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10-5 POV:リア
第242話:白い婚姻をしたい理由
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「色物の服?」
「そう。俺の場合は白い礼装用の騎士服が着られなくなって、紺の礼服になる」
「どうしてそんなに一目瞭然にする必要性が?」
「そういう『しきたり』だ」
「白の服を着て黙っていれば分からないでしょう?」
ヴィルさんは大きなため息をつきながら首を横に振った。
「遡れば何かしら意味はあるのかも知れないが、とかく『しきたり』は意味不明なものが多いよな」
「んー、確かにそうかもですねぇ」
「結婚式の朝、貴族は王宮へ行って『真実の宝珠』の前で宣誓をする。その宣誓文が厄介だ。『僕は何もしていません』という内容の宣言を読まされる。『すべてイイエで答えろ』と尋問を受けているのと同じことだ」
「あらまぁー」
「だから、婚前交渉の有無は絶対バレるようになっているわけだ」
「プライバシーの侵害ですねぇ」
「色物を着ていれば大勢の前で『自分は忍耐力のない奴です』と宣言しているようなものだ。一般人ならファッションだと言い訳できるが、王家の人間がそれをやると格好悪いだろう?」
「わたしはてっきり『花嫁の純潔』にこだわる古い習慣なのかと思っていました」
彼は腕組みをして「ふむ」と言うと、少しの間考えていた。
「もしかしたら昔はそうだったのかも知れないな。しかし、それは飢えた狼の群れの中で小さなウサギに防衛を求めるような悪習だと思わないか?」
「確かに自己防衛には限界がありますし、女性ばかりに純潔を求められても困るというか……」
「『真実の宝珠』の前で誓わせるようになったのは三代前の王の時代だ。目に見えて男が恥をかくやり方に変えることで、その考え方を改めさせたのかも知れない。まともな男と婚約すれば、二人で一緒に『男の自尊心』と『花嫁の純潔』を守ることになるからな」
ふむふむ、言われてみれば確かにそうだ。頭いいですねぇ。
彼はゆっくり息を吐き出すとリボンから手を離し、いくつか深呼吸をした。
そして「俺に限って言えば……」と前置きした。
「相手が神薙だという時点で、誰もが『色付きの婚姻』をすると思っているだろう。一部の天人族は、いまだ神薙を淫獣だと思っている。俺が白以外の服を着ていたら、それを認めたも同然だ。また欲に目がくらんだ虫がリアに近づく隙を与える。あの見合いの日のような思いは二度と御免だ」
「ヴィルさん……」
「俺は結婚式の直後に記者の取材にも応じなければならない。そこで何を着ていたかは国中の人の知るところになるわけだ」
「そ、そうなのですねぇ」
「王族のわりに凡人で申し訳ないとは思っているよ。しかし、俺なりに努力はしてきたという矜持がある。たかが服の色でそれごと否定されたくない。それがリアを守ることにも繋がるのならば、辛抱をするのは当然のことだ」
「俺は絶対に、絶対に、白の礼装でリアの隣に立つと決めている」
わたしは感動していた。
カッコイイ、嬉しい、大好き。
これがこの王国の貴族社会のリアルで、男のプライドを懸けた我慢大会でもあるのだ。
知らなかったとは言えプルプル耐えている姿を面白がったりして申し訳ない気持ちになった。
こんなにきちんとした理由があるのなら、わたしも協力したい。
話してもらえて良かったと心から思った。
──なのに、だ。
なんでこの人は、さっきからわたしのお胸を触っているのだろうか。
「ヴィルさん……」
「リアにも我慢を強いて辛い思いをさせたくない」
「わたしは我慢など強いられていませんけれども?」
「節度を持っているので、そこは安心してほしい」
「いいえ、ここが図書室で、そこの扉の鍵が開いている時点で節度がありません」
わたしの感動を返して(涙)
やっぱり今日も彼はワンワンしている柴犬だ。
「ちょ、もうやめ……そこばっかり触らないでください」
彼は「ほう? ほかのところが良いのだな?」と言うと、手をするっとスカートの中に入れた。
ノォォォーっ、そういう意味じゃないですよぉぉぉ!
「ヴィルさん、それは絶対に違います……」
しかし、彼の手が太ももから左腰あたりへ滑っていくと、急にピタリと動きが止まった。
モソモソと指だけが動いている。
むむ? くすぐったいですね。
何をなさっているの?
もしや、おぱんつのヒモをイジイジといじっておられます?
