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第十一章 婚約発表
第256話:オルランディア蜜イチゴ
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「今度はわたしが『あーん』をされる番ですか?」
「そうですよ? 毎食こうしてお世話になったのが随分前のような気がしますね」
アレンさんがそう言うと、くまんつ様が鼻息を荒くした。
「お前、まさか闘病中に食べさせてもらっていたのか?」
「死の淵にいる者の特権です。俺、本当に死にそうでしたから」
「聞いていないぞ、そんな話……」
「団長が俺も俺もと言ってリア様を困らせそうなので内緒にしていました」
「確かにあいつは言いかねない」
「最近、団長は異世界料理のおねだりが止まらなくてリア様が大変なのですよ」
周りが一斉にウン、ウン、ウン! と、激しく頷いたのでギョっとした。
「皆さん、気づいていたの?」と聞くと、また一斉に頷く。
「皆で心配していたのですよ。団長があまりにしつこいから」と、アレンさんは言った。
ヴィルさんは最近やたらと『かつサンド』を食べたいと騒いでいる。
くまんつ様がお魚を持ってきてくださった日、料理人が試作していたトンカツがあったので、それでパッとサンドウィッチを作り、従者のふたりに「食べてね」と渡した。
ヴィルさんはいまだにそれを根に持っているらしい。
「俺は食べたことがないのだが、あれはもう作らないのか? 次はいつ作る予定だろう? 料理長に聞けば分かるのかな?」と、尻尾をブンブン振り回しながらウロウロするのだ。
「うちの従者からも気絶しそうなほど美味だったと聞いている。俺もあれ以来、ヴィルと会うたびにその話をしている気が……。それはまさか俺のせいか?」
くまんつ様が申し訳なさそうに言った。
むぅ、かつサンドを食べたい人が、ここにもう一人いた……。
ヴィルさんとくまんつ様にはもっと豪華なものを差し入れしたのだけれども、やっぱり従者の人達だけにあげたのは良くなかったのかも。
「んんー、でも、かつサンドの前に普通のトンカツを食べて頂きたいのですよねぇ……パンに挟んでいる中身のほうなのですけれども。で、そこからカツ丼・かつサンド、つまりコメ派かパン派に分かれて頂きたいわけです」
「コメっ?」と、アレンさんが反応した。なにげに彼はお米が好きだ。
しかしトンカツは良いとしても、オルランディアでカツ丼を作るとなると盛り付けに悩みそうだ。
平たいお皿で「丼」と呼ぶのは変だし、スープ皿もちょっと……。いっそカツを一口サイズのサイコロ状にして、スープボウル+スプーンで食べるという手もある。お箸がないって不便だ。
「料理長の調整が済んだら、とんかつパーティーをしましょうか」と提案すると、皆が目を輝かせた。
ちらりとアレンさんの手元を見た。
小さなイチゴはいつもの見慣れた三角形ではなく、まん丸に近い。それでなくても可愛い見た目が、コロコロとしていて余計に可愛らしい。
冗談半分でパカッと口を開けると、本当に「あーん」と食べさせてくれた。
いざ自分が食べさせてもらう側になると、なんだかくすぐったい。
「んふふふふ」と笑った次の瞬間、超濃厚なイチゴの風味と甘みが口いっぱいに広がった。
凄い……、なんか凄いのが来た。
これはとんでもないイチゴだ。
うわー凄いっ! なんか猛烈に凄いぃ~ッ!
語彙力が吹き飛ぶ美味しさ!
