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41.決勝戦前夜
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花子は実父に促され控え室を出ると送迎用の乗り物で移動してすぐに観覧席にいたお祖母様たちと合流した。
花子が行くと観覧席に座っていたお祖母様はすぐに気がついて笑顔で立ち上がった。
「さすが花子ちゃんね。素晴らしかったわ。さあ疲れたでしょ。行きましょう。」
お祖母様は花子を抱擁した後すぐに歩き出そうとしたが後ろの貴賓席で護衛に囲まれていた女性が急に声を荒げた。
「お待ちなさい。なぜ私に挨拶もなしに帰ろうとするの!」
鬼の形相でその女性はお祖母様を睨み付けてきた。
「それに・・・。」
「それに?」
お祖母様は後ろを振り向くと能面で呼び止めた女性を見た。
「なぜ聖を連れて来ないのです。折角の孫の初舞台でしょ。明日は必ず連れてきなさい!」
お祖母様を呼び止めた女性はこちらの態度に怯むそぶりも見せずに自分の要求だけをこちらに突き付けてきた。
お祖母様はすぐに何かを言おうとしたようだが考え直したようで息を吐き出してから口を噤むと先程とはうって変って笑顔で応対し始めた。
「そうですね。明日は第一皇子様もいらっしゃることですし、娘も一緒に連れて来ますわ。」
お祖母様はそれだけ告げると花子と実父を促して観客席を後にした。
何とも言えない威圧感のぶつかり合いにそんなものを普段から受けていて慣れている筈の実父でさえあの場では無言だった。
花子が実父をチラ見すると顔を横に振られた。
どうやらお祖母様にはそれ以上何も聞くなと言っているようだ。
さすがの花子も今の能面のお祖母様に何かを言うほど恐れ知らずではない。
沈黙したまま三人は観覧会場に到着した迎えの乗り物に乗り込んだ。
花子と実父は乗り物に乗ってからもずっと能面状態で前を見続ける人物に恐れをなして、それからもただ黙って今日泊まる予定の場所に到着するまで窓外の景色を見てひたすらそちらに視線を向けないようにした。
迎えの乗り物が無事宿泊予定の場所に着いた時は二人は気疲れで眩暈がしていた。
迎えの乗り物を降りた二人の目の前には八百万神社を一回り小さくした神社が目の前にたっていた。
「大巫女様、お帰りなさいませ。」
三人は迎えに出て来た巫女様に促され、黙って石段を登ると朱塗りの鳥居を抜ける。
そしてその先には本殿がありその前には白髪交じりの太った女性がお祖母様を待っていた。
「お帰りなさいませ、大巫女様。信子様はこちらにすでに到着しております。」
実父は実母の名前を聞くと嬉しそうにその場で退席の挨拶をするとすぐにいなくなってしまった。
実父に見捨てられた花子も本当は一刻も早くそこから離れたかったがこの場を辞去する用件が何もなかったので黙って二人の会話が終わるのをその場で待った。
二人は明日の決勝戦の観覧についてひそひそと話し合った後、やっと花子はお祖母様と一緒に夕食に席に案内された。
山の上にある八百万神社でも美味しいものは結構食べたがあそこはある意味”山の幸”であるキノコと”海の幸”である魚関連の食事が多かった。
対してこの八百万神社の分社は”山の幸”でも特に猪の肉がよく獲れるようで夕食の席にそれが大量に盛られていた。
”肉”だ。
前世とは違い猪だが”肉”は”にく”だ。
花子は両手を合わせて合掌するとそれに齧り付いた。
今日は何度も魔法を使ったせいでさすがにお腹が空いた。
花子はおかわりを進めてくれる巫女様にお礼をいいながらも茶碗と皿を出すと大盛りのごはんと肉を入れてもらった。
うまー。
人生最高!
その頃、早々と控え室を出たフレッドは花子の護衛であるキサラギに捕獲され、八百万神社の分社である神社の本殿裏にある道場で明日行われる決勝戦の為の”秘密の特訓”を花子の実母である信子から受けていた。
それは稽古という名の地獄の特訓だった。
もっとも今日の試合で対戦相手を圧倒出来たのもひとえに第一試合が始まるまでに花子の実父から受けた地獄の特訓のお蔭ではあった。
確かにそのお蔭ではあったがフレッドはどちらかというと楽をして多くを貰いたいタイプなのだ。
それなのになんデェェェェ。
僕は何でここでまた地獄の特訓をそれも前回以上に過酷なものを受けているんだ!
何故だぁああああああああ!
僕は・・・僕はMじゃない。
フレッドはそこまで呟いて床に沈んだ。
ちょうどそこにカラカラカラと軽い音を立てて引き戸が開き実父が入って来た。
「あら、ブラン。早かったわね。」
「あ・・・ああ。」
ブランは床に沈んでいるフレッドをチラ見してから信子の腰を抱くと道場を後にした。
その後気を失ったフレッドは再度水を掛けられて意識を無理やり取り戻させられ、帰って来た花子の護衛であるムツキからさらなる特訓を受けた。
僕、明日の決勝戦に出れるのかな?
疑問符を浮かべながらもフレッドは再び床に沈んだ。
次にフレッドが意識を取り戻したのは非情にも決勝戦の控室だった。
傍にはこんもりと積まれた簡易栄養補助食品が置かれていた。
フレッドはそれを一つ手にとるとがぶりと噛り付いた。
うっ・・・空腹は癒されるけどなんて不味いんだァ!
