冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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涙の理由 (〃)

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スイの傍に跪いて彼を見上げ、手を握ったり腕を摩ったりして彼を落ち着かせた。

「大丈夫ですか? スイさん。どうしたんです、母さんに何か言われたんですか? 話してください、俺に何とか出来るかも」

「水月、部屋で話しなさい。二人きりの方がいいでしょ」

「えっ、いや、でも」

「アキがこっち来たらまともに話せなくなるわよ、いつ来るか分かんないんだから長々話したいなら部屋行きなさい」

母はスイが既に俺の彼氏になっているものと思い込んでいるようだが、スイとはまだ付き合えていないのだ。交際前の彼を部屋に連れ込むのは、どうなんだろう……そう考え込む俺の手を握り返し、スイは立ち上がった。

「…………行きましょうか」

スイは俺の部屋に連れて行かれたがっている、そう感じた。いつまでも母の前で話しにくいだろう、無理に手を出そうと考えていないのだから、いざとなればスイは簡単に俺を俺の部屋から追い出せるのだから、部屋に二人きりになったところで問題はない。思い付きの理由を並べ立てて自分を無理矢理納得させ、俺はスイを部屋に通した。

「私はユノ殿に酌をしてくる」

俺とは違い実体化していなくとも霊を認識出来るスイを気遣い、サキヒコは俺の部屋から出ていった。名実共に二人きりだ。

「スイさん、あの……」

「…………ベッド、座っていい?」

「あっ、はい! どうぞ!」

ぽすんとベッドの端に腰を下ろしたスイを見つめたまま、俺は学習机備え付けのキャスター付きの椅子に座ろうとした。

「……ナルちゃん隣来てよ」

「え……い、いいんですか? 失礼します」

交際前なのにベッドに並んで座ってしまった。いいのか? 手出していいのか!? 誘ってるのか!? どういうつもりなんだ如月睡!

「あの、なんで泣いてたかって聞いてもいいですか?」

下腹部に集まり始めた血を足先へ追い出すように自分の太腿を擦りながら尋ねる。

「……ナルちゃん、アタシの知らない人のこと……えっちって、褒められたいって、言ったじゃない?」

「ぁ……は、はい」

「アレ、すっごくイライラして、でも何とか抑えなきゃって。ナルちゃん多情なんだから、これくらい我慢しなきゃって……我慢してたら、お義母様がアタシに褒めてもらったらいいじゃないって」

「言ってましたね……」

「……目から鱗よ。アタシのこと口説いてるくせに他の男ばっか見てるナルちゃんに文句言ってばっかじゃなくて、もっとアタシを……俺を売り込んで、ナルちゃんが俺に夢中になれば……なにか壊して、喚いて、脅したりなんて最低な手使わなくても、俺だけを見てくれる…………そう、思ったの」

胸が苦しくなる。スイに必要だったのは一対一で深く愛し合える相手で、ハーレムなんて築いている俺じゃダメなんじゃないかと……いや、今のスイの自信のなさに引っ張られるな俺。そんな相手が居なかったからスイは俺如きに口説かれてくれているんじゃないか、悪いのは俺の多情さじゃなくこんなにも可愛い人を見つけられなかった世のボンクラ共だ。スイには俺しか居ない、違うな、スイには俺以外必要ない、そう思い、思わせるのだ。

「だからナルちゃんがお皿洗いしてる間にお義母さまに相談したの。まずはそのえっちなお兄さんって人超えようって、色気身に付けたいなって」

スイの色気はとんでもない。そもそも色っぽい顔立ちや体格をしているのに、満たされなさや寂しさを抱えた表情……! 色気の塊だ。そりゃ無邪気にはしゃぐ姿や、やり過ぎなくらいの乙女っぽい仕草からは快活な印象を強く受けるかもしれないけれど。

「で、まぁ、振る舞い方とか、ちょっとした小技習ってて……話の流れで、その……ナルちゃんが、俺の顔……俺が大嫌いな俺の顔、好きだって言ってたこと、思い出して」

「……? ええ、好きですけど……ぁ、もちろん好きなとこ顔だけじゃないんですけど」

「美人とか、綺麗とか……可愛いとかっ、そんなこと言われたの初めてだったから…………ぅ、れ……しくて、うれしくて、言ってくれた時のこと思い出すだけで、涙が……」

スイの声が上擦る。切れ長の瞳からまた涙が落ちる。

「……それで、泣いてたから……お義母さまに何か言われたとかじゃないのよ。お義母さま、すごくいい人……ナルちゃんがいい子なの納得しちゃった」

「…………だから母さん泣かせたのは俺だって言ってたのかぁ」

「ふふ、そうね、ナルちゃんに泣かされちゃった」

涙で睫毛を煌めかせて微笑むスイの素晴らしさは、色っぽいだとか可愛いだとか、もはやそんな言葉で表せる次元ではなかった。

「……ナルちゃん?」

気付けば俺はスイに向かって手を合わせていた。

「ナ、ナルちゃん? どうしたの?」

「尊い……むり……」

「なっ、なに、SNSで見かける推し活してる人みたいになっちゃって……どうしたの?」

「スイさんが、スイさんが可愛い……可愛いって言うか、もうなんか、もう……もうむり、傾国」

「…………もう。大げさ」

スイは困ったように笑う。もう呼吸が止まりそうだ。少し歳上の美人の落ち着いた対応がここまで俺に刺さるとは思わなかった。

「スイさん……スイさん、俺あなたのこと大好きです」

「……! ぅ、うん……すごく伝わってくる」

「改めて言います。俺と付き合ってください」

「…………彼氏、いっぱい居るのよね?」

「はい。スイさんと付き合えても誰とも別れません、スイさんが俺のハーレムの一員になるだけです」

「…………」

「返事、考えておいてください。じゃ、俺はこれで失礼します」

「えっ!? どこ行くの?」

「……今日一晩、この部屋はスイさんのものです。俺は弟の部屋ででも寝ます。自分の部屋で好きな人と二人きりなんて……旺盛な男子高校生にはキツいですよ。スイさんが俺の告白受け入れてくれて、そういうことしてもいいなって思ってくれるまでは、密室で二人になるのは避けます」

「…………誠実なのね。ふふっ、彼氏いっぱい居るのに。変なの」

「ごめんなさい、あなただけを愛せなくて」

「……うん」

「でも、絶対幸せにしてみせます。お返事待ってます。それじゃ……」

「あ、待って待って。まだ時間浅いし、お話しましょ。あっち戻るならアタシも行くわ、弟くんにも挨拶したいし」

ほんの少しの気まずさを感じつつ、俺はスイをリビングに通してアキ達に紹介した。
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