「んんーーッッ!!」
「凄いでしょう?」
「すごーい! 甘~い。これ、危険です! はああぁっ、涙が出そう~」
「オルランディア蜜イチゴという品種ですよ」
この国のフルーツは何を食べても美味しいけれども、その中でも蜜イチゴは突き抜けていた。陛下が外交に使うのも頷ける。
「素晴らしい高級イチゴです。皆で少しずつ頂きましょう♪」
「独り占めしたって誰も怒りませんよ?」
「こういうものは皆で食べたほうが絶対に美味しいですよ」
「本当にあなたは慈悲深い」
「はい、アレンさんも、あーん」
「私は自分で食べられます」
「じゃあ、くまんつ様に……」
「あ、それはダメです。私が頂きます」
彼は、くまんつ様に向きかけていたわたしの手をくいっと自分のほうに向け、パクリと食べてしまった。そして、席を立って給仕の人に小分けにしてもらうよう頼みに行った。
呆れ顔のくまんつ様はわたしをじっと見ると、「彼は独占欲が強いから大変でしょう?」と言った。
わたしが答える前に、戻ってきたアレンさんがストンとくまんつ様の横に座る。
「誰の独占欲が強いのですか? くまんつ様」
「リア様の真似はヤメロ。誰がクマだ!」
「くまんつ様、はい、あーん」
「や、やめろ、書記のあーんは要らない……」
「食べたことないでしょう? くまんつ様ったら釣りばっかりしているのだもの」
「お前に食わされるのは嫌だっ」
「もぉー、くまんつ様っ」
「だからリア様の真似をするな!」
「ヒラヒラのフリフリマス、また釣れたら分けてくださいねぇ?」
「あのマスはそんな名前じゃねえ!」
必死でイヤイヤするくまんつ様に、わたしのモノマネ(?)をしながら、アレンさんがグイグイとイチゴを勧めていく。皆、大爆笑だ。
「ほらっ、ワガママ言わずにちゃんと食べなさいクリスっ」
「今度はうちの親父の真似か! お前はどんだけ……」
「そらっ」
「ぅごっ! ……うおぉっ、美味いっ! しかし、複雑!」
うぷぷ(笑)
くまんつ様が来てくれたおかげで楽しい夜になった。
久々に会ったマリンともたくさん話ができたし、サムエルさんから熱々のノロケ話も聞けてしまった。
部屋の外では予想通りの展開になっているようだ。
調査から戻ってきた騎士団員が、猛烈な勢いで噂が広がっていると教えてくれた。
同じ報告がヴィルさんの所にも届いたのだろう。使者が来て「部屋から出た後は誰とも会話をせず、万全の警備で馬車へ直行してほしい」と言われた。
わたしはマリン達と別れのハグを交わすと、ヴィルさんの指示通りガッツリと騎士に囲まれて馬車へ向かった。
くまんつ様も馬車まで一緒にいてくれたので心強かった。
お家に着くと、ヴィルさんから「話が長引いているので今日は王宮に泊まる」と連絡があった。
やれやれ……。
大変な一日になってしまったけれども、とりあえずちゃんと踊れて、無事に帰ってこられたのでヨシとしましょうかぁ。
「そうですよ? 毎食こうしてお世話になったのが随分前のような気がしますね」
アレンさんがそう言うと、くまんつ様が鼻息を荒くした。
「お前、まさか闘病中に食べさせてもらっていたのか?」
「死の淵にいる者の特権です。俺、本当に死にそうでしたから」
「聞いていないぞ、そんな話……」
「団長が俺も俺もと言ってリア様を困らせそうなので内緒にしていました」
「確かにあいつは言いかねない」
「最近、団長は異世界料理のおねだりが止まらなくてリア様が大変なのですよ」
周りが一斉にウン、ウン、ウン! と、激しく頷いたのでギョっとした。
「皆さん、気づいていたの?」と聞くと、また一斉に頷く。
「皆で心配していたのですよ。団長があまりにしつこいから」と、アレンさんは言った。
ヴィルさんは最近やたらと『かつサンド』を食べたいと騒いでいる。
くまんつ様がお魚を持ってきてくださった日、料理人が試作していたトンカツがあったので、それでパッとサンドウィッチを作り、従者のふたりに「食べてね」と渡した。
ヴィルさんはいまだにそれを根に持っているらしい。
「俺は食べたことがないのだが、あれはもう作らないのか? 次はいつ作る予定だろう? 料理長に聞けば分かるのかな?」と、尻尾をブンブン振り回しながらウロウロするのだ。
「うちの従者からも気絶しそうなほど美味だったと聞いている。俺もあれ以来、ヴィルと会うたびにその話をしている気が……。それはまさか俺のせいか?」
くまんつ様が申し訳なさそうに言った。
むぅ、かつサンドを食べたい人が、ここにもう一人いた……。
ヴィルさんとくまんつ様にはもっと豪華なものを差し入れしたのだけれども、やっぱり従者の人達だけにあげたのは良くなかったのかも。
「んんー、でも、かつサンドの前に普通のトンカツを食べて頂きたいのですよねぇ……パンに挟んでいる中身のほうなのですけれども。で、そこからカツ丼・かつサンド、つまりコメ派かパン派に分かれて頂きたいわけです」
「コメっ?」と、アレンさんが反応した。なにげに彼はお米が好きだ。
しかしトンカツは良いとしても、オルランディアでカツ丼を作るとなると盛り付けに悩みそうだ。
平たいお皿で「丼」と呼ぶのは変だし、スープ皿もちょっと……。いっそカツを一口サイズのサイコロ状にして、スープボウル+スプーンで食べるという手もある。お箸がないって不便だ。
「料理長の調整が済んだら、とんかつパーティーをしましょうか」と提案すると、皆が目を輝かせた。
ちらりとアレンさんの手元を見た。
小さなイチゴはいつもの見慣れた三角形ではなく、まん丸に近い。それでなくても可愛い見た目が、コロコロとしていて余計に可愛らしい。
冗談半分でパカッと口を開けると、本当に「あーん」と食べさせてくれた。
いざ自分が食べさせてもらう側になると、なんだかくすぐったい。
「んふふふふ」と笑った次の瞬間、超濃厚なイチゴの風味と甘みが口いっぱいに広がった。
凄い……、なんか凄いのが来た。
これはとんでもないイチゴだ。
うわー凄いっ! なんか猛烈に凄いぃ~ッ!