僕はまともなものが食べたい。
フレッドはブツブツいいながらも花子が控え室に現れる前に大量に積まれた簡易栄養補助食品を完食していた。
花子が行くと観覧席に座っていたお祖母様はすぐに気がついて笑顔で立ち上がった。
「さすが花子ちゃんね。素晴らしかったわ。さあ疲れたでしょ。行きましょう。」
お祖母様は花子を抱擁した後すぐに歩き出そうとしたが後ろの貴賓席で護衛に囲まれていた女性が急に声を荒げた。
「お待ちなさい。なぜ私に挨拶もなしに帰ろうとするの!」
鬼の形相でその女性はお祖母様を睨み付けてきた。
「それに・・・。」
「それに?」
お祖母様は後ろを振り向くと能面で呼び止めた女性を見た。
「なぜ聖を連れて来ないのです。折角の孫の初舞台でしょ。明日は必ず連れてきなさい!」
お祖母様を呼び止めた女性はこちらの態度に怯むそぶりも見せずに自分の要求だけをこちらに突き付けてきた。
お祖母様はすぐに何かを言おうとしたようだが考え直したようで息を吐き出してから口を噤むと先程とはうって変って笑顔で応対し始めた。
「そうですね。明日は第一皇子様もいらっしゃることですし、娘も一緒に連れて来ますわ。」
お祖母様はそれだけ告げると花子と実父を促して観客席を後にした。
何とも言えない威圧感のぶつかり合いにそんなものを普段から受けていて慣れている筈の実父でさえあの場では無言だった。
花子が実父をチラ見すると顔を横に振られた。
どうやらお祖母様にはそれ以上何も聞くなと言っているようだ。
さすがの花子も今の能面のお祖母様に何かを言うほど恐れ知らずではない。
沈黙したまま三人は観覧会場に到着した迎えの乗り物に乗り込んだ。
花子と実父は乗り物に乗ってからもずっと能面状態で前を見続ける人物に恐れをなして、それからもただ黙って今日泊まる予定の場所に到着するまで窓外の景色を見てひたすらそちらに視線を向けないようにした。
迎えの乗り物が無事宿泊予定の場所に着いた時は二人は気疲れで眩暈がしていた。
迎えの乗り物を降りた二人の目の前には八百万神社を一回り小さくした神社が目の前にたっていた。
「大巫女様、お帰りなさいませ。」
三人は迎えに出て来た巫女様に促され、黙って石段を登ると朱塗りの鳥居を抜ける。
そしてその先には本殿がありその前には白髪交じりの太った女性がお祖母様を待っていた。
「お帰りなさいませ、大巫女様。信子様はこちらにすでに到着しております。」
実父は実母の名前を聞くと嬉しそうにその場で退席の挨拶をするとすぐにいなくなってしまった。
実父に見捨てられた花子も本当は一刻も早くそこから離れたかったがこの場を辞去する用件が何もなかったので黙って二人の会話が終わるのをその場で待った。
二人は明日の決勝戦の観覧についてひそひそと話し合った後、やっと花子はお祖母様と一緒に夕食に席に案内された。
山の上にある八百万神社でも美味しいものは結構食べたがあそこはある意味”山の幸”であるキノコと”海の幸”である魚関連の食事が多かった。
対してこの八百万神社の分社は”山の幸”でも特に猪の肉がよく獲れるようで夕食の席にそれが大量に盛られていた。
”肉”だ。
前世とは違い猪だが”肉”は”にく”だ。
花子は両手を合わせて合掌するとそれに齧り付いた。
今日は何度も魔法を使ったせいでさすがにお腹が空いた。
花子はおかわりを進めてくれる巫女様にお礼をいいながらも茶碗と皿を出すと大盛りのごはんと肉を入れてもらった。
うまー。
人生最高!
その頃、早々と控え室を出たフレッドは花子の護衛であるキサラギに捕獲され、八百万神社の分社である神社の本殿裏にある道場で明日行われる決勝戦の為の”秘密の特訓”を花子の実母である信子から受けていた。
それは稽古という名の地獄の特訓だった。
もっとも今日の試合で対戦相手を圧倒出来たのもひとえに第一試合が始まるまでに花子の実父から受けた地獄の特訓のお蔭ではあった。
確かにそのお蔭ではあったがフレッドはどちらかというと楽をして多くを貰いたいタイプなのだ。
それなのになんデェェェェ。
僕は何でここでまた地獄の特訓をそれも前回以上に過酷なものを受けているんだ!
何故だぁああああああああ!
僕は・・・僕はMじゃない。
フレッドはそこまで呟いて床に沈んだ。
ちょうどそこにカラカラカラと軽い音を立てて引き戸が開き実父が入って来た。
「あら、ブラン。早かったわね。」
「あ・・・ああ。」
ブランは床に沈んでいるフレッドをチラ見してから信子の腰を抱くと道場を後にした。
その後気を失ったフレッドは再度水を掛けられて意識を無理やり取り戻させられ、帰って来た花子の護衛であるムツキからさらなる特訓を受けた。
僕、明日の決勝戦に出れるのかな?
疑問符を浮かべながらもフレッドは再び床に沈んだ。
次にフレッドが意識を取り戻したのは非情にも決勝戦の控室だった。
傍にはこんもりと積まれた簡易栄養補助食品が置かれていた。
フレッドはそれを一つ手にとるとがぶりと噛り付いた。
うっ・・・空腹は癒されるけどなんて不味いんだァ!
僕はまともなものが食べたい。
フレッドはブツブツいいながらも花子が控え室に現れる前に大量に積まれた簡易栄養補助食品を完食していた。
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