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夏休み
はだかえぷろん、はち
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廊下の壁に額縁に入れられた写真が飾られるのは、まぁよくあることだ。だが、自分の頭四つ分より大きく印刷された自分の尻の写真が飾られるなんて、経験したことのある者は居ないんじゃないか?
「な、なんですか、これ……この写真っ、なんで!」
「よく撮れてるだろ? 見て、ほら、やっぱり画素数の多いカメラにしてよかったよ」
雪兎が指したのは写真の中の俺の後孔。この写真は叩かれる前だけれど、フラッシュを炊かれた時のものだ。ぴっちりと閉じた後孔がはっきり写されている。
「あ……! や、やめてください、見ないでくださいっ、外してくださいこんなもの!」
「だーめ。夏休みが終わったらポチは日本に帰さなくちゃいけない、僕はまた一人になるんだよ? 寂しいじゃん」
「だからって、こんなっ……! 普通の写真でいいじゃないですか……」
後孔の皺まで写っている、会陰の膨らみも陰嚢の皺も張りもバッチリだ。今すぐこの写真を破り捨て、先程のカメラを叩き壊したい。
「ポチ、ほらほら、こっちの写真もいいよ」
隣にも俺の尻の写真が──こっちは叩かれた後だ、後孔が僅かに開いている。だらしなく開脚しているせいで精液で汚れた陰茎も写っている。
「嫌だ……ユキ様ぁ、こんなの飾らないでください……」
尻叩き十回の罰なんて軽過ぎると思った。本当の罰はこれだ、写真を家に飾ることで撮影の恥辱を撮影が終わった後も続ける高等技術だ。
「ポチの顔もちゃんと撮ったからそれも飾ってるよ。えっと……こっちだね、ここの壁、ほら」
尻の写真が並んだ道を雪兎に手を引かれて抜ける、尻叩きの前後が交互に並んでいたせいで自分の後孔がパクパクと動く様子をコマ送りで見せられた気分になった。
「ほら、可愛い顔。これなら文句ないでしょ?」
「ありますよっ! こんな、こんなっ……だらしない顔!」
撮影に関する妄想をしていた時の顔だ、後孔のことを考えていた時の顔だ、焦点の合っていない四白眼は恐ろしいを通り越して気持ち悪い。見慣れない短い髪も、僅かに紅潮した褐色肌も、何もかも気に入らない。
「嫌いなんですよ! 俺はっ……自分の顔が大っ嫌いなんです! 嫌なんですよ、本っ当に……お尻の写真はいいですから、これだけは外してください、お願いします…………こんな顔、見たくない」
「ポ、ポチ……? 何言ってるの……ポチのお顔可愛いよ? そんなに気に入らないの? 分かったよ、この写真は下げる。だから、いいお顔撮らせて、それを代わりに入れるから」
雪兎は首から下げていたデジカメを恐る恐る構える。向けられたカメラのレンズが光を反射する、その光が目に入った瞬間、俺は我を失った。
「撮るなっつってんだよっ!」
「ひっ……!?」
思い切り振った腕が何もない壁にめり込む。壁紙が破れて中の石膏ボードに穴が空き、その破片がボロボロと床に零れる。
「来んなつってんのに毎日毎日ひとんちの前に集りやがって……俺が何したってんだよ、何もしてねぇだろ、生き残っただけだ、生き残りたくなんかなかった、一緒に死にたかった、そうだ死にたかったんだよ俺はっ……!」
「ポ、チ……ポチ、ポチ、こっち向いて、ポチ……」
くい、くい、とエプロンを引っ張る小さな手。見下ろした先には人智を超えた美貌、潤んだ赤紫の瞳、震える唇が紡ぐのは俺の名前──ポチ。
「ポチ……?」
俺はポチだ。大好きなご主人様と幸せな毎日を過ごしているこの犬には、カメラに嫌な思い出なんてない。犬だからフラッシュはちょっと怖いかもしれない。
「…………わん。どうされましたか? ユキ様」
「ううん……ごめんね、カメラ嫌いだったんだね」
「犬ですから、急に光るのは怖いわん」
「……そっか。ごめんね」
「いえいえユキ様が謝る必要なんてありません」
俺は何をしていたっけ? 尻の写真が並んだ廊下を歩いてきて、ここで──何してたっけ? 雪兎に撮られてフラッシュにびっくりでもしたのか? それで雪兎が罪悪感で落ち込んでいるのか、そうに違いない、フラッシュに驚いて記憶がちょっと飛んだんだ。