語彙力が吹き飛ぶ美味しさ!
「んんーーッッ!!」
「凄いでしょう?」
「すごーい! 甘~い。これ、危険です! はああぁっ、涙が出そう~」
「オルランディア蜜イチゴという品種ですよ」
この国のフルーツは何を食べても美味しいけれども、その中でも蜜イチゴは突き抜けていた。陛下が外交に使うのも頷ける。
「素晴らしい高級イチゴです。皆で少しずつ頂きましょう♪」
「独り占めしたって誰も怒りませんよ?」
「こういうものは皆で食べたほうが絶対に美味しいですよ」
「本当にあなたは慈悲深い」
「はい、アレンさんも、あーん」
「私は自分で食べられます」
「じゃあ、くまんつ様に……」
「あ、それはダメです。私が頂きます」
彼は、くまんつ様に向きかけていたわたしの手をくいっと自分のほうに向け、パクリと食べてしまった。そして、席を立って給仕の人に小分けにしてもらうよう頼みに行った。
呆れ顔のくまんつ様はわたしをじっと見ると、「彼は独占欲が強いから大変でしょう?」と言った。
わたしが答える前に、戻ってきたアレンさんがストンとくまんつ様の横に座る。
「誰の独占欲が強いのですか? くまんつ様」
「リア様の真似はヤメロ。誰がクマだ!」
「くまんつ様、はい、あーん」
「や、やめろ、書記のあーんは要らない……」
「食べたことないでしょう? くまんつ様ったら釣りばっかりしているのだもの」
「お前に食わされるのは嫌だっ」
「もぉー、くまんつ様っ」
「だからリア様の真似をするな!」
「ヒラヒラのフリフリマス、また釣れたら分けてくださいねぇ?」
「あのマスはそんな名前じゃねえ!」
必死でイヤイヤするくまんつ様に、わたしのモノマネ(?)をしながら、アレンさんがグイグイとイチゴを勧めていく。皆、大爆笑だ。
「ほらっ、ワガママ言わずにちゃんと食べなさいクリスっ」
「今度はうちの親父の真似か! お前はどんだけ……」
「そらっ」
「ぅごっ! ……うおぉっ、美味いっ! しかし、複雑!」
うぷぷ(笑)
くまんつ様が来てくれたおかげで楽しい夜になった。
久々に会ったマリンともたくさん話ができたし、サムエルさんから熱々のノロケ話も聞けてしまった。
部屋の外では予想通りの展開になっているようだ。
調査から戻ってきた騎士団員が、猛烈な勢いで噂が広がっていると教えてくれた。
同じ報告がヴィルさんの所にも届いたのだろう。使者が来て「部屋から出た後は誰とも会話をせず、万全の警備で馬車へ直行してほしい」と言われた。
わたしはマリン達と別れのハグを交わすと、ヴィルさんの指示通りガッツリと騎士に囲まれて馬車へ向かった。
くまんつ様も馬車まで一緒にいてくれたので心強かった。
お家に着くと、ヴィルさんから「話が長引いているので今日は王宮に泊まる」と連絡があった。
やれやれ……。
大変な一日になってしまったけれども、とりあえずちゃんと踊れて、無事に帰ってこられたのでヨシとしましょうかぁ。
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