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食材の説明は難しい (〃)
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夕飯はパスタだった。クリーミーなカルボナーラだ、大皿にはシーザーサラダがある。
《んっ……? これ、植物じゃないのか?》
《それは……》
クンネ達は一本一本手で掴んで食べるのかなと眺めていると、彼はまず取り分けられたサラダに手を伸ばした。レタスをちぎって食べ、小さくカットされたトマトにかぶりついて口周りを赤く汚し、クルトンをまるで大きなパンでも食べるように両手で持って齧り始めた。
「……なぁ鳴雷くん、クルトンって何?」
「えっ?」
「きゅっ? みつき喋った!?」
荒凪の目が鋭く俺を射抜く。慌ててスマホを持つ。
『パンだったと思います』
「細切れ揚げパンっすよ。ね、歌見せんぱい」
「俺はよく知らないが……」
「クンネくんが聞いてきてんだけど、なんて説明しよう……ア、アイヌ語で何? クルトン」
「小さいパンとかでいいんじゃないのか?」
「パンも分かんねんだよ……! まずあるのか? パンにあたる単語!」
「カサネくんが分からないんじゃ分かんないっすよ」
「日本語にもパンにあたる単語ってないよな」
なかったっけ?
「昔、列島にパンはなかったってことっすか?」
「そもそも、もしもアイヌ民族が美味しいパンを焼いていたとしてもだ」
「してねぇよんなこと」
「だからもしもだって。もしも焼いてたとして、小人にそれは出来ないだろ。小麦をどうやって収穫するんだ? だから、もしアイヌがパンを食べていたとしても、小人達はパンを知らないと考えるのが自然。つまり、アイヌ語にパンがあるかないかは問題じゃないんだ、日本列島でパンがいつ作られ始めたかなんてもっと関係ない」
「……んじゃ説明のしようねぇじゃん!」
「小麦がそもそも伝わらなさそうだからな……穀物はイケるか? このサイズで穀物、取れるかな……北海道、穀物はあるのか?」
「それは流石にあるわ。え~……どう説明しよぉ、分かんねぇもん食いたくねぇよな……ちゃんとなんか言わねぇと」
スマホを置いてパスタを一口食べ、重責に苦しむカサネからクンネ達へと視線を移す。
《味薄いけど食感面白いなこれ》
《木の実とはまた違った硬さ……不思議ですね、おにいさま》
クルトンを二人でサクサク鳴らして食べている。
《知らねぇもんばっかだ。でも全部美味い。この細長いのは何だろ》
《何かの腸だと思います》
クルトンを食べ終えるとクンネはパスタを一本引っ張り始めた。毛糸玉から毛糸を抜くような、そんな光景だ。
《ん……? 肉っぽくはないぞ》
《あら、では蔓ですか?》
《いや、草感もない……何だろ、でも美味い》
《私にも食べさせてくださいな、おにいさま》
予想通りソースで手や顔がベタベタになっている。早いところ食器を作ってやらないとな……
「待ってください歌見せんぱい……パスタも小麦っす!」
「……! しかもカルボナーラは牛乳や卵を使う。小人からすれば超巨大生物な牛や鶏からそんなもん取れる訳がない! これもアイヌ語に置き換えられるられない関係なしに小人が知らない物だぞ……!」
「ベーコン……肉って、どうなのかな。肉食うのかなコイツら……だとしたら肉は通じるか?」
「小さいネズミくらいなら狩れるか?」
「いやいや同じサイズのネズミ怖いっすよ、無理っす無理っす。カエルとかじゃないすかね」
「北海道のそういうのってデカそうだな、どうなんだ繰言」
「北海道を何だと……東京の繁華街のネズミが一番デカいだろ」
「いや、やっぱりネズミから豚を説明するのは無茶だ。まず牧場見学とかに連れてって牛豚鶏の存在を教えてやってからだな……」
「えぇー……動画とかじゃダメかなぁ」
