昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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5[リア]

謁見の間

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 陛下から呼び出しがあったのは、舞踏会から数日後のことだった。
 急ぎの用があるらしい。朝から仕事で出ているヴィルさんも合流すると使者は言った。
 その日は大事なおぱんつ会議。しかし、陛下に急ぎと言われたら断れない。会議は代理でミストさんに進めてもらうようお願いした。

 王宮に着くと、珍しく「謁見の間」に通された。
 このところプライベート用の部屋で会うことが多かったので、久々のお役所エリアに少し緊張する。
 中に入るとヴィルさんが待っていた。
「新しいドレスか? よく似合っている」
 頬にキスをされ、顔からぼーぼー火を出していると、陛下が手招きをした。
「こんな場所に呼び出して悪いな。まあまあ座りなさい」
 王の椅子の隣には、王妃様用と思しきおそろいの椅子がある。
 えんじ色の座面はふかふかで、ビロードのような癒し系の手触り。ひじ掛けや背もたれには金の装飾が施されていた。
 謁見の間に来ると決まってそこに座るよう勧められる。恐縮しながら浅めに腰かけるのが常だ。
 しかし、落ち着かない……。ただの空いている椅子だと思えばよいのだけれども、社長椅子にすら座ったことのないわたしのおしりは平民仕様。空気椅子のほうが気楽だったりする。

 皆で雑談をしつつ、チラチラと部屋の中の様子をうかがった。
 わたしが落ち着かないのには、もう一つ理由がある。いつもより人が多く、お固い雰囲気が漂っているのだ。
 近衛騎士団の人たちが陛下のそばに四人、入り口に二人、部屋の四隅にも立っている。さらには記録官と、何か書き物をしている人たちが五人も。
 むむぅ、これは一体……?

「今から人が来る。悪いがリアも一緒に会ってくれ。彼らには自分が思ったことをそのまま話して構わん。腹が立ったら怒鳴ってもよい。リアの思うままでいい」
「は、はあ……」
 どうやら正式な謁見に同席することになってしまったようだ。
 アレンさんいわく、全員の発言と行動をすべて記録し、長期に渡って保管するとのこと。
 思うままでヨシと言われても、あまり迂闊うかつなことは言えない。
 なにせ「神薙が腹を立てると雷が落ちる」と言われているのだ。「ブチ切れた神薙が人を殺した」なんて物騒な記録を残されては困る。
 何があっても穏やかな気持ちでいなくては……。

 わたしのすぐ左にアレンさんが立ち、少し離れた場所にフィデルさんと隊長、それから部屋の反対側には第一騎士団の精鋭が二人立つ。ヴィルさんは陛下の右斜め前に移動した。
「では、呼べ」
 陛下が合図をした。

 少しすると廊下からバタバタと人の靴音が聞こえてきた。
 皆が顔をしかめている。
 謁見の間に足音をバタつかせて入ってくるとは失礼な人たちだ。どなただろう?
 入り口を見ていると、知った顔が現れた。
 わたしを淫乱呼ばわりした三角コーンこと……ナントカ伯令嬢だ(ごめんなさい、もうお名前を忘れました)
 彼女はご両親に引きずられるようにして入ってきた。それに続く取り巻きの令嬢二人も同じような状況だ。
 すべてを記録する特設リングを用意して、第二ラウンドでもやろうと言うのだろうか。今度はどんな撃を仕掛けてくるつもりなのか……。
 陛下には申し訳ないけれども、おうちに帰りたい。

 取り巻き二人の家族はさておき、ナントカ伯ご一家は個性的だ。
 お父様のお顔を見て、わたしはハッとした。
 ナントカ伯は「まぼろしの騎士団長」だ。
 彼はいつもでっぷりとしたお腹を突き出し、横柄な態度で王宮をのしのし歩いている。その姿があまりにも偉そうだったので、当初、陛下の親戚だと思っていたくらいだ。
 ヴィルさんの正体を知るまで「第一騎士団長は陛下の親戚」という情報だけだったため、てっきりこの人が団長だと思い込んでいた。わたしの中で「団長イコールおじさん」の方程式ができてしまったのは、彼のせいなのだ。
 のちに親戚ではないことはわかったけれども、態度の大きさから天人族の侯爵以上は確実だろうと思っていた。それがまさか、ヒト族の伯爵とは驚きだ。