そうに違いない、絶対にそうだ、そうとしか考えられない、そうだったことにしよう。
「な、なんですか、これ……この写真っ、なんで!」
「よく撮れてるだろ? 見て、ほら、やっぱり画素数の多いカメラにしてよかったよ」
雪兎が指したのは写真の中の俺の後孔。この写真は叩かれる前だけれど、フラッシュを炊かれた時のものだ。ぴっちりと閉じた後孔がはっきり写されている。
「あ……! や、やめてください、見ないでくださいっ、外してくださいこんなもの!」
「だーめ。夏休みが終わったらポチは日本に帰さなくちゃいけない、僕はまた一人になるんだよ? 寂しいじゃん」
「だからって、こんなっ……! 普通の写真でいいじゃないですか……」
後孔の皺まで写っている、会陰の膨らみも陰嚢の皺も張りもバッチリだ。今すぐこの写真を破り捨て、先程のカメラを叩き壊したい。
「ポチ、ほらほら、こっちの写真もいいよ」
隣にも俺の尻の写真が──こっちは叩かれた後だ、後孔が僅かに開いている。だらしなく開脚しているせいで精液で汚れた陰茎も写っている。
「嫌だ……ユキ様ぁ、こんなの飾らないでください……」
尻叩き十回の罰なんて軽過ぎると思った。本当の罰はこれだ、写真を家に飾ることで撮影の恥辱を撮影が終わった後も続ける高等技術だ。
「ポチの顔もちゃんと撮ったからそれも飾ってるよ。えっと……こっちだね、ここの壁、ほら」
尻の写真が並んだ道を雪兎に手を引かれて抜ける、尻叩きの前後が交互に並んでいたせいで自分の後孔がパクパクと動く様子をコマ送りで見せられた気分になった。
「ほら、可愛い顔。これなら文句ないでしょ?」
「ありますよっ! こんな、こんなっ……だらしない顔!」
撮影に関する妄想をしていた時の顔だ、後孔のことを考えていた時の顔だ、焦点の合っていない四白眼は恐ろしいを通り越して気持ち悪い。見慣れない短い髪も、僅かに紅潮した褐色肌も、何もかも気に入らない。
「嫌いなんですよ! 俺はっ……自分の顔が大っ嫌いなんです! 嫌なんですよ、本っ当に……お尻の写真はいいですから、これだけは外してください、お願いします…………こんな顔、見たくない」
「ポ、ポチ……? 何言ってるの……ポチのお顔可愛いよ? そんなに気に入らないの? 分かったよ、この写真は下げる。だから、いいお顔撮らせて、それを代わりに入れるから」
雪兎は首から下げていたデジカメを恐る恐る構える。向けられたカメラのレンズが光を反射する、その光が目に入った瞬間、俺は我を失った。
「撮るなっつってんだよっ!」
「ひっ……!?」
思い切り振った腕が何もない壁にめり込む。壁紙が破れて中の石膏ボードに穴が空き、その破片がボロボロと床に零れる。
「来んなつってんのに毎日毎日ひとんちの前に集りやがって……俺が何したってんだよ、何もしてねぇだろ、生き残っただけだ、生き残りたくなんかなかった、一緒に死にたかった、そうだ死にたかったんだよ俺はっ……!」
「ポ、チ……ポチ、ポチ、こっち向いて、ポチ……」
くい、くい、とエプロンを引っ張る小さな手。見下ろした先には人智を超えた美貌、潤んだ赤紫の瞳、震える唇が紡ぐのは俺の名前──ポチ。
「ポチ……?」
俺はポチだ。大好きなご主人様と幸せな毎日を過ごしているこの犬には、カメラに嫌な思い出なんてない。犬だからフラッシュはちょっと怖いかもしれない。
「…………わん。どうされましたか? ユキ様」
「ううん……ごめんね、カメラ嫌いだったんだね」
「犬ですから、急に光るのは怖いわん」
「……そっか。ごめんね」
「いえいえユキ様が謝る必要なんてありません」
俺は何をしていたっけ? 尻の写真が並んだ廊下を歩いてきて、ここで──何してたっけ? 雪兎に撮られてフラッシュにびっくりでもしたのか? それで雪兎が罪悪感で落ち込んでいるのか、そうに違いない、フラッシュに驚いて記憶がちょっと飛んだんだ。
そうに違いない、絶対にそうだ、そうとしか考えられない、そうだったことにしよう。
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