「小麦の製粉とかはそうするしかなさそうっすけど、牧場ならこないだカンナせんぱいとリュウせんぱいが行ったって言ってたとこ近くにあるっすし、面倒臭がらなくてもいいんじゃないすかね」
「そこ牛居たか? 撮った写真見せてもらったが、見た覚えないぞ」
異文化交流なんてものじゃない、サイズからして違う異種族との交流だ。大変に決まっている。
《お、これが肉か?》
《お肉、のようですわね……でも、何でしょう。ただ焼いただけではないような食感と味の濃さですわ》
《そういう動物の肉なんじゃないか? 人間ならキツネとかフクロウも狩れるだろ》
《まぁ! ではまさか、クズリも……?》
《いやいや流石にクズリは無理だろ》
《ですわね……私達の村を滅ぼした、恐ろしい獣です。いくら人間様達が大きいとはいえ……》
当のクンネ兄妹は見知らぬ食材に見知らぬ調理法だろう料理に一切臆すことなくパクついてやがる。
(……わたくし達が信頼されている証と思って喜びましょう。一度捕まって酷い目に遭ったくせになんでこんな警戒心皆無なんだとか、思わないよ鳴雷水月)
まぁ、クンネが食べてから妹に与えているのは彼なりの警戒なのかな。
《これはどんな……痛っ! なんかっ、目……口も、痛たたっ、何だこれ、痛い》
《お、おにいさま!? おにいさま!》
「……!? クンネ!? どうしっ、げほ、せんぱっ、クンネ、おねが……」
「えっ、あっ、えっ? ク、クンネくん?」
咳き込み、水を飲む。突如苦しみ始めたクンネにカサネが事情を聞きながら背中をさすったり、ティッシュで顔を拭いてやったりしている。
「なになに? ボク見えてないんだから誰か実況頼むよ」
「クンネ……小人が急に痛がり始めたんだ」
「小人にはダメな食材とかあったんっすかねっ、カサネくん、何食べちゃったか分かったっすか?」
「タ、タマネギ……」
カサネがそう答えると、焦燥感に包まれていた雰囲気が一気に軟化する。
「…………タマネギ」
「タマネギか……」
「タマネギ苦手なの?」
「いや、サン……このサイズで生タマネギを齧ったら、タマネギの汁が顔中にぶっかかる……そりゃ苦しむだろ」
「このタマネギ結構辛いっすしね……俺なんて避けちゃってるっすもん」
「……今度から淡路産にするよ」
カサネがクンネをキッチンに連れて行き、顔を洗うことでひとまず痛みは治まったようだった。その間、歌見はクンネ兄妹用に取り分けたサラダからタマネギを抜いてやっていた。
「きゅ……くんね、大丈夫?」
「タマネギ辛かっただけだってよ、小さいのも大変だな」
「きゅ~、辛い……タマネギ、これ? 僕達、これ、やだ」
「お前もタマネギ嫌いなのかよ……」
「今度淡路産のにするからリベンジさせてよ」
「さっきから淡路が何だってんだよ」
喉を傷めたこと、手にガーゼやら包帯やらが巻かれていることで、今の俺は少々不自由だ。けれど、俺の彼氏達は互いに助け合っており、俺が何もしなくても平気なようだ。美少年達の助け合いはいつまでも眺めていたい素晴らしい光景だが、ちょっと寂しいな。
《んっ……? これ、植物じゃないのか?》
《それは……》
クンネ達は一本一本手で掴んで食べるのかなと眺めていると、彼はまず取り分けられたサラダに手を伸ばした。レタスをちぎって食べ、小さくカットされたトマトにかぶりついて口周りを赤く汚し、クルトンをまるで大きなパンでも食べるように両手で持って齧り始めた。
「……なぁ鳴雷くん、クルトンって何?」
「えっ?」
「きゅっ? みつき喋った!?」
荒凪の目が鋭く俺を射抜く。慌ててスマホを持つ。
『パンだったと思います』
「細切れ揚げパンっすよ。ね、歌見せんぱい」
「俺はよく知らないが……」
「クンネくんが聞いてきてんだけど、なんて説明しよう……ア、アイヌ語で何? クルトン」
「小さいパンとかでいいんじゃないのか?」
「パンも分かんねんだよ……! まずあるのか? パンにあたる単語!」
「カサネくんが分からないんじゃ分かんないっすよ」
「日本語にもパンにあたる単語ってないよな」
なかったっけ?
