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雪の降らない日々

たんじょーびぱーてぃ、じゅうろく

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行為を終えてベッドに横たわり、俺の隣に同じく横たわっている雪風を愛でる。幸せを噛み締めながらまだ焦点が定まらない様子の赤い瞳に自分を映り込ませる。

「雪風……」

頬に触れれば熱く、胸に触れれば呼吸による大きな上下が伝わってきて、腹に触れればピクピクと痙攣しているのが分かる。

「最高の誕生日プレゼントだったよ、ありがとう」

「ん……よかっ、たか? なら……よかった」

まだ頭が回っていない様子だが、優しく微笑んで返事をしてくれた。嬉しさに任せて雪風を抱き締め、彼と体温を共有する。

「まひろ……?」

「……風呂入るか。俺が運ぶよ」

「ん、ありがとよ」

動けるようになって来たので立ち上がり、雪風を横抱きにして浴室へ向かう。会話は可能なもののぐったりしている雪風の髪と身体を洗ってやる。いつも通りだ。

「浸かるのか?」

湯船に浸けようとすると雪風は露骨に嫌そうな顔をした。行為で体力を使い切ってさっさと眠りたいのだろう。

「濡れたんだからちゃんと温まらないと風邪引いちゃうだろ?」

「引かねぇよ……」

「……そういやひいおじい様って風邪とかの病気は治せるのか?」

「菌が入ったとかじゃ無理、菌は菌で生きてるからな、それを殺すのが普通の治療だろ? じいちゃんのはそういうの無理」

だけ、か。優しい能力だな。

「あ、血管破れた系はどうにかなると思うぜ? 多分」

「なるほど。じゃあ雪風が風邪引いたら普通に寝込むしかねぇって訳だ、浸かれ」

「あっクソ、嘘つきゃよかった」

俺の膝の上に乗っている雪風は深いため息をつきながら足を伸ばし、俺の胸に頭を押し付けてぐりぐりと揺らした。なんとも子供っぽい仕草だ。

「はぁ……な、もう出ねぇ?」

「風呂浸かるのそんなに嫌いか?」

「嫌いっつーか……寝たい」

「寝てもいいぞ」

「ドライヤー当てるだろ? お前。アレで起きんのやだよ」

雪風の白い髪はキメ細やかで指通りもいい、俺が知る中で最も美しい髪だ。正直、雪兎よりも髪質は上だろう、椿油などを使って髪や肌に気を遣っている雪兎が濡れた髪のまま眠ろうとする雪風に負けているのはムカつくけれど。

「はぁー……な、ドライヤーなしにしねぇ?」

「ダメだ、雪風の髪を傷ませるなんてモナリザに鼻毛ラクガキするようなもんだぞ」

「んふっ……想像したじゃねぇか。お前は俺を何だと思ってんだよ」

「大事な恋人」

途端に雪風は黙り込み、俯く。俺は彼を背後から抱き締めて十二分に身体が温まっていることを確認し、再び彼を横抱きにして浴室を出た。
全身の水気を拭き取ってバスローブを着せ、髪を乾かし、保湿液などを塗ってからベッドに転がす。

「……お前は髪乾かさないのか?」

「雪風の世話してる間に乾いた。俺今短いからな」

「あぁ……そういや雪兎んとこ行った時に切られたんだったな。前は目に入りそうだったのに」

「たまに入ってた。雪風も入りそうだけど切らないのか?」

今の髪型も似合っているけれど、きっとどんな髪型でも似合うから色々試して欲しい。パーマでもドレッドでも……大きめのアフロと丸坊主はちょっと嫌かな。

「ドレッドはなんか面倒くさそうだからやだ。パーマなぁ……当ててもすぐ取れんだよな、パーマ。多分無駄だぜ。丸坊主楽そうでいいな。アフロはちょっと邪魔そうだからなー、やだ」

読心の能力は声を発す手間が省けて便利だ。

「お前の声聞きたいんだからそんなこと考えんなよ。つーかお前、モヒカンとかはいい訳?」

「オシャレモヒカンなら……刺々しいのは嫌だけど」

サッカー選手のようなソフトモヒカンを想像して欲しい。スポーツマンのイメージがあるため細身美人の雪風に似合うかは微妙だが、雪風ほど顔が良ければどうにでもなる気もしている。きっと二メートルくらいあるアフロも似合う、別に見たくないけど。

「あぁ、あのヤンキーの子供のクソガキがよくやってる髪型」

「俺サッカー選手をイメージしてたよな?」

「俺ばっかじゃなくてお前に似合う髪型も考えようぜ」

ドライヤーを当てたことで水分と一緒に眠気が飛んでしまったのか、雪風はぱっちりと目を開いている。

「もう寝ろよ、俺は寝るぞ」

「……俺は前の髪長いのより今の短いののが好きだぜ、目がハッキリ見えるからよ」

俺の度が過ぎた三白眼の何がそんなに好きなのか、雪風は俺の目をじっと見つめている。雪風の読心能力を逆手に取って「寝ろ寝ろ寝ろ寝ろ……」と唱えて催眠術のような真似を試してみたが、雪風が「頭がおかしくなる」とボヤいて終わった。
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