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夏休み
はだかえぷろん、きゅう
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テレビの大きな画面に映された自分の顔が嫌いだった。全てを失った俺の顔を嬉々として流すワイドショーが嫌いだった。雑誌に載った俺の顔写真が嫌いだった。死んだ魚みたいな目が気に入らなかった。
俺は自分の顔写真が嫌い──何を考えているんだ犬にそんな過去はない。
「えっ、と……ぁ、料理作るんでしたね、ユキ様は何が食べたいんですか?」
「へっ? ぁ、カルパッチョ……」
「聞いたことありませんねー、この本に載ってますかね」
キッチンに置かれていたレシピ本は日本語のものだ、雪兎の気遣いを感じる。ご主人様に愛してもらって犬は幸せだ。
「そうだユキ様、どうせなら料理中の写真撮ってくださいよ。そっちの方がまだマシな顔してますから」
「えっ? と、撮っていいの?」
「……飼い主は犬の写真を撮るものでしょう?」
雪兎は何故か遠慮がちにデジカメを構える。俺はレシピ本を左手に持ち、右手は顔の横でピースサインを作った。
「いぇーい」
カシャッ、とシャッター音。あの日もこんな音が聞こえて、不躾な記者に話しかけられて、ムカついて、殴って、前科ついて──違うこの記憶は違う犬はそんなこと経験していない。
「……えへへ、よく撮れた。ありがとうポチ、これも現像して飾るよ」
「尻より顔にしてくださいよー、俺そこそこな顔してるでしょ? 三白眼に目を瞑れば」
あえて目を閉じてピースサインを作るとまたシャッター音が鳴った。ぴくんと右手が跳ねたのを感じた。
「僕はその目が好きなんだよ。目開けてる方がいいな。それと、ポチはそこそこじゃなくて、とっても格好いいよ」
「ふふ、ありがとうございます。さて……カルパッチョ? だけで足ります?」
レシピ本の写真を見たところ、サラダチキンの生魚版といった感じだ。単体で昼食として成立するとは思えない。
「パン焼いて。いいサイズに切ってオーブン入れておけばいいから。オリーブオイルにでも浸して食べたいな」
「はい。ユキ様は席に座ってお待ちください、包丁とか危ないですから」
「えー? ポチの調理風景撮っていいんじゃないの?」
「カメラこっち向いてたら気になって料理に集中出来ませんよ……俺まだまだ修行中なんで、集中しないと。もっと上手くなったら多少散漫になっても大丈夫なので、その時に撮ってください」
雪兎は不満そうにしながらもダイニングに向かってくれた。俺は足音に耳を澄ませて雪兎が離れたの確認し、深いため息をついた。
「クソ……カメラは知らなかった」
暗闇と車はふとした事で過去がフラッシュバックするのは分かっていた。だが、カメラにまでなんて……今まで雪兎や雪風に何度も撮られてきたけど平気だったのに、どうして今突然。
「ユキ様……ユキ様、ご主人様、あなたの犬です、俺は犬、犬……」
自己暗示は記憶を脳の底へと沈め、雪兎が離れたうちに反芻して克服しようという真尋らしい思考さえも潰してしまった。
「…………あれ? ぁ、そうそう、カルパッチョ」
また記憶が飛んでいた。疲れているのかな? 雪兎に再会できた喜びで睡眠時間が知らないうちに減っているのだとしたら、いよいよ犬だな。
俺は自分の顔写真が嫌い──何を考えているんだ犬にそんな過去はない。
「えっ、と……ぁ、料理作るんでしたね、ユキ様は何が食べたいんですか?」
「へっ? ぁ、カルパッチョ……」
「聞いたことありませんねー、この本に載ってますかね」
キッチンに置かれていたレシピ本は日本語のものだ、雪兎の気遣いを感じる。ご主人様に愛してもらって犬は幸せだ。
「そうだユキ様、どうせなら料理中の写真撮ってくださいよ。そっちの方がまだマシな顔してますから」
「えっ? と、撮っていいの?」
「……飼い主は犬の写真を撮るものでしょう?」
雪兎は何故か遠慮がちにデジカメを構える。俺はレシピ本を左手に持ち、右手は顔の横でピースサインを作った。
「いぇーい」
カシャッ、とシャッター音。あの日もこんな音が聞こえて、不躾な記者に話しかけられて、ムカついて、殴って、前科ついて──違うこの記憶は違う犬はそんなこと経験していない。
「……えへへ、よく撮れた。ありがとうポチ、これも現像して飾るよ」
「尻より顔にしてくださいよー、俺そこそこな顔してるでしょ? 三白眼に目を瞑れば」
あえて目を閉じてピースサインを作るとまたシャッター音が鳴った。ぴくんと右手が跳ねたのを感じた。
「僕はその目が好きなんだよ。目開けてる方がいいな。それと、ポチはそこそこじゃなくて、とっても格好いいよ」
「ふふ、ありがとうございます。さて……カルパッチョ? だけで足ります?」
レシピ本の写真を見たところ、サラダチキンの生魚版といった感じだ。単体で昼食として成立するとは思えない。
「パン焼いて。いいサイズに切ってオーブン入れておけばいいから。オリーブオイルにでも浸して食べたいな」
「はい。ユキ様は席に座ってお待ちください、包丁とか危ないですから」
「えー? ポチの調理風景撮っていいんじゃないの?」
「カメラこっち向いてたら気になって料理に集中出来ませんよ……俺まだまだ修行中なんで、集中しないと。もっと上手くなったら多少散漫になっても大丈夫なので、その時に撮ってください」
雪兎は不満そうにしながらもダイニングに向かってくれた。俺は足音に耳を澄ませて雪兎が離れたの確認し、深いため息をついた。
「クソ……カメラは知らなかった」
暗闇と車はふとした事で過去がフラッシュバックするのは分かっていた。だが、カメラにまでなんて……今まで雪兎や雪風に何度も撮られてきたけど平気だったのに、どうして今突然。
「ユキ様……ユキ様、ご主人様、あなたの犬です、俺は犬、犬……」
自己暗示は記憶を脳の底へと沈め、雪兎が離れたうちに反芻して克服しようという真尋らしい思考さえも潰してしまった。
「…………あれ? ぁ、そうそう、カルパッチョ」
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