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マッサージ由来の声 (水月+荒凪・リュウ・シュカ・歌見・ノヴェム)

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プールに入るにはどうしてもアキの部屋を通らなければならない。カサネが今の荒凪に怯えていたことで、今の荒凪は前までの彼よりも周囲に与える悪影響が強くなっているのではないかと不安になっている俺は、彼氏達に呼び止められないことを祈って扉をくぐった。

「あぁああぁ……キく…………はぁあ……」

「お、水月ぃ。荒凪くんも、おかえり」

「ただいま……何してるんだ?」

さっさと荒凪をプールに入れてしまうつもりだったのに、シュカとリュウが気になって俺自ら足を止めてしまった。

「見ての通りマッサージや」

ベッドにうつ伏せに寝転がったシュカ、シュカを跨いで膝立ちのリュウ、その親指はシュカの腰をぐりぐりと押している。

「凝ってるのか? レイがマッサージチェア買ったって言ってたから、貸してもらえるよう頼んでみたらどうだ?」

「休日、たまにっ……電気屋に、居座りますが……はぁっ、やはり人の手の方が……ん、気持ちいい…………天正さんそこもっと続けてください」

「へいへい」

「何その声エッロ興奮してきた」

「おい水月ノヴェムくんの前だぞ!」

「……!? 声に出したつもりは!」

心の中で呟いたつもりだったが、うっかり声帯が震えてしまっていたようだ。ノヴェムはアキより日本語が上手いし、アキと違って向上心もあるからどんどん上達していっている、気を付けなければ。

「ノヴェム」

プールへの扉の前で俺を待っていた荒凪の意識がノヴェムに向いた。英語が堪能なセイカやハルが居らず、ゲーム機で遊びつつも退屈していただろうノヴェムは自分を見つめ、名を呼んだ荒凪にすぐに反応した。

「らら……あら、なぎ、おにーちゃ!」

アキといいノヴェムといい、荒凪の「あら」を「らら」と言いがちだ。そんなに「あら」の発音は難しいのか?

「……ノヴェム」

荒凪はその場に屈むと両主腕を広げた。ノヴェムはゲーム機を歌見の膝の上に置き、満面の笑顔で彼の胸へ飛び込む。

「ノヴェム、小さい。可愛い。好き」

両複腕にノヴェムを座らせるように抱き、左主腕で背を支えつつ右主腕で頭を撫でる。荒凪は本当に小さな子が好きなようで微笑まし……ん? 荒凪の異形、ノヴェム知ってたっけ?

(ヤッベェでそ。彼氏達には荒凪きゅんが怪異であることは知らせましたし、増パーツについても理解はありますが、ノヴェムきゅんにはその辺知らせてませんぞ)

腕が多いことはまだ気付いていないようだが、顔を近付ければ重瞳がバレる。幼子の素直な言葉は時に人を深く傷付ける、それも可愛がっている子となれば尚更だ。頼むノヴェム、何にも気付かないでくれ! 気付いたとしても言わないでくれ! 言ったとしても荒凪が傷付くようなことではありませんように!

「ノヴェムも、あらなぎおにーちゃ、すきー。でも、いちばん好きは、みつきおにぃちゃん」

「キュ。俺も、水月一番。でも、ノヴェム小さい、可愛い」

「むー……ノヴェム、小さい違う……違う、じゃ、ない……でも、大きいなる! すぐ! あらなぎおにぃちゃ、より、大きい、かっこいい、なる!」

俺の祈りが通じているのか、ノヴェムは荒凪の目について何も言わない。メカクレとまでは言わないまでも荒凪の長い前髪が目元にかかっているのが幸いしているのだろうか。

「荒凪くん、早くプール行こう」

気付いていないうちにさっさと引き離そうと考えた俺は、荒凪にそう呼びかけながらプールへの扉を開いた。

「キュ。分かった。ノヴェム、下ろす」

不満げなノヴェムをそっと床に下ろした荒凪は、二本の右腕を振ってノヴェムに短い別れを告げた。

《……え?》

荒凪は開いたままの扉をくぐる。ノヴェムはぽかんと口を開けている。

《おてて、いっぱい……》

俺の壊滅的なリスニング力では上手く聞き取れないが手とか何とか言ってないか? 流石に気付かれたか。

「歌見先輩、高速で手を振ってたから二本に見えたとか言い訳出来ませんか!?」

「無理があるだろその言い訳。それに俺にそこまでの英語力はない」

「じゃぱにーず、ふぇいます……もんすたー」

「……!? ノ、ノヴェムくん、荒凪くんはモンスターなんかじゃ」

「かいりき! ノヴェム、知ってる」

「…………四本腕と言えばそれかぁ。俺としては天津飯を推したいところなんだけど」

「一回きりじゃないかその技。俺は第13号機」

「それだって劇場版一作限りでしょうが! 好きなんですよ腕増やしたり四人になったり、なんか個技の方向性が他キャラと違うところが」

「……お前腕伸ばしたり巨大化したりする技も好きだろ」

「劇場版でカッコよく使われてズルいですよあっちは! 原作では一瞬で攻略された四身だってきっともっとカッコイイ使い方があるはずなのに……!」

「水月、プール行こう」

「あ、うん」

荒凪と共にプールに入った。予想通り誰も居ないプールに、荒凪は服を脱ぎ捨て頭から飛び込んだ。

「キュッ」

ぷるぷると頭を振りながら水面に顔を出す、なんとも愛らしい仕草を見せてくれた。

「水月、遊ぼう」

耳のヒレを広げて微笑んだ荒凪の元へ、俺も服を脱ぎ捨てて飛び込んだ。水中に沈んだ俺の顔をすぐさま大きな泡が包む。宇宙飛行士のヘルメットのようなこれのおかげで俺は水中でも呼吸可能になる、荒凪の愛の証だ。
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