また彼はプルプルと震えだした。
今度はそっちをほどきたくて葛藤しているのだ。
だから言わんこっちゃない。
彼が目指している『白い婚姻』は、物理的な距離を取らずには達成が難しいと思う。
本気で白の礼服を着る気なら、お触りは自重してもらわないと……。
彼はこめかみに血管を浮き上がらせながら「リア、覚えていろよ。結婚したら寝かさないからな」と、まるでわたしのせいみたいに言った。
逆恨みすぎる……(汗)
わたしはただ変なステテコを卒業して普通のおぱんつをはいているだけなのに。
ヴィルさんのカッコイイおぱんつも作ってさしあげましょうか? 初夜に夫が白い変なおぱんつだと、わたしもちょっとガクーっとしてしまうかも知れませんから。
「なぜ怒っているのですか?」
「これは、例の赤たまねぎと作っているものか?」
「そうですね。ほかにも結婚に向けて色々と……。たった今、男性用のも作ろうと思いつきましたけれども」
「店を出すのか?」
「出せたらいいな、と思っています。単に費用を回収したいだけですが」
「結婚後に?」
「んんー……と、ヴィルさんが見た後に、ですね」
「では、結婚後だな」
彼は自分に言い聞かせるように、もう一度「うん、結婚後だ」と言った。
なるべく早く費用を回収したいところではあるけれど、頑張る旦那様が最優先だ。
「ちょっと確認したいことがある」
「はい? なんでしょうか?」
「……これは引っ張ると脱げるのか?」
「ど、どういう確認なのでしょうか」
「重要な確認だ」
「そうですけれど、今引っ張られると困ります」
彼は「やばい」と呟き、またプルプルしていた。
そのまましばらく何かを確認しているかのように腰回りを撫でまわしていたけれども、結局ほどくことはしなかった。
彼の決意は固い。
この中途半端な感じが結婚まで続くのかと思うと少々微妙な心境ではあるけれども、ヴィルさんの思いを優先することに決めた。
彼は王宮に出向いたついでに「結婚式を早めたい」とイケオジ陛下に直談判したようだ。
そして、予定よりも一か月ほど早めることができたと言っていた。
わたし達は納品されたばかりの舞踏会用の服を試着し、互いの姿に惚れ惚れして褒め合うと、最後の通し稽古をした。
いよいよ婚約発表だ。
「そう。俺の場合は白い礼装用の騎士服が着られなくなって、紺の礼服になる」
「どうしてそんなに一目瞭然にする必要性が?」
「そういう『しきたり』だ」
「白の服を着て黙っていれば分からないでしょう?」
ヴィルさんは大きなため息をつきながら首を横に振った。
「遡れば何かしら意味はあるのかも知れないが、とかく『しきたり』は意味不明なものが多いよな」
「んー、確かにそうかもですねぇ」
「結婚式の朝、貴族は王宮へ行って『真実の宝珠』の前で宣誓をする。その宣誓文が厄介だ。『僕は何もしていません』という内容の宣言を読まされる。『すべてイイエで答えろ』と尋問を受けているのと同じことだ」
「あらまぁー」
「だから、婚前交渉の有無は絶対バレるようになっているわけだ」
「プライバシーの侵害ですねぇ」
「色物を着ていれば大勢の前で『自分は忍耐力のない奴です』と宣言しているようなものだ。一般人ならファッションだと言い訳できるが、王家の人間がそれをやると格好悪いだろう?」
「わたしはてっきり『花嫁の純潔』にこだわる古い習慣なのかと思っていました」
彼は腕組みをして「ふむ」と言うと、少しの間考えていた。
「もしかしたら昔はそうだったのかも知れないな。しかし、それは飢えた狼の群れの中で小さなウサギに防衛を求めるような悪習だと思わないか?」
「確かに自己防衛には限界がありますし、女性ばかりに純潔を求められても困るというか……」
「『真実の宝珠』の前で誓わせるようになったのは三代前の王の時代だ。目に見えて男が恥をかくやり方に変えることで、その考え方を改めさせたのかも知れない。まともな男と婚約すれば、二人で一緒に『男の自尊心』と『花嫁の純潔』を守ることになるからな」
ふむふむ、言われてみれば確かにそうだ。頭いいですねぇ。
彼はゆっくり息を吐き出すとリボンから手を離し、いくつか深呼吸をした。
そして「俺に限って言えば……」と前置きした。
「相手が神薙だという時点で、誰もが『色付きの婚姻』をすると思っているだろう。一部の天人族は、いまだ神薙を淫獣だと思っている。俺が白以外の服を着ていたら、それを認めたも同然だ。また欲に目がくらんだ虫がリアに近づく隙を与える。あの見合いの日のような思いは二度と御免だ」
