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家族にご挨拶 (水月+スイ・アキ・セイカ・荒凪)

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ゲームを中断し、アキは俺の隣に立つスイをじっと見つめる。

「スイさん、アキです。アキ、スイさんだ」

「……すい? よろしくー、です。すい」

「フルネームは秋風・マキシモヴィチ・マールト。ま、アキでいいと思います」

「可愛い! よろしくねアキちゃん」

スイはアキの手をぎゅっと握った。アキはニコニコ笑っている、セイカいわく愛想笑いらしいいつもの笑顔だ。

「スイさん、こっちはセイカです。セイカ、スイさんだぞ」

「今聞いたよ」

「よろしく、セイちゃん。彼も弟さん? お父さん似かな」

「セイカは他人です」

「傷付く言い方だな……」

「クソ女の元から誘拐してきました!」

「悪い、スイ。この行動力と優しさだけで人生ゴリ押ししてるバカに代わって俺が説明する」

「傷付く言い方だなぁ」

困惑するスイにセイカは一から丁寧に説明したが、スイは困ったような顔のままだった。

「なんか……すごい、のね。ナルちゃんも、お義母さまも」

虐待されているからって親族でもない家が引き取るなんて、おかしな話だ。正当な手続きを踏んだ訳ではないというのも大きい。法律とかそういうちゃんとした基準で話すならば、セイカは我が家に預けられているだけの存在なのだ。

「……ちなみに俺は手足が片っぽない」

「ホントだ!」

下ろしていた右手を上げ、左足の裾を少し持ち上げる。

「後々驚かれても嫌だから見せただけだ。同情も配慮も必要ないからな」

「分かった、みんなと同じように扱うわ」

「……アンタオカマ?」

「配慮の欠片もない! 違うわよ、諸事情で十数年ずっと女の子のフリしてきて……それが染み付いてるだけ。アタシなんて全然女の子じゃない、心だけでも女の子になれたらもう少し可愛げあるはずだもの」

女ならば可愛げは標準装備だと思っているところ、女として生きていても女と大して接していないのがよく分かる。

「諸事情……そっか、分かった。ごめん」

「あっ、謝らなくていいのよ? アタシも……俺、も、男口調、練習しとくから」

セイカの表情が暗い。まさかセイカ、スイの言う諸事情をかなり重いものとして受け止めているのか? 親に娘であることを強要されてきた、とか。健全な親子関係を感覚として知らないセイカならありえる妄想だ。

(いやまぁ、可愛がられる女顔の弟に嫉妬して本物の女として振る舞えば自分も可愛がられるはずだと女のフリをし始めた……なんて真実、完全正答は不可能ですが)

スイが二人と交流を深める傍ら、俺は彼氏達全員が入っているトークグループに送るメッセージを考えていた。内容は荒凪について、荒凪を狙う者が居ることについて、そして──その者に荒凪を手に入れるために彼氏達が狙われるかもしれないから、明日からいいと言うまで俺に関わるなと、話しかけることすらよしてくれと──そう、送った。証拠として荒凪の人魚の姿の写真も送った。

「…………はぁ」

一通だけで納得はしないだろう。だが、少なくとも同じ学校に通う彼氏達には今日中に理解してもらわなくてはならない。

「アキちゃんはナルちゃんにそっくりね。お義母さまもよく似てるし……遺伝子強いのね」

「父親の遺伝子捨ててるレベルだよ。単為生殖を疑ってる」

彼氏達から送られてくる驚愕と疑問のメッセージに返信していく。長年のオタク生活で鍛えられた高速文字打ちはこういう時に役に立つ。

「あははっ、確かに。ナルちゃんから聞いたけど異父兄弟なんだってね、それでこんなに似てるなんて……ふふふ、本当、お義父様の遺伝子捨てちゃったのかしら?」

「……? すい、楽しそーするです」

「うん。楽しいよ。こんなカッコイイ顔同時に二人も見れてるんだもん」

「セイカ、メッセ見といてくれ」

「ん……? うん、分かった」

「スイさん、俺ちょっと荒凪くんの様子見てきます。アキに構っておいてあげてください、寂しがりなんで」

「はぁい。アキくん、何のゲームしてたの? スイお兄ちゃんに教えて~」

弟が居るだけあって面倒見がいいようだ。スイはアキの隣に腰を下ろし、背を丸め、アキと目を合わせて微笑んだ。



スマホ片手にプールに向かった俺は、水面をふらふらと進むサメのオモチャを追いかける荒凪の姿を見た。俺が買い与えた遊園地のお土産を気に入っているらしい、自然と笑みが零れた。

「荒凪くん」

「きゅ? 水月! 水月! 今日、もう来ない思った」

「ちょっと動画撮らせてくれる?」

「どーが……?」

「前にお祭りで会った仲間のみんなに、荒凪くんの姿を見せたいんだ。ちょっとプールサイドに上がってくれるかな」

秘書への報告のために撮った写真だけでは心もとない。彼氏達を説得するため俺は荒凪の動画を撮ろうと決めた。四本の腕を使ってプールサイドに這い上がった荒凪はとぐろを巻くように上体を起こし、四本の腕を広げて笑った。

「水月!」

「みんなに伝えたいこと話してみて」

カメラを起動して荒凪に向ける。荒凪は腕を四本とも組んで数秒考え込み、パァっと笑顔になって言った。

「みんな! お祭り楽しかった、また、遊ぼ!」

四本の手をぶんぶんと振る仕草は愛らしいが、ブレているような錯覚を与える。

「よし……みんな分かってくれたかな、この通り荒凪くんは本当に人魚なんだ。そんな彼を狙ってるヤツが居て、人質交換みたいな真似されたら困るから……狙ってるヤツが捕まるまで俺には近付かないで欲しい。メッセで送った通りだよ。俺はいつも通り学校へは行くけど話しかけないで、話すのはスマホ通してだけにしよう。俺とみんなと、何より荒凪くんのために……お願いします」

荒凪にスマホを持たせ、頭を下げる姿を撮し、録画を止めた。

「……ありがとう荒凪くん」

スマホを受け取り、トークグループに送信する。これで全員が分かってくれたらいいのだが。
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