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夏休み
はんけつ、さん
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鏡を見る。相変わらずの極悪人面が見つめ返してくる。
「……ない、な」
筋の浮いた首には雪兎の手の跡はない。首絞め後のアザに憧れたりはするのだが、雪兎の力加減が上手いのか俺の首が頑丈なのか、アザはない。
「ポーチっ、どうしたの? もしかして首痛い?」
「…………手形、欲しかったなーと」
「そんなのなくてもポチには首輪があるでしょ? この赤ーい首輪が僕の所有物だって証拠。贅沢言わないの」
「……はい」
首に手をやると革製の首輪に触れられる。安心する、俺はポチだ。雪兎がいない間、つけなくてもよかった間、とても不安だった。首輪を求めて首を引っ掻いていたこともあった。
「ほらっ、部屋戻ろ?」
洗面所から雪兎の私室へ。三十分間の首絞めの結果である精液の痕跡はない。
「ポチ、知ってる? 交尾中の雄の首を刎ねるとね、精液全部出しちゃうって話があるんだよ。ホントかどうかは調べてないけどさ」
唐突な豆知識もどきの意図が分からず、雪兎を見つめ返す。
「種を繋ごうって本能がすごいってこと。命の危険を感じると受精確率を上げるためなのか持ってるもの全部出しちゃうんだ。髭剃り他人にやらせると勃っちゃうって人もいるらしいけど、アレも命の危機に反応してるの」
「……はぁ」
「面白いよね? 死にそうな時に勃ててるってさ。すっごく間抜け、情けない」
俺に向けられた罵倒ではないのに、楽しげな声での言葉に身体が反応してしまう。
「ポチが出しちゃったのってそれなのかな? 僕に首絞められて、死ぬと思って、ポチの身体は子孫を残したいって出したんだ。本っ当に哀れだよねぇ、孕めるモノは周りにないのに、しゃばしゃばの薄い精液出してさ、バカみたい」
くすくすと楽しそうに笑いながら、雪兎は俺の陰茎を強く掴んだ。
「……どうして勃ってるの?」
「ユキ様にっ……バカに、されて……興奮しました、ぁ、痛いっ、ひっ、んん……!」
乱雑にぐにぐにと揉まれて腰が震える。声は高くなってしまい、途切れ途切れになっていく。
「……ふふっ、今日はもうおしまい。服着ていいよ、寒いでしょ」
「あっ…………はい、服を……服、ありますか?」
「用意してあるよ。そこの棚開けてごらん」
勃ったのに放置された哀れな陰茎をぶるぶると揺らし、棚に向かう。棚の中に詰まっていたのは黒いスウェットの上下。
「同じのばっかりですね」
「個数間違えちゃったんだ」
ネット注文初心者のようなミスだな。なんて思いながらも口には出さずにスウェットを着て雪兎の傍に戻る。
「ポチ、抱っこ」
手を広げた雪兎を抱え上げ、左腕に座らせて右腕で支える。
「ふふ……ねぇポチ、明日は美容院行った後、買い物に行こうか。アメリカの街ちょっとくらい見たいよね?」
「はい、是非……!」
「分かりやすく喜んじゃって」
海外旅行気分ではしゃいで、田舎臭いとか貧乏臭いとか思われなかっただろうか? 反省しつつ雪兎の様子を伺う。
「ふふふ……」
赤紫の瞳は慈愛に満ちて輝いていた。ふざけた予想をしてしまったものだ、雪兎がそんな性格の悪いこと考える訳がない。
「……明日着ていく服はスウェットじゃないから心配しなくていいよ?」
「そんな心配してませんよ、スウェットで構いませんし。でも、ありがとうございます」
白い前髪にキスをすると頬をつねられ、口へのキスを要求される。飼い主と飼い犬らしくない対等な口付けはとても甘美なものだった。
「……ない、な」
筋の浮いた首には雪兎の手の跡はない。首絞め後のアザに憧れたりはするのだが、雪兎の力加減が上手いのか俺の首が頑丈なのか、アザはない。
「ポーチっ、どうしたの? もしかして首痛い?」
「…………手形、欲しかったなーと」
「そんなのなくてもポチには首輪があるでしょ? この赤ーい首輪が僕の所有物だって証拠。贅沢言わないの」
「……はい」
首に手をやると革製の首輪に触れられる。安心する、俺はポチだ。雪兎がいない間、つけなくてもよかった間、とても不安だった。首輪を求めて首を引っ掻いていたこともあった。
「ほらっ、部屋戻ろ?」
洗面所から雪兎の私室へ。三十分間の首絞めの結果である精液の痕跡はない。
「ポチ、知ってる? 交尾中の雄の首を刎ねるとね、精液全部出しちゃうって話があるんだよ。ホントかどうかは調べてないけどさ」
唐突な豆知識もどきの意図が分からず、雪兎を見つめ返す。
「種を繋ごうって本能がすごいってこと。命の危険を感じると受精確率を上げるためなのか持ってるもの全部出しちゃうんだ。髭剃り他人にやらせると勃っちゃうって人もいるらしいけど、アレも命の危機に反応してるの」
「……はぁ」
「面白いよね? 死にそうな時に勃ててるってさ。すっごく間抜け、情けない」
俺に向けられた罵倒ではないのに、楽しげな声での言葉に身体が反応してしまう。
「ポチが出しちゃったのってそれなのかな? 僕に首絞められて、死ぬと思って、ポチの身体は子孫を残したいって出したんだ。本っ当に哀れだよねぇ、孕めるモノは周りにないのに、しゃばしゃばの薄い精液出してさ、バカみたい」
くすくすと楽しそうに笑いながら、雪兎は俺の陰茎を強く掴んだ。
「……どうして勃ってるの?」
「ユキ様にっ……バカに、されて……興奮しました、ぁ、痛いっ、ひっ、んん……!」
乱雑にぐにぐにと揉まれて腰が震える。声は高くなってしまい、途切れ途切れになっていく。
「……ふふっ、今日はもうおしまい。服着ていいよ、寒いでしょ」
「あっ…………はい、服を……服、ありますか?」
「用意してあるよ。そこの棚開けてごらん」
勃ったのに放置された哀れな陰茎をぶるぶると揺らし、棚に向かう。棚の中に詰まっていたのは黒いスウェットの上下。
「同じのばっかりですね」
「個数間違えちゃったんだ」
ネット注文初心者のようなミスだな。なんて思いながらも口には出さずにスウェットを着て雪兎の傍に戻る。
「ポチ、抱っこ」
手を広げた雪兎を抱え上げ、左腕に座らせて右腕で支える。
「ふふ……ねぇポチ、明日は美容院行った後、買い物に行こうか。アメリカの街ちょっとくらい見たいよね?」
「はい、是非……!」
「分かりやすく喜んじゃって」
海外旅行気分ではしゃいで、田舎臭いとか貧乏臭いとか思われなかっただろうか? 反省しつつ雪兎の様子を伺う。
「ふふふ……」
赤紫の瞳は慈愛に満ちて輝いていた。ふざけた予想をしてしまったものだ、雪兎がそんな性格の悪いこと考える訳がない。
「……明日着ていく服はスウェットじゃないから心配しなくていいよ?」
「そんな心配してませんよ、スウェットで構いませんし。でも、ありがとうございます」
白い前髪にキスをすると頬をつねられ、口へのキスを要求される。飼い主と飼い犬らしくない対等な口付けはとても甘美なものだった。
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