ポチは今日から社長秘書です

ムーン

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郊外の一軒家

はじめての……にじゅうよん

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深いため息をつく。爪先で床板を掘るように足首を回し、太腿に乗せた手を組んだりほどいたりを繰り返す。

「態度悪ぃなお前……自分が何したか分かってんのか?」

若神子邸の一室で俺は丸椅子に座らされ、キャスター付きの椅子に背もたれを抱き締めるように座っている雪風と向かい合っていた。

「……ご迷惑お掛けしましてすいません」

「ほんとそれな! ったく、監視のヤツももう少し近くで見張ってりゃあよかったものの……! なんか変だと思って見に行ったら既に血みどろパーリー! ふざけんなっつーの!」

「興奮してたのかあんまりよく覚えてないんだけどさ」

「俺や雪兎に対して興奮してる時はプレイ内容ちゃんと覚えてるくせにな!」

「……アイツ死んだ?」

「お前が滅多刺しにして頭カチ割ったおっさんか? 死亡確認する必要もないくらいに死んでたよ!」

「そっか、よかった」

雪風はその鮮血のように赤く美しい目を見開き、新雪のように白く綺麗な髪をあえて乱すように頭を掻き毟った。

「…………なんで殺した?」

「あぁ、それは覚えてる。間違ってたんだよ。俺の父さん……あぁ、血が繋がってる方の父さんな、すっごい優しかったんだけど四十にもならずに死んじゃっただろ? なのにアイツは生きてた、何歳か知らないけど見た感じ父さんより歳上だった。ほら、間違ってるだろ? だから修正した。アイツは死んでなきゃいけなかった、だから早く殺さなきゃいけなかった」

「……真尋」

「迷惑かけたのは、ほんとにごめん……なんか、事件揉み消したりしてくれたんだよな?」

「ちょっと違う。揉み消すとか、そういう手回しをする必要は若神子家にはない。だからまぁ、処理に当たった警察の皆様や特殊清掃の方々を除いて……お前が若神子に迷惑をかけた点と言えば、お前が殺したヤツの子供と國行くんのことくらいだ」

「…………國行」

「トラウマ間違いなしだからな、記憶消しといた。あの子供には父親は寝てる間に心不全で死んだって説明して、施設に引き渡したよ」

「そうか……」

「施設にはちょっと寄付しておいた、子供の成長報告とかしてもらえるように言って──」

「……え? なんで?」

「は……? お前が助けた子供だろ、助け方は褒められたもんじゃないがな。気になるかと思って気ぃ回してやったんだよ雪風さんが」

「別に気にならないけど。知らない子だし」

「…………そぉ?」

「うん。それより國行……記憶消したってどれくらいなんだ? 遊園地の記憶まで消えちゃったのかな、だったらまた連れてかないと……」

「……なんかズレてるわぁ、お前。まぁお前が割とサイコさんなのは前から知ってたけどさー、ここまでとはな」

「…………」

俺もそう思う。いくら雪兎の居る世界の間違いを正すためとはいえ、あんなにも衝動的に人を殺してしまうなんて……殺しても何も感じないなんて。一体どうして昔、雪風の元家庭教師を殺すのを嫌がったりしたんだ。あの頃の俺はどこへ行った?

「やっぱ変だよな俺……」

「超変。でもま、俺はそういうとこが好きだぞ」

「……ありがとう」

「お前しばらく外出禁止な」

「え、そんなっ、それじゃ國行が」

「うるせぇ! 現実に解釈違い起こして癇癪で人殺すようなヤツ外に出せるか! 興奮して殺っちゃいましたがなくなるまで國行くんに会うの禁止!」

「そんな……つ、次からは上手くやる、死体の処理も自分でするから!」

「この道徳の授業全サボり野郎が! やっぱり誘拐犯殺したことで何かしらのスイッチ壊れたのか……? だとしたら俺的には情状酌量の余地はあるから、今回はそんな怒らねぇけどだな……俺的にもあのおっさんは殺してよかったと思っちゃってるし。うん…………真尋、無期限自宅謹慎! いいな!」

「……國行に電話とかプレゼント贈ったりとかはしていい?」

「別にいいぜ」

緩い。実際に会えないとなると國行が寂しがりそうだけれど、仕方ない。今回は俺が悪かった。次殺さなきゃいけなくなった時はバレないようにやらなきゃな。
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