「昔、列島にパンはなかったってことっすか?」
「そもそも、もしもアイヌ民族が美味しいパンを焼いていたとしてもだ」
「してねぇよんなこと」
「だからもしもだって。もしも焼いてたとして、小人にそれは出来ないだろ。小麦をどうやって収穫するんだ? だから、もしアイヌがパンを食べていたとしても、小人達はパンを知らないと考えるのが自然。つまり、アイヌ語にパンがあるかないかは問題じゃないんだ、日本列島でパンがいつ作られ始めたかなんてもっと関係ない」
「……んじゃ説明のしようねぇじゃん!」
「小麦がそもそも伝わらなさそうだからな……穀物はイケるか? このサイズで穀物、取れるかな……北海道、穀物はあるのか?」
「それは流石にあるわ。え~……どう説明しよぉ、分かんねぇもん食いたくねぇよな……ちゃんとなんか言わねぇと」
スマホを置いてパスタを一口食べ、重責に苦しむカサネからクンネ達へと視線を移す。
《味薄いけど食感面白いなこれ》
《木の実とはまた違った硬さ……不思議ですね、おにいさま》
クルトンを二人でサクサク鳴らして食べている。
《知らねぇもんばっかだ。でも全部美味い。この細長いのは何だろ》
《何かの腸だと思います》
クルトンを食べ終えるとクンネはパスタを一本引っ張り始めた。毛糸玉から毛糸を抜くような、そんな光景だ。
《ん……? 肉っぽくはないぞ》
《あら、では蔓ですか?》
《いや、草感もない……何だろ、でも美味い》
《私にも食べさせてくださいな、おにいさま》
予想通りソースで手や顔がベタベタになっている。早いところ食器を作ってやらないとな……
「待ってください歌見せんぱい……パスタも小麦っす!」
「……! しかもカルボナーラは牛乳や卵を使う。小人からすれば超巨大生物な牛や鶏からそんなもん取れる訳がない! これもアイヌ語に置き換えられるられない関係なしに小人が知らない物だぞ……!」
「ベーコン……肉って、どうなのかな。肉食うのかなコイツら……だとしたら肉は通じるか?」
「小さいネズミくらいなら狩れるか?」
「いやいや同じサイズのネズミ怖いっすよ、無理っす無理っす。カエルとかじゃないすかね」
「北海道のそういうのってデカそうだな、どうなんだ繰言」
「北海道を何だと……東京の繁華街のネズミが一番デカいだろ」
「いや、やっぱりネズミから豚を説明するのは無茶だ。まず牧場見学とかに連れてって牛豚鶏の存在を教えてやってからだな……」
「えぇー……動画とかじゃダメかなぁ」
「小麦の製粉とかはそうするしかなさそうっすけど、牧場ならこないだカンナせんぱいとリュウせんぱいが行ったって言ってたとこ近くにあるっすし、面倒臭がらなくてもいいんじゃないすかね」
「そこ牛居たか? 撮った写真見せてもらったが、見た覚えないぞ」
異文化交流なんてものじゃない、サイズからして違う異種族との交流だ。大変に決まっている。
《お、これが肉か?》
《お肉、のようですわね……でも、何でしょう。ただ焼いただけではないような食感と味の濃さですわ》
《そういう動物の肉なんじゃないか? 人間ならキツネとかフクロウも狩れるだろ》
《まぁ! ではまさか、クズリも……?》
《いやいや流石にクズリは無理だろ》
《ですわね……私達の村を滅ぼした、恐ろしい獣です。いくら人間様達が大きいとはいえ……》
当のクンネ兄妹は見知らぬ食材に見知らぬ調理法だろう料理に一切臆すことなくパクついてやがる。
(……わたくし達が信頼されている証と思って喜びましょう。一度捕まって酷い目に遭ったくせになんでこんな警戒心皆無なんだとか、思わないよ鳴雷水月)
まぁ、クンネが食べてから妹に与えているのは彼なりの警戒なのかな。
《これはどんな……痛っ! なんかっ、目……口も、痛たたっ、何だこれ、痛い》
《お、おにいさま!? おにいさま!》
「……!? クンネ!? どうしっ、げほ、せんぱっ、クンネ、おねが……」
「えっ、あっ、えっ? ク、クンネくん?」
咳き込み、水を飲む。突如苦しみ始めたクンネにカサネが事情を聞きながら背中をさすったり、ティッシュで顔を拭いてやったりしている。
「なになに? ボク見えてないんだから誰か実況頼むよ」
「クンネ……小人が急に痛がり始めたんだ」
「小人にはダメな食材とかあったんっすかねっ、カサネくん、何食べちゃったか分かったっすか?」
「タ、タマネギ……」
カサネがそう答えると、焦燥感に包まれていた雰囲気が一気に軟化する。
「…………タマネギ」
「タマネギか……」
「タマネギ苦手なの?」
「いや、サン……このサイズで生タマネギを齧ったら、タマネギの汁が顔中にぶっかかる……そりゃ苦しむだろ」
「このタマネギ結構辛いっすしね……俺なんて避けちゃってるっすもん」
「……今度から淡路産にするよ」
カサネがクンネをキッチンに連れて行き、顔を洗うことでひとまず痛みは治まったようだった。その間、歌見はクンネ兄妹用に取り分けたサラダからタマネギを抜いてやっていた。
「きゅ……くんね、大丈夫?」
「タマネギ辛かっただけだってよ、小さいのも大変だな」
「きゅ~、辛い……タマネギ、これ? 僕達、これ、やだ」
「お前もタマネギ嫌いなのかよ……」
「今度淡路産のにするからリベンジさせてよ」
「さっきから淡路が何だってんだよ」
喉を傷めたこと、手にガーゼやら包帯やらが巻かれていることで、今の俺は少々不自由だ。けれど、俺の彼氏達は互いに助け合っており、俺が何もしなくても平気なようだ。美少年達の助け合いはいつまでも眺めていたい素晴らしい光景だが、ちょっと寂しいな。
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