ポチは今日から社長秘書です

ムーン

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夏休み

かいがいでのおさんぽ、に

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前を歩く雪兎に首輪の紐を引かれても、首輪がくい込むのは首の後ろ側だ。全然気持ちよくない。

「なんでしょう……何かが日本と違いますね」

雪兎に後ろを歩けなんて言えないし、街中で四つん這いになる訳にもいかない。俺は不満を押し殺して雪兎のつむじを見られることに感謝し、散歩の率直な感想を呟いた。

「そうかな? 僕、日本の街も別に歩かないからなぁ」

そういえば護衛の黒服が居ないな、何故だ? 何故、俺と雪兎が二人で街中を歩くことが許されているんだ?

「あぁ……そうだ、電柱がない」

「電柱? そうだね、電線は地下通してるらしいよ。景観がいいよね」

「……俺、特撮とか好きなんで……電線越しに見上げる青空とかめっちゃ好きなんですけどね。電柱のある風景、いいじゃないですか」

空を見上げた時の違和感は電柱と電線がないことによるものだったのか、気付いてしまうと単純な異国感だな。まぁ、ビルの造りなんてさほど変わらないか、もっとお国柄が出る住宅街なんかを見たいものだ。

「あぁ、あと看板の文字が読めませんね、英語ばっかりで。それと……道行く人がみんなサングラスかけてますね」

まさかとは思うけど、通行人……全員使用人か? ありえる。以前ヨーロッパ旅行に行った時も通行人や店の人間、客までが仕込みだった。海外支部の奴らだ、間違いない。

「目の色素が薄いと光に弱いんだよ」

「洋ゲーって真っ暗ですもんね。洋画とか見てても暗いし」

「そうなの? 知らない」

「……ユキ様の目は光に弱くないんですか?」

俺を見上げる赤紫の瞳は色素が薄いように思える。

「別に、色素薄くて赤っぽくなってるわけじゃないし」

そうなんだよな。アルビノで目が赤いなら瞳孔も赤くなるはずなんだ、けれど雪兎も雪風も祖父も曽祖父も瞳孔は真っ黒。虹彩だけが赤い。

「…………普通、人間には存在しないはずの色素が入ってるんだよ」

「ユキ様? すいません、聞き取れなくて……もう少し大きな声で言ってもらえませんか?」

「ポチは虹彩真っ白だよね」

「これは白目です!」

四白眼と言ってもいい三白眼をしている俺の黒目は小さ過ぎて瞳孔と虹彩の区別がつかない、虹彩が濃い色なのも要因だ。だからと言って白目を虹彩扱いは酷い。

「ほらポチ、美容院着いたよ」

「おぉ……高そうな店」

ガラス張りの店に入り、雪兎が店員と話をする間にこっそり街の様子を眺めてみた。通行人がみんな立ち止まっている──インターカムを装着している者もいる、やっぱりアレ使用人だな、いや社員と言うべきか。

「ポチ、ほら座って」

店内に客が居ない。店員すら一人しか見えない。昨日した予約というのは貸切の予約だったのだろうか。街ごと? そんな真似出来るのか?

「じゃあポチ、僕向こうで待ってるね」

「……はい」

雪兎は豪奢なソファに腰掛けて店に置いてあったノートパソコンを弄り始めた。

「…………サングラスしたままで大丈夫なんですか?」

店員は何も答えず、俺が座っている椅子の高さを調整した。
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