聞き、外国で暮らすことに興味をもつ
その矢先、白血病で入院していた母が他界してしまい、颯矢のショックと重なり芸能界引退を考える。
しかし社長と颯矢に反対され、颯矢と話し合おうとしたところで、工事現場から鉄材が落ちてきて柊真を庇った颯矢は頭を打ち…
−−−−−−−−−−−−−−−
2024.3.12〜4.23
超絶美形だらけの異世界に普通な俺が送り込まれた訳だが。
篠崎笙
BL
斎藤一は平均的日本人顔、ごく普通の高校生だったが、神の戯れで超絶美形だらけの異世界に送られてしまった。その世界でイチは「カワイイ」存在として扱われてしまう。”夏の国”で保護され、国王から寵愛を受け、想いを通じ合ったが、春、冬、秋の国へと飛ばされ、それぞれの王から寵愛を受けることに……。
※子供は出来ますが、妊娠・出産シーンはありません。自然発生。
※複数の攻めと関係あります。(3Pとかはなく、個別イベント)
※「黒の王とスキーに行く」は最後まではしませんが、ザラーム×アブヤドな話になります。
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
愛しているなら縛ってよ!&スピンオフ ストーリー
倉藤
BL
ドMをこじらせた緒方 裕臣、40歳。歳下のパートナーに、「本当は縛ってセックスして欲しいんだ」ということを、ずっと言えずに付き合っていた。満たされない欲求に悶々として、いざ性癖を伝えようと決意したのに、伝える前に隠していた『ある事』を知られてしまった。驚いたパートナーは浮気を疑って、別れを切り出されて・・?!
年下の恋人にある事を隠していたせいで、振られてしまうドMで40歳の【緒方】
同じ会社で働く一回り以上年下の恋人【須藤】
緒方が隠すある事に関係する男子大学生【河南】
緒方と別れた須藤の新しい恋人となる【濱ノ井】
こちらの四人が織りなす、すれ違いラブストーリーです。
*後半部は【濱ノ井】のスピンオフストーリーになります。(お知らせを→あらすじに変更しました)
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる