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後日談とあとがき
後日談:ラウルの巣作り*
しおりを挟むこれはまだ俺たちに子どもが生まれる前の話。
クロヴィス殿下について色々なところを回っているらしいリアムはここ十日程帰ってきていない。今回は特別長くひと月ほどの出張だと言っていたが、あと二十日もリアムがいないと思うと気分が落ち込んだ。
俺たちは一応新婚だ。なのに今は一人。リアムの出張中はあまりの寂しさに、大聖堂跡に出来た診療地区の俺達の屋敷ではなく、その隣に立っている診療所に籠るようになっていた。一人でいるのならこっちの方が使用人もいなくて気楽だと思うのは俺が元庶民だからだろうか。
それでも夜はやっぱり寂しくて、俺は屋敷からリアムがくれたものを少しずつ診療所に持ち込むようになっていった。最初は小物から始まり、気付けばリアムの服まで持ってきてしまっている。
「……これは流石に……でも一枚くらい、いいかな?」
そう言って、リアムのシャツを抱きしめながら眠る日々が続いた。ヒートではないが、それなりにリアムのシャツに残る香りに身体が勝手に反応してしまい、シャツを鼻に当てて自慰をしてしまった時は流石に自己嫌悪した。
我に帰るとなんてことをしたんだと思うのだが、でもどうしてか毎晩毎晩致してしまうのである。俺は欲求不満なのだろうか。快感に慣らされた身体は自慰くらいでは熱は治らず、何度も何度も香りを嗅ぎながら竿を扱いて果てるが物足りない。
「は、っ……う、んんッ!」
びくびくっと身体を震わせて吐精すると同時に罪悪感が湧いてくる。リアムのシャツをは汚さないようにしているが、それでも残り香だけで何度も致してしまうのはどうなんだろうか。
昼間は診療所に訪れる人達にポーションを渡したり、治癒魔法や浄化魔法を使って治療をする。医師の方一人と補助の方二人がこの診療所に出勤してくれるので、俺は主に普通では治らない、もしくは治りにくい怪我や病気を治す専門だ。
「ラウルくんはもう体は大丈夫かい?」
「あ、うん。大丈夫だよ」
「それはよかった。次のヒートの時期はもう少し先だったかな?もしリアム殿下がいない時にヒートが来たら、この子を呼んでやってくれ」
この子、と背中を押されたのはこの間新しく来たという補助の一人だった。首には黒いチョーカーが巻かれており、一目で彼女がオメガであるとわかる。斯く言う俺も家以外ではリアムがプレゼントしてくれたこの黒革に金色の金具がついたチョーカーをしている。
オメガのフェロモンはオメガには全く効果はない。そのためヒート中の世話に適任なのがオメガというわけである。彼女はよろしくお願いしますとはにかみ、ぺこりと頭を下げた。
「こちらこそよろしく」
「はいっ!」
そして紹介された彼女に微笑んで右手を差し出すと、興奮しているのか頬を紅潮させておずおずと遠慮がちに握手に応えてくれた。
その日も次の日も平和な診療だった。空き時間にポーションのストック確認をし、足りない分を作って補充する。患者さんが来れば必要に応じてポーションを出し、魔法が必要な場合は奥の部屋で治癒を行う。そんな毎日だ。
大聖堂にいた頃よりも十分の一にも満たない作業量の為、魔力が減るスピードが格段に遅い。奉仕もないし、本当に平和な暮らしだ。
なのにどうして、こうなってしまっているのだろうか。
「……俺、一体何枚持ってくれば気が済むんだろう」
また持ってきてしまったリアムの服。昨日まで持っていたシャツは香りが薄くなってきたので、また屋敷から新しく服を持ってきてしまった。床にはこんもりと盛り上がって置かれているリアムの服達。
「んっ、く……っ」
今日もまたリアムの服を嗅ぎながら、欲望のままに自慰をしている。自分の手で慰める行為は気持ち良くはあるが、やっぱりリアムとする時とは全く違う。ぱたた…とシーツに吐精し、息が上がる中俺はぼんやりと真っ暗な天井を見上げた。
あと十七日、俺は一体リアムの服を何枚集めれば気が済むんだろうか。
残り十日となった時、危惧していたことが起こってしまった――ヒートである。朝から頭がぼんやりして体が熱いとは思っていたが、昼頃にはもう頭の中は性欲でいっぱいになっていた。まだ動けている時にこの診療所に設置されている置き型の通信魔道具で医師に連絡できたのは僥倖だった。
俺がヒートのため、この診療所は今日から一週間閉所となる。その間も他の診療所は空いているので、ヒートが終わるまでの間はそっちにいってもらうことになっている。俺は部屋に閉じ籠り、集めたリアムの服の近くの床に寝転んでずっと疼きに耐え続けた。
「ラウル様、こちらにお飲み物とお食事を置いておきますね。もし何か入用でしたら、隣の部屋にいますので壁を叩いてください。では」
彼女が部屋を出ていった後にテーブルの上を見ると、そこにあったのはガラス瓶に入った冷たそうな果実水と軽食だった。這ってテーブルの上のガラス瓶を手に取り、一緒に置かれていたグラスに注いで一気に飲み干す。気が付いていなかったが喉が渇いていたようだ。ごく、ごくと二杯目も飲み干し、俺はまたリアムの服の山に倒れ込む。
ふわりと香る愛しい香り。下腹や後孔がずくんと疼き、後孔は湿り気を帯びていく。緩い下衣に手を突っ込んで後孔に触れると、そこは既にぬるりとしていた。指を突っ込んでみるがあまり入らない。ぐちゅ、ぐちゅっといやらしい水音が耳を犯していく。
「は、ぁんっ……ふ、あ」
欲しい、挿れて、突いて、出して。
リアムの大きくて固い陰茎を思い出しながら後孔をぐちゃぐちゃと掻き混ぜる。良いところに全く届かずもどかしい。
「りあむ……りあ、ぅん゛ッ」
ぴゅっと吐精した。リアムのもので自分の中を掻き混ぜられているところを思い出していたら、射精していたのだ。いつもなら罪悪感が湧き起こるのだが、ヒート中はもっともっととさらに快感を求めるように腰が止まらない。
後孔から指を出して竿を手で包み込んで上下に擦る。気持ちがいい、良いけど何かやっぱり足りない。
「ぁ、んんッ」
何度も何度も快感を求めて精を吐き出し、疲れて眠ってまた自慰をする生活が続いて数日、もう今日がいつなのかもわからない。世話をしてくれている彼女が来たことすらも覚えていない。体はまだ疼くし、熱も治ってはいないのでまだヒートは終わっていないようだ。カーテンも閉め切っているし、部屋は真っ暗なので今が昼か夜かすらもわからない。まるで、あの頃のような――
「ひぐッ……あ、やら……ッ」
脳裏に浮かぶ大聖堂での記憶。無理やり犯されている時のことを思い出して、俺はパニックを起こしていた。忘れようとしても忘れられない、いつもならすぐに落ち着くそれもヒート中の不安定な時期は中々落ち着かない。
視界が滲む、頬を熱い雫が幾筋も伝う。口は半開きのまま固まり、口端から粘り気のある透明な液体が溢れていた。
「こな、こないれぇ……ッ!やら……やぁッ」
腕を上げた瞬間、鼻をつく香りに俺の動きがぴたりと止まった。嗅ぎ慣れた香りが鼻から全身へと周り、俺を落ち着かせていく。
そうだ、そうだった今の俺はもう大聖堂にいた聖女じゃない。そう……そうだった……ここは診療所だ、大丈夫……俺は、犯されてない。
「はぁっ……はあ、っ」
ひくりと引き攣っていた喉が元に戻っていく。呼吸ができる。体が熱い、リアム、リアム……。
その時、部屋の外から人の声がした。
一人は世話をしてくれている彼女だとして相手は、そう考えた時、俺の鼻はより濃いアルファのフェロモンを嗅ぎ取った。この匂いは、知ってる。でもなんで?
「ラウル、入るぞ……なんだこれは?」
「これは……オメガの巣作りですね」
「これが……?」
そう言って彼女は部屋を出ていき、後に残されたのは精液や涙や涎まみれの俺と帰ってきたらしいリアムだけ。俺はリアムに手を伸ばして、情けない声で彼を呼んだ。
「……寂しかったか?今楽にしてやるから」
俺のそばまで歩いてきたリアムは俺の頭をさらりと撫でて、かちゃかちゃとベルトを外し、タイをするりと抜き取った。服を全て脱ぎ捨ててそのまま俺の元に来て、既にぐちょぐちょの後孔に先端があてがわれる。
「ふっ……吸い付いてる」
「りあむ、りあむ……」
「わかってる。挿れるぞ」
「ん、あ……あッ――……!」
一気に貫かれ、果てた。精液は出ていない。足を持ち上げられてズチュンッ、ズチュンッと激しく抽挿され、結合部からは泡立った体液が溢れ、俺の口からは言葉にならない悲鳴のような嬌声が上がる。
「あ、あっ、あ゛ぁッ」
「く……ん、っ」
「イくっ、イ……ああぁぁッ!」
「……はっ……出すぞ」
子宮口を先端で押し広げながら吐精したリアムは、少しぴくぴくと中で震えた後また律動を再開した。ぐちゅっ、ぶちゅっと結合部から出された精液が、ぽと、ぽとっと床を汚していく。止まらない、気持ちが良いのが止まらない!
リアムは激しく腰を打ちつけ、パンッパンッと弾けるような音が部屋に響き渡る。リアムは二度三度と中で吐精したが、まだ胎内にいる彼は固さも質量も保ったままだ。
「やっ、あぁっ、ん、んあぁっ!」
「ははっ……イキっぱなしだな、っ」
「ふあぁっ、も、ああぁッ!……いっ、ぐ……ッ!」
頸に鋭い痛みが走る。ぐっ、と鋭いものが皮膚に食い込む感覚に、脳天を突き抜けるような快感が襲う。その瞬間俺の陰茎から勢いよく透明なさらさらした液体が噴き出した。
いつの間にかまた意識を失っていたらしい。どうやら意識のない間にヒートは終わっていたらしく、熱も疼きもすっかりなくなっていた。久々にすっきりとした脳内に少し気分がいい。
起き上がろうとすると、腰と頸に鋭い痛みが走った。
「いっ……!」
「ん……らうる?」
「えっ?……え?!」
隣から聞こえてきた耳馴染みのある声に、俺はぱっとそっちを見た。混乱する俺をよそに、そいつ――リアムはふにゃりと笑みを浮かべたままぎゅっと抱きしめられる。温かい、これは本物かとぼんやりと思っていると、唇を塞がれた。久しぶりのキスはとても心地良い。もっと、と求めそうになった時、俺は思い出した。
……思い出して、しまった。
今のこの部屋の状況を、だ。
「リアムっ!これは、その……っ」
「ん?ああ、これか?世話係の女性に聞いたが、これはオメガ特有の習性らしい。巣作りというそうだ」
「……巣作り?」
巣作りとはなんぞ?という顔が前面に出ていたようで、リアムは上半身を起こしながらくすくすと笑っている。
「巣作りは、番のアルファの匂いに包まれたいというオメガの本能が働いて、番の匂いのついた服や物を集めて包まり、つがいの帰りを待つことらしい」
「……そ、うなのか」
「俺の匂いは好き?」
「……好き」
リアムの匂いを嗅ぐととても落ち着くし、幸せな気持ちになる。そうか番を求めるオメガの習性だったのか、そう思えば少し気持ちが楽になった。しかし習性、そしてヒートとはいえそれに包まって自慰をするのは色々とどうなのだろうかとは思う。
リアムはとても幸せそうな表情で俺を抱きしめながら、嬉しいと言った。巣作りをすると言うことはそれだけ俺がリアムのことを安心できる対象だと思っているからだと、愛しているからだと目に見えてわかるからとても嬉しかったのだと言う。
「また、巣作りしてくれるか?」
「……機会があれば、な」
「ただいま、ラウル」
「……おかえり、リアム」
お互いどちらからともなく口を重ね合わせた。
――ああ……幸せだ。
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