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友達は大事 (水月+歌見・荒凪・セイカ・アキ)

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すっかり乾いた荒凪の髪を捲り、人間のものに変わった耳を眺めている歌見を見下ろす。俺より少し背の高い彼の頭頂部を見る機会は少ない、彼が膝立ちになっている間につむじその他を堪能しよう。

「不思議だなぁ……鱗とかヒレとかボロボロ剥がれてったけど、痛かったり痒かったりするのか? 日焼けした後みたいな感じかな」

「ひやけ? すこしちがう、いたくない」

荒凪は日焼けを知っているのか?

「やっぱりこのインナーカラー綺麗だな。俺もインナーカラーにしとけば大学デビュースベらずいい感じになったかな……」

「先輩の短髪でどうインナーカラーにするんです」

「そうだけどさ……毛先ちょっとだけとか、どうにかもう少し地味な感じにしてれば大学デビュー成功もあったかも……本当に友達居ないんだよ俺」

歌見は荒凪から手を離し、項垂れる。彼の第一印象は太陽のような笑顔が眩しい快活そうな人だったから、友達が居ないという彼の悩みにどうにも実感が持てない。

「枯れ専な先々輩々は?」

「……無患子先輩か? アレは先輩。ちょくちょく勉強見てくれるし、たまに昼一緒に食ってくれたりするけど」

「友達じゃないですか」

「その代わりにボディガードやらされてるし……」

「男子大学生のボディガードってよく分からないんですけど。確かに線細くて童顔で、ノンケでもイケるギリギリのラインって感じはしますけど」

「俺も最初はギャグか、デビュー失敗した俺を気遣って適当言ってるんだと思ってたよ……ガンッガンおっさんに絡まれまくるあの人を見るまではな。すごいんだ本当」

肺に溜めた空気を全て使い切るようなため息からは深刻さが伝わってくる。

「声掛けてくるおっさん達最初めっちゃフレンドリーだし名前呼んでるし、絶対パパ活してると思うんだよあの人。厄介客俺の顔で追っ払ってるんだ。それに気付いてからは……うん、ギブアンドテイクの関係にしようって。仲良くならない方がいいなと思った」

「なるほど……」

「流石に縁切るのはな。テスト詰むからなぁ。覚えとけよ水月、大学で一番大事なのは人脈だ。ぼっちで黙々と真面目に授業出てノート取ってても、ふとしたことで単位は落ちる……大学を卒業出来るのは友達が居るヤツだ」

悲痛な叫びだ。

「他に友達作ったらいかがです? 先輩明るいし面倒見いいし、人に好かれるタイプだと思うんですけど」

「もうグループ出来上がっちゃってるからな……」

「まーぜてって」

「……お前、出来るか?」

「俺は無理ですけど、先輩なら出来そうだなって」

「買いかぶりだよ、その信頼? はありがたくもあるが……っと、本当にそろそろ帰らないとな。じゃあな、荒凪くん」

「……? なな、どこ行く」

立ち上がった歌見の裾を荒凪が掴む。

「家に帰るんだよ」

「ここ、いえ」

「水月達のな。俺の家は他にあるんだ。惜しがってくれるのか? ふふ、今度また来るよ。だから離してくれ」

「きゅるるるる……」

荒凪の喉が不満げな音を鳴らす。金魚のおもちゃを気に入っていることから分かっていたが、歌見に相当懐いている。

「ん? なんだ、腹減ったのか? 早く作ってもらっておいで」

「あ、今の喉です。荒凪くんなんか鳴くんです、イルカっぽくて可愛いでしょ」

「喉?」

「きゅー」

「おぉ、ホントだ。腹って感じじゃないな。へぇ…………さて、帰るよ。ほら離せ、じゃあな荒凪くん」

荒凪の手をシャツから無理矢理引き剥がし、鞄を持つ。去っていく歌見を追うため荒凪はふらふらと立ち上がり、覚束無い足で彼を追った。

「じゃあ先輩、また月曜日」

「あぁ、またな水月。荒凪くんも」

「……ばいばい」

歌見を見送り、窓からダイニングへ。アキとセイカは既に席に着いていた。

「にーに、ららなぎ、早く座るするです」

「さっさと座れよ鳴雷、秋風が早く食べたいってうるさい」

「先に食べてていいのに……」

「秋風はそうしたがったけどな、やっぱダメだろ」

「お堅いなぁ」

セイカの刈り上げた側頭部を手の甲でさする。相変わらずいい手触りだ。

「やめろ……」

やめさせる気のない頭の僅かな逃げと、小さな声が何とも愛らしい。

「……鳴雷、明日デートだよな?」

食事を始めてしばらく、セイカがそう切り出した。

「そうなの? あのピンクの子? へぇー、いいなぁ……どこ行くの?」

義母がノってきた。セイカを軽く睨みつつ、本当のデート相手はカミアなんだけどなと少し申し訳なく思いつつ、答えた。

「遊園地です」

カミアからのメッセージ。ここに来てと送られた位置情報、それは最近新エリアが追加されるらしい遊園地を指していた。

「へぇー! いいなぁー……ね、唯乃ぉ。私も久しぶりに遊園地行きたい」

「そのうちね」

「唯乃ぉ~……」

実母がその恋人に甘えられている様、見てて愉快なものではないな。見ているだけで癒されるアキとセイカの様子でも眺めていよう。

《ゆーえんち、ってロシア語で言うと何?》

《遊園地……こないだテレビで見たろ、ジェットコースターとかあるとこだよ》

《日本語分かんなかっただけで遊園地は知ってるっつーの。いいな、楽しそうじゃん。俺も行きたい。な、兄貴、俺も行っていい?》

「…………鳴雷、秋風が遊園地行きたいって」

セイカが気まずそうに俺を見る。

「え、ダメよアキ、水月お兄ちゃんデートなんだから」

「んー……入り口まで行って、遊園地の中は別行動なら……」

カミアと会う機会は貴重だ。彼がカンナを呼んでいないのなら、俺もアキを連れていく訳にはいかない。

「秋風一人じゃ可哀想だろ。また今度別で連れてってやれよ」

「セイカは嫌なのか? 遊園地」

「健常者の遊び場だろああいうとこは」

「セイカなら半額くらいで遊べるぞ。片手片足なくてもジェットコースター別に問題ないと思うし」

「……そう? なら……行きたいかも」

「じゃあ今度みんなで行こうか、シルバーウィークにでも。そっちの方が涼しいし、いいだろ?」

「うん……秋風にもそう言っとく」

ほんのりと頬を染め、口元を緩めながら、セイカは俺には分からない言葉でアキに説明を始めた。
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