ポチは今日から社長秘書です

ムーン

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郊外の一軒家

しょじょがえり、に

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雪兎はすっかり落ち込んでしまっている、アナルプラグを片付けた後なんて俺にバスローブを投げ渡した。それを着た俺は勉強机に備え付けの椅子に座ってぼうっとしている雪兎の傍に立ち、機嫌を伺った。

「ユキ様……あの、気にしないでください。治りましたし」

「……あぁ、ごめんね、ちょっと考え事してただけ。ポチのお尻を元に戻すのはまた明日からね、今日はゆっくり休んで、鞄で運んだから疲れただろうし」

久しぶりに会った俺を弄ぶ気力もないだなんて、雪兎はどれだけ俺を大事に思ってくれているんだ。痛みも陰茎を鞭で叩かれるのに比べたら大したことはないし、流れた血なんてほんの僅か、なのにここまで気にするなんて……嬉しい、嬉しいけれど、寂しい。

「…………ユキ様のお膝で休んでも構いませんか?」

「……いいよ、おいで」

雪兎は椅子を回して太腿を晒した。下着のような丈の短パンから膝下ソックスまでの広い絶対領域は俺の心を鷲掴みにして離さない。

「ありがとうございます」

俺は床に膝をつき、雪兎の膝に頭を乗せて目を閉じた。太腿の柔らかさと肌の滑らかさに集中するには、視覚を閉ざして触覚を鋭敏にするのが一番だ。

「ポチ……ふふ、僕のポチ。可愛いね、可愛い……大好き、もう絶対離れない」

催眠効果でもありそうな甘ったるい声に鼓膜が溶けた。頭を撫でられて頭皮全体にゾワゾワとした快感が広がり、乳首と陰茎がピンと勃つ。

「……道具とお薬用意するから、明日まで待ってね」

髪から耳へと雪兎の手が流れ、耳から顎、首筋へと移っていく。

「今日はもうお休み」

目を閉じて俺の首の血管を探っているような愛撫に全神経を集中させていると、チクッと針で刺されたような痛みを覚えた。目を開けてみると注射器が俺から離れていくのが見えた。

「……こっちに来てから勉強して、薬品や注射器を扱えるようになったんだよ。これからはポチに合ったお薬を僕がこの手で調合して血管に入れてあげるからね」

「…………飲むのも、嗅ぐのも好きです」

「そうなの? そっかぁ……あんまりブスブス刺して麻薬中毒みたいな肌になっても嫌だし、お注射はたまににしようか」

「今刺したの、なんなんですか?」

「眠くなるお薬。二人きりの誕生日パーティの準備済ませちゃうから、ゆっくり寝ててね」

睡眠薬だと聞かされた途端睡魔に襲われ、ちょうど薬効が出始めただけだろうにプラシーボ効果を疑いながら意識を失った。



次に目を覚ました時にはベッドの上に居て、部屋の様子が変わっていた。家具の配置は全く変わっていないのに、風船が浮いたり飾りが吊るされたりしただけでここまで印象が変わるとは驚きだ。

「お誕生日おめでとう、ポチ」

「おはようございます……あっ、ありがとうございます、ユキ様」

慌てて起き上がろうとしたが雪兎に肩を押さえられ、仰向けのままにさせられた。

「ふふ……あのね、ポチ、僕君の九月二十一日って誕生日あんまり好きじゃないんだ」

日付に好き嫌いを持ち込まれても困る。俺にはどうしようもない。

「だってさ、君がポチになったのはもう少し後……九月の二十五日くらいじゃなかったかな? ポチの誕生日は二十一日じゃないんだよねぇ、最近考えて思い付いただけなんだけど」

「……なるほど。腑に落ちます。でも意外と近いですし、一気にやっちゃっていいんじゃないですかね」

赤紫の瞳で俺をじっと見つめた後、雪兎は深いため息をついた。

「君って誕生日から一週間も立たずに僕ん家に買われたんだね……なんか、可哀想になってくるよ」

「どうしてですか? 買われて幸せですよ、俺は」

「……お金で買うのってどうなのかなって考えない訳でもないんだよ、僕も」

「犬なんて大抵は高い金出して買うものでしょう。どうしたんです? お友達に保護犬マウントでも取られました?」

「何その特殊なマウント……犬犬言ってるけど、やっぱりポチは人間だしさぁ……それを、お金でって」

「俺は買われて幸せです。買われなかったら幸せになれなかったって確信があります。犬の本当の幸せを考えるのは飼い主のエゴですよ、思い切り可愛がってくれたらそれだけで犬は幸せなんです……でも、ご主人様が不安そうな顔してたら悲しくなっちゃいますわん」

「……ふふふっ、あくまで犬? あぁ、大好き……生まれてきてくれてありがとう」

誕生そのものを祝福する極上の言葉と共に唇が重ねられた。寝起きを気にすることもなく舌を絡め、愛を育んだ。
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