ポチは今日から社長秘書です

ムーン

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郊外の一軒家

はっぴーはろうぃん、きゅう

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見つめたものを破裂させる、シンプルで凶悪で使い所のない超能力。記憶を読むだとか心を読むだとか傷を治療するだとか、そんなどこか製薬会社を営むに相応しいものとは違う、雪兎の攻撃的な力。
それが行使されたのだろう、金属探知機の目立たないパーツを一つ破壊したのだろう。俺を弄ぶためだけに大学の備品を壊すとは……まだまだ子供だな、帰ったら叱ってやらないと。

『やぁ、若神子さん。そちらの方は?』

『僕の恋人』

雪兎の元に人が集まってきた。俺は人の顔を覚えるのが苦手だ、未だに使用人の区別が付かない。そんな俺に外国人の見分けなんて出来る訳もなく、あの愛犬家の集いに居た者がこの場に居るのかどうかは分からない。

『彼は英語が分からなくてね、それも無口だ。君達が話しかける意味はないよ』

『独占欲かい?』

『それもある』

HAHAHA……と社交辞令的な笑いが起こる。誰かがジョークでも言ったのだろうか。

『彼もアルコールが許される歳ではないのかな?』

『そうだね、今後許されたとしても飲ませる予定はないけれど』

雪兎に渡されたシャンパンを一口飲み、雪兎が育ちの良さそうな大学生に囲まれていることへの不快感を顔に出さないよう視線を料理へ移す。

「ポチ、食べたい? その手で食器持てるかなぁ」

爪と肉球が付いた分厚い手袋は猫の前足程度の稼働を強いる。普通の食事ならば不可能だろうが、パーティ会場に並べられたものはどれも手掴みか串付きのもので、串の方なら何とか持てそうではあった。

「持てるぇません」

「だよねー……じゃあ、あーん」

生ハムが知らぬ野菜を包んだものを取り、俺の口へと運ぶ雪兎の頬はほんのりと赤い。の前だからだろうか? 食べてもやはり何の野菜なのかは分からなかったが、生ハムのしょっぱい美味さには覚えがあった。

『熱いね。ねぇ、僕らも……』

雪兎と一番よく話していた男が隣に居た女性の腰を抱き、大きなマスカットの粒を一つ同時に食べ始めた。キスがメインのその行為は洋画でも見ているような気分にさせてくれる、あまり不快感がない。

「パンプキンタルトだ、ハロウィンなんだし一つくらいはカボチャ料理食べたいよね」

タルトを一切れピザのように持ち、俺の口元に突き出す。

「いただきます」

一口齧り、その美味さ以上に雪兎に食べさせてもらえる喜びに身を震わせる。雪兎が俺の食べかけを食べる姿に興奮する。美味しいと微笑んだ雪兎は齧りかけのタルトをまた俺に食べさせてくれる。

「あーん……っ、んんぅっ……!」

ごりっ、と前立腺を抉られた快感に呻く。あまり雪兎にときめくと後孔がバイブを締め付けてしまうようだ、淫らな身体の厄介さを自覚させられることにも興奮し始めた、このスパイラルはまずい。

「ポチ?」

「ぁ、のっ……俺、もう食事いいので、被り物をっ」

「……感じちゃってるの? 可愛い……ふふっ、分かった。被っていいよ、みんなに顔見せも終わったしね」

ひとまず顔を隠して他の学生達に不審に思われる可能性を減らせる、安堵した俺は小脇に抱えていた犬の頭の被り物を被り、内側に固定されたディルドを喉の奥まで咥え込んだ。

「んっ、ぐ……ゔぅっ……ゔ……」

『おや、自分の生首を持った犬のゾンビの仮装じゃなかったんだね』

『僕とお揃いのアルビノの狼男だよ』

視界が狭くなり、音も拾い辛い。これでは不届き者が雪兎に近付いてくるのに気付くのが遅れてしまう。

『……甘えん坊で狼というより犬みたいだよ』

少しでも迅速に雪兎を守るため、俺は雪兎にぴったりと引っ付いた。

『可愛いだろ?』

被り物の匂いばかり吸い込んでしまってパーティ会場に漂っていたご馳走の匂いがしなくなった。外界が遠くなると自分の身体の感覚に嫌でも集中してしまう、快感が大きくなってきた。
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