 お母様は大きな羽根つきの帽子をかぶり、娘よりも豪華な三角コーンだった。
 娘が駆け出しの歌手だとしたら、お母様は大御所の演歌歌手、ラスボスだ。
 なぜ他人の迷惑を顧みず、横方向へスカートを広げるのだろう。半分サイズのゴーフルのようになっている。
 風の強い日にどうやって歩くのかが気になった。風向きに気をつけながらカニ歩きをしないとコケる気がしてならない。
 相当気合いを入れて来たらしく、お化粧もすごかった。日本で「ケバい」と言われていた人が薄化粧に思えてくる。

 アレンさんは後ろへ顔を背けると「はぷしょぃッ!」とクシャミをした。
 ハンカチで鼻を押さえている。
 わたしも鼻がモズモズしていた。お母様が強烈な香水のニオイをまき散らしているせいだ。お化粧のニオイと相まって、むせかえるような臭気が充満している。
 ハンカチを取り出して鼻に当てたけれども、この状態で話ができるのかと不安になってきた。

「オォエッ」

 隣でイケオジがえずいた(汗)
 日本に比べて女性の社会的地位が低いせいか、こういう時の男性は容赦がない。見ているだけでハラハラしてしまう。
「その女をつまみ出せ! 窓を開けて換気せよ! おお、臭い。鼻が曲がるわい!」
 哀れ、お母様は入場からわずか三十秒でレッドカードによる退場だ。
 陛下はアレンさんに風を頼んだ。とっとと空気を入れ替えるために、彼を換気扇として使う気なのだろう。
 彼は詠唱をするためにハンカチを外すと、またもや「はぷしょっ!」とクシャミをした。
「化粧が濃くて香水のクサイ女は嫌い」という彼の発言は、女性の好みの話ではなく、鼻粘膜からの切実なお願いだ。
 彼は風を送りながら「はぶしょおっ!」と、もう一発クシャミをした。

 ☟

「不出来な娘が、大変申し訳ございませんでした!」
 お父様が令嬢の頭を押さえつけるようにして下げさせ、謝罪の言葉を口にした。
 令嬢は性懲りもなくわたしをにらんでいる。
 まだ先代と間違えているのだろう。家族も教えてあげればいいのに……。敵意むき出しの般若面で美人が台無しだ。

 改めてじっくりと令嬢を見た。
 見た目の印象では、いわゆる悪人タイプには見えなかった。
 根っからの悪い人や、ねじ曲がったことばかりを考えている人は、大抵それが顔に出る。彼女の場合、単に怒りの感情が前面に出ているだけのようだった。
 どちらかというと誰かにそそのかされて悪いことをしそうな感じだ。世間知らずだと勘違いをしやすいし、すぐに他人の影響を受けて洗脳されやすい。いじめっ子ほど家庭に問題があって訳あり人生を歩んでいるのはよくある話だ。
 取り巻きの二人は自分で頭を下げて、メソメソと泣いていた。

 ――はあ、おぱんつ会議に戻りたい。
 今日は殿方用のおぱんつについて大事な話をする予定だった。なのに、わたしはここで何をしているのだろう。
 この国の殿方にも白以外のおぱんつを提供したい。メンズを先に商品化して世に送り出し、女性向けおぱんつ発売のインパクトを薄める作戦なのだ。
 こんなに重要な会議がほかにあるだろうか。
 ヴィルさんの初夜のおぱんつがかかっている。アレンさんやフィデルさんのおぱんつも然りだ。三角コーンとイケメンおぱんつを天秤てんびんにかけたら、おぱんつの圧勝に決まっている。
 ですからナントカ伯御一行様、謝るならきちんと謝っちゃってください。今日はサッと終わりにいたしましょう。イケメンおぱんつのため、わたしを通行止めするのはご遠慮ください。どうか会議に行かせてください。

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