「ヴィルさん……」
「俺は結婚式の直後に記者の取材にも応じなければならない。そこで何を着ていたかは国中の人の知るところになるわけだ」
「そ、そうなのですねぇ」
「王族のわりに凡人で申し訳ないとは思っているよ。しかし、俺なりに努力はしてきたという矜持がある。たかが服の色でそれごと否定されたくない。それがリアを守ることにも繋がるのならば、辛抱をするのは当然のことだ」
「俺は絶対に、絶対に、白の礼装でリアの隣に立つと決めている」
わたしは感動していた。
カッコイイ、嬉しい、大好き。
これがこの王国の貴族社会のリアルで、男のプライドを懸けた我慢大会でもあるのだ。
知らなかったとは言えプルプル耐えている姿を面白がったりして申し訳ない気持ちになった。
こんなにきちんとした理由があるのなら、わたしも協力したい。
話してもらえて良かったと心から思った。
──なのに、だ。
なんでこの人は、さっきからわたしのお胸を触っているのだろうか。
「ヴィルさん……」
「リアにも我慢を強いて辛い思いをさせたくない」
「わたしは我慢など強いられていませんけれども?」
「節度を持っているので、そこは安心してほしい」
「いいえ、ここが図書室で、そこの扉の鍵が開いている時点で節度がありません」
わたしの感動を返して(涙)
やっぱり今日も彼はワンワンしている柴犬だ。
「ちょ、もうやめ……そこばっかり触らないでください」
彼は「ほう? ほかのところが良いのだな?」と言うと、手をするっとスカートの中に入れた。
ノォォォーっ、そういう意味じゃないですよぉぉぉ!
「ヴィルさん、それは絶対に違います……」
しかし、彼の手が太ももから左腰あたりへ滑っていくと、急にピタリと動きが止まった。
モソモソと指だけが動いている。
むむ? くすぐったいですね。
何をなさっているの?
もしや、おぱんつのヒモをイジイジといじっておられます?
また彼はプルプルと震えだした。
今度はそっちをほどきたくて葛藤しているのだ。
だから言わんこっちゃない。
彼が目指している『白い婚姻』は、物理的な距離を取らずには達成が難しいと思う。
本気で白の礼服を着る気なら、お触りは自重してもらわないと……。
彼はこめかみに血管を浮き上がらせながら「リア、覚えていろよ。結婚したら寝かさないからな」と、まるでわたしのせいみたいに言った。
逆恨みすぎる……(汗)
わたしはただ変なステテコを卒業して普通のおぱんつをはいているだけなのに。
ヴィルさんのカッコイイおぱんつも作ってさしあげましょうか? 初夜に夫が白い変なおぱんつだと、わたしもちょっとガクーっとしてしまうかも知れませんから。
「なぜ怒っているのですか?」
「これは、例の赤たまねぎと作っているものか?」
「そうですね。ほかにも結婚に向けて色々と……。たった今、男性用のも作ろうと思いつきましたけれども」
「店を出すのか?」
「出せたらいいな、と思っています。単に費用を回収したいだけですが」
「結婚後に?」
「んんー……と、ヴィルさんが見た後に、ですね」
「では、結婚後だな」
彼は自分に言い聞かせるように、もう一度「うん、結婚後だ」と言った。
なるべく早く費用を回収したいところではあるけれど、頑張る旦那様が最優先だ。
「ちょっと確認したいことがある」
「はい? なんでしょうか?」
「……これは引っ張ると脱げるのか?」
「ど、どういう確認なのでしょうか」
「重要な確認だ」
「そうですけれど、今引っ張られると困ります」
彼は「やばい」と呟き、またプルプルしていた。
そのまましばらく何かを確認しているかのように腰回りを撫でまわしていたけれども、結局ほどくことはしなかった。
彼の決意は固い。
この中途半端な感じが結婚まで続くのかと思うと少々微妙な心境ではあるけれども、ヴィルさんの思いを優先することに決めた。
彼は王宮に出向いたついでに「結婚式を早めたい」とイケオジ陛下に直談判したようだ。
そして、予定よりも一か月ほど早めることができたと言っていた。
わたし達は納品されたばかりの舞踏会用の服を試着し、互いの姿に惚れ惚れして褒め合うと、最後の通し稽古をした。
いよいよ婚約発表だ。
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